英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第43話
大聖堂に向かったロイド達は、ロイドの知り合いのシスターに事情を説明するとそのシスターは七耀教会に伝わる心と精神の領域に関する技術―――”法術”が使える為、法術を使ってキーアを診てもらったがどこを指し示しているのかわからない場所を思い出せただけでキーアの両親等に係る記憶は思い出せなかった。そしてロイド達はシスターの勧めによりキーアの脳の神経に何かある可能性もあるという事で”ウルスラ病院”の『神経科』を訪ねる事にし、ウルスラ病院に向かった。
~ウルスラ病院~
「あら………?」
「あ………」
ウルスラ病院に到着したバスから降りたロイド達が病院の受付に向かっていると、聞き覚えのある女性の声が聞こえ、声を聞いたロイドは声がした方向―――セシルを見つけて嬉しそうな表情をした後、セシルに近づいた。
「セシル姉………!」
「久しぶりね、セシルお姉さん。」
「ふふっ………2人とも元気そうね。記念祭はお疲れ様。色々忙しかったんでしょう?」
「はは………まあね。正直、とんでもなく密度の濃い5日間だったよ。」
「まあその後の1週間が”色々”とあったけどねぇ。」
「あら、その割には2人とも疲れてはいなさそうだけど………あら、その子は………」
ロイド達と一緒にいる初めて見る子供――――キーアが気になったセシルはキーアを見つめて考え込み始めた。
「ねえねえ、ロイド。このおねえちゃんもロイドたちのシリアイ?」
「ああ、そうだよ。セシル姉っていって俺の姉さんみたいな人なんだけど―――」
一方セシルの様子に気付かなくセシルの事を尋ねて来たキーアにロイドが答えかけようとしたその時
「………そ、そんな………ま、まさかロイドが私に内緒で………するなんて………」
セシルはショックを受けた様子で呟いた。
「へ………」
そしてセシルの呟きを聞いたロイドが呆けた声を出してセシルを見つめたその時
「まさかロイドが私に内緒で結婚しちゃったなんて………!」
「はああっ!?」
セシルは大声でとんでもない事を口にし、それを聞いたロイドは声を上げて驚いた!
「ううん、隠さなくてもいいわ!ねえあなた。お名前は何ていうの!?」
「キーアだよー。」
「キーアちゃん………ふふっ、可愛い名前ね。ロイドには似てないけどお母さん似なのかしら………でも、レンちゃんに似ているわけでもないし………」
「クスクス、キーアを見ればわかるだろうけど勿論エリィお姉さんやティオとも似ていないわよ?」
「えっ!?言われてみればそうね………それじゃあ一体誰に………ハッ!?もしかして隠し子!?」
「だあああっ!落ち着いてくれよ!俺がキーアの父親って………いくらなんでも年齢に無理がありすぎるだろう!?それとレン!状況を悪化するような事を言わないでくれ!」
レンの状況を悪化させるような事も聞いて更にとんでもない想像をし始めたセシルの様子にロイドは疲れた表情で声を上げて苦笑しながら指摘した後、疲れた表情でレンに指摘した。
「あら………よく考えたらそれもそうかもしれないわね。」
一方ロイドに突っ込まれたセシルは声をあげた後、微笑みながらロイドの意見に同意した。
「いや、考えるまでもないと思うんだけど………」
「うふふ、相変わらずエステルとは違った方向で突き抜けていて面白い天然お姉さんね♪」
「ほえ~?」
セシルの答えを聞いたロイドは苦笑し、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、キーアは不思議そうな表情で首を傾げていた。その後ロイド達は一端落ち着いた場所で話をする為にセシルに連れられて寮の食堂にあるソファーで向かい合わせに座った。
「ふふっ、私ったらちょっとあわてんぼうね。18歳のロイドが、9歳くらいのキーアちゃんのパパであるはずないのにね。」
