英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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1章~神狼たちの午後~ 外伝~英雄来訪~
~朝・遊撃士協会・クロスベル支部~
「―――お疲れ様。今月も大変だったわねぇ。」
「なに、いつもの事だ。それよりも………送金の方はよろしく頼む。」
ミシェルに労われたアリオスは頷いた後、ミシェルに視線を向けて言った。
「わかったわ。IBC経由でいいのね?それにしても……依頼を回しているアタシがこう言うのもなんだけどさ。アナタ、もうちょっと仕事を減らした方がいいんじゃない?シズクちゃんだって寂しがってるでしょうに………」
「…………………………」
ミシェルの言葉を聞いたアリオスは目を伏せて黙り込んだ。
「ゴメン、これは言わない約束だったわね。それはそうと………レマン総本部からの連絡がまた来ていたわよ?―――いい加減、受けてくれる気はないのかって。」
「またそれか………その件に関しては何度も断っているはずだろう。」
「まあ、総本部としてはカシウス・ブライトの代わりを揃えておきたいんでしょうね。あなた、彼の弟弟子なんでしょう?実績だって引けを取らないんだし、いいかげん観念したらどうなの?」
アリオスの返事を聞いたミシェルは苦笑した後、尋ねた。
「残念だが………彼と俺では役者が違いすぎる。実績にしたところで彼のように国家的な問題を解決したわけではないからな。正直、身に余る話さ。それこそ彼の娘の方が相応しい。彼女も彼のように国家的な問題を解決したからな。」
「そりゃ確かに総本部も将来的にはあの娘をS級に昇格する話を出しているようだけど………いくらなんでも早すぎよ。それにあなただって国家的な問題っていうならレミフェリアの件があるじゃない。大公閣下から勲章も貰ったんだし、実績としては充分すぎると思うけど。」
「………あの件は本当の意味で解決できたわけではないからな。公国での芽は潰したとはいえ、一部の黒幕は取り逃がしたままだ。本来なら勲章など、辞退したかったんだが………」
「まったくもう………生真面目すぎるんだから。せめて昇格でもすれば逆に少しは落ち着くんじゃない?今月だけでも百件以上………尋常じゃないわよ、この仕事量は。」
アリオスの話を聞いたミシェルは溜息を吐いた後、呆れた表情をした。
「無理をしているつもりはないさ。列車と飛行船の便数も増えて自治州外への出張も楽になった。頼もしい助っ人たちも来る上、特務支援課の方も成長してきている事だし、今後は一息つけるだろう。」
「そうは言うけど、実際は”叡智”頼りだから、あの坊や達がアタシ達に追いつくのはまだまだよ。………けどあの子たちか………まあ、確かに期待の大型新人ではあるわね。少なくとも”叡智”の助け無しの支援課の坊やたちよりは何倍も頼りになりそうね。」
アリオスの話にミシェルが頷いたその時
「ごめんくださーい!」
「こんにちは~!」
元気そうな娘たちの声が聞こえて来た。
「あら、さっそく来たみたいね。こっちよ、上がってきて!」
声に気付いたミシェルは階段に近づいて下に向かって叫んだ。
「あっ、2階?」
「失礼します。」
「失礼しま~す!」
すると2階に栗色の髪を一束にした娘と黒髪の青年、蜂蜜色の髪の女性、そして金髪と金色の眼を持つ女性が上がって来た。
「こんにちは~、ミシェルさん―――って、アリオスさん!?」
「よかった。丁度いらっしゃったんですね。」
「えへへ………お久しぶりです!」
「フフ、まあ偶然だがな。3か月ぶりになるか……3人共、よく来てくれた。」
「ほんと、アナタたちがウチに来てくれるなんてねぇ。しかも超優秀なサポーター付きで。うんうん、これで当分、クロスベル支部も安泰だわ♪」
