英雄伝説~光と闇の軌跡~(零篇)
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第6話
外に出たロイドは風に当たっていた。
~クロスベル市・中央広場~
「ふう………いい風が吹いているな。………ん?」
外に出て周囲の景色を見ていたロイドは見覚えのある建物に気づいた。
「”ベルハイム”………そっか、ここから見えるのか。…………」
かつて自分が住んでいた建物――――”ベルハイム”を見つめたロイドは数年前の自分が今は亡き兄と談笑し、その傍で兄の恋人の女性とルファディエルが談笑しながら料理をしている風景を思い出した。
「はは………今はもう別の人が入ってるんだよな。セシル姉の実家はさすがに残ってるだろうけど………そうだ、おばさんたちにも後で挨拶しておかないと………」
(勿論、その時は私も一緒に挨拶するわ。)
(我輩を忘れるなよ、ロイド♪)
懐かしそうな表情になった後呟いたロイドの言葉を聞いたルファディエルとギレゼルはそれぞれロイドに念話に送った。
(ああ。…………あれから3年…………叔父さん家で厄介になった後、警察学校に入って…………ルファ姉やギレゼルに頼んで、がむしゃらに勉強と訓練をして捜査官の資格も取ったけど………結局、俺は………俺は………捜査官になって何がしたかったんだ………?)
2人の念話に頷いたロイドが考え込んでいたその時
「お~い!」
昼間に保護した子供達―――リュウとアンリがロイドに近づいてきた。
「君達は………」
「いや~、探しちゃったぜ。警察に行ったんだけど兄ちゃんたちはいないって言うじゃんか。」
「それで、この場所を教えてもらったんです。あの、ここが支援課ってところでいいんですよね?」
驚きの表情で自分達を見つめるロイドにリュウとアンリはそれぞれ説明をした。
「あ、ああ、そうだけど。どうしてわざわざ………?」
「い、いやさ……その、ちゃんとお礼を言ってなかったと思ってさ。」
「え…………」
そしてリュウの話を聞いたロイドは呆け
「お兄さんたちがいなかったらたぶん、ボクたち2人とも大ケガをしてたと思います。だからその………もう一度お礼を言おうって。」
アンリが自分達が来た説明をした。
「………そっか………2人とも、ありがとな。こんな時間に訪ねてきてくれて。」
「ま、まあ、アリオスさんと比べたらかなり頼りなかったけど………警察のお巡りにしたらなかなか見所あると思うぜ。実力不足は、これから頑張ればいいんじゃね?」
「ちょ、ちょっと、リュウ。お礼を言いにきたのになんだかエラそうだよ~。」
「ははっ………」
リュウの話を聞いたアンリは慌て、その様子を見ていたロイドは苦笑した後
「――――そうだな。これから精進すればいいか。そうだ、2人ともどこらへんに住んでるんだ?よかったら送って行くよ。」
静かな表情で頷いた後、提案した。
「ああ、へーきへーき。西通りだからすぐ近くだしさ。」
「えっと、ボクは住宅街の方だけど平気です。その、お姉さんや天使様達にもよろしく伝えといてください。」
「ああ、伝えておくよ。2人とも、気を付けて帰れよ。」
「おう!」
「それじゃ、さようなら!」
ロイドの言葉に笑顔で頷いた2人はロイドから去って行った。
「ハハ……俺も単純だなぁ。あんなお礼ひとつでこんなに気分が晴れるなんて………要は、自分自身の気持ちの持ち方しだいか………」
子供達を見送ったロイドは苦笑した後、迷いがなくなった表情になった。
―――いいか、ロイド。男だったら、目の前のものに体当たりでぶつかってみろ。てめえの心で、てめえだけの真実を掴みとってやるんだよ。そうすりゃ、てめえが何をしたいか見えてくるはずだ。
「…………………うん、そうだよな。」
そして今は亡き兄の言葉を思い出したロイドは静かに頷き、振り返って特務支援課の分室ビルを見つめ
「まずはぶつかってみないと何もわからないか………」
静かな表情で呟いた後ビルの中に入って行った。すると1階に備え付けてある通信器のベルが鳴っていた。
「通信器のベル………?…………はい、もしもし。えっと………こちらクロスベル警察、特務支援課・分室ビルです。」
