魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第50話「次元犯罪者を追って」
前書き
...前回の話、もっと時系列を遅らせればいいほど時間が空いています。
まぁ、さすがに詰め込みすぎですから、少し離す事にしました。
=優輝side=
「...ん?クロノから通信?」
夏休み明けに抱いた不安は、どうやら杞憂に終わったらしく、既に10月末~11月にあるシルバーウィークの前日になっていた。
そこへ、唐突にクロノから通信が入った。
「どうしたんだ?」
『緊急だ!至急、手伝ってもらいたい事がある!来れるのであれば、海鳴臨海公園に集まってくれ!他の皆にも既に伝えてある!』
「分かった。今すぐにでも行くよ。」
『助かる!』
そう言って通信が切られる。....さて。
「椿、葵。」
「聞いていたわよ。」
「あたし達もいつでも行けるよ!」
話は聞いていたらしく、椿と葵は準備万端と言った風に返事をした。
「椿と葵は士郎さんに一応伝えておいてくれ。僕は先に行っておく。」
「分かったわ。伝え次第、葵から連絡を入れるから、型紙で召喚して。」
「ああ。」
そう言って、僕らは家を出る。
もちろん、鍵はちゃんと閉めて、士郎さんに渡しておくために椿に渡す。
「(...しかし緊急か...。なんなんだろうな...。)」
一体今回は何があるのだろかと、僕は思いつつ公園へと向かった。
「...それで、今回は一体...。」
アースラから迎えが来て、僕らも乗り込む。
そこで、開口一番にそう聞いてみた。
「....管理局から、ロストロギアが盗まれた。」
「なっ...!?」
深刻そう言ったクロノの言葉に、驚きの声が漏れる。
「ロストロギアを盗んだ犯人が、ちょうど僕らが巡回している辺りに来ている。だから君達に招集をかけたんだ。」
「...そやけど、緊急なのはともかく、こんな大所帯な必要はあるん?」
はやてが僕も気になった事を聞く。
ちなみに、今この場には魔法関連の面子が全員揃っている。
普段は地球にいる人物だけでも僕ら含めて19人。確かに大所帯だ。
「...はやて達は知らないだろうけど、その盗まれたロストロギアが厄介でな...。その数と危険性上、人数はできるだけいた方がいい。」
「“はやて達は”...?知っている人もいるって訳?」
今度は椿がそれを聞く。
...確かに、クロノの言い方だと、この中には知っている人もいるって訳だ。
「...ああ。なのは達には、馴染み深いと言えば馴染み深いモノだ。」
「っ、それってまさか...!?」
クロノのその言い方に、織崎が気付いたように声を上げる。
それに、クロノは肯定として頷き、告げた。
「―――盗まれたのはジュエルシードだ。...それも、21個全て...な。」
「....厄介な事になったな...。」
とりあえず、招集についての説明が終わり、一度解散する。
その中で、僕はポツリとそう呟いていた。
―――以前の時と違い、ジュエルシードは全て一か所にある。
―――その全てが力を発揮した場合、全員で当たらなければならない。
―――...皆、気を引き締めておくように。
「(願いを歪めて叶える願望石。ジュエルシードか...。)」
説明の際に言っていたクロノの言葉を思い出しながら、僕は思考する。
「(あー、ムートの記憶が蘇ったから余計に忘れてたなぁ...。まさか、“原作”に出てきたロストロギアが関連してるとは...。)」
もうほとんど覚えていないが、“原作”一期のキーアイテムがそのジュエルシードだったはずだ。...尤も、願いを歪めて叶える程度しか覚えてないが。
「....数は21個。一つ一つが世界を滅ぼしうる力を持っている。....確かに、そんなのが一か所に集まってて、全てが猛威を振るう場合なんて....想像したくないな。」
「むしろ、これだけで足りるのかしら?とでさえ思ったわ。」
「今までの仕事なんてお遊びだったって言えるくらい、厳しい戦いになりそうだね。」
いつの間にか椿と葵が会話に入ってきていた。
いや、まぁ、二人とはいつも一緒に行動してるから当然なんだが。
「...っと、まだここに居たのか、優輝。ちょうどよかった。」
「クロノ?」
一度リンディさんに報告しに行っていたクロノが、戻ってくるなり話しかけてくる。
「椿と葵もいるが...まぁ、同居してる二人なら問題ないだろう。」
「...何か話が?」
その言い分からするに、僕への個人的な話でもあるのだろう。
そう思って、聞いてみる。
「...優輝の両親の事についてだ。」
「っ、なるほど...。」
確かに、できるだけ個人的な話にした方がいいな。
「事件当日の日にちから調べた結果、車内にあった人影について分かった。....当時、転移系のロストロギアを持った次元犯罪者がいてな。同時刻、行方が掴めなくなっていた。」
「っ....つまり、転移系のロストロギアに、両親は巻き込まれた...?」
管理局から逃げ回っていた犯罪者が、そのロストロギアを使用。それで両親の車内に転移し、再度ロストロギアを使用。それに両親は巻き込まれた...と。
おそらく、こんな感じなのだろう。
「ああ。そして、その次元犯罪者はつい最近、見つかった。...まぁ、見つかったと言っても捕まえた訳じゃない。さらにロストロギアを盗んで逃げたんだ。」
つい最近?ロストロギアを盗んで逃走?
