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オムレツ

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第五章

「これはね」
「そうよね」
「うん、どうなるのかな」
「じゃあまた作るわね」
「君の気が向いたら」
「その時はね」
「オムレツ占いだね」
 ふとだ、アンドレは笑ってこんなことも言った。
「これはね」
「その朝のオムレツで一日がわかる」
「僕だけの占いだね」
「そうね、実際にね」
「じゃあまた駝鳥の卵のオムレツが出て」
 そしてというのだ。
「ウスターソースをかけたら」
「日本のね」
「その時はどうなるのかな」
「わからないわね」
「まあとにかくね」
「ええ、新連載ね」
「それの話が決まったよ」
 こう言うのだった、そして。
 アンドレはそれからも朝はオムレツだった、それでその日はどうなるかをオムレツで占ってその通りになっていた。
 そしてだ、新連載がはじまって一年が経った頃にだった。
 まただった、あのオムレツが出てだった。
 アンドレはあの時と同じ様に日本のウスターソースをかけた。そして。
 その時にだ、エレノワールはこう言った。
「あの時と同じね」
「ああ、そうなったね」
「あれから何度か駝鳥のオムレツ作ってるけれど」
「このソースをかけたのはね」
「久し振りね」
「さて、どうなるかな」
 アンドレは食べつつ言った。
「オムレツの味もあの時と同じだけれど」
「あの時は新連載の内容が決まったわね」
「うん、アフリカを舞台としたね」
「フランス人と日本人の主人公達の環境保護のね」
「それが決まったよ」
「じゃあ今日はどうなるか」
「これからわかるわね」
「果たしてこのオムレツとソースの時はどうなるかがね」
 アンドレはウスターソースをかけた駝鳥のオムレツを食べながらだ、そしてだった。 
 この日は普通に仕事場で漫画を描いた、だが。
 昼にだ、仕事場にエレノワールが来てだった。こう言って来た。
「最近ちょっと身体の調子がおかしい感じがしてて」
「病院に行ってたんだ」
「そうなの、そうしたらね」
「まさかと思うけれど」
「三ヶ月らしいわ」
 自分の腹部に手を当てつつだ、彼は言ったのだった。
「そうなったわ」
「ああ、わかったよ」
 妻のその言葉を聞いてだ、アンドレは笑顔で言った。
「駝鳥のオムレツを日本のウスターソースで美味しく食べたら」
「その時はね」
「うん、何かが生まれる」
「それを知らせてくれるものね」
「どうしてかわからないけれど」
 それでもというのだ。
「そうなるみたいだよ」
「そういうことみたいね」
「うん、じゃあね」
「お祝いね」
「これから大事にしよう」
「それじゃあね」
 こう二人で話してだ、そしてだった。
 この日はエレノワールの身体のことがあるのでワインで乾杯はしなかった、しかし二人で祝うのだった。だ。駝鳥のオムレツと日本のウスターソースに感謝しつつ。


オムレツ   完


                         2016・3・15 
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