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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Myth24進撃の円卓に王たちは集う~Könige des Runden TischeS~

 
前書き
Könige des runden tisches/ケーニゲ・デス・ルンデン・ティッシェス/円卓の王 

 
†††Sideヴィータ†††

オーディンとあたし、そんでシグナムとアギトとアイリは今、戦船に乗って聖王家っつう王族が治める国アウストラシアへ向かってる最中だ。あたしらグラオベン・オルデンに用意してもらった部屋で、あたしとシグナムはまぁ黙って座席に座って、のんびり空の旅を楽しんでる・・・かは別にして(窓が無ぇからつまらん)静かにしてる。だけど・・・「マイスターっ! エリーゼと口づけって何考えてるの!?」アギトがそりゃあもうさっきからカンカンだ。

(まぁあたしも驚いたけどさ)

エリーゼがあんな大胆に告白したり口づけしたり、本気でオーディンが好きなんだな。なんつうか、なんて言やあいいんだろ。エリーゼの事が羨ましい・・・? ああもうわけ解んねぇ。やめだ、こんな考えなんか。とりあえずオーディンに目をやる。

「いや、なんと言うかあれはだな・・・」

「むぅ~、なんかすごいイライラするぅ~・・・!」

「どうしたのアギトお姉ちゃん? なんでそんなに苛立ってるの?」

「解んないけど、なんかイライラするのっ!」

なぁアギトよ、嫉妬とかやきもちだよそりゃ。名づけの親、育ての親、自分を傷つけるだけだったイリュリアから救い出してくれた恩人。アギトにとってオーディンは親みたいなもんだしな。そんなオーディンがエリーゼに取られるのが不安なんだろ。

「落ち着こう、アギト。あれは――」

「マイスターはあたしのだもんっ。ヴァクストゥーム・フォルム!」

アギトが魔力消費の大きい形態、ヴァクストゥーム・フォルムになった。10歳くらいの人間大になったアギトを見たアイリが「なにそれっ!? なんで大きくなれるの!?」って興味津々。まぁ今のアギトがそれに応じるわけもなく「あたしもマイスターが大好きだぁぁあああ!」そう告白しながらオーディンに抱きついて、何考えてんのか口づけしようと顔を近づけた。けど、「ちょい待った!」オーディンはギリギリ顔を逸らして、口じゃなくて頬にアギトの口づけを受けた。

「待つんだアギトっ。さすがに看過できないからっ」

慌ててアギトを引き剥がすオーディン。けどアギトは言う事を聴かずに「い~や~だ~!」ってまた抱きつこうとする。さすがにもう黙って見てるわけにはいかねぇか。オーディン、本気で困ってるし。あたしは立ち上って「その辺にしとけ、アギト」肩を掴んでオーディンから引き剥がす。

「離してよヴィータ!」

「アホか。よく考えろって。お前の大好きなオーディンを困らせていいのかよ?」

「う゛っ」

「ねぇねぇアギトお姉ちゃん、どうやって大きくなってるのっ?」

オーディンに「ごめんなさい」つってトボトボ席に戻るアギトに、アイリが何度も同じ質問をするって事で落ち着いた・・・のか?

(アギトがアイリに絡まれてるし)

オーディンが思念通話で『ありがとう、ヴィータ』って礼を言ってきた。こんくらいどうって事ないから『気にすんなって』そう返す。にしてもオーディン。エリーゼの想いに応えんのかな? 29歳の割に若い外見なオーディン。2人が並んでも違和感ない。なんとなく気になったから、『なぁオーディン。エリーゼと結婚すんのか?』って訊いてみた。

『突然何を・・・?』

『いやなんか気になって。エリーゼ、面白いし可愛いし、ちょっとお馬鹿だけどさ、真面目すぎるオーディンの嫁にするならああいう奴がいいんじゃないかって思うんだけど』

オーディンのようなくそ真面目な男には、エリーゼのようなユルくて、だけどどこか芯の通った奴が合ってると思う。あと男爵っていう、それなりの地位もお金(アムル復興に無くなるかも)あるしな。良い女だとは思う。

『驚いたな。ヴィータが色恋に興味を示すとは』

『べ、別にそんなんじゃねぇよ・・・!』

あたしら守護騎士は人間じゃない。だから人に恋するとかありえない。オーディンの顔をチラッと盗み見る。でも、恋はしないけど、人を好きになる事はある。けどそれは異性とかじゃなくて、家族としてだな。こんな想いを抱くの初めてだから変な感じだけど。何かそわそわする。堪らず『あたしの事より、どうなんだよオーディン!』そう大きな声で促す。するとオーディンの顔に悲しげな色が浮かんだ。あ、やべ、訊いちゃまずい事を訊いたかも。

