忘れ形見の孫娘たち
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4.明日ちゃんと笑うために
「五月雨ちゃんも涼風ちゃんもすごくカワイイけど、五月雨ちゃんはちょっと元気がないんだ」
朝一番の鈴谷からのそんなメッセージを読んでいた僕は、そのままワイドショーを見つつお昼の準備をしながら鈴谷たちの到着を待った。今日はまた特に蒸し暑い。手の込んだ物を作るスキルもなければやる気もない僕は、今日はそうめんでいいかと鍋に蛇口をひねって水を組み始めたときだった。
――ぴんぽーん
来客を告げる気の抜けたインターホンが鳴った。万が一のことを防ぐため、一度点けた火を消し、玄関に向かう。
「はいはーい。今開けますよー」
ガチャリとドアを開ける。そこにいたのは……
「ちーっす! かずゆきー」
いつものように生意気で敬意のかけらもない挨拶をする鈴谷と……
「ちわー! あたいが涼風だよ!!」
「はじめまして。五月雨っていいます……」
この季節にぴったりな、青を基調としたノースリーブのセーラー服を着た女の子が二人立っていた。背格好と雰囲気からいくと中学一年生ぐらいかな? 紺色の髪の元気な子の方が涼風ちゃんで、綺麗な水色の髪の子の方は五月雨ちゃんだそうな。
「はじめまして。和之です。祖父がみなさんのお世話になっていたそうで」
「おっ! アンタがカズユキかッ!」
僕が名乗った瞬間、涼風ちゃんが僕を睨みつけてきた。パッチリして大きな目からは、『許さんッ』て気持ちがこれでもかと伝わってくる。なんでこんなにガルガルしとるの?
「? と、突然なんなの?」
「カズユキ! 鈴谷のねーちゃんに謝れ!!」
「へ? なんで?」
「しらばっくれんじゃねぇッ! あたいは知ってるぞ!!」
なんかよく分からんけど、涼風ちゃんの耳からは憤怒の水蒸気がピー!!と音を立てながら噴射されている……なんだなんだ?
「鈴谷」
「ん?」
「お前、二人に何を言った?」
「す、鈴谷は……な、なにも……言ってますん」
「うろたえすぎじゃないか。こっちを見ろッ」
「うう……昨日なんか意味もなくムカッてしたから、その時に“ひょっとしたらかずゆきに悪口言われたのかもー”って」
「鈴谷のねーちゃんに謝れカズユキ!」
「……」
……確かにスイカの種のことで悪態はついたけどね。そんなことを謝らなきゃダメなの? ……まぁあれだ。涼風ちゃんは元気で熱い子のようだ。
「まぁそこはあとでじっくり鈴谷と話をつけるとして……」
「ガクガクブルブル……」
「鈴谷のねーちゃん! あたいがついてるぞ!!」
一方……気になるのはもう一人の五月雨ちゃんだ。
「……」
「鈴谷、五月雨ちゃんはずっとこんな感じ?」
「ガタガタ……ぁあ、提督が亡くなったって知ってから元気ないんだよね……」
五月雨ちゃんは真っ青な顔で、身体が少し震えていた。
「五月雨、大丈夫か?」
「うん……涼風ちゃんありがとう」
気を抜くとそのまま倒れてしまいそうな五月雨ちゃんの肩を、涼風ちゃんがガッシと掴んで支えていた。顔つきがよく似てる二人だから、きっと二人は姉妹のはず。だとしたら、この五月雨ちゃんも元気で明るい性格のはずだけど……今の彼女からは元気の“げ”の字も出てこない。子音の“G”すらない。詳しくは知らないけど、元気のGははじまりのGではないのか。
「五月雨ちゃんはずっと提督と一緒にいたからね……」
「そっか……」
恐怖で身体を震わせている鈴谷の話によると、五月雨ちゃんはうちの爺様にとっては初めての仲間らしい(“初期艦”とか言うそうな)。大淀さんと同じく、みんなの中でもっとも爺様と長く付き合ってきた子ってことだ。
だから鈴谷が爺様の死を伝えた時、五月雨ちゃんは相当動揺したそうで。本人は『提督の死を受け入れなきゃいけない』ということは分かっていながらも、いざここに来てみると、その恐怖と不安で身体がすくむようだ。その様子は見ているこっちも不安になる。
「……五月雨ちゃん」
「……はい」
「もし辛いなら、今日は素直に帰ってもいいんじゃないかな?」
僕は、思ったことを率直に伝えた。こういう時は回りくどい言い方はしないで、すっぱり言ってしまったほうがいい。