「――――ロイド?その声はロイドね?」
ベルに気づいたロイドが通信器を取って話し始めると女性の声が聞こえて来た。
「なっ………セシル姉か!?」
女性の声―――セシルの声を聞いたロイドは驚いた。
「はあ、よかったぁ………警察の方に連絡したらこちらの番号を教えてもらったの。『特務支援課』だったかしら。そういう部署に配属になったのね?」
「あ、いや………まだ正式じゃないけどさ。それよりも、ごめん。本当はすぐにでもセシル姉に挨拶しに行きたかったんだけど………」
「ううん、気にしないで。私の方こそ、あなたを駅まで出迎えるべきだったのに………」
「それこそ気にしないでよ。ルファ姉も一緒にいるから大丈夫だし。それに仕事、忙しいんだろ?休暇が取れた時でもいいからさ。」
「ううっ、ロイドが冷たい………せっかく3年ぶりに再会するお姉ちゃんに対してなんて素っ気ないのかしら………………ルファディエルばっかりに構って酷いわ………ロイドの最初の”お姉ちゃん”は私なのに………」
「ああもう………何とか時間を作るからさ。それと、おばさんたちには明日にでも挨拶しに行くよ。」
(ふふ………ロイドに甘いところも相変わらずね………)
(かかかっ!常にロイドを甘やかしているお前がよくそんな台詞を言えるな。)
拗ねている様子のセシルの声を聞いたロイドは苦笑しながら話をし、ルファディエルは微笑み、ルファディエルの言葉を聞いたギレゼルは笑っていた。
「うん、そうね。お母さんたちもロイド達のことを凄く心配してたから………でも、ふふっ………嬉しいな。2人ともやっと………クロスベルに帰ってきたのね?」
「うん。――――ただいま、セシル姉。」
「おかえりなさい、ロイド。………そうだ。ルファディエルにも代わってもらっていいかしら?」
「うん、ちょっと待ってね。―――ルファ姉。」
セシルの声に頷いたロイドはルファディエルを召喚し、ルファディエルと通信を代わった。
「………久しぶりね、セシル。」
「ふふっ、貴女も元気そうで何よりだわ、ルファディエル。いつもロイドの事を見守ってくれてありがとう。」
「フフ………私もロイドの”お姉ちゃん”の一人だから当たり前の事をしているだけよ。………それよりロイドに聞いたわよ?数か月前に貴女、ようやく新しい恋人ができたってね。………ガイ以外を好きになるなんて、正直私も予想できなかったわ。」
(うっ………)
セシルとルファディエルの通信の会話を横で聞いていたロイドは図星を突かれた表情になった。
「ふふっ………ガイさんの事は吹っ切れているから私だって、新しい恋はするわよ。」
「あら………もしその事を知ったらロイド、かなりショックを受けると思うわよ?」
セシルの話を聞いたルファディエルはからかうような表情でロイドを見つめ
(セシル姉が何を言っているのか聞きたいような、聞きたくないような………)
見つめられたロイドは疲れた表情になっていた。
「あの子ももうすぐ大人になるから、大丈夫だし、今の私の恋人の事を知ったら、きっと祝福してくれるわ。」
「(………ロイドの気持ちに鈍感な所も相変わらずね………)……そう。それで気になったんだけど、今の貴女の恋人ってどんな男性かしら?同じ職場仲間かしら?」
「ううん。外国の人よ。」
「へえ………どこで出会ったの?」
セシルの話を聞いたルファディエルは意外そうな表情をして尋ねた。
「………どこで出会った………と聞かれたら、一応リベールになるかしら。」
「(一応?)リベール………旅行の最中とかで出会ったの?」
「うーん………まあ、そんな所ね。」
「そう………でも相手がリベールにいるのだったら、滅多に会えないんじゃないの?」
「ふふっ………心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ。それでも一か月に数回は会いに行ってるし………その度に愛してもらっているから私、幸せよ。」
「………随分行動的になったのね。機会が会ったら私達にも紹介してもらってもいいかしら?」
「ええ、いいわよ。あの人もロイドがどんな男の子なのか知りたがっていたから、いつか必ず紹介するわ。それじゃ、私も明日が早いから切るね。………これからもロイドの事をお願いね。」
