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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~ 戦争回避成功ルート

作者:sorano
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第97話

3月13日――――



翌日、”最後の自由行動日”で生徒会の依頼の消化を終えた後士官学院内を歩き回っていたリィンは旧校舎へと足を向けた。



~トールズ士官学院・旧校舎~



(旧校舎か……ここから全てが始まったんだな……)

「おっと、いたいた。」

「え……」

リィンが旧校舎を見つめて物思いにふけっていると、トヴァルがリィンに近づいてきた。

「トヴァルさん……!?」

「はは、久しぶりだな。」

「……お久しぶりです。どうしてここに……俺に用事でもあったんですか?」

「いや、仕事絡みでサラやミヒュトに会いに来たんだ。ついでにお前さんの顔も見ておきたいと思ってな。後姿を遠目で見かけたんで追いかけたってわけさ。」

リィンに学院に来訪した理由を説明したトヴァルは旧校舎に気付くと旧校舎や周囲を一通り見回した。



「騎神が封印されていた士官学院の旧校舎ってヤツか。サラやエステル達から話は聞いてたが……なかなかの雰囲気じゃないか。何か用事でもあるのか?」

「いえ……その。もうすぐ学院を去りますから、最後に見ておきたかったんです。この旧校舎から俺達の全てが始まりましたから。」

「なるほどな……」

「それよりも教官から聞きましたけどトヴァルさんもかなり、忙しくしているみたいですね。ようやく一段落ですか?」

「はは、まあな。……エレボニアの新しい臨時宰相のお蔭で撤退した支部が復活したから更に忙しくなる上、俺はしばらく遊撃士を休職するからな。その前にやれるだけの事はやっておきたかったんだ。」

「来月の入学式に結成される”新たなⅦ組の担任教官”ですね。その……前から聞こうと思っていたのですがどうしてトヴァルさんが引き受ける事にしたのですか?」

ある事を思い出したリィンは不思議そうな表情でトヴァルに訊ねた。



「まあ、お前さん達”Ⅶ組”とは色々縁があった上世話にもなったからってのもあるが……一番の理由はオリヴァルト殿下から直々に頼まれたからだな。」

「オリヴァルト殿下が…………?―――!……もしかして来月に入学されて”Ⅶ組”のメンバーになられるセドリック殿下の関係ですか?」

「ハハ、中々鋭いな。顔見知りがいてくれた方がセドリック殿下も少しは安心なさるし、畏れ多い事だがオリヴァルト殿下は俺の事を信頼しているみたいだからな。正直分不相応だと思うんだが……」

「ハハ……トヴァルさんは内戦の際アルフィン殿下をエリスと一緒にユミルまで避難させてくれましたし、オリヴァルト殿下の西部での活動も補佐していたのですから、信頼される理由としては十分ですよ。」

「ハハ、さすがにそれは持ち上げすぎだぜ。」

「ああっ……!いらっしゃったわ!」

リィンがトヴァルと談笑していると聞き覚えのある少女の声が聞こえて来た。



「え。」

「って、この声―――」

声に気付いた二人が振り向くとアルフィン皇女とエリス、そして内戦の功績によって”少佐”に昇格したクレア少佐がリィン達に近づいてきた。

「エリス……アルフィン殿下も……!?それにクレア少佐まで……!」

「おいおい、魂消たな。」

「兄様、トヴァルさんも。ご無沙汰しております。」

「うふふ、まさかトヴァルさんまでいらしてたとは思いませんでしたわ。」

「えっと、一体どうして?」

二人の突然の訪問を不思議に思ったリィンは目を丸くして訊ねた。



「その、今日はトールズ士官学院の自由行動日ですから姫様が兄様にお会いすると仰いまして……」

「うふふ、わたくしはリィンさんの”妻”なのですから、夫であるリィンさんの学生生活最後の自由行動日くらいは共に過ごしたいと思ってもおかしくないでしょう?」

「そ、それは……」

「姫様!姫様と兄様はまだ夫婦の関係ではないでしょう!?」

微笑んだ後自分にウインクをしたアルフィン皇女の話を聞いたリィンは表情を引き攣らせ、エリスはアルフィン皇女を睨んで指摘したが

「あら、でも2か月後にはエリスはわたくしの事をアルフィン義姉(ねえ)様って呼ばなくちゃならないわよ?というか今から呼んでも構わないって何度も言っているじゃない♪」

「うっ……!」

アルフィン皇女の正論を聞くと疲れた表情で黙り込んだ。



「ハハ、相変わらず大胆不敵なお嬢様方だなぁ。ま、身の安全の心配はいらなそうだが。」

リィン達の様子を苦笑しながら見守っていたトヴァルはクレア少佐に視線を向けた。

「……恐縮です。あの件以来ですか……ご無沙汰しています。」

「ああ、こっちこそ。お互い色々あるがま、今日はいいだろう。」

「そうして頂けると。それと……お久しぶりですね、リィンさん。」

「はい。”ジュライロッジ”以来ですね。いつもエリスの護衛をして頂き、ありがとうございます。クレア少佐達―――”鉄道憲兵隊”の女性隊員の方々はアルフィン殿下の護衛の任もありますのにエリスの護衛までして頂いて恐縮です。」

トヴァルの言葉に頷いたクレア少佐に視線を向けられたリィンは会釈をした。



「いえ、私達は軍人として当然の義務を果たしているだけですし、リィンさんを含めた”シュバルツァー家”の方々には多大なるご迷惑をかけた上お世話にまでなったのですから、このくらいの事でしたらお安い御用です。(それよりリィンさんにお伝えしたい事があるのですが……)」

クレア少佐はリィンに近づいて声を小さくし

(何でしょうか?)

