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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第2話 スカサハの新たなる弟子

 「・・・・・・」
 「う~む」

 百代が横に目をやるとトーマスと名乗る巨漢が、士郎の入れたブラックコーヒーの味に舌鼓を打ちながらも眉間にしわを寄せて新聞をめくっていた。

 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・(ブツパクブツパクブツパクブツパクブツパク)」

 一方、真逆側に座っているシーマと名乗った美少年は、百代と今士郎に注意を受けながら朝食をともに取っている大河から、自分達も美少女と見間違えた発言を受けて、落ち込みながら朝食にあり付いていた。
 たった数日ぶりに来た衛宮邸での朝食の場が、色々変貌していることに何とも言えない気持ちにさせられるのだった。

 
 -Interlude-


 「へぇ~!じゃあ、衛宮先輩の家に住人が増えたんだ」
 「ああ。私はそんなこと一言たりとも聞いていなかったのに・・・!」

 風間ファミリーと合流した百代は、今朝の事を愚痴っていた。
 ただ補足させてもらえば、百代へ事前に士郎が告げておく義務はないのである。
 しかしながら感情と理屈は別物とよく言われるそれであり、何も聞いていない百代にはいそうですかと納得できるほど、精神面は成長していないのだ。
 だが・・・。

 「別にモモ先輩が何かの被害を受けたわけじゃないんでしょう?」
 「む」

 京の指摘通り、今回の事で百代自身が理不尽な目に遭った訳では無い。

 「だったら良いんじゃないの?条件もクリアしたんだから組手もしてもらえるんでしょう」
 「まあ・・・」
 「でしたら良いのではないのでしょうか?」
 「また我儘言いすぎると、組手とかも無しにされちゃうんじゃないんすか?」

 まゆまゆとキャップの言葉に確かにと納得する。
 士郎なら言いかねないと。

 「それにお姉様。その人たち悪い人では無いんでしょう?」
 「ああ。2人とも相当なキャラクター性ではあるが、いい人達だったと思う」
 「2人か」
 「如何いう人たちなの?」
 「トーマスさんは金髪のアメリカ人並の巨漢で、ジェントルマンを自称していたな。あと燃え盛るような赤と言うより橙色の髪をしたシーマは、美少女に見間違えてしまうような美少年だ」

 百代の説明に、故あればナンパしようと考えていたガクトがどっちも野郎かよ~と嘆いている。
 それを無視して大和は敵亡くな指摘を百代にする。

 「姉さん。そのシーマと言う人の事、美少女だと思ったって言ったんじゃないの?」
 「よくわかるな。朝食の席で大河さんも思ったらしくて、言っちゃったんだよ。そうしたら落ち込んでしまってな、悪い事をしたと反省してる」

 本当に反省しているのか、申し訳なさそうにする百代。
 しかしそんな義理の姉を見た一子の感想としては、それでも意気高揚しているように見えた。

 「でもお姉様嬉しそうだけど、如何したの?」
 「そのお2人に関係してる事なんじゃないか?」
 「クリもワンコも解ってくれるか!詳しい力量までは判らないが、2人揃って壁を越えてる強さだと分かる存在性だったんだ。――――私に今まで挑戦してきた武人はごくごく一部だけで、世界は広いんだと実感させられたさ!!」

 何時もの百代であれば戦う相手がいなくて困っているので、仲間やファンクラブの女子たちと戯れてストレスを解消するところだが、次々現れる実力者たちとの思わぬ邂逅や、士郎との放課後の組手に嫌でも気分はうなぎのぼり状態にあるのだった。


 -Interlude-


 放課後。
 今朝の約束通り、士郎と百代は川神院に来ていた。
 士郎が開く家庭科室を借りる料理教室以外の日は、毎回これから最初の少しの間だけ百代との組手の時間とする事に成るだろう。
 少なくとも百代の精神面が成長して、彼女からこの組手をしなくていいと言う提案がされるまでだ。
 因みにこの組手により、弓道部にも遅れていく事に成ったが、その当たりは今日の昼休みに百代を連れまわして弓道部員達の全員に理解してもらえるように話しまわった。
 そうして現在、士郎と百代は川神院内の一角で対峙している。
 そこへ、監視役の鉄心――――では無く、ルーが来た。