『・・・私はエリーゼの想いに応えられない』

『・・・・え?』

たぶん、とか、おそらく、とか曖昧な前置き無く、オーディンはそう断言した。それに『エリーゼに限った事じゃなく、私自身にはもう恋愛は無理だ』って意味深なことを言った。あたしが黙っていると、

『堕天使エグリゴリとの戦闘は正に命懸けだ。完全勝利する可能性は10%もあればいいくらいだ。即ち生き残る可能性が1割となる。たとえ勝利を収めて生き残ったとしても、その時の私はもうオーディンじゃない。確実にすべての記憶を失っているだろうし、人間としての普通の生活もままならないはず。・・・ヴィータ。生きているのに死んでいる私を、誰が愛すると? 好きになると思う?』

何も言えなくなっちまう。複製品のゼフォンやミュールにすらあたしらはまともに戦う事が出来なかった。オリジナルの強さは、デタラメなオーディン以上って話だ。あたしらじゃ助力になんない。だからこのままじゃオーディンの話はきっと本当になってしまう。くそっ、守護騎士が不甲斐無さ過ぎんだろ。

『すまないな。そうなった時、君たちもまた消えるというのに――・・・』

オーディンが席を立ってあたしとシグナムの前にまで来た。

「すまない。結局、私はこういう生き方しかできないんだ」

「・・・・うん」「???」

頷くしか出来ないあたしと、いきなり謝られて首を傾げるシグナム。そうだ。何にもせずに消えるくらいなら、オーディンの願いのために命を張るっていうのも悪くないよな。命を懸けてオーディンを護って、“エグリゴリ”との戦いでオーディンを勝たせる。守護騎士ヴォルケンリッター。主の為に命を張るのは当たり前だ。だったら・・・

「あの、オーディン? なぜ急に謝られたのか判らな――」

「オーディンは死なせない。あたしらが絶対に守り抜いてやる」

ああ、そうさ。オーディンに“エグリゴリ”の事を聴いた時からそう決めていたんだ。

「なにっ? オーディンが死ぬ? ヴィータ、一体何の話をしている」

「マイスターがなんだって!?」「死ぬとかなんとか聞こえたよっ」

あたしとオーディンの思念通話に参加していなかったから混乱しだすシグナム達。オーディンが「いや、私は死なないよ。ヴィータが守ってくれるから」って言って、あたしの頭を撫でた。オーディンに撫でられるのはすげぇ気持ちいい。死なせたくない、別れたくない、一緒に生きてたい、そう強く思う。

「お、おう! あたしが、グラオベン・オルデンが守るからさ。だからもう死ぬとか言うなよっ」

「ああ。私は、“戦って死なない”、誓うよ」

オーディンの宣誓。なんか言い方に引っかかったけど、死なない、って誓ったんだ。だったらそれでいい。生きていれば、これからもみんなで楽しく過ごせていける。

「マイスターっ、ヴィータと話してたこと、あたし達にも聞かせてよっ」

とりあえずうるさいアギトや、

「そうです。聞き捨てならない単語が出た以上、我々にも知る権利があります」

オーディンに詰め寄るシグナムや、

「マイスターは死なないよ。アイリ達がいるんだからね」

そうは言いながらも聞きたそうにそわそわしてるアイリに、さっきの思念通話の話をするか。聴いた後、抱いた思いはみんなあたしと同じだ。オーディンを生かすために自分の命を懸けて、そして勝利する。もちろん命懸けっつっても死んでなんかやらない。全員が生き残ったままで勝つんだ。

「ホント、君たちに逢えた私は幸せ者だよ」

「私もです」「「あたしも!」」「アイリもだよ!」

オーディンのそんな超嬉しい言葉に、あたしらは頷き返す。そうさ、あたしらもオーディンに逢えて、幸せ者なんだって。それからアギトはアイリにヴァクストゥーム・フォルムの魔導を教えたり、人間大になったアイリがオーディンの膝の上に乗ってご機嫌になったり、それを見たアギトがまたプンプン怒ったり。
落ち着いたと思ったら2人は元の姿に戻って、オーディンの両肩に座って居眠りしたりと忙しい。んであたしとシグナムはオーディンの両脇に座って、ただじっと傍に居る。それだけで満足だ。あたしらの大好きな主オーディンの傍に居られるだけで。

