英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第36話
ロイド達がアルカンシェルの近くまで来ると、劇場の入口が開き、スーツ姿の老紳士と青年が出て来た。
~歓楽街~
「あ……」
老紳士達を見たエリィは驚き
「おお……!?」
「エリィお嬢さん……!」
老紳士達もエリィを見て驚いた後、エリィ達に近づいた。
「おじいさま……アーネストさん。」
(え……)
(エリィさんのお祖父さん……?(という事はイリーナ皇妃の……))
エリィが呟いた言葉を聞いたロイドは呆け、ティオは驚きの表情でエリィ達を見つめた。
「フフ、なかなか会えないが元気でやっているようだね。仕事の方は頑張っているかな?」
「は、はい………まだまだ新人なので至らないところもありますが……マクダエル家の名に恥じぬよう精一杯、頑張らせてもらっています。」
老紳士に微笑まれたエリィは頷いた後、口元に笑みを浮かべて言った。
「はは……前にも言ったが家のことは気にすることはない。そちらの諸君は、同僚の方々かな?」
「は、はい。」
そしてロイド達に視線を向けて尋ねた老紳士の言葉にエリィは頷き
「―――初めまして。クロスベル警察・特務支援課、ロイド・バニングスといいます。」
「ルファディエルと申します。」
「ティオ・プラトーです。」
「どーも。ランディ・オルランドっス。」
ロイド、ルファディエル、ティオ、ランディはそれぞれ名乗り
「お久りぶりでーす、市長さん!」
「………市長に失礼ですよ、シャマーラ。……申し訳ございません、市長。」
「フフ……お元気そうで何よりです。」
シャマーラは片手を挙げて元気よく挨拶し、エリナはシャマーラに注意した後老紳士に頭を下げ、セティは微笑みながら会釈をした。
「ふむ、私の名前はヘンリー・マクダエルという。セティ君達も元気そうで何よりだよ。………どうやら孫娘が色々と世話になっているようだね。」
老紳士―――ヘンリーは名乗った後セティ達に微笑み、そしてロイド達に視線を向けた。
「いえ、そんな。世話になっているのはむしろこちらの方で――――」
(なるほど……この人がエリィの祖父であり、クロスベル市長ね………)
視線を向けられたロイドは答えた後何かに気付いて考え込み、ルファディエルは静かな表情でヘンリーを見つめた。
「ま、確かにお嬢には報告書とかの書類作りでもだいぶ助けられちまってるよな。」
「あはは。そうだよね。」
「少しはランディさんとシャマーラさんも手伝うべきかと思いますが………」
「え、えっと……」
そしてランディとシャマーラ、ティオの会話を聞いていたエリィは冷や汗をかいて苦笑した。
「フフ……充実した職場で何よりだ。」
その様子を見ていたヘンリーは微笑ましそうにロイド達を見回し
「しかし、お嬢さん……たまにはご実家の方にもお顔を出された方が……」
青年―――アーネストは真剣な表情でエリィを見つめて言った。
「……す、すみません。その、せっかく自立したのに頼るのもどうかと思いまして……」
「ですが―――」
エリィの答えを聞いたアーネストは話を続けようとしたが
「いいんだ、アーネスト君。それだけエリィの決意も固いということだろう。お前が選んだ道……納得のいくまでやってみなさい。公私混同はできないが、できるだけ協力させてもらうよ。それと……結婚した”あの娘”のようにお前も幸せを見つける事を願っているよ。」
ヘンリーが制し、エリィに言った。
「……はい。ありがとうございます。」
「―――それでは行こうか。アーネスト君。次は商工会との会合だったな。」
「はい。5時からになります。」
そしてヘンリーとアーネストは近くに駐車してある豪華な車に乗って、去って行った。
「ヒューッ!すんげえ車だな、オイ。やっぱりお嬢の実家ってもんのすごい金持ちなのか?」
「え、えーと……その。」
車が去った後口笛を吹き、呟いたランディの言葉を聞いたエリィが言葉を濁したその時
