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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
  ディケイド ~蒔風の本質~


オーロラの先はどこぞの廃工場だった。
コンクリートの柱、錆びた鉄骨、無数に転がるドラム缶。

如何にもな場所である。
そこに声が響く。


「ほう・・・ディケイドを見捨ててきたのか。貴様の仲間意識も、たいしたことはなさそうだな」

工場の真ん中に立つアポロガイストが蒔風をののしる。
だが蒔風は全く後悔などしていない。

「仲間だからこそ、あいつなら大丈夫と思って置いてきたんだよ」

「戯言を・・・」

「ガキを人質に取るのはいい案だが・・・それを破られた時の代償はでかいぞ、アポロガイスト!!!」

ドン!!

蒔風が大地を思いきり踏みつける。
すると地面が針のように真上にせり上がり、途中でグニャリと曲がって

ドドドドドドッ!!!!

と、アポロガイストを串刺しにしようと迫る。

だがアポロガイストは全くひるむことなく、地面を滑るようにして走り、猛然と蒔風に迫る。
迫りながら放たれるアポロマグナムを蒔風が「風」「林」で弾き応戦する。

そして近距離になり、アポロガイストが剣・アポロフルーレに持ちかえ、斬りつけるのを防ぐ蒔風。

ギリギリと剣が呻く。
蒔風は首を下に向け、俯いたまま耐えている。
それに対しアポロガイストは真っ直ぐ蒔風を見据えていた。

「どうした。まだ私には余裕があるのだぞ!!」

アポロガイストが蒔風を叩きのめすと言ってきた。

だがしかし、アポロガイストはこの時想像だにしなかった。
幼き者を人質にしたことの代償が、あんなにも苦しいものだったとは。



この男がこの程度で倒れるものだとは、塵ほども思わなかった。



「ブッ!!」

「ぐぬ!?」

蒔風がアポロガイストの目に唾を吐きかける。
それに思わず後退し、目をふき取るアポロガイスト。

そんなアポロガイストの右膝を、蒔風が思い切り踏み砕いた。
ゴキュン!!!という音と骨格の砕ける音がした。



「ぐおおおおおおおおおおお!!!!」

「はーーい、まず「ごめんなさい」って言ってみようか」

蒔風がニコニコと笑いながら、蹲るアポロガイストを見ながら言った。


「何を言ってギイイイイイイイイイイイ!!!!」

そのの言葉が言い終わらないうちに、蒔風がアポロガイストの右腕をへし折った。

「おかしいなぁ・・・オレは「ごめんなさい」って言えと言ったんだが?それ以外の言葉はいらないんだよ?」

「ぐ・・・おお」

ガゴギュ!!

「ガアアア!!(ボキッ!!)ゴオオオ・・・」

「だからそんな叫び声はいいから「ごめんなさい」って言え。ん?簡単だろ?」

蒔風の顔はとても穏やかだ。
その口調はまるで子供に言い聞かせるかのように緩やかだった。


「ガキを人質に取るのはダメだよなぁ?」

ゴキキキキ!!

「ぬっが!!」

さらにアポロガイストの右手の指をすべてへし折る。
その痛みに呻くアポロガイストに、

「だからそんな叫びはいらないから「ごめんなさい」って言えばいいんだよぉ・・・わかってるのかい?」

アポロガイストの痛みに堪える声と、蒔風が身体を破壊していく音が淡々と、鈍く、響き渡る。


そして三十分ほどたってから、アポロガイストは知った。

この男はヤバすぎる。
悪とか善とか、そんなものじゃない。
そんなカテゴリーには当てはまらない。

独裁、慈善、復讐、義理、偽善、救済、破滅、善、悪、情、志、歪み、狂気、理性、本能、衝動

そう言った一切の概念すべてをこの男から感じる。
故にこの男は完璧に偽装するのだ。
誰から見ても「まとも」に見えるのだ。

だが違う。

この男は何か一つのきっかけがあればどちらにも転ぶ男だ。
今は大きなきっかけがあったようで大丈夫だが、もしそれ以上の「なにか」があれば、あらゆるものにこの男は身を変えるだろう。