....まさか、それって...。
「...その犯罪者の名前は“クリム・オスクリタ”。...今回の事件と同一犯だ。」
「なっ....!?」
そう、その名は先程の説明の際、出てきた名前だ。
ジュエルシードを盗んだ張本人。...まさか、両親を行方不明にした犯人だったとは...。
「...犯人を逃さない理由、増えちまったな...。」
「君の両親の安否は分からない。...が、確かに、逃せない理由は増えたな。」
まさか、こんな所で事件が繋がるなんてな...。
「とりあえず、クリム・オスクリタが見つかるまで待機していてくれ。」
「ああ。分かってるさ。」
僕ら個人で探すより、アースラの設備を使って探した方が効率がいいからな。
「じゃ、ちょっと体を動かしてくる。」
「ああ。あまりやりすぎないでくれよ?」
大丈夫だと手を振って、僕はアースラ内にある模擬戦場に行く。
『クリム・オスクリタを発見した!至急向かってくれ!僕も向かう!』
「っ、了解!」
適当に体を動かして休んでいると、クロノから連絡が来た。
すぐさま転送ポートに向かい、指定の世界に転移する。
「....あの洞窟か...。」
向かった世界は無人世界。そこの天然の洞窟に身を潜めているらしい。
「...僕が奇襲をかける。皆は逃げ出した時のために包囲していてくれ。」
「分かった。だが、洞窟だぞ?既に袋小路な気がするが...。」
クロノの言葉に織崎がそう返す。
ちなみに、今この場にいるのは僕、フェイト、ヴィータ、奏、織崎、クロノの六人だ。
今の所ジュエルシードも発動していないし、速いか小回りの利く人選らしい。
「忘れたか?奴は次元転移すら可能にする転移系ロストロギアを持っている。油断すれば一瞬で逃げおおせる代物だ。」
そう。これが管理局からジュエルシードを盗めた要因。
僕にとっては両親が行方不明になった原因でもあるロストロギアだ。
確か、名称は“メタスタス”だったな。
「では、行ってくる。感づかれる真似はしないでくれよ?」
そう言ってクロノが洞窟へと音を立てずに向かっていく。
「(さすが執務官。身のこなしはバッチリだな。)」
クロノは僕程ではないけどなんでもそつなくこなせる。魔力も僕より多いしな。
なのはやフェイトもカートリッジなしではなかなか勝てない程に強いし。
「...僕らも行こう。」
僕がそう言い、皆も包囲するように位置に就く。
もちろん、感づかれないようにだ。
「...............。」
洞窟から少し離れてるため、中からの声は聞こえない。
だからこそ、緊張し、待機している時間が途轍もなく長く感じられる。
「(...状況は...クロノが拘束に成功しているな。...だけど、この落ち付き様は...?)」
霊力で中の様子をレーダーのように探り、状況を視る。
ついでに、魔力の質も覚えておく。後で必要であればリヒトに登録しておくか。
『っ!?すまない!取り逃がした!!』
「『なっ!?こっちでは捕捉してねぇぞ!?』」
突然のクロノからの念話...その内容に思わずヴィータが言い返す。
「『...霊力で探知してたけど、その場からいきなり消えたのを確認した。』」
『...やはりロストロギアの力か...くそっ、油断した...!』
心底悔しそうなクロノ。...確かに、絶好のチャンスと言えたからな...。
『...一度、アースラに戻ろう。奴の目的の一端は知れたからな。』
「『了解。』」
クロノが出てくるのを待って、僕らはアースラへと戻った。
アースラに戻った後は、会議室にて一端情報の整理を行う。
「...転移系ロストロギア“メタスタス”...。事前にあった情報通り、少ない魔力で転移するのは分かった。...だが...。」
「あまりに早い。発動した瞬間には転移していた...だな?」
「ああ。...危険性が少ないと、僕が油断していた落ち度だ。...すまない。」
クロノはそう言って頭を下げる。
「だ、大丈夫だよクロノ君!また探し出せば...!」
「数ある次元世界の中からたった一人...それも転移系のロストロギアを持っている犯罪者を探し出すのは、困難を極めるんだ。...それこそ、砂浜の中から真珠を探し出すように。」