「任せて。――――それじゃ、おやすみなさい、セシル。」
「おやすみなさい、ルファディエル。」
そしてセシルとの会話を終えたルファディエルは通信器を置いた。
「………セシル姉、今の恋人の人とどんな感じなんだ?」
「……今の恋人とはあまり会えないけど、1ヵ月に数回はセシル自ら会いに行っているそうよ。………それと新しい恋人と付き合いだしてから、”幸せ”って、言ってたわよ。」
「………そっか………よかった………」
ルファディエルの話を聞いたロイドは複雑そうな表情をした後、安堵の溜息を吐いた。
「……複雑かしら?ガイの婚約者であり、貴方にとって憧れの彼女が新しい恋を見つけた事に。」
「ハハ………ルファ姉には敵わないな………確かにルファ姉の言う通り、ちょっとだけ複雑だけど………ずっと兄貴の事を引きずって幸せになれずに生涯を閉じて欲しくなかったから、新しい恋を見つけてくれてほっとしているよ………ただ、ちょっとだけ気になっている事があるんだよな………」
ルファディエルに尋ねられたロイドは苦笑しながら答えた後、考え込み
「気になっている事?」
ロイドの言葉を聞いたルファディエルは尋ねた。
「うん………おばさん達から聞いたんだけどセシル姉、新しい恋人をおばさん達にまだ紹介していないし、新しい恋人と一緒に映った写真を一枚も持っていないんだ。話を聞いている限り、何度かデートもして、アクセサリーや服とかも買って貰っているようなんだけど……………」
「確かにそれは少しおかしいわね………ガイと恋人同士だった時、ガイの写真を常に携帯していたあの娘が新しい恋人の写真を一枚も持っていないなんてね………」
ロイドの説明を聞いたルファディエルは考え込んだ。
「それと………その買って貰った服やアクセサリーはかなりの高級品ばかりだって、教えてもらったんだ。………セシル姉が実家に置いていったアクセサリーの箱に書いてある値段を、セシル姉がいない間にたまたま見たらしいんだけど、セシル姉や兄貴や俺達―――普通の人達が何年も働いてようやく買えるほどの高価なアクセサリーばかりで、買って貰った服の中にはどこかのパーティーで着るようなドレスもあったって、おばさん達、言ってたんだ。」
「…………………高級品ばかりのプレゼント………けど、恋人の写真は一枚もない……ね。………まさかあの娘、妻がいるどこかの貴族の男性と不倫でもしているのかしら?」
「ええっ!?セ、セシル姉に限ってそんな事、ありえないよ………それにセシル姉の新しい恋人って確かリベールに住んでいるんだろう?リベールの貴族と言えば王家ぐらいだし………一般人のセシル姉が王家の人達と会える訳ないよ。」
ルファディエルの推測を聞いたロイドは驚いた後、苦笑しながら言った。
「――――いえ、まだ他にも貴族がいるわよ。それもリベール王家を超えるほどの。」
「へ………?」
そしてルファディエルの言葉を聞いたロイドは呆け
「このゼムリア大陸とは異なる世界の国――――メンフィル帝国。確か彼の国の皇家の一部の者達がリベール領内にある大使館に住んでいるはずよ。もし彼の国の皇家の誰かと付き合っていたなら、さっきの疑問にも納得がいくわ。一番の有力候補は………現在判明しているメンフィル皇家の男性の中でこのゼムリア大陸に滞在している事が多い男性―――”大陸最強”、”英雄王”、”覇王”、”闇王”、”魔王”、”剣皇”とさまざまな異名を持つメンフィルの前皇帝であり、現メンフィル大使――――リウイ・マーシルンかしら。」
「ま、まっさか~。第一、一般人のセシル姉がどうやったらメンフィル皇帝と会えるんだよ。それはさすがに考えすぎだと思うよ。」
ルファディエルの推測を聞いたロイドは苦笑しながら言った。
「………そうね。………さてと。貴方も明日に向けてそろそろ休んでおきなさい。」
「うん。」
その後ルファディエルを自分の身体に戻したロイドは自室に戻って身体を休めた。
そしてその翌日、ロイド達は課長室でセルゲイにそれぞれの答えを聞かれた………
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