この男はすべてを理解し、すべてをその身に宿して、それでいてまともなように振舞っている異常者だ・・・・






それを知った故に、アポロガイストはもう抵抗することを止める。

「すまなかった・・・・」

「あん?」

「すまなかった!!私が悪かった。だからもう(ベギッ)ギイイイイイイイイイ!!!」

そのアポロガイストを楽しそうに踏みつぶし、アバラに当たる部位を砕く蒔風。

「ちがぁうんだよぉ。オレが求めてんのは「ごめんなさい」、だ。それ以外の言葉は求めてないんだよ」

「あ・・・あ、あ・・・」

そこからさらに拷問が始まった。


「ごめんなさい」の一言、たった六文字言うのにアポロガイストはさらに二時間費やした。
というのも、「ごめんな」や、「ごめ」の時点で蒔風がいきなりアポロガイストの体を砕き

「最後までちゃんと言ってくれないとオレわか~んな~い」

と言って先に進ませないからだ。

それでもアポロガイストは死ねない。
改造人間であるその体は、その程度では死ぬことができない。

むしろ一番最初に砕かれた個所はすでに治ってきているところだ。


「いいねえ。便利だねえ。これなら殺すことなく痛めつけられる。オレが「殺さない」って言うのは、こう言うこともあるんだよなぁ。生きてる方がよっぽどつらいってな!」

そう言って恍惚に笑う蒔風。
その間にアポロガイストはついに言ってのけた。


「ご・・ごめんな、さい・・・・・」

そう言ってアポロガイストは力を抜く。
これで解放される。

だが、そんな光景を見て蒔風がニヤリと笑った。


「ざぁんねん。その程度じゃあ、許せない♪」

「あ・・・え?」

「ガキは俺らよりも先の世界を生きる。つまりは未来の世界だ。お前があのとき壊そうとしたのは世界だった。それを見て許せる俺と思ったか?」

「き・・・さま・・・」

蒔風が笑う。

無邪気にでも、冷酷にでもなく、ただ、笑う。
だからと言って貼り付けたようなものでも、無感情なものでもない。

蒔風は心から笑っていた。
ただ、その根幹の感情は、誰にも理解できない。
たった一人の自分自身を除いて。


「ふう・・・もういいや。飽きた。あとは好きにしろ」

そう言って蒔風がアポロガイストを「山」で斬る。
すると全快ではなくとも、折れた個所は治っていた。

「!?・・・どういうつもりなのだ・・・」

「お前に飽きたんだよ。ま、これはいただいてくけどね」

そう言ってパーフェクターを手に持ち、振る蒔風。

「か・・返せ・・・私の命を!!」

「その気持ち、覚えておけ。お前に命を奪われた者の叫びだ」

そう宣告し、立ち去ろうとする蒔風。

アポロガイストはその後を追えない。
その身に恐怖はしみ込んでいた。

「そうそう。でもオレがお前に対してひとつだけ認めてるのはさ」

蒔風が首だけ振り返って指を立て、言った。


「生きる、という執念。それだけは認めてやる。オレにはその執念がないからな」

「貴様は・・・人では、否、生物ではないのか?」

その言葉に身体ごと振り返って蒔風が言った。



「その通り。オレは異端者にして破綻者。人の範疇になく、まして生物にすらあらず。「死」を恐れないがゆえに、「生」の実感がないものだ」




「な・・・・・」

「そして覚えておけ「ディケイドの迷惑な存在」となる者よ」


その声の凄みにアポロガイストの体がびくりと震える。


「世界に下手に手を出してみろ。オレが潰すぞ」


そう言って蒔風の姿が消える。


--絶対にな--


最後にそう言葉を残して。

アポロガイストが人間体に戻る。
その全身から気持ちの悪い汗がにじむ。



「アポロガイスト!!」



そこに南光太郎の声が響く。
どうやら自分を探しまわっていたようだ。


ガイはいつも通り振舞った。
自分は大ショッカー大幹部アポロガイスト。

そんな自分がライダーに弱みを見せてはならない。
