英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第37話
~夕方・中央広場~
「え……」
「あの人は……」
支援課のビルの近くまで仲間達と共に来たエリィとロイドはビルの入口の前にいる青年―――アーネストに気付いて驚いた後、アーネストに近づいた。
「―――ああ、良かった!本当にこの場所でいいのか迷っていたんだよ。」
自分に近づいてきたロイド達に気付いたアーネストは明るい表情でロイド達を見た。
「アーネストさん……ひょっとして私を訪ねて来られたんですか?」
「ああ、事務所の用事のついでに訪ねさせてもらったよ。………エリィ?どうしたんだい?元気がないようだけど……」
「あ………」
「先ほど、アルカンシェルを訪ねていたようだが……何か警察の仕事に問題でも?」
「……い、いえ、大した事じゃないんです。………その、劇団の関係者から相談を受けていたんですけど……その報告に伺っただけなんです。」
「……ふう、本当はここに来ようかどうか迷ったんだが。やはり来て正解だったようだな。」
エリィの答えを聞いたアーネストはエリィを見つめて考え込んだ後溜息を吐き、そして口元に笑みを浮かべてエリィを見つめた。
「え………」
アーネストの言葉を聞いたエリィは呆け
「……単刀直入に言おう。エリィ………警察を辞めて戻ってこないか?」
「!?」
アーネストの意外な提案を聞いて驚いた。
(なっ……!?)
(おいおい……なんだ、この唐突な問題は。)
(恋愛がらみ……では無さそうですけど。)
一方ロイド達は驚いたり、興味ありげな様子で見守っていた。
「君にも考えがあって警察に入ったのは知っている。だが、そんな疲れた顔をして………子供のように迷った目をして。本当にそれは……君が歩むべき道なのかい?」
「そ、それは……」
「……今の政治状況に絶望を覚えているのもわかる。おそらく警察入りを志望したのもその事が関係しているんだろう。だが、エリィ……少しは市長の苦労と気持ちをわかって差し上げて欲しいんだ。」
「え………」
「来月に記念祭を控え……市長は今、多忙を極めている。記念祭の後は、予算をめぐって帝国派と共和国派双方とやり合わなくてはならない……そして半年後には市長選………市長は引退されるおつもりだが後事を託せそうな候補者もおらず、迷っておられるようだ。君が側にいてくれたらどれほど市長も心強いことか。」
「………………」
アーネストの話を聞いたエリィは複雑そうな表情で考え込んだが
「ふう……何故メンフィルの貴族に嫁いだという君の姉や嫁ぎ先の貴族は何もしてくれないのだろうね?”大陸最強”と称され、エレボニア、カルバートの双方から恐れられているあのメンフィル帝国の貴族が市長の後ろ盾についてくれれば、市長の苦労も少しは減るどころか、クロスベルを変える事だってできるのに。」
「アーネストさん!いくらアーネストさんでもお姉様達を愚弄するのは許しません!それにおじい様はそんな事をお望みではありません!……おじい様はお姉様や私に普通の幸せがあればいいと、願ってくれているのですから。」
溜息を吐いて呟いたアーネストの言葉を聞き、アーネストを睨んで叫んだ後、静かな表情で呟いた。
(え………)
(おいおい……お嬢の姉って貴族の妻なのかよ……しかもあのメンフィル帝国の。)
(……まあ、リウイ陛下が後ろ盾についたら、クロスベルの政治状況はひっくり返るでしょうね……というか下手したらクロスベルがメンフィル領になってしまう可能性もありますし。)
一方エリィの話を聞いたロイドとランディは驚き、ティオは納得した表情になった。
「……すまない。差し出がましい事や酷い事を言って。だが、どうしても見過ごすわけには行かなかった。市長を尊敬する者として……昔から君を見て来た者として。」
「……アーネストさん………」
「もちろん、君の道は君が決めるものではあるが………本当にそれが正しいのか、今一度、考えてみてほしい。」
「……………少し、考えさせてください。みんな、ごめんなさい。……少し疲れたからちょっと自室で休ませて。」
アーネストに問いかけられたエリィは複雑そうな表情で考え込んだ後頷き、ロイド達を見回して言った。
「あ……ああ。」
「エリィさん………」
エリィの話を聞いたロイドは戸惑いながら頷き、セティは心配そうな表情でエリィを見つめた。そしてエリィは支援課のビルの中に入って行った。
「―――君達。いきなり済まなかったね。」
エリィがビルの中へ入って行くのを見届けたアーネストは静かな表情でロイド達を見回して謝罪した。
「……いえ、色々と事情がおありのようですし。」
