魔界転生(幕末編)
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第57話 近藤勇の最後
土方達と別れた後、近藤もまた生き延び逃亡していた。が、すでに心身ともに疲れ果てていた。どういう訳か新撰組に入隊したいという者達がいて、結構な人数にはなってはいたが、最早連戦連敗でそういう者達の命が散っていく様に近藤は心を痛めていた。
(まったくもって不甲斐ない)
近藤は何度も唇をかみしめた。が、新政府軍の物量と規模にはなすすべもない。
「よく、この近藤について来てくれた。これより、隊を解散する。ここで、死ぬこともない。責任は私、近藤勇にある。よくぞ、ここまでついて来てくれた。礼を申す」
近藤は真っ黒い顔をした隊員の一人一人を見まわすように言った。
「隊長様はどうするんで?」
一人の若き隊員が近藤に聞いた。
「わしは・・・・・・」
近藤は言葉を選んだ。隊員たちを動揺させてはならないと思っていた。が、近藤の意志は固まっていた。降伏しようと。
「わしは、大丈夫だ。生きてまた君たちに再会できると信じている」
近藤はにこりと微笑んだ。その後、ちりじりになった部隊を見送ると近藤は新政府軍の元へと歩みだした。
「新撰組局長、近藤勇である。新政府軍に投降いたしたく参上した。責任者の方にお会いしたい」
近藤は堂々としたものだった。まさに負けた戦の大将という感じではなく、威風堂々。
兵隊たちはその姿に後ずさり退いた。
近藤はすぐさま縄で拘束され、牢に入れられた。
近藤を巡る白洲の判決は、かなりもめたという。が、坂本龍馬、中岡慎太郎両名の暗殺の首謀者とされ、武士でありながら、打ち首という判決が下された。
「あいわかり申した」
近藤は潔かった。判決を聞くなり目をつぶりゆっくりと頷いた。
内心理不尽を感じてはいた。何故なら、武士ならば切腹こそが本懐であるのにもかかわらず、打ち首などという全くの罪人扱い。
ただ単に徳川への忠誠と新撰組の誠の旗の下に行動したのにもかかわらず理不尽といえずになんというのか。ただ、自分の白洲に判決がもめたということを聞いた時は、わかってくれる者もいるのだなという救いがあった。そして、近藤は板橋にある刑場へと移された。
刑場はすごい人だかりだった。
なんせ新撰組局長・近藤勇の処刑というのだから、野次馬も多く押し寄せてくるのは、納得がいく。
近藤は罪人服を着て、ゆっくりと堂々と目線をまっすぐに見据え歩いていた。
その時、近藤の目に他の野次馬とは違う異様な雰囲気を醸し出す二人に目が行った。その二人に他の野次馬達は全く気付いているのかいないのかわからない様子ではあるところにも異様さが見て取れる。
(あ奴ら、何者だ?)
近藤の視線はじっとその二人を捉えて離さなかった。二人とも雨も降っていないのに編み傘を目深くかぶり、その表情は見て取れない。が、近藤にはなみなみならない妖気さえ感じる。
「これより、罪人・近藤勇の処刑を行う!!」
新政府軍の軍服を着た男が声を大にして野次馬に向かって言った。
(ざ、罪人だと!!俺はなんの罪を犯したというんだ!!)
近藤はぐっと唇をかんだ。その時、編み傘の一人の顔がちらりと見て取れた。
(な、なんだと?あれは俺じゃないか!!)
近藤は驚愕で目を大きく開いた。が、すべてを悟った。
近藤と目があったもう一人の自分はにやりと微笑んでいた。そして、その隣の男も真っ赤な唇を釣り上げて笑っている。
(なるほど、そういうことか、天草四朗時貞)
近藤は笑いをこらえるのに必死になった。
「さぁ、すっぱりとやるがいい。だが、貴様らの悪夢は終わらぬ」
近藤は含み笑いをしながら首を差出、はねられていった。
享年35歳。しかし、その後、野次馬の何人かが帰り際に奇妙な死を迎えたという。
それは、いつどこで誰にやられたのかわからない傷口だった。
背後から心臓へ一突きだったという。これは、歴史には記されてはいない。
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