FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
忘れんなよ
前書き
56巻巻頭ページのシェリアが可愛いと思い、ウェンディが巻頭ページの単行本を探してみたら・・・初登場の16巻しか見つけられなかった・・・もう少し乗ってると思ってたのに意外だったな・・・
第三者side
「セシリー!!お前はここに残ってろ!!」
「え~!?僕もシリルのために頑張れるよ~!!」
シリルを止めるために動き出そうとしたラクサスとカミューニ。そのうちの一人、少年と同じギルドマークを刻んだ青年は、彼の相棒である茶色の猫にそう言うが、彼女はそれに反発する。
「セシリー、お前は離れてシリルに声をかけてくれないか?」
「声?」
「あぁ。付き合いの長いお前の声なら、シリルに届くかもしれねぇ」
暴走しているとは言っても、シリルのセシリーたちへと想いは変わらないはず。もしシリルに彼女の声が届き、動きに隙ができれば、今の自分たちでも彼を止めることは難しくないはず。二人はそう考え、セシリーに被害が及びにくいような指示を出していたのだった。
「わかった~。でも、これだけ約束して~」
「約束?」
二人の思考を感じ取ったセシリーは承諾する。そして彼は、二人に深々と頭を下げた。
「シリルを・・・元に戻して~・・・」
目を潤ませ、そう懇願する。それを見た二人は彼女の頭を軽く撫でる。
「もちろん」
「ぜってぇ助ける。だから待ってろ!!」
「うん!!」
ラクサスとカミューニの真剣な表情に涙を拭うセシリー。彼女は言われた通りにその場から離れ、草むらの中へと隠れ、シリルに聞こえるように声を張り上げる。
「カミュ、シリルの動きはわかるのか?」
「魔力の流れで大体」
セシリーからシリルの方へと向き直った雷竜とBIG3。彼らはノーランを圧倒し続けている少年に向き直り、作戦をひねり出そうとしていた。
「俺が指示出すか?」
「無理だろ、おめぇだってんな余裕はないんじゃねぇか?」
「よくわかってんな、このやろう」
ラクサスもカミューニも他者に気を使っている余裕はない。自分が生き残れるかどうかさえ、彼らにはわからないことなのだから。
「今出せる全快の力でシリルを押さえ付ける。あとはセシリーの声でどれだけ正気に戻れるかが勝負の鍵だな」
例えMaxの力を用いても、彼らの今の状態ではシリルを抑えられないかもしれない。それでも、全力でやる以外、彼らに生きる道はない。
「死ぬなよ」
「お前もな」
ラクサスとカミューニはハイタッチすると、シリルとノーランが戦うサイドへと散っていく。
「水竜の・・・翼撃!!」
「がはっ!!」
次第に水と銀色の風の占める割合が同じくらいになってきている。それを見たカミューニは、時間がないことを再確認していた。
(おそらくあと数分・・・いや、その前にノーランが死ぬか)
完全にシリルの体を悪魔の魔法が取り込むまでの正確なリミットはわからない。しかし、ノーランがもうじき息絶えるのは、なんとなくではあるがわかっている。
(もう少し耐えろよノーラン。そのあとならどうなってもいいからよぉ)
自分でも酷いことを言ってるのはわかっている。だが、元の原因は彼にあるため、責任ぐらい果たしてほしいと思うのも正直なところなのであろう。
「行くか」
一度大きく息を吐き、シリルとノーランの方へと手を向けるカミューニ。
「波動波!!」
彼のその手から、魔力の波動が打ち出され、ノーランに飛び掛かろうとしていたシリルに直撃する。
「な・・・何!?」
カミューニの攻撃を受けたシリル。しかし、少年には目立った外傷もなければダメージを受けた様子もない。ただ、敵とは別の方向から攻撃が飛んできたことに、驚いているといったところだ。
「マジかよ。結構傷付くな」
(けど・・・)
予想はしていたが、本当に少年にダメージを与えられなかったことに悔しさを滲ませるカミューニ。しかし、彼はおおよその狙いは達成していたので、ニヤリと笑みを浮かべていた。
