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ごめんよ涙

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2部分:第二章


第二章

「その間ずっと待つから」
「待ってくれるっていうと」
「ドイツに行って来たらいいわ」
 微笑んでくれたまま。僕に話してくれてきていた。
「そうしたらどうかしら」
「ドイツに。行って来ていいの?」
「何年でも待つから」
 笑顔だった。僕が今まで見た中で一番奇麗な笑顔だった。
 その笑顔で。僕の背中を押してくれた。それを受けて。
 僕も。迷いが残っていたのは事実だけれどそれでもだった。頷いてから答えられた。
「うん。それじゃあ」
「ドイツに行くのね」
「そうするよ。けれど」
 彼女の顔を見て。それで言う言葉は。
「御免ね」
「何で謝るの?」
「待ってくれるよね、何年も」
「そうさせてもらうわ」
「だから。御免」
 本当に申し訳なかった。だからこそ彼女に謝った。
「その間。ずっと」
「いいから。それでね」
「それで?」
「ドイツの何処のチームなの?」
「チューリンゲンのチームだよ」
 スカウトの人はそこから来た人だった。かつて東ドイツだった地域らしい。僕の生まれる前にドイツは統一されたと歴史の授業で聞いている。
「そこに行くんだ」
「チューリンゲンなのね」
「そう、そこにね」
「わかったわ。それじゃあね」
「うん、行って来るよ」
 こう告げてだった。僕はドイツに行くことを決意した。そして空港でドイツに旅立つ時に。彼女は僕にこう笑顔で言ってくれた。
「じゃあ行ってらっしゃい」
「うん、活躍してくるから」
「ニュース。楽しみにしてるからね」
 満面の笑顔で僕を送り出してくれた。これが御別れだった。僕はドイツに旅立った。
 ドイツに入りだ。そしてだった。
 プロチームに入って頑張った。やっぱりプロチーム、しかもサッカーの本場欧州でも強豪のドイツのチームだ。レベルはかなり高かった。
 練習についていくだけでも必死だった。それでもだ。
 僕は何とか頑張っていた。そうして頑張っているとだ。
 監督やコーチ、先輩達にも認められていって。二軍の試合にも出られる様になった。
 そうなると練習にも身が入る。それでこの日もグラウンドで練習をしていた。その僕にだった。
 先輩の人、ドイツ生まれのその人がだ。ドイツ語で僕に声をかけてくれた。ドイツ語もかなり覚えてきた。こっちの勉強もドイツの文化のことを知るのもかなり苦労した。
 そうして一年が過ぎていた頃にだ。声をかけられたのだ。
「おい、会いたい人が来てるぜ」
「僕にですか?」
「ああ、御前にな」
 こう聞いてまず僕は。
 首を捻った。誰なのかと思った。それで先輩に尋ね返した。
「誰ですか?それで」
「アジア系だったな。女の子だな」
「アジア系ですか」
「ああ、御前のファンだと思うけれどな」
 僕のことは日本でも有名になっているらしかった。ドイツのプロチームにスカウトされて頑張っている選手として。それでらしい。
 そのせいか時々日本から会いたいという人が来てくれる。僕にとっては嬉しいことだ。
 それでだ。最初はこう思った。
「ファンの人だったら」
「サインだな」
「ちょっとサインペン持って行きますね」
「人気者は辛いな」
 先輩は笑顔で軽いジョークも送ってくれた。
「それも日本の可愛い女の子なんてな」
「可愛いですか?日本の女の子は」
「じゃあ可愛くないのか?」
 先輩は笑ってこうも言ってきた。
「日本の女の子は」
「いえ、まあそれは」
「メイド喫茶ってあるよな」
 先輩は今度はこれを出してきた。どうも外国でもメイド喫茶は有名になってるらしい。少なくともドイツ、チューリンゲンでは見たことがない。
 
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