「っ....。」
なのはがフォローを入れようとして、失敗する。
...確かに、管理局ですら把握しきれていない次元世界の中から探し出すのはな...。
「...クロノ、一応奴の魔力の波長データを渡しておく。これで少しは足しになるだろう。」
「...助かる。」
...だが、これでも焼け石に水だ。あまり大した効果はないだろう。
「じゃ、じゃあ、もう探し出すのは...。」
「いや...いくらかは絞り込める。だが...。」
司さんの言葉に、クロノはそう返す。
だが、その次の言葉を言いよどむ。
「...少しでも情報はあった方がいいぞ?」
「...そうだな。奴の目的、その一端を話しておこう。」
そう言ってクロノは一度悔しさを引込め、真剣な顔になる。
ちなみに、どうやって知ったのかと聞くと、本人が得意げに言っていたらしい。
「...奴の目的..というよりその過程だな。奴は、ジュエルシード全て集めるつもりらしい。」
「全て...?21個が全てではないの?」
ジュエルシードについて大きく関わっていた経緯のあるプレシアさんが聞き返す。
「はい。....奴は、少なくとも後三つはあるような口ぶりをしていました。」
「そんな馬鹿な!?ユーノは21個しか発見していなかったぞ!?」
以前にユーノから話を聞いたのだろうか、織崎がそう主張する。
「僕にも詳しくは分からない。...だが、奴は残り三つの場所を知っているようだった。」
「その場所に向かった可能性が高い...だけど場所が分からない...か。」
やばいなぁ...完全に後手に回っている...。
「....重要なのは、ジュエルシードの使用目的。」
「...碌なものではないだろう。奴の表情がそれを物語っていた。」
奏の言葉にクロノが苦虫を噛み潰したような表情で返す。
あっさり逃げられた事を根に持っているのだろう。
「くそ...!奴が行動してからでは遅いのに、ジュエルシードが発動しない限り、捕捉するのは困難を極めている...!どうすれば...!」
大人しく行動しだすのを待つしかない状況に、クロノが頭を悩ませる。
それらを見守っていたリンディさんも、今では思案顔だ。
...かくいう僕も、何もいい案は浮かばない。
ジュエルシードは完全に封印しているらしく、誤作動で発動する事はない。
だから、どうしようもない状態なのだ。
「(どうする。なにか案はないか...なにか...!)」
〈―――25個、です。〉
「.....えっ?」
突然、響いた声に司さんが反応する。
皆も、司さん...いや、司さんの首元にあるシュラインを見る。
〈...ジュエルシードは全部で25個です。〉
「....どうして...シュラインがそれを...?」
あまりに唐突すぎて、司さんは途切れ途切れに聞く。
〈本来であれば、あのように歪み、変質してしまったジュエルシードは封印されておくべきでした。ですが、そうも言っていられなくなったので、少しばかり進言を。〉
「いや、そう言う事じゃない。シュライン、なぜ司のデバイスである君が、ジュエルシードの正確な数を断言できる?」
訝しむように、クロノはシュラインにそう言う。
...それより、直接ではないけど視線を集めている司さんがちょっと不憫...。
〈...元々、ジュエルシードと私は共にある存在でしたから。...ジュエルシード管制デバイス“シュライン・メイデン”...それが私の名前です。〉
「...それが本当だとして、君はどこまでジュエルシードについて分かる?」
シュラインの言い分に、皆驚いて言葉を出せないようだ。
そこで、僕が気になった事を問う。
〈本来の性能と使用用途、出自。そして大まかな座標が分かります。〉
「全部、説明してくれるか?」
〈いいですよ。少々、長くなりますが。〉
リヒトに記録するよう指示しておき、シュラインから話を聞く。
〈―――以上です。〉
「......。」
とりあえず、性能・使用用途、出自について聞き終わる。
まとめると...。
・本来は願いは歪まず、内包する魔力で実現可能な事象を引き起こす。