お互いに睨みあっていると、二人の隣にオーロラが出現し、チャップ達がそこを通っていった。

向こうにはシュバリアンがBLACKとディケイドを相手取り戦っている。


ここからはなんら変わらない物語。

ディケイドがオーロラをくぐり、こちらに来る。
ディエンドが現れカードを使ってBLACKを召喚し、四ライダーがアポロガイストと呼びだされた他の怪人と戦う。

いつも通りだ。
いつもどおりにヒーローが勝利する。

ただ一つ違うのは、アポロガイストの額にはパーフェクターはなく。
夏海の命は無事返却され、士は自身の命を削らずに済んだ。

アポロガイストはRXに撃退され、他の世界に逃れる。


だがもうアポロガイストはあの男の前には立てない。

あの異常者を相手できるのは、同じ異常者だけだからだ。

あの男がディケイドのそばにいると思うだけで、自分は行けない。
故に次の世界にこの男が現れることはない。

そして次の世界に敵が行かないのであれば、ディケイドたちの旅の行き先も変わる。

彼が出てくるのであれば、それは蒔風のこの世界での用事が終わってからだ。



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ったく――――

せっかくシンケンジャーの世界で歪みが張らされたと思ったのに、あのバカロガイストのせいでまた吹き出しちまった。


だがまあ・・・
ここまで発散したんだ。当分歪みは出ないだろ・・・・



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「いや、本当によかったよ。夏海ちゃんも無事に助かったし!!」

「士、すまなかったな。お前を置き去りにして」

「いや、こっちも礼を言う。ナツミカンをありがとう」

「皆さん、本当にありがとうございました」

「結局君の勝ちかい?つまらないなぁ・・・これじゃ僕が強いことにはならないじゃないか」


ユウスケ、蒔風、士、そしてどこから来たのか海東の四人が写真館で騒がしく話している。

「いいじゃないか。仲間がどんなもんか、知れたろ?」

「うんうん、海東さんはまた一つ、仲間を知ったんだな、うん!」

蒔風とユウスケの言葉に海東が考え込む。

「そうか・・知らないことを知る・・・知識とは最高のお宝だ・・・そういうことだったんだね、蒔風君」

そう言って海東がパン、と指で蒔風を撃つ。

「さて、次の世界はどんな世界だ?」


そう言って士がカーテンロールを降ろす。
向かう先はアポロガイストの逃げた先の世界・・・になるはずだった。

「なんですかこの絵!?」

夏海が驚愕の声をあげる。

無理もない、そこにあった絵は・・・・






真っ黒に塗りつぶされた、ただの黒い布だったのだから。






「蒔風・・・これは!?」

士の問いに、蒔風が面白そうに言った。


「あの野郎のお出ましさ。思いのほか計算が早かったな」




ついに敵が来る。
蒔風、「ディケイドの世界」最後の戦いだ。



to be continued
 
 

 
後書き


アリス
「蒔風・・・酷い!!」

よくよく見て見なさいよ。
「Shun Maikaze」ですよ?

「S.M」なんですよ!!

アリス
「あれはただのドSでしょう!!」

あれがダメだとわかっていることに対する背徳感でまた楽しいらしいですよ?
そういう意味ではほんの少しMですね

アリス
「読んでて気持ち悪くなりましたよ・・・」

すみません



アリス
「次回、演算終了、戦闘開始」

ではまた次回






僕の目の前に広がる
九つの道はいつか重なって
新しい夜明けへと続く道に変わるのだろう
目撃せよ Journey through the Decade
 
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