| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

バレンタイン爆弾

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

5部分:第五章


第五章

「それはどうしてなのかな」
「うん、実はね」
「実は?」
「これまではね」
 どうだったかというのだ。これまで彼女が作ってきたチョコレートはだ。
「宇大君の好きなものを作ってたのよ」
「ええと。それって」
「宇大君ガンダム好きよね」
 まずはそれからだった。
「それもゼータガンダムが一番好きって言ってたから」
「だからあれだったんだ」
「そうだったの」
 ゼータガンダムの模型そのままのチョコレートを作ってきた理由はそれだったのだ。
「あと動物だと鮫が好きだって言ってたし」
「で、シュモクザメだったんだ」
「蜘蛛はね」
「蜘蛛はあれかな」
「そう、あれ」
 そのあれが何かというと。
「仮面ライダーで一番好きなのは」
「うん、レンゲルだよ」
「レンゲルは蜘蛛だから」
「それで蜘蛛だったんだ」
「それにしたの」
 あの時の蜘蛛はそれだったというのだ。
「それでね。あの胸像だけれど」
「ハートね」
「宇大君があの漫画好きだから」
 言わずと知れた北斗の拳だ。最早古典的名作と言っていい。
 その漫画のだ。そのキャラにしたというのだ。
「いいかなって思って」
「全部俺の好きなものだったんだ」
「で、今度はね」
 今回のだ。和風のものはどうかというのだ。
「和風がいいっていうから」
「それで抹茶の」
「そうだったの。和風のチョコレートっていうとそれだって思って」
 今回はだ。まともなチョコレートになったのはそれが理由だった。紗江の感性がそれに当てはまったのだ。
 このことがわかってだ。さらにだった。
 宇大は紗江の想いもわかった。それで自然と微笑みだ。
 そのうえでだ。紗江に言った。
「それじゃあね」
「それじゃあって?」
「これからも。よかったらね」
 どうして欲しいかというのだった。
「俺にチョコレート作ってくれるかな」
「これからもなのね」
「うん、美味しいし」
 形はもうどうでもよくなっていた。そこに想いがあるとわかったからだ。
 そのうえで紗江に言ったのだった。
「だからこれからもさ。お願いするよ」
「わかったわ。じゃあバレンタインだけじゃなくて」
 それに加えてだった。期間限定でなくだ。
「時間があればいつもね」
「そうしてくれるんだ」
「私も。お菓子作るの好きだし」
 紗江の趣味でもあるのだ。それに加えてだった。
「宇大君が喜んでくれるなら」
「有り難う、じゃあ頼むよ」
 こうしてだった。宇大はだ。
 紗江のその心を知り最高のチョコレートを味わったのだった。そしてだ。
 このバレンタインの日は幸せに過ごせた。その彼にだ。
 友人達はだ。やれやれといった顔で突っ込むのだった。
「おいおい、昨日までのお通夜みたいな感じはどうなったんだよ」
「全然違うじゃないか」
「全く。急に変わったな」
「幸せになったな」
「ああ、もう形なんてどうでもよくなってな」 
 それでだとだ。笑顔で話す彼だった。
「いや、余計に美味く感じるな」
「一体何があったんだよ」
「どうしてそうなったんだろうな」
「まあいいことがあってな」 
 それが何かはもう言わない彼だった。それでだ。
 その幸せの中でだ。こんなことも言った。
「じゃあ今度のお菓子も楽しみにしておいてな」
「何かもうどうだか」
「お通夜の後はハネムーンか」
「バレンタインじゃないだろ、それは」
「どういうことなんだよ」
 友人達は呆れていた。しかしだ。
 彼等もそれでいてそんな宇大を見て自然に笑顔になった。彼の幸せを見てだ。
 暫くしてだ。紗江はまた宇大にお菓子を作ってきた。それはウルトラマンの怪獣ベムスターのケーキだった。顔や色まで忠実に再現されていた。彼のウルトラマン好きから作ったものだ。
 これまではどん引きした彼だが今はだった。そのベムスターのケーキを食べて言うのだった。
「美味いよ、とても」
「そう、じゃあまたね」
 作るとだ。紗江も応えてだった。
 そのうえで笑顔でいる二人だった。バレンタインの恐怖は一年通しての幸福に変わっていた。


バレンタイン爆弾   完


                  2012・1・5
 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