「てやんでぃ! ちったぁ五月雨の気持ちも考えやがれ!!」
「……」
「五月雨はなぁ! 確かに辛いけど、それでも必死に前に進もうとしてるんだ! ひこざえもん提督の孫だかなんだか知らねーが、テキトーなこと言ってんじゃねえ!」
「適当なことなんて言ってない。爺様の死を納得して受け入れるなんて、今日が無理なら明日でもいい。明日も無理なら来月でいい。こういうことは無理しちゃいけないんだ。親しい人の死はそれだけ重いんだ。無理矢理受け入れるものじゃない」
「……」
涼風ちゃんが僕の言葉に噛み付いてくるけど、僕も引く気はない。こういうことは急いで無理しちゃいけないんだ。爺様の死を受け入れるのは、今日じゃなくてもいい。受け入れても大丈夫なように、心の準備が出来てからでも遅くはないんだ。
「……和之さん、ありがとうございます」
「どうする? 今日はやめとく?」
「いえ……私は、覚悟してここに来ました。私は今日、ひこざえもん提督にお別れをいいます」
僕の提案への五月雨ちゃんの返事はノーだった。その時の五月雨ちゃんの顔色は変わらず真っ青で身体も震えていたけれど、その目は涼風ちゃんと同じく、強い意思が感じられる力強いものだった。……彼女は、ちゃんと覚悟をしているようだった。ならば、僕はもう何もいうことはない。
「……覚悟してるんだね」
「はい。だから、ひこざえもん提督に会わせてください」
「うん。分かった」
僕は三人を玄関に上げ、奥の和室へと案内した。
「……さっきはごめんな」
和室に向かう最中、涼風ちゃんが僕のシャツの裾をちょんちょんと引っ張ってきた。
「? 何が?」
「あたい、アンタが適当なこと言ってると思って……」
「気にしてないよ。五月雨ちゃんが大切だから怒ったんでしょ?」
「うん」
「だったら気にしない気にしない。僕も気にしてないし」
「そっか。ありがと」
うん。涼風ちゃんはいい子だ。本当に五月雨ちゃんのことを大切に思ってるみたいだ。
そして再度、僕のシャツの裾をちょんちょんとひっぱる感触があった。
「ねえねえ、かずゆき」
「ん? なんだよ」
「涼風ちゃんと仲直り出来てよかったね。初対面で涼風ちゃんが怒りだした時はどうしようかと思ったよ。ヒソヒソ……」
「初対面で涼風ちゃんが怒ってた理由の原因は鈴谷だけどな……」
「? 何こそこそ話してんだ?」
とこんな具合で僕達三人は軽く会話をしながら奥の和室へと移動する。五月雨ちゃんだけは一言も口を利かず、決意を秘めたまっすぐな瞳で、前を向いて歩いていた。
「かずゆきぃ。五月雨ちゃんに一目惚れ?」
「お前あとでロメロ・スペシャルで折檻」
そうして和室に到着。襖を開け、五月雨ちゃんと涼風ちゃんを中に招いた。
「う……」
「そんな……覚悟してたけど……ひこざえもん提督……」
「てい……とく……」
「提督……ひこざえもん提督……」
「なに……勝手に、おっ死んじまってんだ提督……べらぼうめぇ……!」
「ひこざえもん提督……帰ってきて下さい……ひぐっ」
覚悟していたとはいえ……やはり事実を受け止めるのはまだキツかったようだ。遺影を見る五月雨ちゃんのぱっちりした両目にどんどん涙が溢れてきた。涼風ちゃんは涼風ちゃんで両肩をわなわなと震わせ、泣くまいとしているようだった。
「ていとく……ていとく……」
力なく崩れ落ちそうになっていた五月雨ちゃんを、その後ろから涼風ちゃんががっしりと肩を支えて立たせていた。
「五月雨……泣くんじゃねえッ……!」
「うう……ひぐっ……ていとく……」
「あたいと約束……ひぐっ……したじゃねェかッ……ひこざえもん提督と笑顔でお別れしようって……約束……した……ひぐっ……じゃ……」
「でも……ひぐっ……うう……」
「だから……あたいは……泣かねーぞ……!」
二人は身体を寄せあって、必死に泣くまいとしていた。そんな二人を見守っていると、三度ぼくのシャツの裾をちょんとひっぱる感触があった。
「?」
鈴谷が僕のシャツの裾を引っ張っていた。その顔にいつもの軽薄さはなく、鈴谷の真剣な眼差しは僕にこう訴えかけていた。
『言ってあげて』
わかってる。こんなに小さな二人に、無理してガマンして笑顔でいさせるなんて、爺様は望んでない。たとえどれだけムカつく爺様であったとしても、僕は孫だ。それぐらいは手に取るように分かる。
