英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第43話
~IBC~
「え………」
女性を見たロイドは呆け
「ベル………!」
エリィは驚きの表情で女性に近づいた。
「おお、帰ってきたか。」
「お父様、ただいま戻りました。ふふっ………エリィ、久しぶりですわね!」
ディーターの言葉に頷いた女性は微笑んだ後、嬉しそうな表情でエリィに抱き付いた。
「ちょ、ちょっと………」
一方女性に抱き付かれたエリィは戸惑った。
「ん~、2ヵ月ぶりですわね。でも貴女………少し痩せたんじゃなくて?手とか足とかちょっと固くなってよ?」
「ふふ、鍛えているから少し筋肉が付いただけよ。むしろ体重は少し増えたんじゃないかしら。」
「なるほど……言われてみれば筋肉のしなやかさを感じますわね。ふふ、これはこれでなかなかの感触ですわ~。」
「も、もう………」
女性の言葉を聞いたエリィは恥ずかしそうな表情で溜息を吐いた。
(な、なんか凄い人だな………)
(しかし美人同士が絡むとそれだけで絵になるっつーか。)
(というか、ただの友達同士にはちょっと見えないんですが………)
「やれやれ、スキンシップはそのくらいにしたらどうかね?他の客人が呆れてるぞ。」
ロイド達が戸惑っている中、ディーターは苦笑しながら注意した。
「あ………」
「……あら………」
そして女性はエリィから離れた。
「しょ、紹介するわね。彼女はマリアベル………総裁の娘さんで、私の友人よ。ベル、彼らは私の同僚で、ロイドとランディとティオちゃん、セティちゃんにシャマーラちゃんとエリナちゃんって―――」
「紹介は結構ですわ。自分で検分しますから。」
「え。」
「ふむ………なるほど……
ロイド達を紹介しようとしたエリィに女性―――マリアベルは制した後、ロイド達を一人一人見て周った。
「な、なにか……?」
マリアベルの行動にロイドが苦笑したその時、マリアベルはティオをじっと見つめ
「え……」
「貴女は合格。ふふ、可愛らしいですわね。」
呆けているティオに微笑んだ後、セティ達を見回し
「貴女達も合格ですわ。ふふ、エリィと並んでもおかしくない美しさですわ。」
そして微笑みながら言った。
「は、はあ……」
「あ、ありがとうございます……」
「えっと……誉められているのだよね?」
マリアベルの言葉を聞いたセティとエリナは戸惑いながら答え、シャマーラは首を傾げた。
「で、貴方達は不合格ですわ。」
一方マリアベルはロイドとランディを見回して厳しい表情で言った。
「へ……!?」
「な、何だそりゃ……!?」
マリアベルの言葉を聞いたロイドとランディは驚いた。
「フン、こんなムサ苦しい男どもがわたくしのエリィの側にいるなんて。女神も許さざる所業ですわね。」
「ムサ苦しいって………」
マリアベルの話を聞いたロイドは溜息を吐き
「ちょ、ちょっとベル……」
エリィは真剣な表情でマリアベルを睨んで注意しようとした。
「大体、なんですの?そのラフすぎる服装は。せめてスーツくらい着るのが礼儀というものでしょうに。」
「こ、これはその………街中や市外で捜査活動する時はこの方が都合がいいといいますか………」
「言い訳は結構ですわ。まったく、だからわたくしは警察入りなんて反対したのよ。わたくしの事業を手伝ってくれた方が遥かに有意義だったでしょうに…………」
「ああもう、ベルってば!」
ロイドの言い訳を一蹴し、ロイドを睨みながら言うマリアベルにエリィは呆れた。一方ディーターは椅子から離れ、ロイド達に近づいた。
「ハッハッハッ。盛り上がっているようだね。うむ、若い者は若い者同士で、親交を暖めてくれたまえ。約束の時間なので私はそろそろ失礼するよ。ベル、後で彼らを端末室に案内してあげたまえ。」
「端末室………どういう事ですの?」
「事情は彼らから聞くといい。それではさらばだ。」
首を傾げているマリアベルにロイド達を見ました後言ったディーターは部屋から去って行った。
「あ………」
「逃げましたね………」
「少しぐらいの事情の説明はしてほしかったですね……」
「もう、お父様ったら……」
ディーターが去った後エリィは呆け、ティオとエリナ、マリアベルは呆れた。
「そ、それじゃあ早速、案内をお願いできれば………」
一方ロイドは苦笑しながらマリアベルに言ったが
「まだ話は終わってませんわ!そちらの赤毛の貴方も、そんな派手な格好をして……立派な体格をしているのだからきちんとしたスーツを着なさい!」