「はあ………当たり前だろ。そもそも、なんで親子なんて突拍子もない考えになるのさ?」
苦笑しているセシルの言葉に頷いたロイドは指摘した。
「だって、何だかすごく家族って感じがしたから………直感的に、キーアちゃんのパパがロイドって思いこんじゃったのよね。」
「へっ………」
「キーアのパパってロイドだったのー!?キーア、知らなかったー!」
そしてセシルの話を聞いたロイドが呆けたその時、キーアはセシルの言葉を信じて嬉しそうな表情でロイドを見つめ
「いやいや、違うから!」
見つめられたロイドは慌てながら即座に否定した。
「ふふっ………ねえ、レンちゃん。そうやって2人が並んでるとそんな風に見えないかしら?」
「まあ、顔の造形は似ていないけど事情を知らない人達が見れば親子という感じはするわね。」
「そ、そうなのか………?」
「えへへ~………ロイドがパパかぁ。……ロイドじゃなくってパパって呼んだ方がいい?」
「うっ………今まで通りでいいから!」
キーアに親呼ばわりされることを一瞬迷ったロイドだったがすぐに必要ないことを答えた。
「んー、そっか。でもでも、セシルっていいヒトだね!キーア、セシル大好き!」
「ふふっ………私もキーアちゃんが大好きよ。気が合うわね、私達。」
「うん!」
(うふふ、二人とも性格がある意味似ているおかげかすぐに仲良くなったわね。)
(ハア、それはいいけどなんかどっと疲れたよ………)
キーアと微笑みあっているセシルの様子にレンはからかいの表情で呟き、ロイドは疲れた表情で溜息を吐いた。
「………それで………キーアちゃんの記憶だったわね。」
「あ、ああ………大体の事情は話した通りさ。この病院にある『神経科』にキーアを見て欲しいんだけど………どの先生に頼めばいいんだ?」
「ふふ、あなた達も面識があったんじゃないかしら?ヨアヒム・ギュンター先生よ。」
「ええっ………あの人が『神経科』の!?」
「………………」
セシルの口から出た意外な人物の名前を聞いたロイドが驚いている中レンは真剣な表情で黙り込んでいた。
「ふふっ、普段は釣り好きで呑気そうな人に見えるけど………ああ見えて、外国の医療機関で凄い研究成果を上げた人らしいの。この病院では『薬学』『神経科』の2部門を取り仕切っているわ。」
「そ、そうなんだ………それじゃあ、キーアの事はあの先生に相談すれば………?」
「ええ、きっと力になってくださるはずよ。さっそく受付に行って問い合わせてもらいましょう。」
その後セシルと共に受付に向かったロイド達は事情を受付嬢に説明し、キーアを診て貰えるか受付嬢に尋ね、受付嬢は通信機で件の医師と通信をした。
「………はい、はい。わかりました。それでは研究室へお通しします。ヨアヒム先生なら丁度時間が空いているそうです。研究棟にある研究室まで直接お越しくださいとのことでした。」
通信を終えた受付嬢は受付に戻ってロイド達に説明し
「そうですか………良かった。」
説明を聞いたロイドは安堵の溜息を吐いた。
「ふふ、それじゃあ私はこのあたりで失礼するわね。」
「うん、ありがとう。帰る時にまた声をかけるよ。」
「ふふ、わかったわ。キーアちゃん、また後でね。」
「うんっ!」
ロイドの言葉に頷いた後キーアに微笑んだセシルは階段を昇って去って行った。
「相変わらず忙しそうね、セシルお姉さん。」
「ふふ、この病院でセシルさんほどの働き者はちょっといませんから………サボりがちな先生方にも見習って欲しいくらいです。」
「はは………(あんまり無理をして欲しくはないんだけど…………)」
セシルの様子を見つめて呟いたレンに続くように答えた受付嬢の話を聞いたロイドは苦笑した。
「そういえば………ヨアヒム先生の研究室はご存知でしたか?研究棟の4階ですけど、よかったら案内しましょうか?」