 「師範代が如何して此処に?」
 「総代は今、学長室でお客さんの相手をしているカラ、一番最初から悪いケド私が立ち会う事に成ったのサ」
 「学長がですか?昼休みの最後に会いましたが、一言も聞いてませんでしたけど・・・」
 「総代、忘れてたのサ」
 『・・・・・・・・・・・・』

 ルーにあっさり告げられた事実に士郎は溜息をつき、百代はついにボケが始まったかと不安になった。

 「まあ、なんだ。気を取り直して始めるとしよう。――――言っておくが星殺しの様な火力の高いのは禁止だぞ?」
 「分かってるさ!」

 士郎に注意されながらも、嬉しそうに士郎に正面から突っ込んで行く百代。
 そんな2人が組手を始めた頃、鉄心は学長室で唸っていた。

 「むぅ」

 先程帰った編入生を装った客――――マスターピースの使いから受け取った手紙の内容に、頭を酷く悩ませているのだった。

 (この情報を何所で・・・?これは九鬼から内密にと言われておった、学園内でもまだ儂しか知らぬ情報の筈じゃ)

 その情報とは『武士道プラン』
 過去の英雄たちの遺伝子を元にクローンとして現代に復活させて、今の社会に革命を齎そうともしているのだ。
 そしてその『武士道プラン』の申し子達を来月頃に、この川神学園に投入しようと言う計画である。
 この情報を他勢力は勿論、特に今現在冷戦状態にある藤村組に知られないでほしいと言う意向を受けてもいた。しかし――――。

 (ヒュームの奴め、雷画の事を未だに判っておらんのか?あいつに内密とか無理じゃろ)

 鉄心はヒュームの認識の甘さに呆れるしかなかった。
 雷画の異名は“現世(うつつよ)の閻魔”。
 それは即ち自分の把握できる範囲内や、自分と対峙した者の企みを見透かし、虚偽を見破ることが出来るのだ。
 長年極道の世界で渡りながら鍛えた眼力もあるが、それ以上に広範囲ともなればそれは異能の為せる業である。
 その為、鉄心は昔から雷画を欺けたことは一度たりとも無いのだ。
 旧知の殺戮執事の爪の甘さに溜息をつきつつ、手紙に再度目を落とす。

 (確かにこの流れで言えば、手紙の通りになる可能性が高い。それをまだ一月前以上の時点で読み切るとは、噂通り油断ならんわい)

 この手紙を作成したと思われる、マスターピース現代表のトワイス・H・ピースマンへ、改めて評価しつつもそれ以上に警戒の色を濃くする。

 (まさか先手のけん制をしてくるとは・・・・・・如何しようかのぉ)

 次から次へと発生する問題に、孫たちとは違い今日も苦悩するのであった。


 -Interlude-


 「2人とも、お疲れサマ」
 「ふーっ!楽しかったー!」
 「そうか」

 川神院にて組手を終えた2人。
 その内の1人の士郎は百代が満足したのを確認して、部活に行くため学園へ戻ろうとしていた。
 そこへ、唐突にルーが待ったを掛ける。

 「如何しました?」
 「一子の件で、衛宮クンに聞きたい事があるんだけど。――――君から見て、一子の成長を一番妨げた原因を教えてほしんダ」

 今更それを聞いても何かが変わる訳では無い。その程度は理解している様だが余程悔しかったのか、出来ればでいいからとルーは士郎に頼み込む。

 「そうですね・・・・・・」
 「ん?」

 百代は士郎の視線が、自分へと向いていることに気付く。

 「俺は一流の指導者では無いですから、一概に一番と言えるとの確信は持てません。ですが言うならば、百代への過剰過ぎる憧れでしょうね」
 「百代へノ?」
 「私への?」
 「――――ああ。京からその当たりは聞いているが、百代は今までの中で大抵の武人を一撃で華麗に倒しているんだろ?」
 「川神院の師範代以上の3人を除けば、お前と大河さんと揚羽さん以外はな」