クレア少佐の小声の言葉が気になったリィンは不思議そうな表情で訊ねた。

(……お二人の護衛をしていて気付いたのですが、もしかしたらメンフィル帝国はエリスさんの為にエリスさんに対する処分をあの処分内容にしたのだと最近思うのです。あの処分は結果的にはエリスさんにとってよかったとしか思えないので……)

(え……ど、どういう事ですか?)

アルフィン皇女の付き人や学院を無理矢理辞めさせられるエリスの処分を”よかった”と判断している事が理解できなかったリィンは血相を変えてクレア少佐に訊ねた。



(………リィンさんもご存知かと思いますが”聖アストライア女学院”は貴族や資産家の令嬢の方々が通う女学院です。ですから当然その中にはメンフィルの”報復”―――バリアハート並びにオルディス占領の際に親族を亡くされた令嬢の方々も通っているのです。)

(あ…………もしかしてメンフィルとの戦争によって親や親戚が亡くなった女学院生達が親達が亡くなったのはエリス―――”シュバルツァー家”のせいだと思って、エリスを恨んでいるのでしょうか……?メンフィルとの戦争が勃発した一番の原因は貴族連合によるユミル襲撃である事が公表されましたし……)

クレア少佐の話を聞いてある事をすぐに察したリィンは辛そうな表情で訊ねた。

(いえ、そこまでは。男爵夫妻は猟兵達の襲撃によって負傷した上エリスさん自身も貴族連合によって誘拐されてメンフィルに救出されるまで幽閉され続けた事も公表されましたから、”被害者”であるエリスさんやシュバルツァー家を恨むのは筋違いである事は理解しているはずです。ですが頭で理解はしていても、彼女達はまだ子供ですからメンフィルの貴族であり、メンフィルとの戦争の原因となったユミルの領主のご息女であるエリスさんに対して色々と思う所があるようなのです。)

(…………もしかして逆恨みか八つ当たりでエリスを罵倒したり、エリスに危害を加えようとした生徒もいたのですか?)

(私達もその可能性を考えて警戒していたのですが、幸いにもそう言った事はありませんでした。恐らくアルフィン殿下がリィンさんに嫁ぐ事でシュバルツァー家にとってエレボニア皇家が親族になりますから、さすがにエレボニア皇家の親族に危害を加えると言った蛮勇ができる程の度胸は彼女達にはありませんし、エリスさん自身アルフィン殿下の付き人を辞めて女学院を今年度で去るという”処罰”をメンフィル帝国に命じられていた事も理由の一つかと思われます。)

(そうですか……エリスはその事は?)

(勿論存じていませんし、気付いておられる様子もありません。ただアルフィン殿下にはその事をお伝えしましたので、アルフィン殿下はエリスさんを守る為なのか常にエリスさんと共に行動しておられました。恐らく皇族である御自身がエリスさんの傍にいる事でエリスさんに対して色々思う所がある生徒達に対する睨みを利かせる為かと。)

(…………………その、どうしてアルフィン殿下にもその件をお伝えしたのですか?)

クレア少佐の話を聞いて複雑そうな表情をしていたリィンはクレア少佐に訊ねた。



(殿下からエリスさんや彼女の周りの事で何か気付いた事があれば、どのような些細な事でも報告して欲しいと頼まれていたのです。)

(アルフィン殿下がですか……!?)

(はい。『夏至祭やユミル襲撃でエレボニア皇族のわたくしが傍にいたせいでエリスには何度も危ない目に遭わせてしまいました。ですからせめてエリスの残り少ない学院生活を平穏無事に終えるようにする事がわたくしの”エレボニア皇女として果たすべき最後の義務”であり、エリスに対する”償い”なのです』と仰っておりました……)

(アルフィン殿下がそんな事を…………メンフィルとの戦争が勃発した時点でエリスは女学院から去る方がお互いの為にもよかったかもしれませんね……)

(はい……わだかまりを無くすには今はお互い離れて時間の経過と共に一端頭を冷やす事が一番良い方法であると私も思っています。)

複雑そうな表情をしているリィンをクレア少佐は心配そうな表情で見つめながら同意した。



「……大切な情報を話してくれてありがとうございました、クレア少佐。」

「いえ、誰よりも彼女を大切にしているリィンさんには教える義務がありますので。フフ、同じリィンさんを慕う女性としては少々灼けますけどね。」

「ク、クレア少佐。その…………俺にとってはクレア少佐もアリサやエリス達同様大切な女性です。それだけは覚えておいてください。」

クレア少佐に微笑まれたリィンは冷や汗をかいたがすぐに立ち直り、恥ずかしそうにクレア少佐から視線を逸らしながら答えていたが最後は正面からクレア少佐を見つめて答え

「リ、リィンさん……はい……!」

リィンの言葉に頬を赤らめたクレア少佐は嬉しそうな表情で頷いた。



「………………………」

(うふふ、クレア少佐も中々油断できないわね♪)

一方その様子をエリスは呆けた様子で見守り、アルフィン皇女はからかいの表情になり

(もう、兄様ったら……!相変わらず油断も隙もありませんね……!これ以上増やさない為にも私が姉様やアリサさん達の代わりに兄様を見張らないと……!)

エリスは頬を膨らませてリィンを見つめ

(やれやれ……相変わらず罪作りな男だねぇ。)

トヴァルは呆れた表情でリィン達を見守っていた。



その後リィンはアルフィン皇女達と共に”最後の自由行動日”を過ごした。そしてついに”最後の実技テスト”の日を迎えた…… 
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