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トスカ

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8部分:第二幕その一


第二幕その一

                第二幕  ファルネーゼ宮殿
 広い中庭を持つというローマ建築の主流であるローマ様式の建物。その中庭を多くの部屋が取り囲み各部屋には中庭に向かってロジックという独特の涼みの為の廊下が付けられている。大広間は上の階にありバルコニーと繋がっている。宮殿の正面はエジプトから取り寄せた花崗岩で造られた噴水が二つ置かれている。
 宮殿の大広間は多くの燭台で照らし出されておりその中を華やかに着飾った者達がいる。バルコニーの下にも灯火が輝き明るい広場をローマの市民達が埋めている。広間の中には演奏台や大姿見、テーブル、そして玉座が置かれている。テーブルでトランプに興じている者達がいる。
カプレオラ    「司教様、ローマは如何でしょうか」
 カードを切りながら向かい側の法衣の男に問う。
カプレオラ    「御気に召されましたかな」
司教       「はい」
 笑顔で頷く。
司教       「噂に違わぬ素晴らしい街でありますな」
カプレオラ    「(その言葉に満足して頷いて)この街は一度住むと離れられなくなるのです。完全に虜になってしまってね」
司教       「モンペリエをジャコビーニ達に追われた時にはどうなるかと思いましたが。ここに住んでいると一つのこと意外では何もかも満足できます」
カプレオラ    「その一つのこととは?」
 カードを止めて彼に問う。
司教       「カードで勝てないことです」
 笑って述べる。男爵もそれを聞いて思わず噴き出してしまった。
カプレオラ    「ははは、実はこれにはちょっとしたコツがあるのですよ」
司教       「ベルサイユのものでもなくモンペリエのものでもなく」
カプレオラ    「フランスのものだと思いますが。ある方に教えて頂いたものです」
司教       「ある方とは」
カプレオラ    「はい、その方とは」
 ここで赤い炎のような上着とそれと全く同じ色をのズボンを身に着けた小柄な男が二人の席のすぐ側を通り過ぎる。髪は茶色がかったか金である。
カプレオラ    「今の方です」
司教       「(その彼の姿を見て目を瞠って)今の方ですか」
カプレオラ    「はい、恐ろしく博識な方でね。何でも知っておられる方です」
司教       「そうですか、今の方がですか」
カプレオラ    「若しかしてお知り合いですか」
司教       「いえ」
 その問いには一旦首を横に振る。
司教       「そうではありませんが。何処かで御会いしたことがあるような気がしましたので。御名前は」
カプレオラ    「ザラストロ伯爵と仰います。この間ワイマールから来られた方でして」
司教       「ワイマールからですか」
カプレオラ    「はい、まだ四十程ですが非常に教養のある方です」
司教       「(そこまで聞いて納得したような声で)成程、ドイツの方ですか。ローマの方でもなく」
カプレオラ    「それでもローマのことにも随分とお詳しいですがね」
司教       「そうですか。それを聞いて安心しました」
カプレオラ    「ではカードでも」
司教       「はい」
 二人はカード遊びに入る。その時舞台のあちこちをせわしなく歩き回っている一人の男がいた。服装は立派だが外見は実に冴えない。
 そこにアルトゥーロがやって来る。急に彼に声をかけられびっくりした顔になる。
伯爵       「アッタヴァンティ侯爵、どうされたのですか?」
侯爵       「(慌てて伯爵に顔を向けて)何だ、侯爵ですか。どうしてこちらに」
伯爵       「オルロニア公爵夫人に頼まれごとがありまして。侯爵を呼んで頂きたいと」
侯爵       「(怯える顔で)私をですか」
伯爵       「はい、あちらにおられますので。案内致します」
 舞台の端に行くとそこに金髪碧眼長身の美女がいる。そこで意味ありげな微笑みを浮かべて一人で立っていた。白いドレスがよく似合っている。
 
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