英雄伝説~光と闇の軌跡~(3rd篇)
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第104話
~第九星層~
「………おい……………リース……………しっかり…………せえ………」
「ん……ケビ……ン………?」
聞き覚えのある声を耳にし、気を失っていたリースは目を覚ました。
「……あ……」
目を覚ましたリースは自分がケビンの膝で介抱されている事に気づいた。また、裂け目に落ちた影響か、リースのフードはなくなっており、長い髪を腰までなびかせていた。
「………大丈夫か?身体の調子はどうや?」
「う、うん……大丈夫……みたいだけど。ケビン……どうして……わたし……裂け目から落ちて………それなのに……どうしてケビンまで………」
ケビンに尋ねられたリースは頷いた後、呆けた表情でケビンを見つめたその時
「このアホ……!」
ケビンはリースに怒鳴って、リースの額を指で軽く叩いた。
「………え…………………」
そしてリースは叩かれた場所に手を押さえて呆けていた。
「後先考えずにつまらん挑発かますな!やれるものならやってみろ!?たとえ何処に落とされようときっと生き延びる!?なにを根拠にそんなこと言えるねん!?」
「……で、でも………」
「お前、従騎士やろ!?判断力も実行力もない新米が勝手な判断で行動すんなや!それが守れへんのなら……いっそ騎士なんて止めてしまえ!」
「………………………………」
ケビンの叱責にリースは何も答えず、黙って聞いていたが
「……とまあ、ホントはそんな風に叱るところやけど。オレも人のこと言えへんし、今のデコピンで勘弁したるわ。」
ケビンは苦笑しながらリースを見つめて言った。
「………え…………」
そしてケビンはリースを地面に置いて立ち上がって周囲の景色を見つめて言った。
「見てみい、この光景を……これが”第九星層”や。」
「あ………」
ケビンが見つめる視線をリースが追って見つめると周囲は伝承で伝えられているような”煉獄”のような景色だった。
「……”煉獄”………」
「ああ、まさにそのものといった光景やな。そして………この光景を造り上げたのは多分、オレ自身なんやろ。」
「………あ…………」
「この”影の国”は人の想いが反映される世界……どういう理由でか……ルフィナ姉さんはこの地で甦った。姉さんの記憶と性格を持ちながらただオレを罰するための存在として。……そしてそれは確かにオレにとって何よりの『罰』やった。」
「…………………………」
静かな表情で語るケビンをリースは辛そうな表情で黙って、何も答えず見つめていた。
「オレは………確かに『罰』を望んでたんやろ。そして『罰』を受けることで全てが解決すると思い込んでいた。自分を犠牲にすることによってあの時の姉さんみたいにお前達を助けられるとも思った。でも……それは違ったんやな?」
「うん……あの時、姉様が自分を犠牲にしてケビンを助けたのだとしたら………多分、他にそれしか道が無かったからなんだと思う。気絶した私もいて……いったん退くわけにもいかず………誰か一人が犠牲になるしか本当に選択肢は無かったから………だから姉様はその道を選んだんだと思う。」
ケビンに見つめられたリースは頷いた後、真剣な表情で見つめて答えた。
「……ああ。姉さんは、単なる自己犠牲を良しとするような人やなかった。あらゆる手を尽くした上での最後で最良の決断だったんやろ。」
「でも……今回はあの時と同じじゃない。私もいれば、他の人もいる。力を合わせれば幾らだって他の道は見つかったはずなのに…………必死になって考えを出し合えば別の方法だってあったはずなのに……それなのにケビンは安易な道に逃げようとした………そうなんだよね?」
「ああ……どうやらその通りみたいや。よりにもよって”守護騎士”がこんな無様を晒してしまうとは………ハハッ……それこそ騎士失格もいいとこやな。」
「………………………」
自分の言葉に頷き、苦笑しているケビンをリースは静かな表情で見つめていた。
「ま、自分のヘタレさを悔やんでも仕方ないしな……よし、動けそうならとっとと出発するとしようか。」
「え………」
「なんや、目を丸くして。まさかオレが、この場に残って『罰』を受けるとでも思ったんか?」
「………それは………それに、ここに残って姉様を待つつもりかなって…………」
ケビンに問いかけられたリースは辛そうな表情で答えたが
「なあ、リース。………確かにオレは『罰』を望んでるのかもしれへん。あんな形であっても………姉さんと会えて嬉しいのも確かや。………だが、それとこれとは話が別や。お前を巻き込んだ時点でこんな所、一秒だって居られるか。足掻くだけ足掻いて何としてでも一緒に抜け出すぞ!」
「………あ…………うん……そうだね!」
決意の表情になったケビンの言葉を聞き、微笑んで頷いた。
フフ……どうやらなんとか持ち直したようですね………
その時、聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえて来た。
「へっ……!?」
「この声は……リタさん!?」
聞き覚えのある声―――リタの声を聞いたケビンとリースは驚いて周囲を見回した。するとケビンの背中に”聖痕”が現れた後、”聖痕”から”魔槍ドラブナ”が出てきて、そしてドラブナはケビン達の前に着地した後、リタが姿を見せた!