「ああああっ!?」
ロイドが驚きの表情で声を上げた。
「うおっ……」
「ロイドさん……?」
「ヘンリー・マクダエル………!このクロスベル市の市長さんの名前じゃないか!」
「な、なにィ……!?」
「ほ、本当ですか……?―――あ。確かにデータベースでもそう記録されていたような。」
そしてロイドの話を聞いたティオはランディと共に驚いた後、ある情報を思い出した。
「ふう……―――今まで気付かれなかったのが不思議なくらいだと思うけど。」
一方エリィは溜息を吐いた後、苦笑しながらロイド達を見つめた。
「い、いや……最初に苗字を聞いた時に引っかかってはいたんだけど。何だか色々あったからすっかり流してたっていうか。いや―――でも確かに面目ないな。」
「まあ、別に気にする事ないわ。祖父が何者であろうと、私には関係のないことだから……」
「え………」
そしてエリィが呟いた言葉を聞いたロイドは呆け
「……そう言えばセティちゃん達はおじい様と面識があったようだけど……」
エリィはセティ達を見つめた。
「勿論、あるよ!わざわざあたし達を警察に入れるように頼んでくれた人なんだから、挨拶ぐらいはしたよ?」
「……とは言っても、セティ姉様が提案しなければ貴女は忘れていたでしょう?」
エリィに見つめられたシャマーラは答え、エリナは呆れた表情でシャマーラを見つめて言った。
「その……前から気になっていたけど、どうしておじい様はわざわざセティちゃん達を警察に入れるように手配したの?」
そしてエリィは真剣な表情でセティ達に尋ね
「……特務支援課の事を知ったお父さんがエリィさんの姉の夫の方を通じて、市長に手配してもらったんです。」
「!!………そう…………(そっか……よく考えたらセティちゃん達はメンフィル大使館で学んでいたから、”あの方”から私の事を説明されて知っていてもおかしくないわね……)―――さて。イリアさん達に報告しましょうか。」
セティの答えを聞いて目を見開いて驚いた後、静かな表情で頷き、そして気を取り直してロイド達に提案した。
「ああ、そうだな。」
「ところで、そのお嬢のじーさまが何でアルカンシェルに来てたんだ?」
エリィの提案に頷いたロイドは頷き、ランディは疑問に思った事を口にした。
「ああ、そうね……今回の新作は、市の創立記念祭と合わせて公開されるそうだから……その関係の打ち合わせていらっしゃったのかもしれないわね。」
「………………」
エリィの話を聞いたロイドは考え込んだ後、仲間達と共に劇場に入った。劇場に入ったロイド達は受付からイリア達は舞台で練習している事を聞いたので、舞台に向かうと、踊り子のような衣装を着たイリアとリーシャが息を合わせて踊っていた。
~アルカンシェル~
「ふう………」
「はあ………」
踊っていた2人が一端踊りを止めて溜息を吐くと拍手が聞こえて来た。
「あら……」
「皆さん……」
「うおおお、最高ッスよ!!」
「す、凄かった……!」
「……じんときました……」
「ふふ、このまま詰めていけば中々のシーンにはなりそうよね。リーシャ、月の姫のターンだけどほんの少しタメを作りましょ。太陽の姫もそれを受けて虚を突かれる演技を入れるから。」
「はいっ……」
興奮している様子のランディたちを見たイリアは微笑んだ後、演技の指導をリーシャにした。
「凄いですね……一つの舞台を作り上げる……それだけのためにここまで………」
「ま、せっかく良くできるんならとことんやるのが筋ってもんでしょ。それよりも……どうしたの、何か進展でもあった?」
「はい。」
「その件に関して俺達以外の部署も関わる事になったので、その事も報告させてもらいます。」
イリアに尋ねられたセティは頷き、ロイドが言った。
「え……」
「ふむ………いいわ。劇団長も呼んで来るからここで話を聞かせてちょうだい。」
ロイドの話を聞いたリーシャは真剣な表情で呟き、イリアは頷いた後、劇団長を呼んできて、ロイド達から報告を受けた。
