会いたかった
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2部分:第二章
第二章
「それで何で君達が食べるんだよ」
「そう。だからね」
「そこはしっかりしてね」
「絶対にあの娘に渡しておくからね」
「ドーナツたっぷり買っておいてね」
「本当に食べないよね。君達で」
僕はそのことが気になった。
「いや、たっぷりっていうか」
「何よ、私達のこと信じないっていうの?」
「それって酷くない?」
「いやさ、確かにお見舞いでドーナツは買うよ」
何時の間にかこれが規定路線になっていた。本当に何時の間にか。
だがそれでもだった。僕は彼女達に言いたかったし実際に言った。
「けれどそれでもさ。彼女にちゃんと渡してね」
「わかってるわよ。神様に誓ってね」
「絶対にそうするから」
「だといいけれど」
答えながらもそれでもだった。後で学校に戻ってきた彼女に聞こうと思った。
「まあとにかくね。ドーナツ買ったらさ」
「こっちに来るのね」
「女子寮の門まで」
「うん、行くから」
学校を中間点にして女子寮が北ならミスタードーナツは南にある。距離にして一キロ異常はたっぷりある。ちなみにミスタードーナツのすぐ傍が駅だ。
距離はかなりあると言っていいしおまけに往復だ。それでもだった。
彼女のお見舞いなら距離はどうでもよかった。僕にしてもそのつもりだった。
それで僕は放課後にすぐにミスタードーナツに向かおうとした。部活は漫画研究会でそこで漫画ばかり読んでいるけれど今日はそれよりもだった。
彼女のことが大事だった。それですぐにまずはミスタードーナツに向かった。けれど。
ここでだった。校門を出ようとしたところでよりによって。
女子寮の寮長の先生に呼び止められた。先生はいきなりこう言ってきた。
「あの娘のお見舞いか?」
「えっ、まさか先生も」
「あの娘が風邪をひいたのは知ってるからな」
寮長先生として知らない筈がなかった。このことは。
「それであの娘のお見舞いを買いに今から行くのか」
「寮には入らないですから」
「あの寮に入られるとは思わないがな」
先生は僕の今の言葉には少し首を捻って述べた。女子寮のガードは固く窓はシャッターとカーテンで覆われお風呂場も見えない様になっている。
しかも壁の上には鉄条網だ。何処の自衛隊の基地かと思う。
勿論門からは簡単に迎えない。そんな極めつけのガードだ。
僕としても行けるとは思わない。それでこう先生に返した。
「あんなところ戦争でも挑まない限り突破は無理ですよ」
「それはそうだがな」
「そもそもそんなつもりないですから」
僕はこのことも言った。
「ただお見舞いの品を」
「女子寮には入られないとすると」
「寮生の女の子に渡しますから」
僕から先生に言った。
「女子寮の門で」
「だといいがな。じゃあな」
「お見舞い自体はいいんですね」
「そんなことを止めても仕方がないだろう」
先生もそこはわかってくれていた。
「大体止めても来るだろう、寮のところに」
「まあそれは」
「中に入らなければいいんだ」
あくまで中に、だった。
「そういうことだ。安心して行けばいい」
「すいません、それじゃあ」
「謝るもないしな」
「あっ、そうなんですか」
「間違ってもいないからな」
だからだと言ってくれた。確かに校則でも不純異性交遊は禁止されているけれど健全な異性交遊は何も制約されていない。同姓交遊に至っては不純でも制約がない。
「だから行くといい。それじゃあな」
「じゃあ今から」
こうしたやり取りを校門でしてからミスタードーナツに向かう。駅のところまで学校から少し行ったら一キロはある商店街を突っ切った。
それでやっと商店街の出口にあるミスタードーナツに入った。そこに入ると。
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