マリアベルはロイドを睨んだ後、ランディを睨んで言った。
「お、俺ッスか?いや~、でも俺って根っからの遊び人だしなあ。あ、それにソイツみたいに夜の屋上で同僚のお嬢さんと良い雰囲気になったりしないし。」
「な、なんですって~!?」
マリアベルに睨まれたランディは苦笑した後、マリアベルの怒りの矛先をロイドに変えた。
「ランディ、お前………!」
「ご、誤解されるようなことを言わないでちょうだい!?」
一方ロイドは驚き、エリィはランディを睨んで注意し
「あながち誤解ではないみたいですけど………エリィさんも随分、元気になったみたいですし。」
「そうそう!それに”あんな事”って、何の事~?エリィさん~?」
「ティ、ティオちゃん、シャ、シャマーラちゃん………」
ティオとシャマーラが呟いた言葉を聞いたエリィは頬を赤らめて2人を見つめ
「ああもう、ティオとシャマーラも引っ掻き回さないでくれ!」
そしてロイドが2人を睨んで注意したその時、マリアベルはロイドの襟を掴みあげ
「フフフ………ロイドさんと言ったかしら………?その辺りの事をもう少し詳しく聞かせてくれないかしら………?わたくしのエリィにどんな破廉恥な事をしたのか……!」
威圧感のある笑顔でロイドを見つめた後、怒りの表情で睨んだ。
「いや、してませんってば!」
マリアベルに睨まれたロイドは苦笑しながら答えたが
「…………………」
「だからエリィも何でそこで黙るんだよ!?」
エリィは頬を赤らめて黙り込み、それを見たロイドは慌てた。その後ロイド達はマリアベルに事情を説明した。
「―――なるほど。事情はわかりましたわ。それで、あなたたちを端末室に案内すればいいのね?」
「ええ、頼めるかしら?」
「無論、エリィの頼みなら言うまでもありませんけど……」
エリィに言われたマリアベルは頷いた後黙ってロイドを睨んでいた。
「えっと………誤解は解けたはずでは?」
マリアベルに睨まれたロイドは苦笑しながら尋ねた。
「フン、まあいいでしょう。特務支援課………わたくしもどの程度のものか気になっていましたし。エリィの同僚に相応しいか………貴方に証明していただこうかしら?」
「は、はあ………(何で俺限定なんだろう………?)」
マリアベルに睨まれたロイドは戸惑いながら頷き
(こりゃ、完全に目を付けられちまったなぁ。)
(………ご愁傷様ですね。)
(……まあ、鈍感なロイドさんにはこれぐらいの事はあって当然かと。)
その様子を見ていたランディは興味深そうな表情になり、ティオとエリナは静かな表情でロイドを見つめていた。
「もう………ベル、いいかげんにして。端末室に案内、してくれないの?」
「もちろん案内しますわ。端末室は、IBCビルの地下5階に設置されています。さ、エレベーターに乗りますわよ。」
そしてエリィに睨まれたマリアベルは頷いた後、部屋を去って行った。その後マリアベルと共にエレベーターに向かったロイド達はエレベーターに乗って、地下に降りはじめた。
「しかし……その”銀”と言ったかしら。結局の所、目的は何なのかしら?」
エレベーターが地下に向かっている最中、マリアベルはロイド達を見回して尋ね
「それは私達にもまだわからないんだけど………」
「そういや、どうだロイド。今回の事件についてそろそろ何か閃かないのか?」
「ああ、そうだな……脅迫状とメールだけど……同じ人間が書いたんじゃないかもしれない。」
「なに……?」
「どういう事ですか………?」
ロイドの話を聞いたランディは目を細め、ティオは尋ねた。
「ああ、単純な話だよ。イリアさんが受け取った脅迫状は不気味だけど単純な言い回し………俺達が受け取ったメールは古風で挑発的な言い回し……ずいぶん感じが違うと思わないか?」
「……確かに。」
「言われてみればそうですね………」
「……メールが来た事に驚いてそこまでは考えていなかったわね。」
ロイドの推理を聞いたティオとセティは頷き、エリィは溜息を吐いた。
「……ふぅん……それで、その事が何を意味しているのかしら?」
マリアベルは考え込んだ後尋ねた。
「そうですね、色々と可能性はあると思いますが………例えば”銀”に手下がいた場合、そいつにメールを送らせた可能性。もしくは逆に、そう思わせるために”銀”がわざと違いを出した可能性。他にもあるでしょうが……この段階で、これ以上推理を進めるのは逆に危険でしょうね。」