「ふたりとも」
「「?」」
「泣いていいんだよ。今日は思いっきり泣いて、明日笑顔になろ」
「でも……ひこざえもん提督が……ひぐっ……心配……」
「“女の子は笑顔が一番”って……いっつもあたいたち言われて……ひぐっ」
「そうだよ。女の子は笑顔が一番だよ。だから……明日からは本当に笑顔になれるように、今日は思いっきり泣こ」
「「……」」
「僕と鈴谷は席を外すから。ほら出るぞ鈴谷」
「ぉおっ?」
僕は鈴谷の手を取り、そそくさと和室から出た。五月雨ちゃんと涼風ちゃんは呆然と僕らの背中を見送っていた。そして僕が襖を静かに閉じた瞬間……
『うわぁぁあああああああん!!!』
という叫び声というか、二人の泣き声が聞こえた。
「……やっぱりガマンしてたんだね」
「だね。かずゆきに言われて、泣いてもいいんだって分かって、決壊しちゃったんだね」
『あたいたちを置いていくなよぉぉおおおおお!!!』
『戻ってきてくださいいぃぃいいいいいい!!!』
『またあたいたちと遊んでくれよぉぉおおおお!!!』
『もう提督のパソコンにお茶かけちゃったりしませんからぁあああああ!!!』
『返事してくれよていとくぅぅううううううう!!』
『提督のお腹にパンチ突き刺しちゃったりしませんからッ! 勢い余って提督のパンツ破いちゃったりしませんからぁぁああああ!!!』
『『うわぁぁあああああん!!!』』
うん。いろいろと聞き捨てならないセリフを聞いた気がするけれど、二人とも気持ちをちゃんと発散できてるようで何よりだ。これでいい。悲しい気持ちをガマンしちゃいけない。ガマンしたらくすぶり続ける。悲しい気持ちは、ちゃんと発散するのがいいんだ。そして、次の日から笑顔になればいいんだよ。
「ところでさーかずゆきぃ」
この感動的な場面に立ち会っているというのに、鈴谷はそんなシーンに似つかわしくないニヤニヤを僕に向けてきていた。
「ん? なんだよ」
「いや別にいいんだけど……いつまで鈴谷の手を握ってるの?」
鈴谷にそう言われ、僕は自然と自分の右手を見た。僕の右手と鈴谷の左手は、しっかりとつながっていた。
「うおッ?! すまん鈴谷ッ!」
「なになに鈴谷と手を繋ぎたかったの? 言ってくれればよかったのにー素直じゃないなぁかずゆきは~」
「たわけがッ!」
「かずゆきぃーどうするぅ?」
「うるさいわッ!」
その後は五月雨ちゃんと涼風ちゃんが落ち着くまで和室にいてもらった。部屋から出てきたときの二人の目はちょっと赤くなっていたけど、来る時よりもかなりスッキリした顔をしているように見えた。
「ありがとうございました和之さん! おかげで、ちゃんとお別れが出来ました!」
「よかった。スッキリした?」
「はい! 本当にありがとうございました!!」
「ホント、ちゃんと挨拶できたのはカズユキのおかげだぜ! ありがとうカズユキ!!」
「んーん。二人も、うちの爺様に挨拶してくれてありがとう。仲良くしてくれてありがとう」
特に五月雨ちゃんは、来た時と比べて見違えるように明るくなっていた。確かに爺様の死を受け止めるには彼女の身体は小さすぎるし、彼女にとって重すぎる事実だったけれど、それでも彼女は受け止めた。受け止めて受け入れたんだ。五月雨ちゃんの目にはもう迷いや怯え、不安のようなものは見られなかった。悲しみを乗り越えて、前に進もうという意思だけが宿っていた。
「かずゆきぃ。お腹すいたからお昼ごはん作って。そうめんでいいよ」
「感動的な場面に水を指すなよ鈴谷」
そしてその場面に気の抜けた一言で水を差す鈴谷。そんな鈴谷の暴言を受けて、今日は四人でお昼ごはんとしてそうめんを食べることになった。イマイチ納得がいかなかったが、三人が来るまで僕もそうめんを食べる気マンマンだったからちょうどよかったのかもしれない。
「私もお手伝いします! 茹でるのはお任せくださいっ!」
僕がいそいそと鍋を火にかけて準備をしていると、五月雨ちゃんがお手伝いを買って出てくれた。ぼくはそうめんを茹でるのを五月雨ちゃんに任せ、テーブルでそうめんの完成を待つ鈴谷と涼風ちゃんの元へと箸とめんつゆを運ぶことにした。どこぞの女子高生と違って五月雨ちゃんは天使だなぁ……。