 条件さえクリアできれば毎日強者である士郎と組手が出来ると言う事で、それが本当に嬉しいからか、百代はお前と言う部分を一番強調した。

 「そんな百代の姿を間近で見続けたせいもあるんだろうな、お前の様に自分も華麗に倒せる姿を自分に当てはめ続けた結果、成長が余計に遅れて勝率も低いままだったんだろう」
 「ナルホド。百代と一子では戦闘スタイル以前に才能面で違いすぎる。それなのに自分と百代を無理矢理照らし合わせようとしてきたから、一子はどれだけ鍛錬しても勝利(結果)に繋がりにくかったのカ」

 漸く納得できたのか、今まで気づけなかった自分を恥ずかしく思うルー。

 「なら今後はそこを修正する事に重点を置くのか?」
 「修正なんて生易しいモノで、一子のお前への長年の憧れた結果の歪さは剥がれはしないさ。だが師匠なら荒療治ではあるが出来るだろう。――――それともう一つが以前にも言った勉強だ」
 「勉強か・・・。本当に今のワンコに必要なのか?」

 百代は別に士郎への意見にケチを付けようとしているのではなかった。
 単に、今迄の修業であれば自分も共に居てやれるが、勉強ともなれば話が別だ。勉強は兎に角嫌なのだ。
 しかしそんな気持ちも士郎には見透かされている。

 「義妹の応援をするんじゃなかったのか?」
 「う゛」

 百代の内心の考えに士郎は嘆息する。

 「ともあれまずは師匠との稽古だが・・・・・・無事戻って来れればいいが」

 最後の言葉は2人に聞きとられないように呟いた。
 その心配されている当人である一子は、地図を片手に衛宮邸の前まで来ていた。
 意外と言うわけでもないが、ワンコは士郎の家に来るのは初めてだった。

 「ここよね。・・・・・・御免下さ――――」
 「やぁ、待っていたよプリティ・ガール!君がシロウの言っていたミス・モモヨの義妹である努力の天才・カワカミカズコだね?」
 「あっ、はい。貴方がトーマスさんですね?お姉様から聞いていた通り、じぇんとるまんさんだわ!」

 天真爛漫な笑顔とはきはきとした答えに、エジソンのテンションはさらに高まる。

 「ハッハッハッ!見所のあるプリティ・ガールの様だ。まぁ、此処に来たのも何かの縁、これから私と――――」
 「――――お主はまだまだこれから、やる事があるのだろう」

 若干暴走しかけるエジソンを、後から来たスカサハが止める。

 「むぅ?・・・・・・・・・おっとそうでしたな、それに彼女はミス・アルバとの先約済みなのに申し訳ない」
 「構わん。主が暴走する程度、想定内だ。――――再確認は不要だな。よく来たな娘よ・・・・・・・・・ん?如何した?」

 ジェントルマン精神を発揮させたエジソンを部屋に帰らせて一子に問うが、当の本人は女性として完成されたスカサハの美貌に見惚れている。

 「お姉様より綺麗な女性なんて初めて見るわ・・・」
 「褒め言葉は受け入れるが、思っていること全部口に出てるぞ」
 「へっ?あっ、えっ、す、すいませんでしたッ!」
 「いや、慣れているからよい。それよりも名乗り上げよ」

 何時までも頭を下げて恐縮している一子を促す為に言った。
 その言葉に一子は悟る。
 建前の挨拶や態度に付き合うために自分を待っていてくれたのでは無いと。故に――――。 

 「押忍っ!川神一子ですっ!今日より、宜しくお願いします!」
 「気合は及第点か。聞いていると思うが弱音を吐こうものなら――――」
 「押忍!その覚悟を決めてやってきました!」
 「私は今まで多くの者を鍛えて来たが、それは皆多かれ少なかれ“才能”のある者達だ。しかしお主は“持たぬ者”と見ただけで分かった。それでも良いのか?」
 「今更です!才能が無いから武術を極めてはいけないなんて私は認める気は無いし、何より諦めない!諦めきれませんっ!だから無理やりにでも成ってやります!!」

