時にはアンニュイ
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第一章
時にはアンニュイ
よく明るいと言われる、けれど。
そうでない時もある、それが今だった。
どうも疲れているのか身体全体も心持ちもだるい、それで。
一緒にいる彼にだ、こんなことを言った。
「これから何処に行くの?」
「サッカー観に行かない?」
彼はいつものデートの場所を行って来た。
「今日もね」
「Jリーグの」
「どうかな」
「サッカーね、ちょっとね」
はしゃいで観戦する、これからそうすると思うと。
私はどうしても気分になれなくてだ、こう彼に言った。
「遠慮するわ」
「あれっ、いいんだ」
「ちょっとね」
こう答えた、彼に。
「そうした気分じゃないの」
「珍しいね、そんなこと言うなんて」
「自分でもそう思うわ、けれどね」
「今はなんだ」
「そんな気分なのよ」
「元気がないんだ」
「体調は普通よ」
いつもと変わりがない、それでもなのだ。
「けれど気分じゃないの」
「そうなんだ」
「予約してないわよね」
「してないよ、空いている席にね」
「行ってよね」
「それで、って思ってたし」
「それで満員なら別の場所」
これもいつも通りだ、本当に。
それでだ、彼はこう言ったのだった。
「そう考えてたよ」
「そうよね、じゃあ今も」
「明るくはしゃぐ気分じゃないんだ」
「今日はそうなの」
「それじゃあ何処に行こうかな」
「落ち着いた場所がいいわ」
私は彼にリクエストを述べた。
「今日はね」
「そう、それじゃあね」
私のリクエストを受けてだ、彼は提案してきた。そのデートの場所を。
「バー行く?」
「バーね」
「居酒屋って気分でもないよね」
「居酒屋も明るいからね」
「ええ、どっちかっていうとね」
居酒屋はとにかくだ、かなり賑やかでだ。
その雰囲気を楽しむ場所でもある、そうして飲む場所だ。けれど確かに今の私は賑やかになれる気分でなくて。
それでだ、こう言ったのだった。
「バーよ」
「バーで飲みたいんだね」
「落ち着いてね」
「そう、じゃあバーに行こう」
「ええ、これからね」
こうしてだった、私達は彼の勧めでバーに行った。繁華街の中で雰囲気のよさそうなバーに入った。そしてだった。
二人用の席に向かい合って座ってだった、私達はカクテルを注文した。お店の中は暗くて私達以外にもお客さんがいても。
静かで誰もがカクテルやワインを飲んでいる、一緒に食べているものはナッツやフルーツといったものだった。
私達はナッツを口にしつつそれぞれカクテルを飲んだ、そして。
私はモスコミュールを飲みつつだ、サングリラを飲む彼に言った。
「今日はね」
「こうした雰囲気がなんだ」
「いい感じなのよ」
「普段のサッカーとか居酒屋じゃなくて」
「仕事の時も」
彼と同じ会社に勤めている、ただし部署は違う。
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