「動くなシリル!!」
「!!」
カミューニの方へと体を向けたシリル。その背後から、ラクサスが彼に飛び付き、体を拘束する。
「ちょっ!?ラクサスさん!?」
突然仲間に体を拘束され、訳がわからないといった表情のシリル。少年はラクサスを振り払おうとするが、体格に大きな差があり、なかなか引き剥がすことができない。
「何してるんですか!?変態ですか!?」
「そういうこと言うから女に間違えられんだろうが!!」
自分に強く抱きついている竜に真面目な顔でそんなことを言ったシリルに、ラクサスがもっともなことを言う。シリルは簡単には彼を退かすことができないとわかると、彼を力尽くで投げ飛ばそうとする。
「っらぁ!!」
「くっ!!」
背負い投げの要領でラクサスをカミューニの方へと放り投げるシリル。カミューニは飛んできた彼を、魔力の流れから感知し、ガッチリと受け止めていた。
「邪魔しないでくださいよ。邪魔するなら・・・
例え二人でも殺しますよ」
目を細め、静かな口調で二人を牽制するシリル。その時、シリルを蝕む模様は、ドラゴンフォースにより浮き出た鱗にまで侵食を進めていた。
「シリル!!もうやめて~!!」
離れたところからシリルに必死に呼び掛けるセシリー。その声に気付いたシリルは、彼女の方に親指を立てる。
「任せてセシリー。ウェンディとシャルルの仇は取るから」
「違うよ~!!そうじゃないのシリル~!!」
友の言葉の意図を理解できておらず、自分の思考のままに動こうとしているシリル。セシリーはそんな彼に諦めずに声をかけ続けるが、いっこうにわかってくれそうには見えない。
「できれば一発で決めたかったな」
「まぁ、難しいのはわかってたさ」
再度ノーランへの攻撃に転じるために自分たちの方から視線を外すシリル。しかし、研ぎ澄まされているであろう彼の感覚ならば、自分たちが動くのもわかってしまうはず。二人はそう考えると、むやみやたらシリルに接近することができない。
「ノーランを助けて説得するか?」
「あのシリルからどうやって助けんだよ」
すでに虫の息であるノーラン。彼を救出し、シリルが混乱しているうちに説得する作戦を考えてみるが、そもそも今の自分たちでどうやってノーランを助けるのか、その策がなかったためこれは無理だと却下される。
「やっぱり力尽くしかないのか」
「あとは運頼みだな」
シリルが押さえ付けられるかどうか、確証はない。しかし、やるしかないと腹を括り、二人は少年の元へと突進していく。
「水竜の・・・鉤爪!!」
「がっ・・・」
宙に浮き上がった悪魔の体。彼は激痛に対し悲痛な叫びをあげることもできないほどに衰弱していた。
「水竜の・・・鉄拳!!」
「ぐっ・・・」
浮いているノーランの腹部に拳を叩き込むシリル。悪魔は拳が入ったその部位を押さえ、その場に倒れ込む。
「がっ・・・はっ・・・」
口から流れる血の量が明らかに増している悪魔は、悶えるだけで起き上がることができない。その悪魔の背中を、悪に染まりかけているシリルは思いきり踏みつける。
「やべぇ。このまま殺すのが惜しくなってきたよ」
以前レオンとジョゼを拷問した時のような感覚に襲われているシリル。しかし、彼の表情はその時のものとはまるで違う。ふざけているのが楽しいのではなく、相手が苦しんでいるのが楽しいといった顔をしている。
「もっともっと・・・いたぶってから殺してやるよ!!」
「がはっ・・・」
グリグリと踏みつけた後に背中を強く踏みつける。行動が徐々に悪い方向に向かっているのは明らかだった。
「雷竜方天戟!!」
「!?」
笑みを浮かべノーランをギリギリまで追い込んでいたシリル。そんな彼に雷で構成された巨大な戟が投げ込まれる。
「ふんっ」
シリルはそれに気付くと、手を振るってその戟をはたき落とす。その背後から、今度は深紅の髪の青年が向かってきていた。
