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Society Unusual talent

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code6 因縁

「あぁ、わかった。引き続き仕事に戻ってくれ」
チン、とデスクの黒電話に受話器を置き、少女は分厚い書類に目を通す。

「何か情報は掴めましたか?」
赤髪の男、本部長の松寺颯希が手に持っているファイルに視線を向けながら問う。

「あぁ。雄大、そして異能警察から情報が入ったよ」
社長、咲木耶姫花は颯希に視線を向き直して言った。

「どうやら、ビンゴだよ。最悪の予想だけど」
ドサッと颯希の前に大量の書類が置かれる。
颯希はそれを手に取り確認する。

「ナンバーズのメンバーは『以前と』比べて大幅に変わっている」

颯希の手に取った書類に書いてあるものは数人の異能者の死亡届。
そして、数人の異能者の情報。

「名前が上がった異能者は日本武尊、須佐之男、天照、武御雷と名乗る異能者」
「そして蛇遣いの異能者、恐らく櫛名贄姫、そして天照こと天照陽日には姉の幻月夜未が関わっている可能性が高いだろう」

姫花は呆れ顔で「やれやれ」と言うように肩を竦めて言った。
「昔と同じなら幹部は九名。その内の六名…いや、八名割れている」

「…あと一人も新規の可能性が高いと?」
颯希の発言に悩むように唸り、言った。

「…それを祈るばかりだ。そうであって欲しいものだ」
姫花は立ち上がり窓から外を見る。

「颯希、異能者のランク付けとはどのように行っているかわかるかな?」

「えぇ、メリットとデメリット、力と負担の比率ですね」

「その通り、Aなら力が9、8。負担が1、2。Bなら7、6。3、4。Cなら5、4。5、6。Dなら3、2。7、8」

「…Sは力のみで代償が無し。Eは代償の比率が圧倒的に大きい…ですね?」

「ああ、雄大なんかは簡単に使っているように見えても肉体の負担はかなり大きい、常人なら二、三倍で気絶するだろう。彼自身も五倍が限界だ」

「…それが何か?」

「…だが、たまにいるんだよ。ランク付けができない異能者が」

「…」

「私の友人に風雪成姫と言う異能者がいる。雄大の姉さんなんだが、限りなくSランクに近いAランクだ」
「その息子、風雪成美なんかはいい例だろう。あの子の異能は何が代償で、どんな力が出るかが一切わからない」

「…以前いたんだよ、奴側に一人」
姫花の言葉を聞きながら資料を見ていた颯希だが、作業の手が止まり、一つの書類に釘付けになった。

神玉(しんぎょく)赤流(あかる)。性別は男、年齢は22…異能名『赤玉(アグヌマ)』ランク無し…しかし、死亡届、が出ていますが?」

「…ランクがついていないものはSランクと同様に国から特別措置が取られている、警戒視されているんだ。先程話に出た風雪成美にも優秀な監視役が二名ついている。勿論、異能者のプライベートを乱すような行為ではなく、生存確認程度だ」

「しかし、その男はこの世界から消息を絶った、監視役にも気づかれずにね」

姫花は歯を食い縛り、怨念を垂れ流すように言った。
「あのクソッタレの『ゼロ』に匿われている。『ゼロの世界』にな」

「それでは他の元メンバーも匿われているのでは?」

「元ナンバーズのメンバー、一番と三番と四番の神玉、『元』九番を除き、残りのメンバー、二番は『ゼロ』から身を引いたものの消息は不明。残りの元メンバーは全て死体が発見されている。おおよそ利用価値の無さとゼロの世界への情報を隠蔽するために殺したのだろう」

「成程、先程の正体がわかっている八名の内、一番と三番を含み、残りの一人がその男であると言うことですか」
颯希が合点が行った、というように頷く。
同様に姫花も肯いた。

「その通り、そしてそれこそがまずいんだよ」

「神玉の異能、『赤玉』は自分主観の代償の取引。奴が価値を決め、代償を特価交換する」
「彼は自分以外のもの全てを等しく下に見ている。…先程言ったとおり品定めするのは彼だ」

椅子に座り手を組んで鋭い目つきで姫花は語る。
「彼が相手に対して何も思わなければ、触れずに相手の心臓を抉り、殺せるんだよ」

しかし、姫花は先程とうってかわって、獰猛な笑みを浮かべて言った。
「だからこそ雄大を用意した」

「神玉と旧知の親友であり、因縁がある彼をね」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
二人の男がそこにいる。
片方の男は片腕を損失し、もう片方の男は胸に手を当てて膝をついている。

二人を取り巻くように多数の赤い玉が渦巻き、その中でも特に目立ち、中身を持った赤い玉が浮遊している。
片方は血が抜けて色が白くなりつつある片腕、もう片方は鮮やかな紅、心臓

黒髪の男は静寂の中、自分の失った腕には目もくれずに。ただその男を凝視している。
赤髪の男の目は虚ろ、目に集点はなく、死を待つだけのその身体でただ、ただ地面を見ている。

やがて、赤髪の男の身体は崩れ、周りの赤玉も親を失った子供のように空中を彷迷う。
赤髪の男は顔を上げ、黒髪の男の方を向く。
黒髪の男は哀しい目で『赤神』の男を黙視する。

静寂を破るように赤髪の男は呟く、その後笑みを浮かべたと思うと沈むように倒れ込む。

やがて、行き場を失った赤玉は次々に割れ弾める。
勢いよく、静かに。

全ての赤玉が割れ終わる頃、大きな赤玉は重力を思い出したようにゆっくり沈む。
男が自身の腕の入った膜を触れると膜は弾けて無くなってしまう。
残った赤玉が地面へと触れると同時に心臓を包み込む膜は消失する。


残ったのは最後まで赤神を見ていた霊遥葵雄大と、地面に墜ちるトマトのように潰れてしまった心臓。
そして、彼の心に残った『赤神』の最後の言葉。



『一体、誰が間違いなんだろう』 
 

 
後書き
かつての話。

他の人には持っていない力をもつ三人の男達がいた。
三人は親友であったが、道を離れ、それぞれ決別してしまった。

一人は周囲の人間からの恐れにより異能を隠したが、異能者と人間が繋がれることを信じ、暗い心を持ちながら、最終的に異能者として社会に溶け込んだ男
一人は人間関係を忌まれ、自分の全てを隠したが、全ての人間を助けることを掲げ、共存が出来るとは信じておらずも。裏手ながらも異能者も人間も救うことを決めた男
一人は周囲の目を忌み、心を閉ざす。異能者だけの世界を作るために自分に宿る力で、悪の限りを尽くして全ての人間との共存を諦めた男 
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