『艦橋クラウスより客室グラオベン・オルデンのみなさんへ。アウストラシア・ザンクト=オルフェンへ到着しました。迎えの者を向かわせますので、それまでお待ちください』

この後、クラウス王子の使いが来て、あたしらはクラウス王子やオリヴィエ王女たちと合流、アウストラシアの大地に降り立った。

†††Sideヴィータ⇒オーディン†††

「ここが、聖王家の収めるアウストラシアか・・・」

まさかアウストラシアの地に降り立つ事が出来るとは思いもしなかった。今より1万4千年ほど前――先の次元世界での契約の折、フェイトやなのは達と出逢い、そしてヴィヴィオの父親になったあの時から、聖王女オリヴィエの事が気になっていた。
もちろん異性としてじゃない。彼女の境遇が、フノスになんとなく似通っていたから。最強でありながら体に欠陥を抱え、それでも戦乱を強く生き、そして若くして死んでしまった。亡くなった歳も近い。だから興味があった・・・。実際にお会いでき、友人(だと思う)になれたのは幸運だ。

「お帰りなさいませ、オリヴィエ王女様!」

3ケタ近い騎士がオリヴィエを筆頭として歩く私たちを迎えた。オリヴィエは簡潔に「はい。ただ今戻りました」と応じ、「では皆さん、こちらへ」と数人の騎士を護衛として引き連れ、私たちを案内する。今から向かうのは、歴史古きザンクト=オルフェン(地理的には、レーベンヴェルト時代における天光騎士団の本部の在った土地だな)の城塞遺跡だそうだ。城塞遺跡、か。シャルの古巣である天光騎士団の本部・聖騎殿ハイリヒ・パラストに間違いないだろうな。

「・・・・そうですか、判りました。下がってください」

オリヴィエに耳打ちしていた騎士が下がり、元の位置――オリヴィエの護衛としての間合いへと戻った。オリヴィエは歩みを止める事なく「バルト代表のダールグリュン陛下、ガレア代表のイクスヴェリア陛下とヴィンツェンツ王子がすでにご到着との事です」そう私たちに告げた。私やアギト達はその3人の名を聴いても反応しない。が、クラウスだけは「イクスヴェリア陛下ですか!?」と心底驚愕していた。

(イクスヴェリア・・・。冥府の炎王――冥王イクスヴェリア・・・。マリアージュ事件なる一件で、確かスバルと親しくなったという少女だった・・・か?)

事件後、シャルによって目を覚ましたイクスヴェリアと同じ時間を過ごしたルシリオンは、フェイトと結んだ対人契約によって“神意の玉座”の本体(ルシリオン)から切り離された後の分身体。だから今の本体・分身体(わたし)には記憶ではなく僅かな記録としてしか残っていないために、イクスヴェリアについては私も詳しい事は判らない。

「イクスヴェリア。今より古き時代、戦乱と残虐を好んだ邪知暴虐の王・・・! 死を超越したかのように時代を越えて現れ、その上死体を操り戦の道具とするという事で、冥王、と恐れられています」

クラウスが戦慄する。クラウスの話を聴いたアギトは『死体を操るって、なんか気持ち悪い』と、アイリは『戦場でなら効率的な戦力増強だよね』と、わざわざ思念通話を私やシグナム、ヴィータに通してきた。とりあえず「それは恐ろしい王だな」とクラウスに同意しておく。異世界よりベルカに訪れたというスタンスをとる私が、ベルカの古き王イクスヴェリアの事を知っているのは不自然だからな。

「皆さん、急ぎましょう。お待たせするわけにはまいりません」

そういうわけで少々早めに移動し、目的地である古い城塞へと辿り着いた。外見を判りやすく例えるなら、地球・ゴゾ島はチタデル大城塞の内側に、ドイツは聖ペトリ大聖堂や聖ゼーバルドゥス教会、レーゲンスブルク大聖堂のような荘厳な建築物が多く立ち並んでいると言ったところだ。