挨拶をして来た栗色の娘、黒髪の青年、蜂蜜色の髪の女性に視線を向けたアリオスは口元に笑みを浮かべ、ミシェルは嬉しそうな表情で言った。
「あはは………買い被りすぎだと思いますけど。」
「ご期待に沿えるよう頑張ります。」
「ミント、一杯頑張るね!」
ミシェルの言葉に栗色の髪の娘達はそれぞれ頷き
「ハア………いつも思うのですがどうして私にまで手伝わせるのですか。契約をした時に貴女に言いましたよね?私は貴女の剣として見守らせてもらうと。」
金髪の女性は溜息を吐いた後、栗色の髪の娘を睨んだ。
「え?あたしもちゃ~んと、貴女に言ったわよね?あたし達と一緒に世界を見て周ろうって!」
一方睨まれた娘は意外そうな表情で答え
「だからと言って、貴女達の仕事を手伝う事になるなんて想像もしていませんでしたわ。戦闘ならまだしもそれ以外の仕事にまで手伝わせるなんて………しかも、貴女達のサポーターとして登録するなんて………貴女が契約している他の異種族の者達もそんな状況にはなっていませんでしたよね?」
「あはは、別にいいじゃない。フェミリンスは元王様である上に神様でもあるんだから、困っている”民”達を助ける事は王様や神として当然じゃないの?それよりもどうせならいっそ、貴女も遊撃士になったら?絶対活躍できるわ!」
「それとこれとは別問題です、まったく……………というかどの世界を探しても神に仕事を勧めるような無謀な事をするのは貴女ぐらいですよ?」
そして栗色の娘に尋ねられた金髪の女性は疲れた表情で溜息を吐いた後、呆れた表情でエステルを見つめた。
「フフ………でもなんだかんだ言いながらも、いつもちゃんと手伝ってくれるよね、フェミリンスさん。」
一方蜂蜜色の髪の女性は微笑みながら金髪の女性を見つめ
「………まあ、王や神であった私が民達と同じ目線で見直す事べきだというエステルと貴女の言葉は間違ってはいないから、手伝っているだけです。………それに友と恩人の頼みを無下にする訳にはいきませんしね………」
見つめられた金髪の女性は静かな表情で答えた後、苦笑しながら栗色の娘達に視線を向けた。
(クク…………しかし、”神”自身を自分達の仕事を手伝わせるとはさすがに我等も予想しなかったぞ。)
一方栗色の娘の身体の中にいる普通の狐より一際大きく、尾が複数ある狐は口元に笑みを浮かべ
(人間が神を扱き使うなんて、目を疑ったわよ………というか、この娘の子供に生まれ変わる予定のあの女神もこの娘みたいになるのかしら?)
天使の姿をした人物は溜息を吐いた後、首を傾げ
(さ、さすがにそれはちょっと勘弁してほしいわ………)
(ク、クー………)
(アハハ………そ、それにしてもエステルさんの影響を受けたのか、フェミリンスさんの性格も随分変わりましたね………最初に出会った時と比べて、別人に見えますよ………)
天使の言葉を聞いた妖精や竜の姿をした者達は冷や汗をかいたり苦笑し
(…………………………)
栗色の娘が片腕に付けている腕輪の中から状況を見ている立派な角を生やした巨大な獣は戸惑った様子で金髪の女性を見つめていた。
「コホン。そろそろいいかしら?」
「あっと。すみません。」
そしてミシェルの咳払いに謝った栗色の娘は気を取り直して黒髪の青年達と共にミシェル達に向き直り
「―――改めまして。正遊撃士、エステル・ブライト。」
「ならびにヨシュア・ブライト。」
「同じくミント・ブライト。」
栗色の娘―――エステルに続くように黒髪の青年―――ヨシュアと蜂蜜色の髪の女性―――ミントはそれぞれ名乗り
「……エステル・ブライト以下2名のサポーター、フェミリンス。」
3人の後に金髪の女性―――フェミリンスは静かな表情で名乗った。
「「「遊撃士協会・クロスベル支部に正式に所属させていただきます――――!」」」
そしてエステル、ヨシュア、ミントは元気良く宣言した…………!
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