・願いを歪めるようになったのは、あの21個のみ。
・用途は災厄など、人に害を為すモノから護るのが主。
・ジュエルシードを正しく扱えるのは、天巫女という一族のみ。
・ジュエルシードは遠く離れた次元世界にて、天巫女によって生み出された。
・遺跡で発見されたのは、その世界から移動し、変質したジュエルシードだった。
・ジュエルシードの本質は、司さんの持つ“祈りの力”と同じ。
....こんな所か。
「...ジュエルシードの大まかな位置の前に、その“天巫女”っていうのは...。」
〈...マスターのように“祈祷顕現”という能力の持つ女性の一族です。〉
祈祷顕現...あの祈りを具現化する力か...。
「ま、待って!じゃあ、私の両親は....。」
〈どちらかが天巫女の血を引いているのです。天巫女の一族はかつて、災厄によって世界を滅ぼされないために、3個のジュエルシードで災厄ごと世界を移動し、21個のジュエルシードで災厄を討ち祓い、残り一つと私で、おそらくこの地球に流れ着きましたから。〉
またもや驚愕の事実だった。
さすがに、驚きなれたのか、皆はもう固まる事はなかったけど。
「...“おそらく”って事は、確実ではないのか?」
〈はい。当時の天巫女を転移させた後は、私はずっと次元を彷徨っていましたから。〉
....この短時間で色々と壮大な事を知ったな...。
まさか、ジュエルシードと司さんの一族にそんな関係があったなんてな...。
「...話が逸れてしまったな。シュライン、さっき言ってた通り、ジュエルシードの大まかな位置を教えてくれないか?」
〈わかりました。〉
クロノの言葉に、シュラインは淡い光を放つ。
皆に見せるために、位置データを投影するように映し出される。
〈....大体、二つ次元世界を跨いだ所ですね。21個もありますから、位置がわかりやすいです。...方向は...二時方向に進路を変えた先です。〉
「...わかった。艦長!」
「ええ。管制室に伝達。二時の方向に進路を変えてちょうだい!」
「了解!」
シュラインの言葉に、クロノがリンディさんに指示を仰ぎ、リンディさんがシュラインの言った位置へ向けて進路を変えるように指示をする。
「...次に見つけるまで時間があるだろう。それまで解散していてくれ。」
〈また移動するかもしれませんので、私は残ります。マスター、よろしいですか?〉
「え、あ、うん。いいよ。」
司さんがシュラインをクロノに預け、僕らは一度解散する。
...長丁場になりそうだな...。とりあえず、今日はもう遅いし寝るか。
「はい、司さん。」
「あ、ありがとう優輝君。」
翌日。食堂にて、司さんの分の朝食を運ぶ。
「昨日から元気がないな。」
「...うん。ちょっと、色々知りすぎちゃったから...。」
「まぁ..あれはなぁ...。」
誰でもあれは驚愕の事実だと思う。
(司さんにとって)因縁のあるジュエルシードが、まさか自身に深く関わってるだなんて、普通は思わないだろう。
「椿ちゃんは?」
「葵と一緒に飛行練習。...と言っても、僕らと大差ないくらいには上達してるけど。」
度々嘱託魔導師として僕が動く際に、(便宜上)使い魔である椿とそのデバイスである葵も連れて行くので、その度に椿は飛行技術を上げている。
元々戦いには慣れているから、その分上達も早いのだろう。
「....司さん、ふと気になった事があるんだけど...。」
「どうしたの?」
「昨日のジュエルシードの件。...25個中、21個は敵の手中で、多分3個は元々あった世界にある。....じゃあ、残り一つは?」
...そう、何気に見落としていた残り一つのジュエルシード。
シュラインとその一個で司さんの先祖を地球に転送させたらしいけど...。
「...まだ、次元の狭間を漂流してるんじゃないかな...?シュラインがそうだったみたいに。」
「...普通に考えれば、それが妥当かなぁ...。」
嫌な予感が拭えない。
以前にあった司さんやシュラインの調子が悪いという件。
あれはまだ解決した訳でなく、支障が出ない程度に今も続いている。
...もし、その原因がジュエルシードだったら?