「ま、あんまりお嬢のこといじめないでやってくれよな。」
「………ですね。わたしたちからエリィさんを奪おうとしているみたいですし。」
「そうだよ~!エリィさんはあたし達の仲間なのに!」
「……貴女は少し落ち着きなさい、シャマーラ。」
「はは、別にそんなつもりは無かったんだが………ただ君達は、彼女が元々政治家志望なのは知っているかい?」
ロイド達の言葉を聞いたアーネストは苦笑した後尋ねた。
「え……!?」
「おいおい、そうなのかよ!?」
「確かに政治や経済のことにとても詳しいみたいでしたが………」
「ああ、市長の後継者としていずれ政治の道を志すべく、色々と勉強してきたんだ。そのために各国に留学して、深い教養と国際的な政治感覚を養っていたはずだったが…………去年、帰国したと思ったらいきなり警察入りを志望してね。その後すぐにメンフィルの貴族に嫁いだ姉の縁を頼ってメンフィル帝国に留学し、その後にまた帰国して来たんだ。」
「そうだったんですか………」
「……知りませんでした。」
アーネストからエリィの話を聞いたロイドは頷き、エリナは静かな表情で答え
「ま、何でこんなセレブなお嬢様が警察にとは思ったけどな……そういや、お嬢の姉がメンフィルの貴族の妻だって話は本当なのかよ?」
ランディは溜息を吐いた後、アーネストに尋ねた。
「ああ。何でも元々はメンフィル大使館であのプリネ姫の見習い侍女として働いていたそうだが………その時に出会ったメンフィルの貴族と恋仲に発展したそうでね。そのまま関係は進んで行き、めでたく結婚できたという話だ。」
「ええっ!?エリィのお姉さんって、あ、あの”姫君の中の姫君”の侍女だったんですか……!?」
「しかもその時に出会った貴族と恋仲になれたなんて………完全に玉の輿じゃねえか!つーか、よく仕えていたお姫さんや貴族の家族達は反対しなかったな………」
アーネストの話を聞いたロイドとランディは驚き
(というか反対する可能性の方がゼロなんですけどね……)
(へ~………あの人、侍女だったんだ。)
(王妃という立場でありながら、家事ができるのも納得ですね………)
ティオは納得した表情になり、シャマーラは意外そうな表情をし、エリナは静かな表情になっていた。
「まあそこは、エリィや市長も心配していたそうだが、意外にも反対は無かったらしくてね。反対どころかむしろプリネ姫や家族達からも祝福されたそうだ。」
「そうだったんですか………」
そしてアーネストの説明を聞いたロイドは意外そうな表情で頷いた。
「………できれば、彼女が結論を出すまで君達もそっと見守って欲しい。このまま続けたとしても……あんな風に迷いを抱えたままではとてもやっていけないだろうからね。」
アーネストがロイド達に伝えたその時、鐘の音が聞こえて来た。
「もうこんな時間か……お騒がせしてしまった。私はこれで失礼させてもらうよ。」
「あ、はい。」
そしてアーネストは去って行き
「?………………」
(…………………)
(何者だ……あの人間………とてつもない”負”の気配を感じるぞ……)
その様子を何かの違和感を感じて、考え込んでいるエリナとそれぞれの契約者の身体の中にいるルファディエルは目を細めてアーネストを見つめ、ラグタスは警戒した表情で考え込んだ。その後ロイド達はビルに入り、課長室でセルゲイに報告していた。
~特務支援課~
「なるほど………ま、事情は大体わかったぜ。どうやらルファディエルの強権のお蔭で捜査を続ける事は可能のようだが、捜査は続けるのか?」
「…………………」
事情を聞き頷いたセルゲイに尋ねられたロイドは複雑そうな表情で考え込み
「まあ、その調子じゃ厳しいだろうな。なにせ仲間うちに迷ってるヤツがいるくらいだ。チーム一丸となって捜査を続けられる状態じゃねぇだろ。」
「……それは………」
「まあ、お嬢があの調子だとどうにも調子が出ねぇよな。なんかこう、ピリッと引き締まらねぇっていうか。」
「確かに今日一日、そんな感じはしていました………エリィさん、大丈夫なんでしょうか……?」
セルゲイに尋ねられたロイドは答えられず、ランディは溜息を吐き、ティオは心配そうな表情で考え込み
「できればみんなで一緒に続けたいよね?」
「ええ………」
「それはここにいるみんなが思っていますよ……」
シャマーラは不安そうな表情で呟き、エリナとセティはシャマーラのの言葉に静かな表情で頷いた。
その後明日に備えてロイド達はそれぞれ自室に戻って休み始めたが、ロイドはエリィと話をする為にエリィの自室に向かった…………
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