「息を呑むほどに荘厳ですね。この戦乱の時代に他国に、しかもアウストラシアの聖騎殿へ訪れる事が叶うとは・・・」

「すげぇ・・・」

「ああ。クラウス殿下の仰る通り、息をするのも忘れてしまいそうだ」

クラウスだけでなくヴィータとシグナムも聖騎殿に目を奪われていた。血筋ならともかく数千年以上も前の聖騎殿が、完全に朽ち果てる事なく残っているのには驚いた。オリヴィエ王女殿下の「こちらです」という案内に続き、城門を潜って中を進み続ける。
フェイトやなのは達に、私やシャルの正体――真実を教えるために見せた記憶の中に出てきた場所が、私の目の前に在る。このまま進めば、シャルが団長として率いていた心慧騎士団シュベーアト・オルデンの詰所だ。が、しかし残念ながらスルー。向かうのは、あぁなるほど。国の代表が集まる場所に相応しい場所だ。

「あの建物が目的地となります。古くはアウストラシア――いえ今の時代に在る国々の建国以前より存在している、ここ聖騎殿の中でも保存状態が一番いい建物です」

オリヴィエの視線の先、“星騎士シュテルンリッター”専用の議会場が在る、風神騎士団シュトゥルム・オルデンの詰所(これまた大聖堂のような外見)がそびえ立っていた。シュトゥルム・オルデンの詰所内へと入り、歩くこと少し。5本の剣が五芒星を形作っている“シュテルン・リッター”の紋章が描かれた両開き扉の前で一度立ち止まる。護衛の騎士が前に出て扉を開けた。視界に広がる円形状の広間。壁際に立ち並ぶ燭台の炎はゆらゆらと燃え、広間を照らしている。その広間の中央には美術品のような円卓。そして・・・

(ん? あれ? 全員男?イクスヴェリアは・・・・?)

円卓に座っている人間は4人なんだが、全員が男だった、しかも成人。イクスヴェリアは10代前半ほどの少女のはず。あぁそうか、今は席を外しているんだな。円卓に座っていた1人の男がオリヴィエ王女殿下を見るなり、「おお、お帰り、我が愛しい妹よ!」と両腕を仰々しく広げて、オリヴィエの帰還を喜んでいる・・・・ように見える。
いや、喜んでいるのは確かなのだが、“愛おしい”、という言葉になにか嘘を感じてしまう。聖王家の血族の特徴である紅と翠の虹彩異色である目を見ると、ハッキリと判る。あの男は、私の両親と同じ目をしている。そう、家族を兵器、として見ているんだ。

「ただいま帰りました、リナルドお兄様。とは言えそう長くは留まりませんが」

「そうか、それは残念だ。いやしかし――」

目に見えて不愉快オーラ放出中であるオリヴィエと、彼女の兄、嘘塗れの笑顔を振りまくリナルドの会話が霞んで聞こえるほどに、強い視線を感じて居心地が悪い。目だけを動かして、円卓に座って私を見詰めている人間を見る。私を見ているのは、豪傑、という言葉が似合いすぎるほどの巨漢。とは言ってもガチガチの筋肉質じゃなく、適度にバランスの取れた体格だ。

「噂に聞きし魔神とはどれほどの豪傑かと思えば、女子(おなご)と見間違うほどの優男だな」

その男はスッと立ち上り、私の目の前まで歩いてきた。オリヴィエとリナルドも会話を切らざるを得なくなったようだ。彼我の距離50cm。181cmの私を見下ろすほどの身長(190cmは超えているな)を誇る男の目をジッと見上げ返す。なんと深くて愚直なまでに真っ直ぐな瞳だろう。間違いなくこの男が、三連国バルトの代表、雷帝ダールグリュン。

「ふん。少し触れたくらいで折れそうだ。単純に破壊特性の魔導に特化しただけの小物か」

好きなだけ言わせておけばいい。明らかに私を挑発するためだけの言葉だ。目からは侮蔑などではなく、興味・好奇心の光が放たれている。それが判っているからこそ、軽く受けようと口を開こうとしたんだ、がっ。

「んだとおっさんっ! テメェ、表出やがれっ、その好き勝手言うふざけた口を変形させてやらぁっ!」

「マイスターを悪くいう奴は許さないんだから!」

「アイリも怒ったよっ。マイスター、今すぐこの人をブチのめすよねっ!」

完全にプッツンしたヴィータとアギトとアイリ。ヴィータはすでに臨戦態勢で、起動した“グラーフアイゼン”のヘッドを男に突き付け、アギトの周囲に火球が4基展開、アイリの周囲に氷の短剣が15基と展開されていて、攻撃寸前だ。