先程、そう考えてしまった。
「(...残り一つはシュラインの中に収納されているんじゃないか?だからこそ、他のジュエルシードの位置も掴める...。)」
そこでふと、シュラインが投影していたジュエルシードの座標を思い出す。
21個のジュエルシードを示す光点と、もう一つ小さな光点がど真ん中にあった。
あの時は現在位置を示しているのかと思ったが、あれも実は残り一つのジュエルシードの位置を示しているのでは?
そうだとすれば、余計にシュラインの中に収納されている可能性が高い。
「(...だとしても、それでどうして調子が悪い?)」
シュライン自体に異常はなく、外的要因としてジュエルシードが関わっているのであれば、なぜシュラインはそれを対処しようとしない?
それに加えて、あの21個以外のジュエルシードは変質していないはずだ。
なら、なんで“調子が悪い”などと、マイナスの効果が...。
「(...いや、“対処できない”のか...?)」
何かしらの理由があり、シュラインでは、司さんでは対処できない。だから収納したままで放置するしかない。
もしそうであるならば、その原因は....。
「優輝君?」
「....っ、ごめん。考え事してた...。」
....深く考えすぎだ。確証なんて、どこにもないのに。
「(今は目の前の事...だな。)」
とりあえず、あの次元犯罪者をどうやって逃げられないようにするかが先だな。
=椿side=
『次、出すよ!』
「ええ!」
葵が魔力弾を出し、素早く動かす。
それを、私は空中で回避しつつ、正確に射抜く。
「...ふぅ。」
『お疲れさまかやちゃん。』
「これで飛行に関して不安はなくなったわね。」
私達式姫には飛ぶ機会も方法も限られていたため、少し慣れていなかった。
だけど、さすがに慣れたのか、もう完全に克服していた。
『ところでかやちゃん...。』
「分かってるわ。....隠れているのは分かっているの。出てきなさい。」
休もうとして、私達を覗いていた気配にそう言う。
...出てきたのは...織崎神夜。
「...優輝と離れて、機会が回ってきたって所かしら?」
「.......。」
今まで彼と関わる時は、決まって優輝が傍にいた。
今回は偶々別行動しているので、今の内に接触しておこう...って感じね。
「...二人は、なんであいつに付き従う?」
「別に付き従っている訳じゃないわよ。私は優輝に恩があって、新しい主として家も使わせてもらって....あら?」
「それ、付き従ってるどころか、凄くお世話になってるよ。」
いつの間にかユニゾンを解除している葵がそう言う。
思い返せばそうだったわね。
...って、優輝にあまり恩を返せてないじゃない!?
「まぁ、式姫...使い魔としてなら、付き従ってるのも間違いじゃないわね。」
「かやちゃんの場合は、付き従うというか、慕っているよね。」
「ばっ...!そ、そういう訳じゃないわよ!」
...つい反射的に否定してしまったけど、その通りなのが恥ずかしい...!
「...なら、どうしてあいつの間違った行為をそのままにしている!」
「間違った行為?」
優輝が客観的に見て間違っている事なんて...あったかしら?
