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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第42話

~遊撃士協会・クロスベル支部~



「―――失礼します。」

「あら……?あらま、誰かと思えば支援課の坊やとレンじゃない?ふふ、いらっしゃい。ようこそ遊撃士協会(ブレイサーギルド)へ。」

ロイドの声に気付いたミシェルは入口付近にいるロイド達を見て微笑み、ロイド達は受付に近づいた。

「こんにちは、ミシェルさん。」

「うふふ、相変わらず忙しいようね、ミシェルお兄さん。」

「レンはともかくアナタが訪ねてくるなんて珍しいこともあるものねぇ。―――でも、いいの?何でも”ルバーチェ”とトラブルを起こしたんですって?」

ロイドとレンに挨拶されたミシェルは興味深そうな様子で2人を見つめた後尋ねた。

「やっぱりそちらにも伝わっていましたか………一応、それに関してはケリが付いたんですけど。」

「ねー、ロイド。どうしてこのオジサン、オンナのヒトみたいなしゃべり方なのー?」

「クスクス、本人を目の前にストレートに聞くなんてやるわね。」

ミシェルをじっと見つめた後聞いてきたキーアの疑問を聞いたレンは感心し

「す、すみません。まだ子供なもので………」

ロイドは申し訳なさそうな表情でミシェルに謝罪した。



「フッ、いいこと仔猫ちゃん?人には人それぞれのスタイルというものがあるの。アタシにとって、この喋り方が一番合っているスタイルなワケ。アナタが着ているその服やアクセサリーがアナタに似合っているみたいにね。」

「おー、なるほど。キーアもオジサンのしゃべり方、かわいくてイイと思うよー!」

「あら、見所あるじゃない。それはともかく………オジサンはやめてくれない?ミシェルって呼んで頂戴。」

「うん、ミシェル!」

キーアとミシェルの会話を聞いていたロイドとレンは冷や汗をかいた。

「ウフフ、いいわねこの子。アナタたちの知り合いなのかしら?」

「はい、実は………この子について、遊撃士協会に相談したいことがありまして。」

「へぇ………?」

ロイドの話を聞いたミシェルが興味深そうな表情をしたその時

「あれ、お客さん?」

エステルとヨシュアが2階から降りて来た。



「あれ………ロイド君達!?」

「やあ、エステル、ヨシュア。」

「二人とは大体1週間ぶりくらいになるかしらね。」

「珍しいね。ギルドに来てくれるなんて。」

「えへへ、ひょっとしてあたしたいに会いに来てくれたの?あれ………その子は………」

ロイド達と話していたエステルはキーアに気付くと、キーアに近づいた。

「わわっ………すっごく可愛い子ねぇ!どうしたの?ロイド君達の知り合い!?」

「ああ………キーアっていうんだ。」

「おねえちゃん、髪がピョンピョンしてるねー。もしかしてゆーげきしのヒト?」

「うん、あたしはエステルはこっちのお兄さんはヨシュア。そっか、キーアちゃんって言うんだ。よろしくね!」

「うんっ!」

「うーん、速攻で馴染んだなぁ。」

エステルとキーアの会話を見ていたロイドは苦笑していた。



「はは、エステルは子供に懐かれやすいタイプだけど………それにしても人懐っこい子みたいだね。」

「それに関してはレンも同感ね。」

エステルとキーアの様子を微笑ましそうに見つめているヨシュアの言葉にレンも頷いた。

「それで、その子について何か相談があるそうだけど………どうする?2階で聞かせてもらおうかしら?」

「あ………はい、差し支えなければ。」

「あれ、そういう話なの?」

「何か事情があるみたいだね。」

そしてロイド達は2階でエステルやミシェル達に事情を説明した。



「そ、そんな事が……」

「この一週間、裏通りの空気が少し緊張した感じだったけど………」

「やれやれ………そんな顛末になってたとはねぇ。」

事情を聞き終えたエステルとヨシュアは真剣な表情をし、ミシェルは溜息を吐いた。

「………警察としてはルバーチェ側の言い分を一応認める事になりました。できればその前提で話をさせて欲しいんですが………」

「むむむ……」

ロイドの話を聞いたエステルは唸り声を上げた。

「まあ、仕方ないわね。こちらは部外者だったワケだし。それにしても”黒の競売会(シュバルツオークション)”に潜入捜査を敢行するなんて………やるじゃない、見直したわよ?」