「待つんだ3人とも!」「グラーフアイゼンをしまえヴィータ!」

私とシグナムは慌てて止めに入る。今までどうすればいいか判らなかったのか傍観していたクラウスも「さすがにそれは許されません!」と参戦。しかし「止めんでよいっ!」たったその一言で空気が震え、ヴィータは数歩と後ずさり、アギトとアイリの魔導は消失、2人はへなへなと高度を落とす。
床に落ちる前に両手の平の上に2人を降ろす。手の平から2人が震え上がっているのが伝わって来る。さすがに王格が凄まじいな。この場に居るほとんどがダールグリュン帝(違っていたら恥ずかしい)の声に怯んだが、

「ダールグリュン帝。その御方たちは聖王家の客人です。それにここはアウストラシア、迂闊な行動は控えていただけませんか?」

オリヴィエは怯む事なくダールグリュン帝にそう注意した。ダールグリュン帝は私から視線を逸らさずに周囲の空気に気を回したあと、「あっはっはっ、すまなかったな魔神殿」と大声で笑い始めた。

「そこの女子たちも驚かせてしまったすまなかった。少々お主らの主君を試させてもらったのだ」

ヴィータ達は、人懐っこいとは言えないがダールグリュン帝の笑みと謝罪の言葉に、ようやく自分たちが彼の言葉の真意を理解せずに勝手に先走ったのだと解り、すまなさそうに俯いた。

「先はお主を試すためとはいえ失礼をしたな」

私にまで謝罪をしてきたダールグリュン帝に、言葉の真意を察していたために「謝罪は結構です」と返しておく。

「しかし、お主は随分と深い何かを抱え込んでいるようだな。目を見ればその者の大抵は判る我だが、お主の抱える何かは深く重すぎる。これまで見てきた者の中でも特異、異常だ。一体お主は・・・」

「戯れももうそこまでにしてもらえませんか、ダールグリュン帝」

凛とした男の声が、ダールグリュン帝の声を遮った。声の主は円卓に座ってずっと傍観の姿勢を取っていた青年のものだ。私たちの視線を一手に引き受けるも一切動じない。その居住まいで判る。おそらくクラウスより強い。

「此度アウストラシアに集まったのは遊戯の為ではありません。怨敵イリュリアが持ち出した古代兵器、エテメンアンキによる脅迫という名の降伏勧告への返答について話し合うためのはず。ダールグリュン帝。お忘れではありませんよね?と、イクスヴェリア陛下は仰っています」

「・・・・」

「無論だ。しかしこの場に揃っているのはガレアの第三王子であるお主――ヴィンツェンツとイクスヴェリア王、バルト代表の我、シュトゥラのイングヴァルト、アウストラシアのリナルド王子とオリヴィエ王女のみ。ヴィンランド、シュヴァーベン、ヘルウェティアの代表がまだ来とらん。それまでの時間潰しくらい許せ」

ガレアの王子ヴィンツェンツとダールグリュン帝の話に私は、えっ?と漏らしそうになったが、なんとか抑え込んだ。ヴィンツェンツの隣に座っているあの男が、イクスヴェリア王だと? 一瞬混乱したがすぐに、あぁ、と気づく。目に魔力を集中してイクスヴェリアを見れば、幻術か変身の魔導を使っているのが判る。さすがに一応の敵国であるアウストラシアに、幼い正体のまま来るようなことはしないか。

「それにお主も実は気になっているのだろう? あのイリュリアの侵攻を単独で半年も抑え込み、いつしかイリュリアに魔神と恐れられるようになったこの者の戦力が」

今度は私に視線が集まる。ヴィンツェンツは無言のまま円卓に頬杖をついた。あ、もう何を言うのも面倒だって顔してるぞ。ダールグリュン帝は「はっはっはっ。ほら見たことか」と笑い、改めて私に向き直った。

「一国の王、三国の代表である前に我は1人の男であり騎士だ。だからこそ燃え滾る。魔神――オーディンと言う名だったな」

「ええ。オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードです」

「我は、バルトはウラルの王、バルトロメーウス・ダールグリュン。雷帝の名を冠せし者。魔神オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードに、一対一の試合を申し込みたい」

私は堪らず「へ?」と間抜けにもそう零してしまった。他のみんなも同じだ。完全に唖然としまっている。面倒くさそうにしていたヴィンツェンツ、イクスヴェリアですら呆けてしまっているじゃないか。そして何故か真っ先に「いいぜ、やってやるよ! なっ? オーディン」ヴィータが応じやがった。なっ?じゃないってお馬鹿ヴィータ。「いやいやいや。こんな大変な時に応じられるかっ!」すぐさま断る。