「”銀”………まさかそんな危険なヤツが……」
「そ、そんな……本当にそんな人がこの街に……?」
報告を聞いた劇団長は考え込み、リーシャは信じられない表情をした。
「へえ、面白いじゃない。東方人街に伝説と謳われた影のごとき不死の暗殺者か………うーん、いいわね~!舞台向けのキャラだわ!そうだ!第3幕の白装束のイメージに使えるんじゃないかしら!?」
一方イリアは感心した後、嬉しそうな表情で提案し、その場にいる全員を脱力させた。
「ふう、イリア君……」
「そんな呑気なことを言ってる場合じゃないですよ………」
「………”黒月”という勢力が”銀”という犯罪者を雇っているのは確かなようです。その”銀”がどうしてイリアさんに脅迫状を送ったのかそこまではわかりませんでしたが……」
「どうも、ただの悪戯であるという可能性は低くなってきたみたいです。その、公演を中止するというのは――――」
イリアの言葉に劇団長とリーシャは呆れ、エリィの説明を続けたロイドは提案したが
「あり得ないわね。たとえ劇場の爆破予告があったとしてもあたしたちは舞台から降りたりしない。そうでしょう、劇団長?」
「まあ……そうだね。イリア君ほどではないにせよ、私達は多かれ少なかれ、舞台という魔物に魅入られた人種だ。おそらく、ただの一人としてウチのアーティストたちが出場を辞退することは無いだろう。」
「そ、その……私も新米ですけど同感です。」
イリア達は否定の意思を示した。
「やれやれ……素晴らしきは舞台の亡者たちか。」
「……なんとなくその気持ち、わかります。」
「そうだね~。あたし達”工匠”も欲しい素材があったらどんな危険な場所でも取りに行く気持ちを持っているしね~。」
「ええ、そうですね……」
イリア達の意思を知ったランディは溜息を吐き、エリナは静かな表情で頷き、シャマーラが呟いた言葉にセティは頷いた。
「となると、他の部署に警備などを任せる形になっても構わないと……?」
「ま、正直うっとうしいけど背に腹は代えられないわね。捜査一課だっけ……どういう人なの、その担当者って。」
「え、えっと……見るからに有能そうというか、エリートといった感じで……」
「実際、相当優秀だとは思います。捜査一課というのは警察でも名実共にエリート集団ですから。あくまで目立たない形で完璧に警備をするかと。」
イリアに尋ねられたロイドは苦笑しながら、エリィと共に説明した。
「うげ……勘弁して欲しいわね。……というか何で断らなかったの?話を聞いていたらルファディエルがいれば、断る事もできたんでしょう?」
説明を聞いたイリアは嫌そうな表情をしてルファディエルに視線を向け
「まあ、あんまり一課に目の仇にされる訳にはいかないしね。観客等の安全を考えたら、彼らの警備は必要よ。」
(ル、ルファ姉……)
(既に目の仇にされていると思うのですが………)
ルファディエルの説明を聞いていたロイドとエリィは冷や汗をかきながら苦笑し
「ふう……客の安全を持ち出されたら、我慢するしかないわね~。」
イリアは溜息を吐いて呟いた。
「まあ、我慢してくれたまえ。どうせ君のことだ。舞台に集中し始めたら他のことは一切どうでもよくなるんだろう?」
「失礼ね、客には気を配っているわよ。舞台は観客とも響き合うことで初めて真の意味で完成する………劇団長がいつも言ってることじゃない。」
「うーん、君の場合はとてもそう思えないんだがねぇ。響き合うというより、無理矢理自分のリズムに引きずり込むというか。」
(な、なんて言うか……)
(つくづく本当に舞台バカなんですね………)
イリアと劇団長の会話を聞いていたロイドは苦笑し、ティオは静かな表情で呟いた。
「あ、あの、それじゃあ……ロイドさん達はまだ捜査を続けられるんですよね……?」
一方リーシャは真剣な表情で尋ねた。
「ああ。ルファ姉のお蔭で何とか続けられるようになったし、これからも地道に調べてみるよ。……ただ、警備に関しては一課が指揮するから、警備には俺達は関われないと思うけど……ダドリーさんも俺達が警備に関わるのは嫌がっていたようだし。」