一方ミシェルは納得した様子で頷いた後、感心した様子でロイド達を見つめた。



「そ、そうですか………?」

「うふふ、とっても楽しい一日だったわよ♪」

ミシェルの評価にロイドがどこか嬉しそうな表情をしている中レンは小悪魔な笑みを浮かべた。

「あ、あたしたちだって何とか調べようとしてたのに……しかも招待カードを渡したのがユウナだったなんて………まったくあの子ったら………あたし達にくれればいいのに!」

「まあ、それは仕方ないよ。僕達にはまだ、会えない事情があるわけだし。」

悔しそうな表情で声を上げたエステルにロイドが冷や汗をかいている中、ヨシュアが苦笑しながら諫めた。

「そ、それはそうだけど………というかレン!今気づいたけど、あんたも招待カードを持っていたんじゃないの!?」

「あら、どうしてそう思うのかしら?」

「どうしても何もあんたは――――ムググッ!?」

レンの問いかけに対して答えかけたエステルだったがヨシュアに両手で口を封じられた。



(ちょっと、ヨシュア!?いきなり何するのよ!?)

(エステル、レンが”Ms.L”である事はミシェルさん達にも秘密って事を忘れたのかい?)

(で、でも受付のアイナさん達や遊撃士のアガット達も知っているんだから同じギルドの受付のミシェルさんや同じ遊撃士のアリオスさん達に教えてもいいじゃない。同じ遊撃士の関係者なんだから。第一”結社”もレンが”Ms.L”って事を知っているんだから、隠す必要なんてないじゃない。)

(それでも可能な限り、”Ms.L”の件は秘匿すべきだ。情報を知っている人が多ければ多い分、情報漏洩の可能性は高まる上…………――――キリカさんのように遊撃士協会から去って他の組織に所属とかしたら、下手すればその組織にレンの事が判明してしまうかもしれない。)

(それは………………というか何でそんな頑なに隠さなくちゃならないのよ。レンが単に凄いお金持ちってだけの話じゃない。)

ヨシュアの小声の忠告を聞いたエステルは複雑そうな表情をした後反論し

(”Ms.L”は”単なるお金持ち”ってレベルの存在じゃないんだ。各国の大企業や多くの企業に対して絶大な権限を持つ人物………言い換えればその国の経済操作や技術操作、それに技術泥棒だって合法的に可能になるんだから、様々な立場の人達―――特に権力者は絶対に手中にしたい存在だ。)

(幾らなんでも大げさすぎだと思うんだけど………)

ヨシュアの説明を聞いたエステルは呆れた表情で溜息を吐いてレンを見つめた。

「………?二人ともどうしたのかしら?」

二人の様子が気になったミシェルは不思議そうな表情で声をかけた。



「ちょ、ちょっとね。話を戻すけどレン。”Ms.L”と親しい関係のアンタだったら、招待カードも貰っていたんじゃないの?」

「ハアッ!?”Ms.L”って、ゼムリア大陸一の資産家って言われているあの正体不明の資産家でしょう!?レンちゃん、今の話は本当なのかしら?」

「(あら……嘘が苦手なエステルがつく嘘の割にはまともな嘘ね。)ええ、以前仕事で偶然知り合う事があってね。その時にレンの事を信用ができて今後も関係を保ち続けたい人物だと判断したのか、”Ms.L”のお姉さんには色々と懇意にしてもらっているの♪」

エステルの話が嘘だと知らずに驚いたミシェルは信じられない表情でレンを見つめ、嘘をつく事が苦手なエステルがまともな嘘をついた事に心の中で意外に思ったレンは笑顔でエステルの嘘をフォローし