「ダ、ダールグリュン帝! 時間潰しとは言えオーディン先生との試合はやり過ぎですっ」

「試合とは言え戦闘行為は慎んでいただきたく!」

オリヴィエとリナルドが止めに入るが、しかしダールグリュン帝は「少し戯れるだけだ。迷惑はかけん」と止まる気配なし。ダールグリュン帝は武装ハルバードをその手にした。クラウスも「お待ちくださいダールグリュン帝!」と止めに入ってきた。
雷帝ダールグリュンの魔導を複製し、彼を“エインヘリヤル”として登録するのも面白い。一応、魔導の方は子孫ヴィクトーリア・ダールグリュンのものを複製しているが、やはりオリジナルの雷帝式が欲しい。だからと言って無駄に魔力は消費したくないし、ここは穏便に済ませたいな。

「構えよ、魔神。武装くらいは持っていよう・・・?」

「オーディンさん!」「オーディン先生!」

縋るような目で見ないでくれ、2人。もう止まらんよ、このおっさんは。仕方なしに待機形態の指環を起動し、“エヴェストルム”をランツェフォルムにする。みんなに「下がっていてくれ」と告げ、穂先をダールグリュン帝に差し出し、彼もハルバードの斧頭を差し出し、互いの武装をガキンと触れさす。

「どれほどのものか、見せてもらお――」

――チェーンバインド・シーリングフォース――

のんびり何かを語ろうとしているところ悪いが、互いの体に被害を出さず、歴史的建造物に損害を出さないために、速攻で捕縛させてもらう。とは言っても束縛した対象の魔力生成阻害効果を付加した16本のチェーンバインドの奇襲も、ダールグリュン帝の前には無意味だったがな。ダールグリュン帝はハルバードを振り回して移動しながらバインドを易々と寸断していく。

「舐められたものだな! このような児戯に等しき魔導など通用しな――むっ?」

――闇を誘え(コード)汝の宵手(カムエル)――

全方位から出現する3ケタ近い平べったい影の手がダールグリュン帝に襲いかかる。チェーンバインド・SFにしたようにハルバードで粉砕しようと試みているが、闇黒系の魔力で具現したカムエルは伸縮・硬軟自在。ゆえに「なんだこの魔導は・・・!?」ゴムのように伸びたり鉄のように硬くなる影の手にハルバードの刃が拒まれ悪戦苦闘のダールグリュン帝。

「小賢しいッ! 九十一式・破軍斬滅!」

複製術式が貯蔵されている“英知の書庫アルヴィト”に登録済みの魔導だな。武装を回転させ、周囲の敵性存在を一掃するというものだ。ダールグリュン帝はカムエルを迎撃しながら徐々に近づいてくる。下手に時間を伸ばして、百式・神雷を使われるのはまずい(そこまで本気になるとは思えないし思いたくもないが)。
仕方がない。対雷撃系の術式をスタンバイしようとした時、入り口の両扉が開いた。王格漂う青年1人に少女1人に女性が1人。その背後にはそれぞれの護衛を務める騎士が3人。その計6人は茫然と私とダールグリュン帝を見詰めていた。

「戯れもここまでか」

心底残念そうにハルバードを腕輪に戻したダールグリュン帝にはもう嘆息しか出ない。私も“エヴェストルム”を指環に戻し、カムエルをすべて解除する。遅れて来た代表たちの登場で私とダールグリュン帝の試合が中止になった事に安堵しているオリヴィエが告げる。

「コホン。で、では8ヵ国代表が集まった事ですし、早速始めましょう」

というわけで、イリュリアに目を付けられた8ヵ国の代表が円卓に集まった。それぞれの代表が円卓に座し、なぜか私にまで席が用意されていたために座る事に。背後にヴィータとシグナムが控え、アギトとアイリは私の肩の上。視線を両肩に感じるが、気には済まい。
まず先に挙がった話は、エテメンアンキが放った8本の砲撃カレドヴルフの初撃による損害報告だ。どこの国もそれなりの都市だったため、8ヵ国合わせれば死傷者は1万3千を超えていた。そして復興支援の協力提案だが・・・裏を返せば恩の売り合いだ。今後の展開を見据えての。
それが判っているからこそ、誰も提案には応じなかった。当然だな、この戦乱の時代に借りを作れば、一気に呑み込まれる。だからこの話は即終わり。次はいよいよここへ集まった目的であるイリュリアの降伏勧告への返答についての会議だ。