「波動砲・・・球の章!!」
背後から魔法を放ち動きを止めようとするカミューニ。彼は少年が逃げることができぬよう、広範囲にその魔法を展開させていた。
「水竜の・・・」
だが、彼のその攻撃は・・・
「咆哮!!」
シリルの水と風のブレスにより、一瞬のうちに消滅させられてしまった。
「邪魔をするなって・・・言ってんだろ!!」
「「「ぐああああああああっ!!」」」
忠告したはずの二人に再度邪魔をされたシリルは、怒りの激昂を上げる。それにより少年の体から強い魔力の衝撃波が放たれ、ラクサスとカミューニ、そしてノーランは周囲の木々に叩き付けられる。
「ラクサスくん!!カミューニくん!!」
自分の大切な人を救おうとしている二人の青年が吹き飛ばされたことで心配して叫ぶセシリー。
「だ・・・大丈夫だ・・・」
「お前はお前がやれることをしてくれ・・・」
わずか一撃の攻撃・・・いや、ただ魔力を解放しただけなのに、何もできずに飛ばされてしまったラクサスとカミューニ。彼らはただでさえ体が痛んでいるのに、少年の怒りを秘めた力を受けたことで、さらに傷が増えていた。
「むちゃくちゃだな、今のあいつ」
「万全の俺らでもキツイぐらいかぁ?」
しかし、彼らは決して諦めたりしない。暴走していることで力が増しているシリルを、何とかして止めるために動き出そうとする。
「うぅ・・・」
「なんだ、まだ生きてるのかよ」
二人の視線に映るのは、木の根元で背を持たれかけ、グッタリと座り込んでいるノーランの髪を持ち、無理矢理立ち上がらせた少年の姿。
「もっと・・・もっと苦しんでから死にてぇのか!!」
「がっ・・・」
髪を掴まれた上に蓄積しているダメージも大きいノーランを強く握りしめた拳で殴打するシリル。返り血を浴びる少年を、さらに滅悪の模様が侵食を進めていた。
「ヤバい・・・時間が・・・」
シリルを悪の感情が支配するまでもう時間がない。カミューニは焦り頭をかきむしるが、打開策が見えずにただ苛立ちだけが募っていく。
「カミュ」
すると、隣にいる青年が自分を呼ぶ。それを受け、カミューニは彼に横目を向けている。
「もし今の俺がシリルの全力を喰らったら・・・どのくらい持つと思う?」
「あぁ!?」
唐突な質問に理解が追い付かなくなるカミューニ。しかし、彼はラクサスの言葉を咀嚼すると、顎に手を当て口を開く。
「まぁ・・・最悪瞬殺。よくて2、3分くらいか?」
シリルの魔力の感じから、大体の予想を口にするカミューニ。
「それが一体なん――――」
そこまで言いかけて、彼は隣に立つ友が、何をしようとしているのか悟った。
「ダメだ。それはやっちゃいけない」
顔をうつ向かせ、無謀な策に出ようとしているラクサスを止めようとする。
「まだ何も言ってねぇだろ」
「何を考えてるかわかるに決まってんだろ!!」
しらを切ろうとする青年の前に立ち、通せんぼをするカミューニ。彼は首を二度三度振った後、言葉を紡ぐ。
「シリルの攻撃を受けるなんか無理だ!!自殺行為以外の何者でもねぇよ!!」
ラクサスがやろうとしていること。それは、ノーランにトドメを刺そうとしたところを、自分が受け止め、シリルが彼を仕留めるのを止めるというものだった。
「それ以外に方法はねぇだろ」
「それでもだ!!」
もしラクサスがシリルの攻撃に割って入って止めたら、間違いなくシリルは事態を把握できず止まるであろう。その間に正気を取り戻させることができれば、おそらく彼の暴走は止められる。
しかし、カミューニの言う通り、死ぬ可能性も十分にある。もし急所で喰らったら・・・もし体を貫かれたら・・・彼を正気に戻す前にラクサスが死んだら・・・彼は間違いなく闇に落ちてしまう。
「安心しろ。俺だって死ぬ気はねぇ」
「死ぬぜ!!間違いなく!!」
ラクサスの言葉になおも食らい付くカミューニ。彼がこう言うのには、ある理由があった。