「ハ、ハハ………」

「???」

その様子をロイドは冷や汗をかいて苦笑しながら見守り、キーアは首を傾げていた。

「ハア~……まさかあの”Ms.L”とアナタが知り合いだったなんてね~。そう言えば”Ms.L”が毎月遊撃士協会本部に莫大な金額の寄付金を寄付し続けてそのお陰でアタシ達受付や遊撃士達の給料が上がったって話は聞いた事があるけど、もしかしてアナタのお陰なのかしら?」

「クスクス、それは”Ms.Lと遊撃士協会本部のみぞが知る”、よ♪それで話を招待カードの件に戻すけど、残念ながら招待カードは譲ってくれなかったわ。”Ms.L”お姉さんも”黒の競売会(シュバルツオークション)”に参加するつもりだから譲ることはできないからゴメンねってわざわざ謝ってくれたから、レンも大人しく退いたのよ。」

(結局あんたも持っていたって事じゃない!?)

(まあまあ………)

「まあ、あの競売会には各国の名士達が集まるらしいからね。ゼムリア大陸一の資産家の彼女が興味を示していてもおかしくないわね。」

レンの説明を聞いてレンを睨むエステルを宥めているヨシュアの様子に気づいていないミシェルは納得した様子で頷いた。



「結果的に、君達から聞いた話を横取りした形になっちゃったな………ゴメン、連絡くらいすればよかった。」

「あ、ううん。そっちの方は気にしてないわ。それはロイド君達の頑張りだよ。………でも………確かに問題はキーアちゃんか。」

そしてロイドに謝罪されたエステルは気を取り直して答えた後心配そうな表情でキーアを見つめた。

「ふえ~?」

「………………」

何故自分が心配そうな表情で見つめられているかの意味がわからないキーアは無邪気に首を傾げ、レンは目を伏せて黙って考え込んでいた。

「察するに、その子の素性を当たってみて欲しいわけね?遊撃士協会の情報網を使って。」

「はい………まさにそれをお願いに来ました。その、依頼料も何とか用意できると思います。」

「ああ、必要ないわ。こういった案件についてはウチは無料(タダ)でやらせてもらってるの。早速、各地の支部に問い合わせてそれっぽい情報を当たってみるわね。」

「あ、ありがとうございます………!」

「ちなみに、こういう案件の費用は各種の基金や寄付が当てられるんだ。だから、遠慮することはないよ。」

「そ、そうなのか!?」

「うふふ、だからこそ”Ms.L”は遊撃士協会に寄付し続けているのだと思うわよ?」

ヨシュアの説明を聞いたロイドが驚いている中レンは小悪魔な笑みを浮かべた。



「結果が出るまでちょっと時間はかかるけど………まあ、1週間くらいでそちらに連絡できると思うわ。」

「………十分です。どうかよろしくお願いします。」

ミシェルの説明を聞いたロイドは頭を軽く下げたが

「そうだ、何だったら、ウチでキーアちゃんを預かる?一応基金から、保護対象者の生活費なんかも出るんだけど。」

「え………!?」

エステルの提案を聞くと驚いた。

「そうだな……安全のことを考えるならそれもアリかもしれないよ?いざとなればクロスベル以外の安全な避難先も手配できるし。」

「ま、安全を考えるならそっちの方が確実ね。」

「………………………………」

ヨシュアの話を聞いたレンは静かな表情で頷き、ロイドは複雑そうな表情で考え込み

「んー?どうしたの、ロイド?おなか痛くなっちゃった?」

ロイドの様子に気付いたキーアは首を傾げて尋ねた。

「ああ、いや………そうだな。この子がクロスベル以外の出身である可能性は高そうだし………何よりも安全の事を考えたら………」

「………ロイドお兄さん………」

「???」

複雑そうな表情で考え込んでいるロイドをレンは複雑そうな表情で見つめ、その様子にキーアは首を傾げた。



「えっとね、キーアちゃん。しばらくあたしたちと一緒に暮らさないかって話なんだけど………」