「なるほど……ふむ、面白いですわね。」
「え……」
自分の推理を聞いて呟いたマリアベルの言葉を聞いたロイドが呆けたその時
「ふふ……そろそろ着きますわよ。」
エレベータは地下5階に到着し、ロイド達はマリアベルの案内によって端末室に通された。
「こ、これは……」
「なんつーか……メチャクチャ凄そうな部屋だな。最新技術がてんこ盛りになっているのだけはわかるが……」
端末室に通されたロイドとランディは今まで見た事のない科学的な風景に驚いていた。
「エプスタイン財団製の最新情報処理システムですね。リベールの高速巡洋艦にも使われているそうですが……」
「あの有名な”アルセイユ号”ですわね。あれに使われているものと基本的には同じシステムですが………莫大なネットワーク情報に対応すべく、処理容量を数倍に強化していますわ。」
「……すごい………」
ティオとマリアベルの説明を聞いたエリィが驚きの表情で呟いたその時
「マリアベルお嬢様……?」
「お疲れ様です!」
端末の前に座って作業をしていた研究員達がマリアベルに近づいてきた。
「ふふ、お疲れ様。仕事の方は順調かしら?」
「ええ、おかげさまで。例のシミュレーションも順調に行きそうですが……」
「えっと、こちらの方々は?」
マリアベルの言葉に頷いた研究員達はロイド達を見つめて尋ねた。
「クロスベル警察の方々ですわ。実は、ここのメイン端末が外部からハッキングを受けた可能性があるらしいのです。」
「えええっ!?」
「ハッキング!?」
「えっと……ティオ、彼らに一通り説明してもらえるか?」
マリアベルの話を聞いて驚いている研究員達を見たロイドはティオに視線を向けて尋ねた。
「はい、それでは……」
ティオは専門的な用語を交えながら研究員達に事情を説明した。
「外部からのハッキング………可能性はあったけどまさか本当に起こるなんて………」
「いや、でもあり得ないぜ!ハッキングなんてできる技術者がそう簡単にいるはずが………」
「もし、ハッキングでなければメールを送ったのが貴方たちである可能性が高くなりますわねぇ。うふふ……どちらが”銀”なのかしら?」
ティオの話を聞いて信じられない様子でいる研究員達を見たマリアベルは口元に笑みを浮かべて言った。
「そ、そんな滅相もない!」
「僕達が不甲斐ないからハッキングされたんだと思います!」
マリアベルの言葉を聞いた研究員達は慌てて言った。
(な、なんていうか……)
(イリアさんとは違った意味で女王様って感じだよな……)
その様子を見ていたロイドとランディは苦笑していた。
「特務支援課の端末にメールが届いたのが、真夜中の3時頃………その時間帯のログはどうなっていますの?」
「は、はい。」
「すぐに調べます。」
マリアベルに言われた研究員達はそれぞれ端末の前に座って作業を始めた。
「……あ、ありました!メールの転送システムがクラッキングされています!」
「やっぱり……」
「これで外部説が確定したってわけだな。」
研究員の報告を聞いたエリィは表情を厳しくし、ランディは頷いた。
「こちらも侵入経路を確認!アクセス元は……駄目だ。ロストしています。」
「どこから入り込まれたかわからないってことですか?」
「ああ、巧妙に痕跡を消されてしまっている。クロスベル市内の何処かなのは間違いないと思うけど………」
「ふむ……やりますわね。」
ロイドの質問に答えた研究員の話を聞いたマリアベルが考え込んだその時
「………端末を一つ、貸してもらっていいですか?」
「え……」
「だ、だが……」
ティオが提案し、それを聞いた研究員達は言いよどんだが
「いいですわ。ティオさんと言ったかしら。好きにいじってしまって。」
「はい、それでは………」
マリアベルの許可を聞き、一番真ん中の端末が複数ある椅子に座り
「アクセス……エイオンシステム……起動………」
静かに呟いた。するとティオの耳に付いている装置が赤く光りはじめ
「な……」
「ティオちゃん……!?」
「一体何を……?」
「これは……」
それを見たロイドとエリィは驚き、セティは戸惑い、マリアベルは驚きの表情でティオを見つめた。
「多次元解析によるリアルタイム制御を試行………全端末のログを解析、隠蔽された痕跡の前後における不審なアクセスを全て精査………」
そしてティオが端末を操作し始めると、すざましいスピードで何かの文字が画面に流れはじめた。
「す、凄い………!?」
「なんだ、この処理能力は!?」