「んな!?オレの”聖痕”が……!一体何をやったんや、リタちゃん!?」
”聖痕”が顕れた事に気づいたケビンは驚いた後”聖痕”を消し、驚きの表情でリタを見つめて尋ねた。
「以前、私の魔槍―――ドラブナをその”聖痕”の力を使って、吸収して自分の力にしましたよね?今回はその逆をしたんです。あの時、ケビンさんが”聖痕”を発動したお蔭で”魔眼”による結界を超え、ケビンさんと共にこちらに来れたんです。」
「ハハ………”魔槍”自身に憑りつけるリタちゃんやからこそできる荒業やな…………今の状況やとホンマに助かるわ………ありがとう。リタちゃんも必ずここから抜け出させるから、力を貸してくれ!」
「フフ……”死者”の私にとってこの”煉獄”は力を与えてくれますから、任せて下さい。それと一時的とはいえ、”聖痕”と一体化したお蔭で私も”ロアの魔槍”を扱えるようになりました。」
「…………は?」
リタの説明を聞いたケビンは一瞬固まった後、呆けた表情で呟いた。
「あら、ちょうどいい獲物がいますね。見ていてください。」
そしてリタは自分達の目の前に近づいてきた”亡者”に気づき、詠唱をした!
「千の棘をもってその身に絶望を刻み、塵となって無明の闇に消えろ…………砕け!時の魔槍!!」
するとリタの周囲になんと無数の”ロアの魔槍”が召喚され、”亡者”達に襲い掛かって貫き、大爆発を起こして”亡者”達を消滅させた!
「……………」
「本当に”ロアの魔槍”を召喚して扱えるなんて…………」
リタが放った本来なら”聖痕”の力を解放して放つ事ができるはずのSクラフト―――魔槍ロアを見たケビンは口をパクパクさせて絶句し、リースは驚きの表情でリタを見つめていた。
「フフ……私は”魔槍”はドラブナ(これ)だけしか扱えないなんて言ってませんよ?過去の戦いでも他の”魔槍”を従わせて戦った事もありますし。ケビンさんの”聖痕”と一緒になった時に”ロアの魔槍”も従わせ、扱えるようにしました。以前よりもっと強くなりましたから期待していて下さいね?」
驚いている様子のケビンとリースにリタは可愛らしい微笑みを浮かべて答え
「ハ、ハハ………そりゃ、心強いな………」
リタの言葉を聞いたケビンは表情を引き攣らせて苦笑した。その後ケビン達が時折襲い掛かって来る亡者達を倒しながら進むと、ある声が聞こえて来た。
オオオオオオオオ………!
するとケビン達の行く先に肉体が腐敗した数体の亡者が現れ
けびん………ぐらはむ………ヨクモ………ヨクモ……ワタシヲ……………
亡者の一体が憎悪が籠った目でケビンを睨んでいた。
「え………!?」
「生前、ケビンさんと知り合った方なんですか?」
亡者の言葉を聞いたリースは驚き、リタは首を傾げてケビンに視線を向け
「なるほどな………オレが滅した”外法”か。」
視線を向けられたケビンは納得した様子で亡者を見つめた。
ソウダ………!ワタシノナハおーうぇん………!キサマニメッセラレタ……………サイショノギセイシャダ…………
「オ、オーウェン………?」
「典礼省の元司教………汚職で追放された逆恨みに猟兵を雇って”紫苑の家”を襲わせた張本人や。」
亡者の名を聞き不思議そうな表情をしているリースと警戒しているリタに説明するかのようにケビンは冷徹な眼差しで亡者―――オーウェンを睨んで説明した。
「……………あ………………」
「………なるほど。ある意味ルフィナさんを死なせる原因であった敵なのですね。」
そして説明を聞いたリースとリタは敵を睨んでいた。
「オレが”外法狩り”として最初に仕留めた獲物でもある。クク、まさかこんな場所で再び巡り会えるなんてなぁ………なあ、どんな感じや?灼熱の中で死ぬこともできずに”煉獄”を這いずり回る気持ちは。」
説明をしたケビンは凶悪な笑みを浮かべて敵を見つめて呟き
アツイ………クルシイ………ニクイ………ニクイ………アツイ………ニクイ………クルシイ………ニクイ………タスケテ………アツイ………ニクイ………クルシイ………タスケテ………アツイ………ニクイ………ニクイ………タスケテ……タスケテ………タスケテ………タスケテ………タスケテ………タスケテ………タスケテ………タスケテ………タスケテ………タスケテ………
「……………っ!」
「………………今、楽にしてあげる。」
オーウェンの怨念を聞いたリースは身体を震わせ、リタは静かな表情で戦いの構えをし
「ハハ、哀れなもんやな。まあいい………ずいぶんと苦しんだみたいやし、もう一ぺん引導を渡したるわ。」
ケビンは凶悪な笑みを浮かべてオーウェンを見つめて続け、武器をリースと共に構えた!
「熱さも痛みも苦しみもなく………ただ魂魄の塊となって永遠の安らぎを得るがいい!」
そしてケビン達は哀れなる亡者にして”外法”―――オーウェン達との戦闘を開始した……………!
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