 一切目をそらさず堂々と言い切る一子の姿に、それをどの様な意味でかは察せられないが、スカサハは微笑する。

 「フフ、決意も及第点か。――――一子よ。私が好むのは勇気ある者だ。ただの戦士ではいけない、ただの蛮勇でもいけない。勇気ある戦士こそ、私の好む可能性溢れる存在だ。勿論それは、才能が有る無いなど関係ない。お主が私の好む存在であるのなら、お主がこの先に弱音一つ吐かずに私の稽古を耐え続けられるなら、責任を以て無理矢理(・・・・)にでも『川神院総代(・・)』にしてやろう!」
 「お、おおお、押忍ッッ!!・・・・・・・・・あれ?総代(・・)・・・?」

 自分の目指しているのはあくまでも師範代の筈なのに、総代と言う言葉に戸惑いを覚える。
 その一子の反応を当然予測していたのか、スカサハの微笑が禍々しくなる。

 「師範代などと中途半端な夢を追わす気など、私には無いからな。到達するなら頂点であろう」

 そう言って未だに困惑から抜けきらない一子を、首根っこを掴んで無理矢理道場に連れて行く。

 「いや、あの、ちょっ」
 「安心しろ。初日はちょっと嬲る(優しく)してやる」
 「ちょっとおかしく聞こえたんですけどっ!?」
 「何だ嬉しいのか?いいだろう。優しく嬲ってやる」
 「えぇえええええええぇええええええ!!?」

 そうして連れて行かれる一子。
 その後、道場の方から女の子の悲鳴を何度も聞いたと、部活から帰宅した士郎はエジソンとシーマから事情を聞くのだった。


 -Interlude-


 「遅い・・・」

 日はすっかり暮れているこの時間。
 金曜集会のこの日は何時も通り皆集まっていた。
 一子以外は。
 キャップですら既にバイトを終えて戻ってきているのに、一子だけが一向に来ないのだ。
 あまりの遅さに百代は心配となり、秘密基地たる廃ビルから出た所で仁王立ちの状態で待っていた。

 「いくらなんでも遅すぎる、流石に迎えに」
 「悪い、遅くなった」
 「っ!?士郎か!何でおま・・・・・・ワンコ!」

 突如目の前に現れた士郎に驚くが、それ以上にお姫様抱っこ状態で運ばれてきた一子に驚く。

 「ワンコ如何したんだ!?」
 「疲れて寝てるだけだ。初日だって言うのに師匠が稽古をの速度を余りに飛ばした様だからな」
 「修業好きのワンコを初日から此処まで疲労させるなんて、どれだけスパルタなんだよ・・・」
 「けど有言実行・・・・・・一度たりとも弱音を吐かなかったらしい。大したもんだな」

 士郎の言葉に安心と納得が混ざった感情のまま、百代は嬉しそうに寝ている一子の頭を撫でる。

 「と言う事で預けたいんだが、如何する?俺が上まで運ぶか?」
 「いや、私が預かる・・・・・・にしても」
 「ん?」

 寝ている一子をそのまま百代が変わってお姫様抱っこ状態で受け取る。
 しかし何か思うところがあるのか、士郎をじっと見る。
 見られている士郎は、少し考えてから思いつく。

 「もしかして、百代もお姫様抱っこされたいのか?」
 「は!?」
 「まあ、今だに両親が帰ってこないから仕方がないんだろうが、意外と甘えん坊だな」
 「ちょ、違っ」
 「照れるな照れるな。今度機会が有ったら、膝枕でも何でもしてやるから今日は許せ」
 「だから――――」
 「じゃあな!」
 「あっ!?」

 そう、最後まで百代の弁明を聞かずに、帰ってしまった士郎。
 それを追うかどうか迷ったが、結局諦める事にした。

 「まあ・・・・・・いいか」

 誤解は解けなかったが、あそこまで言われると興味も出て来たので、それもいいなと思い廃ビル内へ戻っていく。
 しかし誰も見ていなかったと思われた今の光景を、見ている者がいた。
 それは――――。

 「順調に攻略中か。・・・・・・よしっ!」

 覗き見していた京が、嬉しい進捗率にガッツポーズをするのだった。 
 

 
後書き
 一々フラグを増設する衛宮さん家の士郎君です。
 学園内での変化は次の次くらいかと。 
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