「――では本題へ入ろうか。各代表たち。思い思いに意見をぶつけようではないか」

この中で一番の大物ダールグリュン帝(次はイクスヴェリアだな)が告げる。自然体でありながら僅かに発せられている威圧感に黙る代表たちだったが、「ではまずイリュリアの降伏勧告に従うかどうか、それともあくまで敵対戦力として、戦闘を続行するか」若いクラウスが仕切った事で、委縮していた面々が意見を言い合い始めた。

「シュヴァーベンの意思は、降伏には応じない、だ。だが一撃で一都市を破壊する事が出来るカレドヴルフ、その次弾を撃たれるのは避けたい」

「ヴィンランドも、降伏には応じるわけにはいかない、というのが国の意向です。武装解除・騎士団解散、さらに無条件でイリュリアに下るなど言語道断です」

「だがエテメンアンキを破壊する術も、カレドヴルフを防げる術もない。ヘルウェティアも応じないという意向だが、カレドヴルフの標的からはどうやっても外れたい」

シュヴァーベン第三王女ドルテ、ヴィンランド第四王女コルネリエ、ヘルウェティア第六王子アルフォンスの言うとおり、次弾だけは何が何でも止めたい。しかしイリュリアに下るのだけは避けたい。だがそうなれば次弾が撃たれる。危険に晒されている国の王族ではない私ですらこのジレンマにイライラする。

「降伏せずに敵対を続け、エテメンアンキの砲撃に対処し、イリュリア女王テウタを討伐もしくは捕縛する方法・・・、そんなもの在りますかね~・・・?」

リナルドがオリヴィエを流し目で見る。その意図が判らないほど私は馬鹿じゃない。おそらく彼女を生贄に聖王のゆりかごの起動を、と考えているんだろうな。ヴィヴィオを苦しませたクズ野郎――ジェイル・スカリエッティが起こしたJS事件時、はやてから聴いたゆりかごの攻撃機能の詳細を思い出す。
月の魔力を供給する前に運用可能な艦載兵装だが、船体片面21門の計42門、上部に14門、計56門の艦載砲。艦載砲は前部に集中していて、下部や後部は死角となる。その死角を防衛するのがガジェットドローン・・・なんだが、Ⅰ型からⅢ型はスカリエッティの作品故に搭載されていない。唯一この当時から搭載されているⅣ型は飛行機能がない歩行型。内部防衛の為のシステムだ。

(ゆりかごが真価を発揮するのは衛星軌道上に上がってからだ。私の知る大気圏内で扱える攻撃機能以外に、別の攻撃機能が無ければただの的だ)

全ては軌道上に上がってから。そうすれば高い防衛性能を発揮でき、精密射撃・魔力爆撃、対地・対艦攻撃、さらには次元跳躍攻撃も可能となる。

(リナルドはそれを知らないのか? それを知りながら起動しようとでも?)

「リナルド王子よ。聖王のゆりかごを持ち出そうとしているのだろうが、エテメンアンキをどうにかする前に撃たれるぞ」

ダールグリュン帝も気付いていたようだ。心を読まれたのか?とリナルドがビクッとして、クラウスは彼に気付かれないように睨み、残りの面々はゆりかごという単語に緊張を見せた。

「ゆりかご撃沈だけでは済まないでしょう。臨戦態勢に入ったと知るやすぐにカレドヴルフを撃つかもしれない」

「期日までに攻め入る事も出来ない、ということか。やはり降伏するしかないのか・・・?」

「長距離の艦載砲でエテメンアンキの砲門は破壊できないか?」

「おそらく無理かと思います。エテメンアンキの砲門があるのは高度21km。射程圏内にまで戦船を上昇させようとすれば、おそらくカリブルヌスで撃沈されるでしょう」

「そして地上にも放たれ、イリュリアの一人勝ち・・・」

エテメンアンキのふざけた砲撃システムに、室内の空気がどんよりとなる。それからああだこうだと議論が続くが、砲門のある高度や砲撃の射程の問題が常に壁となり、考え出された対策案が次々と潰れていく。
射程が結構問題だ。ベルカの半球すべてが射程圏内。星の裏側にまで逃げなければ、標的から外れる事はない。半球内ならどこにでも砲撃を撃ち込める。この事実が8ヵ国以外の射程圏内の国々に知られれば大混乱だな。

「――そうだ、ミナレットはどうか? イリュリア領海内に在ってイリュリア戦力であるミナレットの砲撃ならば、そう怪しまれずにエテメンアンキを撃てるのでは?」

ドルテ王女が良い案が閃いたと表情を輝かせるが、「残念ながらそれは無理です」クラウスがそう言うと「それは何故か?」と苛立たしげに顔を歪ませた。クラウスがチラッと私を見る。ああ、私から言おう。破壊した本人としてな。

