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手古舞

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5部分:第五章


第五章

「もっとももう見せてもらったけれど」
「んっ、何だ?」
「あっ、何でもないよ」
 美代吉は小声だったのを幸いに思った、そしてだ。
 そのうえでだ。こう言ったのだった。
「じゃあ明日ね」
「そうだな。明日な」
「見せてもらうよ」
 こう言ってであった。美代吉は一旦新助と別れたのだった。そして新助もだ。
 仲間達のところに戻ってだ。意気込んで言い切った。
「明日の火消しの見世物な」
「ああ、それな」
「おめえ出るんだったな」
「出るさ。そこでな」
 まさにだ。そこでだというのだ。
「あいつに見せるぜ。俺の晴れ場な」
「あの手古舞に見合うだけの格好をかい」
「見せるっていうんだな」
「火消しの粋を見せてやるさ」
 今度はこんなことを言う彼だった。
「だからな。やってやるぜ」
「急だな、また」
「それでもいいか」
「それでおめえがかみさん貰えるんならな」
「やってみればいいさ」
「ああ、やってやるさ」
 実際にこう返してだ。新助はあらためて黒飴を口の中に入れた。
 そしてその飴をしゃぶりながらだ。意をあらたにするのだった。
 次の日だ。彼はだ。
 火消しの青と白の法被を着てだ。祭りの余興の場に現れた。頭には白い捻り鉢巻を締めている。その絞め方がまさに江戸のものだ。
 しかもだ。法被の下の上着はだ。
 紫だ。しかも只の紫ではなかった。
「おいおい、新助もやるな」
「江戸紫か?」
「それで来たか」
「助六かよ」
 助六はその服が江戸紫なのだ。江戸歌舞伎第一の伊達男はその紫が定番だ。新助はその紫でだ。ここに出て来たのである。
 しかも下は赤だ。その赤がまた目立つ。
 その派手な色で出て来てだ。彼は。
 高い、立てられた梯子に頂上まで登ってだ。それでだ。
 鳶職も真っ青の動きを見せた。片手で逆立ちをしてだ。
 そこから梯子の両端を動き回ってみせたりだ。空中に跳んで。
 
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