「そ、そうですか…………」
ロイドの答えを聞いたリーシャは若干残念そうな表情で溜息を吐いた。
「ま、弟君に警備してもらえないのはちょっと残念だけど……色々と調べてくれたり、警備も手配してくれて感謝するわ。お礼にチケット、全員分贈るから暇な時にでも見に来てちょうだい。」
「ふむ、そうだね。記念祭中の分は無理だが……来月分のチケットでよければプレゼントさせてもらうよ。」
「まあ……!」
「マ、マジっすか!?いや~、再来月分になるって諦めかけてたんだけどな~!」
「……太っ腹です。」
「わーい!やったね!」
「……ありがとうございます。」
「フフ、わざわざありがとうございます。」
イリアと劇団長の話を聞いたロイドとエリィを除いた仲間達はそれぞれ嬉しそうな表情をし
「………………………」
エリィは複雑そうな表情で考え込み
(エリィ……?」
エリィの様子に気付いたロイドは不思議そうな表情をした。その後ロイド達が劇場を出ると夕方になっており、そしてリーシャに劇場の前で見送られようとしていた。
「その……何だか迷惑ばかりおかけしてしまったみたいで………」
「いや、気にしないでよ。元々警察の仕事なんてのは地道な無駄骨の繰り返しだしね。」
「防犯とか、そんな感じですよね。」
「そうそう、リーシャちゃん!俺達のことは気にしないでプレ公演、頑張ってくれよな!」
申し訳なさそうな表情で謝罪するリーシャにロイド達はそれぞれ励ましの言葉をかけた。
「はい、ありがとうございます。」
「プレ公演?」
「なんだ、知らないのか?アルカンシェルは毎回、新作の本公演の前に一度だけ、お披露目の舞台をやるんだよな?」
「は、はい。私も今回が始めてですけど………国内外の関係者やマスコミの方々が招待されるんだそうです。公演を後押ししてくださっている偉い方々も見に来るらしくて………」
「そうなのか……」
「ひょっとして……マクダエル市長も招待を?」
リーシャ達の会話を聞いていたエリィはある事に気付いて尋ねた。
「あ、はい。主賓としてお迎えするそうです。記念祭と合わせて、今回の公演を後押しして下さっているらしくて。今日も、お忙しい所にわざわざ陣中見舞いに来て下さいました。
「そうですか………」
リーシャの話を聞いたエリィは頷いた後考え込み
「……一つ聞きたい事があるのだけど、いいかしら?」
ルファディエルはリーシャを見つめて尋ねた。
「はい、何でしょう?」
「主賓という事は当然客席も相当な所を用意しているのよね?」
「はい、貴賓席を用意させて頂きました。」
「ちなみに貴賓席の位置は?」
「え?一番高くて見やすい場所ですが………」
ルファディエルの質問を聞いたリーシャは首を傾げて答え
「そう……………」
リーシャの答えを聞いたルファディエルは考え込んでいた。
「―――リーシャさん。プレ公演、頑張ってください。リーシャさんなら初めてでもきっと大丈夫だと思いますから。」
一方考え込んでいたエリィはリーシャに微笑んだ。
「あ……」
「そうだな、練習を見る限り何の心配もいらなさそうだったし。」
「おお、絶対にいい舞台になるって!」
「……すごく楽しみです。」
「練習の成果は必ずリーシャさんの演技に現れますよ。」
「あれだけ練習しているんだから絶対に成功するって!」
「ええ。頑張って下さい。」
「あ、ありがとうございます。その……とっても心強いです。それでは私、稽古に戻りますね。皆さん、ありがとうございました。……それでは失礼します。」
ロイド達の励ましの言葉を聞いたリーシャは微笑んだ後、ロイド達に頭を下げ、そして劇場の中へと入って行った。その後ロイド達はセルゲイへの報告等をする為に支援課のビルに向かった……………
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