「それ、鈴谷のこと?」
「他に誰がいるんだよ?」
「カズユキ、あたいちょっとわかったぜ!」
「ん? 何が?」
「鈴谷のねーちゃんとカズユキ。ケンカしてるけどすんげー仲良いんだな!」
何勘違いしちゃってるのこの子? 僕は涼風ちゃんの……いやあえて呼び捨てにしよう。涼風のニカッと眩しいその口を両手でムニッと挟み込んでやった。
「んぐッ?!」
「くだらないことをのたまいやがるのは……この口かッ……!」
「何……しやがんだ……かずゆきッ……!」
「訂正しろッ! 僕と鈴谷が……仲いいだなんて……訂正しろッ……!!」
「てやんでぃ……! 一度口に出したことは……言い直さねえぞあたいはッ……!!」
「へー……仲いいんだ鈴谷たち。ニヤニヤ」
「お前も意味深なニヤニヤをするのはやめろ」
「みなさん……! そうめんが……茹で上がり……まし……!」
そうやってぼくが涼風を責め立てていると、五月雨ちゃんが4人分のそうめんが入った桶を持ってきた。……持ってきたのはいいんだけど、桶は相当重いようで、五月雨ちゃんは上下左右にふらふらとしている……
「大丈夫か五月雨ちゃんッ!」
「だい……じょう……」
「五月雨ッ! あたいも手伝うぜ!!」
「すず……かぜちゃん……は……そこでッ……」
「鈴谷! 手伝ってやれ!!」
「いいよー。五月雨ちゃん今行くからちょっと待って……」
世の中には、考えうる最悪のアクシデントの連鎖というものがある。
「……だい……」
「さみだれちゃぁぁあああああん!!!」
たとえば僕が口内炎に苦しんでいる日……うちのかあちゃんは狙いすましたかのように、あさりの殻付きピリ辛炒めを作ってれる。味は美味しいんだけどピリピリした辛味が僕の口内炎を攻撃して、僕はその日夕食を食べることが苦痛になる。しかもその日のあさりには必ず小石のように大きくてガラスのように鋭い砂の粒がたくさん入っていて、それがまた口内炎を刺激して痛い痛い……今日の五月雨ちゃんは、まさにそんな感じだ。考えうる最悪のアクシデントの連鎖が、今発生する。
「ふあっ……」
「さみだれぇぇええええ?!」
「かずゆきぃいいいいい?!!」
五月雨ちゃんは、あるはずのない床の出っ張りに足を取られ桶のそうめんをぶちまけた。ぶちまけられたそうめんは……あるはずのない引力に従って、ぼくの方へと飛んできて……
「か……和之さん……」
四人分のそうめんは、僕の頭にすべてかかってしまった。おかげで僕はびしょ濡れで、しかも濡れた純白のかつらを頭からかぶってる感じになった。
「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃかずゆきチョー受ける!!」
「カズユキが!!! あひゃひゃひゃ!!!」
「笑うなおまえらッ! 人の一生懸命を笑うなッ!!」
「和之さんごめんなさい! ホントにごめんなさい!!」
「……いいんだよ。こういう時は逆に考えるから。『熱いにゅうめんじゃなくてよかった。火傷しなくてよかった』って考えるから」
「ヒー……くるし……おなかいたい……息できない……かひゅー……かひゅー……」
「鈴谷のねーちゃん……あたいも苦し……かひゅーかひゅー……」
「お前らあとで三時間正座で説教だ」
「「ひどっ」」
「ごめんなさい! ホントにごめんなさいッ!!」
「いいの。五月雨ちゃんはいいのよ」
そう言って真剣に何度も頭を下げる五月雨ちゃんをたしなめていると、タイミングよく僕の頭の上のそうめんのひとかたまりがぽとっと落ちた。
「ほんと……ごめ……ぶふっ……」
「?」
「和之さんは……やっぱりひこざえもん提督の孫ですね」
「なんで?」
「提督はいつも、私のドジを優しくフォローしてくれてました。和之さんと同じこと言って、いつも私を慰めてくれてました」
「んん? 同じこと?」
「はい。提督のパソコンにお茶をぶちまけちゃった時は、『逆におれにかけてこなかったから火傷しなくて済んだ。ありがとなー』って。パンツ破いちゃった時も『これで新しいパンツを気兼ねなく買える。ありがとなー』って」
おうおう爺様、いくらこの子が可憐だからって随分やさしいじゃないかえ?