「いや、多分大丈夫だと思います。よし、それじゃあその先生に会いに行こうか?」
「うん、行こうー!」
その後ロイド達はヨアヒムという医師を訪ねる為に研究棟の4階のヨアヒムがいる部屋に向かった。
~ウルスラ病院・研究棟~
「―――失礼します。」
研究棟の4階にある目的の医師の部屋を見つけたロイドはノックをした後、椅子に座って休憩している眼鏡の医師―――ヨアヒムに近づいた。
「やあ、ロイド君。それにレン君だったかな。記念祭中はどうも。おかげで中々楽しかったよ。」
「ふふ、先生も相変わらずですね。」
「その、すみません。アポイント無しに押しかけてしまって………」
「いやいや、ちょうど仕事が一区切り付いた所だったからね。それで、記憶喪失の子を預かったそうだけど………その子が?」
先程までヨアヒムに対して何か思う所がある様子を見せていたレンだったがそんな様子は一切見せずにいつものように”仕事の際の口調”――――自分の関係者ではない年上の人物達に対する言葉遣いでヨアヒムに微笑みながら答え、ロイドに謝られたヨアヒムは苦笑した後、真剣な表情でキーアを見つめて尋ねた。
「はい………キーアといいます。」
「ねえねえ、ロイド。このメガネのおじさんがキオクを戻してくれるのー?」
「オ、オジサン!?……はは、これでも若作りなつもりだったが………やっぱりオジサンだよなぁ。」
キーアに”オジサン”呼ばわりされたヨアヒムはショックを受けた後溜息を吐いた。
「い、いや、先生はお若いですよ。」
(うふふ、キーア?こういう時はお世辞でもお兄さんと呼んだ方がいいわよ。)
(そうなのー?)
ショックを受けているヨアヒムの様子を見たロイドはフォローし、レンはキーアに小声でささやき
「いや、そういうフォローは余計に切なくなるんだけど………まあいい、とりあえず、こちらの方に座ってくれたまえ。詳しい事情と経緯を聞かせてもらおうじゃないか。」
レンの小声のささやきが聞こえていたヨアヒムは溜息を吐いた後、気を取り直して近くにある椅子に座るように促した。その後ロイド達はヨアヒムに事情を説明した。
「………なるほど。大体の状況は理解したよ。ふむ、七耀教会の法術でも取り戻せない記憶か………となると、そのシスターの指摘通り神経系の問題である可能性は高いな。」
「………そうですか。何とか回復する手段はあるものなんでしょうか?」
「正直、脳神経や脳細胞の研究はまだまだ始まったばかりでね。記憶喪失になる原因はそれこそ無数にあり得るから対処療法が存在しないんだよ。ただまあ………」
ロイドに説明したヨアヒムは医療用ルーペを取り出した。
「―――キーア君。僕の目を見てくれるかい?」
「いいよー………じー………」
そしてヨアヒムは医療用ルーペをキーアの目に向けてじっと見つめた。
「ふむ………瞳孔に異常ナシ。ここ数日、頭痛がしたり、吐き気がしたりしたことは?」
「ズツウ?ハキケ?」
「頭が痛かったり、気持ち悪かったりってことさ。」
ヨアヒムの質問に首を傾げているキーアにロイドがヨアヒムの代わりに説明した。
「ううん、キーアは元気だよ?」
「ふむ………脳にダメージがあるような感じでもなさそうだ。となると……………」
キーアの診断を止めたヨアヒムは頷いた後、目を閉じて考え込んだ。
「………何か見当でも?」
そしてヨアヒムの様子が気になったレンは尋ねた。
「薬物………!?」
「薬で記憶喪失が起きる可能性があるのですか?」
「ああ、そういう症例も数少ないが過去に存在する。薬の成分が、神経系の伝達を副次的に阻害してしまうんだが………ただ多くの場合、心理喪失を伴うことが殆んどみたいでねぇ。キーア君にはそのまま当てにはまらないかもしれない。」
「確かに………心理喪失には程遠いですね。」
「そうね。むしろその逆よね。………………」
「んー?」
ヨアヒムの話を聞いて考え込んでいるロイドとレンが気になったキーアは首を傾げていた。