「………サポートをお願いします。クロスベルの全ターミナルに管理者権限でアクセスをかけます。不審と思われるログを吐き出すのでチェックをお願いします。」
「あ、ああ……」
「任せてくれ……!」
そしてティオと研究員達はすざましいスピードで端末を動かし始めた。
「………エリィ、わかるか?」
その様子を見ていたロイドはエリィに尋ねたが
「う、ううん……流石に付いていけないわ。」
エリィは首を横に振って答えた。
「俺なんか、何をやってんのか理解すらできてねぇんだが……」
「あたしも~。セティ姉さんとエリナはわかる??」
「い、いえ……」
「私達も何をやっているのかわからないです………」
「なるほど、ティオさんは”魔導杖”の使い手ですのね。導力魔法をノーウェイトで発動するための高速展開技術が使われているそうですが………それを端末のコントロールに利用したのかもしれませんわね。」
それぞれが首を傾げている中、マリアベルは納得した様子で頷き、ロイド達に説明した。
「わ、わかるんですか!?」
「ベルは一応、エプスタイン財団で導力工学を学んだ経験があるから……」
「ふふ、といってもかじった程度ですが。」
そしてロイド達がしばらく見守っていると、端末が鳴りはじめた。
「終わったみたいですわね。」
「お………」
マリアベルの言葉を聞いたランディがティオ達を見つめたその時
「……いかがでしたか?」
ティオは研究員達に尋ねた。
「こちらの持ち分はシロだ。そっちはどうだ?」
「ビンゴ――ーコイツだ!ジオフロントB区画、『第8制御端末』……ここからアクセスしたらしい!」
「ジオフロント……」
「あの駅前通りの外れにある地下区画からかよ?」
ティオの質問に答えた研究員の話を聞いたロイドは考え込み、ランディは目を細めて尋ねた。
「いえ、あの場所はジオフロントA区画になります。ハッキングに使われた端末の所在はジオフロントのB区画……」
「えっと……市北西部の地下にあるエリアみたいだね。」
そして作業を終えたティオはロイド達の所に戻った。
「市北西部……住宅街や歓楽街のあたりね。ロイド、どうするの?」
「―――早速、行ってみよう。ジオフロントのゲート管理はたしか市庁舎の管理だったはずだ。鍵が借りられないか受付に問い合わせてみよう。」
「ああ、さっそく行ってみようぜ。」
エリィに尋ねられ、答えたロイドの言葉にランディは頷き
「ふふ……どうやら事件の核心に迫ってきたみたいですわね。」
その様子をマリアベルは口元に笑みを浮かべながら見つめた。
「はい……色々とお世話になりました。」
「ありがとう、ベル。それに研究員の方々も。」
「い、いやあ……」
「僕らより、そのお嬢さんの手柄の方が大きいと思うよ。」
エリィにお礼を言われた研究員達は苦笑した後、ティオに視線を向けた。
「そうだな……お疲れ、ティオ。おかげで助かったよ。」
「ふふっ、お疲れ様。」
「さすがティオすけ。決めてくれるじゃん。」
「フフ、お見事でしたよ。」
「凄いよ、ティオ!」
「ええ……機会があれば私達にも教えてほしいものです。」
研究員の言葉に頷いたロイド達はそれぞれティオに労いや称賛の言葉をかけた。
「えと、その……大したことじゃありませんし。それにわたしも一応、特務支援課の一員ですし………」
ロイド達の言葉を聞いたティオは慌てた後、気を取り直して答えた。
「ふふ……十分、大したものですわ。どうかしら、ティオさん。エリィ共々わたくしの所にリクルートするというのは?」
「え……?」
一方マリアベルは口元に笑みを浮かべた後ティオを勧誘してティオを呆けさせ
「ちょ、ちょっとベル………」
「はは……いきなり引き抜きッスか。」
「えっと、それはさすがに勘弁して欲しいんですけど……」
マリアベルの行動を見たエリィはマリアベルを睨み、ランディとロイドは苦笑した。
「ふふ、冗談ですわ。事件が無事解決したら是非、顛末を教えてください。それと―――お渡ししたセキュリティーカードはそのまま預けておきますわ。最上階とこのフロアならいつでも来れるようにしますから何かあったら訪ねてくださいな。」
「ありがとう、ベル。」
「それでは失礼します。」
その後ロイド達は市庁舎でジオフロントB区画の鍵を借りた後、住宅街にあるジオフロントB区画に入って行った………
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