「いやいや……かずゆきも人のこと言えないでしょ……ぶふっ……」
「ひょっとして五月雨に一目惚れか……ぶほっ……頭からそうめん被ったその風貌で……ありえねーぞっカズユキぃっ……ぶふぅっ……」
「お前ら説教の後ロメロ折檻追加」
「だからなんだか懐かしい気がして……まるでひこざえもん提督に元気づけられてるみたいで……私、うれしくって」
「そっか……ならよかったよ」
「はい! 和之さんありがとうございます!!」
まぁ爺様の気持ちはわかる。五月雨ちゃんが真剣に頑張ってるのはすごく伝わってくるから、責めるなんて出来ないよな。爺様すら責める気が微塵もおきない天使五月雨ちゃん。
その後は僕がそうめんを再度茹で上げ、四人で和気あいあいとそうめんを平らげた。別れ際の五月雨ちゃんと涼風は満面の笑みで、
「また遊びに来てもいいですか?」
「いつでも来ていいよ。爺様も待ってるから」
「やったぜ! んじゃ今度はみんなで遊ぼうぜーカズユキー!!」
とまた来てくれる約束をしてくれた。僕はそのうち仕事に戻らなければならなくなるけど、しょぼくれた父ちゃん母ちゃんのいい話し相手が出来てなによりだ。
『五月雨ちゃんも涼風ちゃんも元気だよ! 特に五月雨ちゃんは“提督に心配かけないようにがんばります!”て言ってた!!』
夜、鈴谷からこんなメッセージが届いていたことに気付いた。『明日笑うために今日は泣こう』って僕は言ったけど、今日のうちに笑顔になれたんだ。やっぱりちゃんとおもいっきり泣いたのがよかったみたいでなによりだ。
『明日は鹿島さんって人を連れて行くから!』
『はいよ。待ってるからなー』
鈴谷からのメッセージの返事を適当にやりつつ、元爺様現母ちゃん所有のパソコンで艦これにログインしてみた。鹿島って子は……いた。なんかドSっぽい見た目とふわふわした物言いがなんだかアンパランスで、こっちの好奇心をくすぐってくるキャラだ。
鹿島ってキャラクターの確認が済んだ後、僕はどうにも五月雨ちゃんが気になって、秘書艦を五月雨ちゃんにしてみたくなった。秘書艦を鈴谷から五月雨に交換する。
『いよいよ私たちの出番ですね!』
元気よく五月雨がそう答えていた。
『それはそうと、かずゆき』
『んあ?』
『明日はどうする?』
『何がだ?』
『明日も今日みたいに鈴谷と手つなぐ?』
昼間の失態を思い出し、ドヤ顔でメッセージを送ってる鈴谷を反射的に想像して僕はムカついた。
『お前明日こそパロスペシャルで折檻してやる』
『ひどっ。なーんーでー? 鈴谷と手つなぎたかったんでしょー?』
『コーホー』
『なにそれ意味分かんない。ムカつくわー』
ムカつくのはこっちじゃと思いながらスマホで返事のメッセージを打ってる最中、ついうっかり肘がパソコンのタッチパッドにあたったみたいだ。それが五月雨へのクリックだと認識され、画面の五月雨が元気よく返事をしていた。
『ていとく! 一生懸命、がんばります!!』
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