「ただまあ、薬学の分野もまだまだ発展途中と言える。未知の効果を及ぼす薬物が開発された可能性は否定できない。その意味では、神経系の異常と薬物の副作用の両方の可能性から探ってみるべきかもしれないね。」
「なるほど………あの、こちらで検査を依頼することは可能ですか?」
「ああ、もちろん可能だよ?ただし、時間がかかる上に記憶が取り戻せる保証もない。それで良ければになるけどね。」
「そ、そうですか………」
「………検査をするとなると具体的にはどの程度の期間が?」
ヨアヒムの説明を聞いたロイドは溜息を吐き、レンはヨアヒムに治療期間を訊ねた。
「―――最低でも3日間。できれば1週間ほどは検査入院して欲しい所だね。」
「最低でも3日ですか………」
「薬物に関する検査はそれなりに時間がかかるんだ。体内から排出された成分を化学的方法で調べたりするからね。入院と検査費用に関しては………珍しい症例みたいだからある程度お安くはしておこう。………どうする?」
「………なあ、キーア。3日くらいの間………この病院に泊まらないか?」
ヨアヒムの説明を聞いたロイドは考え込んだ後、キーアを見つめて尋ねた。
「ん~?べつにいいけどー。」
「ほっ………」
「………問題なさそうね。」
キーアの答えを聞いたロイドとティオは安堵の溜息を吐いたが
「ふむ、それなら早速、検査入院の手続きをしようか。着替えや私物などがあるなら改めて持ってきてもらった方がいいかもしれないね。」
「ええ、それは後ほど改めて用意して持ってきます。」
「ねえねえ、ロイド。ここに泊まるのはいいけど、またいっしょに寝てもいい?」
「えっと………それは……」
キーアに尋ねられるとロイドは答えにくそうな表情をした。
「んー、ダメだったらガマンするけどー…………」
「い、いや………そうじゃないんだ。この病院に泊まるのはキーアだけなんだよ。」
「そーなの?それじゃあロイドたちはどこに泊まるのー?」
「俺達はいつも通り、支援課のオンボロビルだよ。でも、毎日ちゃんとキーアの顔は見に来るから―――」
キーアの質問に答えた後、説明を補足しようとしたが
「ヤダ。」
「………え。」
キーアは説明の途中で否定して説明を中断させ、そして椅子から立ち上がった。
「………ロイドたち、キーアのことをヨソのコにしちゃうつもりなんだ。キーア、いらないコなんだ!」
「そ、そんな訳ないだろ!?」
「少しの間だけここで泊まるだけよ。その後は、今まで通りみんなで一緒に暮らせるわ。」
自分達を睨むキーアにロイドは真剣な表情で答え、レンは説明したが
「そんなの知らないモン!ぎるども、びょーいんもキーア泊まりたくないモン!」
キーアは聞く耳を持たず、ロイド達を睨んだ後走ってロイド達から離れ
「キ、キーア?」
「ロイドのばか!!」
自分の行動に戸惑っているロイドを睨んで大声で叫んだ後、走って部屋を出て行った。
「ちょっ、キーア!?」
「クス、怒らせちゃったわね。」
「ああもう………すみません先生。せっかくの話でしたけど………」
キーアが部屋を出て行った後レンは小悪魔な笑みを浮かべ、ロイドはヨアヒムに謝罪した。
「ハハ、あの調子だと無理強いはかえって逆効果だね。まあ、結果が出るかどうかもわからない検査入院だ。キーア君が落ち着いてから改めて検討してみたらどうだい?」
「はい………」
ヨアヒムに尋ねられたロイドは頷いた。
「まあ、記憶が戻るのを気長に待つのもいいだろう。何かあったら相談に乗るからいつでも連絡してくれたまえ。こちらも記憶障害について幾つか症例を調べておくよ。」
「………ありがとうございます。」
「………その時はよろしくお願いします。」
その後研究棟を出たロイド達はキーアを捜し始めた―――――
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