「もし即死は避けれても、ものの数分で息絶えるのは目に見えてる!!ここにはそれを治せる人間はいないんだぞ!!」
彼が最初に話した通り、シリルの全力を受ければもってせいぜい2、3分。それだけ持っても、ケガを治せる人物がこの場にいない状況では、即死と大して変わらないのである。
「何言ってんだ、カミュ」
「??」
必死に説得を試みるカミューニに、ラクサスはある人物を指さし笑みを見せる。
「シリルなら、治癒魔法を使えるだろう」
「!!」
水の滅竜魔導士であるシリル。それと同時に、彼は天空魔法もわずかながらに使うことができる。
さらに言えば、今はノーランによって埋め込まれた天空の滅悪魔法もある。それを使いこなせるのならば、彼の攻撃を受けた後に回復できるかもしれない。
「いや・・・やっぱりダメだ」
納得しかけたカミューニ。しかし、その考えはある問題により却下される。
「お前を殺しかけた後、どうやってシリルが持ち直せばいいんだ?」
ラクサスがシリルの攻撃を受け止めれば、シリルは困惑し動きが止まるだろう。だが、困惑したシリルが冷静さを取り戻すまで、ラクサスが持ちこたえられるかが問題なのである。
カミューニがそう疑問を述べると、ラクサスは彼の胸ぐらを思い切り掴む。
「んなもん、てめぇがなんとかすりゃいいだろ!!」
「他力本願かよ!?」
流れるように己の命を他者に預けようとするラクサス。そんな彼に思わず突っ込んでしまったが、それしか方法がないと思い直すと、一度大きくうなずく。
「頼むぜ、カミュ」
「死んだらただじゃおかねぇからな」
「任せろ」
そう言うと、ラクサスはノーランをいつまでも殴打し続けているシリルの方へと飛んでいった。友の命を背負ったカミューニは、手を合わせ、祈るように目を閉じていた。
「オラッ!!もっと苦痛に顔を歪ませろよ!!」
次から次へと繰り出されるシリルの拳。彼は相手の顎を打ち抜くと、悪魔はゆっくりと後ろに倒れていく。
(もう・・・無理だ・・・)
自らの実験道具にしたことで、逆に力を高める結果となった少年。彼に抗う術のないノーランは、死を覚悟し、殺意ある目を向けるシリルを見据えている。
「これで終わりだ」
渦のように右腕に水と風を纏わせていくシリル。魔力を溜め終えた彼は、大きくその腕を後ろに引いた。
「滅竜奥義!!」
少年が持っている最強にして最高の必殺技。彼は大切な恋人とその相棒が命を捨てる原因を作った男に、それを突き刺そうとした。
「水中海嵐舞!!」
悪魔の心の臓へと一直線に放たれたシリルの魔法。それがノーランを捉える刹那、間に割って入った青年の体に、それが突き刺さった。
ブシャッ
辺りに飛び散った血液。それは彼に守られた悪魔にも、それにトドメを刺そうとした少年にも降りかかった。
「え?ラクサスさん・・・なんで・・・」
先程から自分に向かって幾度となく攻撃を仕掛けてきた雷竜。そんな彼が、今度は敵である男を庇うように自分の魔法を受け止めたため、シリルは困惑していた。
動揺し、次々と攻撃を繰り出していた少年の手が止まる。それを見て、ラクサスは彼をそっと抱き締めた。
「バカヤロウ・・・そんなことしたら・・・ウェンディが悲しむだろうが・・・」
「え?」
口元から血を流すラクサス。彼の白くなりつつある顔をシリルは見上げる。
「忘れんなよ・・・お前は・・・一人じゃな――――」
そう言うと、ラクサスはその場に崩れ落ちる。
「ラクサスさん・・・?」
地面に伏せた仲間を見て、ことの重大さにようやく気付いたシリル。悪魔の模様に取り込まれつつあった彼は、わずかに残っていた善の心が強く現れ、目からボロボロと涙を溢す。
「ラクサスさ~ん!!」
その場にしゃがみこみ、雷の竜に手を伸ばすシリル。森に幼き竜の悲鳴にも似た叫びが響き渡った。
後書き
いかがだったでしょうか。
大魔闘演武ではガジルがシリルのために頑張ったけど、今回はラクサスが頑張ってくれました。
次でvs.ノーランは終了する予定です。
ページ上へ戻る