「...なんの事よ?」
「あれかなぁ...?雪ちゃんが死んじゃった時の...。」
「ああ、あれね...。あれは確かに間違っていたわ。...結局、私達では止められずに緋雪のおかげで収まったんだけど。」
でも、この様子じゃあ、彼の言っている事と私達の言っている事は別のようね。
「まさか、お前らも洗脳されてるのか...?」
「洗脳?それこそありえないわ。」
優輝の性格を、人柄を...そして苦悩を見てきたからこそ、それは断言できる。
優輝は、決して人の心を操ったりなんてしないと。
「嘘だ!現に緋雪はあいつに対して妄信的になっていた!あれが洗脳されていないのなら、なんだって言うんだ!」
「...あんた、何勝手な思い込みをしているの?」
緋雪が妄信的な所も理解できない。
優輝と同じく、緋雪も私達はよく見てきた。
...あの子は、寂しがり屋で、それでも純粋な良い子だった。
そんなあの子が妄信的になっている所なんて、私達は見た所がない。
「司さんがあいつと仲良くしてるのも、きっと洗脳されているからなんだ...!」
「(...ねぇ、もう相手したくないんだけど。)」
「(無視したって絡んでくるよ。多分。)」
目で葵とそんな会話をする。
すると、そこで自分の中で結論に至ったらしく、変な事を口走り始めた。
「そうか...二人も洗脳されてるんだな...!待ってろ、今解放して...!」
「いい加減にしなさい。さっきから洗脳洗脳って...。」
「そっちのが本当に人を洗脳してる癖に、何言ってるんだろうね。」
呆れてそうとしか言えなかった。
優輝から聞いたり、他の人達を視た限り、どう見ても彼の方が洗脳をしている。
優輝曰く、無自覚に異性を魅了するらしいけど...。
「目を覚ませ!二人だって、転生者なんだろう!?なら、あいつの洗脳に負けるな!」
「....“転生者”?」
記憶にない単語ね。“転生”とかなら聞いた事はあるけど。
「(多分、輪廻転生と関係あるのだけど...閻魔...はともかく、夜摩天からもそう言う事は聞いた事ないわね...。少なくとも転生は関わっているのだろうけど。)」
転生...魂を輪廻の輪に戻し、新たな生命として生まれ変わらせる...。
当然、その際に生前の記憶は失う。...稀に前世の名残を持っている者もいるけど。
...もしかして、“転生者”って記憶がそのまま残っている者の事かしら?
優輝と緋雪、司や目の前の彼の魂だって、明らかに練度の違う魂だったし。
「....だとしたら、とんでもない勘違いね。」
「....なに?」
...あぁ、口に出てきた言葉に反応したわね。ちょうどいいわ。
「“転生者”というのはよく知らないわ。でも、私と葵は式姫としての志がある限り、現世にいる護るべき人の子を護るのが使命よ。....それに、変わりなどないわ。」
「何を以ってあたし達を“転生者”と言っているのかは分からないけど、優ちゃんも護るべき人の子。...害を為す気なら、相応の対応をさせてもらうよ。」
彼の魂も優輝たちと同じように常人よりも練度はある。
だけど、それだけしか分からず、他は得体が知れない。
だからこそ、私達は一瞬の隙も見せる事ができない。
「くっ...記憶も改竄されてるのか...!」
「(呆れて何も言えないよ...。)」
飽くまで自分の推測が正しいと思い込んでいる彼に、葵もさすがに呆れる。
...もう、問答するのも面倒ね。
「...はぁ、思い込みも大概にしなさい。」
「思い込みじゃない!くそ...!あいつめ...!」
明確な根拠もない。確固たる証拠もない。
それなのに、どうして思い込みじゃないなんて言えるのかしら?
「一度頭を冷やして、客観的に考えなさい。」
「っ!?」
地面を軽く蹴り、一瞬で彼の懐に入り込み、顎を一閃。
彼の防御力を貫き、脳を揺らす事であっさり気絶させる。
「容赦ないね。」
「こういう類は、一度思考を中断させないとどんどん深みに入るのよ。だから、一度気絶させた方が良いのよ。」
「同感だね。」
第一、今はそれをやってる暇はないでしょうに...。
「とりあえず、長椅子あたりに寝かせておくわ。」
「そうだねー。」
さて、そろそろ優輝の所に戻りましょうか。
後書き
メタスタス…転移系ロストロギア。少ない魔力で簡単に次元転移すら可能にする。転移できる範囲も広く、いくつかの次元世界を跨ぐことが出来る。一応、危険性の少ないロストロギアらしい。名前の由来は“転移”のフランス語。
閻魔…式姫の一人。傾奇者。極度の面倒臭がりで、面倒だからと魂を裁く際に、全部地獄行きという判決にする事も。
夜摩天…同じく式姫の一人で傾奇者。主に閻魔の所為で苦労人になっている。料理は普通におにぎりを作ろうとしても異形のナニカができる(穢れがあるらしい)。
さて、織崎の頓珍漢っぷりが上手く表現できたかな?(元々こんな感じの奴です。)
優輝を敵視するオリ主(笑)ポジなのに、全然それっぽくなかったので少し入れました。
これにより、しばらく敵視します。(仕事中なので一応自重しますが。)
あ、ユーノは無限書庫に篭っているので今回はアースラに乗っていません。
...ユーノ、君(の出番)は犠牲となったのだ...。
いつか活躍の場を与えてやりたいです。
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