キーアと既に親しい関係と思われるロイド達がキーアに事情を説明するのは難しいと判断したエステルはキーアに事情を説明した。

「あ、ううん………キーアちゃんがこっちに引っ越してくる感じかな?」

「ロイド達もいっしょに?」

「うーん。それはちょっと無理かな………でも、そんなには離れてないし、会おうと思えばすぐに会えるわよ?」

「…………………」

エステルの話を聞いたキーアは考え込んだ後

「ゼッタイにヤダ。」

「ガーン!」

笑顔で断り、キーアの答えを聞いたエステルはショックを受けた。



「キーア……」

「あら、あのエステルが子供に振られるなんて珍しいわね。」

一方キーアの答えを聞いたロイドとレンは驚きの表情でキーアを見つめた。

「だってロイドたちと離れるなんてヤダもん。ティオだって、エリィだって、ランディだって、レンだって、ツァイトだって、かちょーだっているし。キーア、ゼッタイに行かない。」

「うふふ、今の言葉をエリィお姉さんたちに後で聞かせてあげたら面白い事になるでしょうね♪」

キーアの決意を聞いたレンは笑顔で答え

「そ、そっか………」

「はは、フラれちゃったね。」

「あらら、エステルちゃんが子供にフラれるなんてすっごく珍しいわね~。何気にショックを受けちゃってる?」

「う、受けてないってば!はあ……でもショックかも。」

ミシェルに尋ねられたエステルは必死な様子で答えた後溜息を吐いた。



「べつにエステルのことはキライじゃないけど………でも、ヤなもんはヤなんだもん。」

「あはは、ゴメンゴメン。あたしが無神経だったわ。ロイド君達、いいなぁ。こんなに好かれちゃって………」

「はは………何でかわからないんだけどね。この子の知り合いに似ている可能性はありそうなんだけど………その割には何も思い出せないみたいなんだよな………」

「―――それなんだけど。身元の確認についてはミシェルさんに頼むとして………記憶喪失の方は専門家に相談しなくてもいいのかい?」

「え……」

「専門家ねえ……心当たりはあるのかしら?」

ヨシュアの提案を聞いたロイドは驚き、レンは尋ねた。

「うん、キーアちゃんの記憶喪失が心や精神の問題と仮定するなら………この場合、専門家といったら七耀教会の人達だと思うけど。」

「あ………」

「―――なるほどね。」

そしてヨシュアの説明を聞いたロイドは表情を明るくし、レンは納得した様子で頷いた。

「しちよーキョウカイ?」

一方キーアは首を傾げた。



「そうね、クロスベルでは近代医療が発達してるけど……心の分野に関してはまだまだ教会の専門家の方が詳しいかもしれないわね。」

「うんうん!確かに。あたし達も色々と助けてもらったくらいだし!ちなみにロイド君もその人の事は知っているわよ?」

「えっと……もしかしてケビン神父かイオン神父のどちらかか?」

「うふふ、ちなみにエステル達が言っているのはケビンお兄さんの事よ。主に助けてもらったのはヨシュアだけどね。」

「うん………主に僕の方が色々と助けてもらったんだ。その人ほどの使い手がクロスベル大聖堂にいるかはちょっとわからないけど………一度、相談してみたらどうだい?」

「………わかった。貴重なアドバイス、ありがとう。―――なあ、キーア。この後、街外れにある教会に行きたいんだけど、いいかな?」

「んー、いいよ。キョウカイって女神さまにオイノリするところだよね?それじゃあ、れっつごー!」

「あはは………」

「ホント、元気な子ねぇ。」

ロイドの言葉に嬉しそうな表情で頷いたキーアの様子にエステルは苦笑し、ミシェルは微笑ましそうに見つめていた。



その後ロイドとレンはキーアを連れてクロスベル大聖堂に向かった――――


 
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