「話に割り込む様で申し訳ありません、ドルテ王女。ミナレットは――」

「その者が破壊したからもう使えんぞ。戦船でようやく破壊できる巨大砲台を、その者――魔神オーディンがその身一つで破壊した」

ダールグリュン帝にそう言われたドルテ王女が「お前が魔神か・・!」と驚愕した。そう言えば会議前に名前は名乗ったが、“魔神”という通り名は言っていなかったな。ここへ遅れて来た事で私が魔神だと知らない他2人の王子も驚いていた。

「ダールグリュン帝の仰ったとおりミナレットは再起不能になるまで破壊しました。ついでに言わせていただきますが、ミナレットではおそらくエテメンアンキは破壊できないでしょう。ミナレットの砲撃カリブルヌスは私個人の魔道で防げるような火力でしたので。エテメンアンキはイリュリアの秘奥中の秘奥の兵器、その外壁がミナレット以上の対物対魔力に優れているのは間違いないはず」

推測だが、ほぼ確実と見ていいだろう。まぁさすがに艦載砲の集中砲火を食らえば折れるだろうが、撃ったところで反撃されるのがオチか。

「・・・・実際に交戦した彼が言うのであればそうなのでしょうね。はぁ・・・。詰んでしまいましたね、エテメンアンキ攻略・・・」

コルネリエ王女がお手上げとでも言うようについに円卓に突っ伏した。思いはみんな同じ。エテメンアンキは攻略が難しすぎる。記憶障害という制限が無ければ、ある程度無茶をすればエテメンアンキを瞬殺できるのにな。
今の私に出来る範囲でエテメンアンキ攻略を組み立ててみるか。攻略法を模索し始めた時、「ふむ。ここで一度休みを入れるのはどうか?」ダールグリュン帝からの提案。喋りっぱなし、考えっぱなし、だから良い案が出ない、とまぁこういう流れになって一度休みを取ることに。

「では皆さま方、この建物内でなら移動に制限はありませんから、どうぞ自由にお休みください」

リナルドがそう言うと、ドルテ王女、コルネリエ王女、アルフォンス王子は席を立ち、それぞれの騎士を引き連れ部屋を後にした。イクスヴェリアは若干速足で部屋を出て、王子であるヴィンツェンツが後を追いかけるように出て行った。で、ダールグリュン帝は椅子の上で足と腕を組んで黙考している。

「オーディン先生」

「お疲れ様です、オリヴィエ王女殿下。クラウスも」

「はい。・・・あ、オリヴィエ」

「ふふ、そうですね。オーディン先生。お部屋を用意させますね」

一体なにを言われているのか判らないため「何故です?」と尋ねる。すると「小さなお客様ももう夢の中ですし」オリヴィエが私に向き直って微笑んだ。彼女の視線は、私の肩に向けられていた。今になって気が付いたが、アギトもアイリも私の肩の上でスヤスヤ眠っていた。それだけじゃなくヴィータもウトウトし始めていて、シグナムに軽くもたれかかっている。

「外に控えている騎士に頼んで寝所を用意してもらいます。彼女たちはそこで休ませてあげてください」

「わざわざありがとうございます」

「いいえ。この程度、私たちが受けた恩に比べればまだまだです」

「それこそお気にならさないでいただければいいのですが・・・。でも今はお言葉に甘えます。シグナム。ヴィータを連れて来てくれ」

「はい」

起きていようと努力して唸るヴィータを抱え上げたシグナム。ダールグリュン帝を1人部屋に置いて、私たちは部屋を出た。



 
 

 
後書き
カリメーラ、ヘレテ、カリスペラ。
全然話が進んでないですよね・・・すいませんです。次話、ガクッと動かす予定です。
とりあえず今話は、今後のエピソードの為に一応と思っていた、オーディン(ルシル)とダールグリュンやイクスヴェリアを出会わせました。
え~、みなさん。みなさんが抱くダールグリュンのイメージってどんなのですか?
やはりクラウスのような若い青年でしょうか? 私は雷“帝”という言葉に、それなりに年の取った大人、とイメージしました。
年齢は30~40歳ほどと設定。クラウスやオリヴィエより歳が行き、ゆえに経験豊富、だから器が大きいし強い、と。
そういうわけですので、ダールグリュンについてはご理解のほどをお願いします。
 
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