トスカ
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4部分:第一幕その四
第一幕その四
トスカ 「他に誰かいたのではなくて?」
カヴァラドゥッシ「どうしてそう思うんだい?」
苦笑いを浮かべてトスカに問う。
トスカ 「扉を閉めていたからよ。逢引きをしていたのではなく?」
カヴァラドゥッシ「まさか」
笑ってそれを否定する。しかしトスカは食い下がる。
カヴァラドゥッシ「僕はそんなにもてないよ」
トスカ 「男の人は皆そう言うのよ。話し声が聞こえたし」
カヴァラドゥッシ「僕一人だったよ、ずっと」
トスカ 「本当かしら」
カヴァラドゥッシ「君に信じてもらわなくて誰に信じてもらうんだい」
トスカ 「貴方みたいな人誰も放ってはおかないもの」
カヴァラドゥッシ「男っていうのは恋人が思ってる程もてないよ」
トスカ 「だといいけれど。けれど私は違うわ」
じっとカヴァラドゥッシを見て言う。
トスカ 「そのお髭だって立派だし」
カヴァラドゥッシ「この髭がかい」
トスカ 「この前また司教様に言われたのよ。貴方のお髭を剃るように説得してくれって。一応は頷いたりもしたわ」
カヴァラドゥッシ「(不機嫌な苦笑いになって)やれやれ、またあの司教様かい」
トスカ 「そうよ、けれど私は嫌」
カヴァラドゥッシ「この髭が気に入ったんだね」
トスカ 「そうよ、このお髭があるから貴方が好き。勿論他のところも」
じっと恋人を見詰めて言う。
トスカ 「今夜貴方の別邸に行っていいかしら」
カヴァラドゥッシ「屋敷でなくてかい」
トスカ 「ええ、あの別邸がいいわ。銀の星々が散りばめられた紫の空の下で赤や黄の花々、青い泉、そして緑の草達が芳しい香りで私達を誘っているあの別邸が」
カヴァラドゥッシ「わかったよ、じゃあそこでね」
トスカ 「それじゃあ今夜行くから」
カヴァラドゥッシ「あれ、今夜仕事はなかったんじゃ」
トスカ 「ファルネーゼ宮で歌うことになったの。短いカンタータだけれど」
カヴァラドゥッシ「ナポリから女王が来てるんだったね」
トスカ 「そうなの、陛下の為に。だから待ってね」
カヴァラドゥッシ「わかったよ、それじゃあ」
その言葉にこくりと頷く。
カヴァラドゥッシ「楽しみにさせてもらうよ」
トスカ 「朝になったらヴェネツィアに発つ準備をしましょう。次の契約地へね」
カヴァラドゥッシ「水の都にね」
トスカ 「ええ、今から楽しみなの。貴方と二人であの街に行くことが」
カヴァラドゥッシ「僕もこの仕事を終わらせるとするか」
中央のあの巨大な絵を見て言う。
カヴァラドゥッシ「心置きなくヴェネツィアに行けるようにね」
トスカ 「あら、この絵は」
カヴァラドゥッシ「マグダラのマリアだよ。どうかな」
トスカ 「(不機嫌な顔になって)あまり好きになれないわ」
カヴァラドゥッシ「それはまたどうしてだい?」
トスカ 「だって金髪に青い瞳だから。茶色の髪と黒い瞳じゃなければ駄目よ」
カヴァラドゥッシ「おいおい、それは君のことじゃないか」
トスカ 「それでもよ。私はそうじゃなければ駄目なのよ」
カヴァラドゥッシ「(苦笑いを深めて)全く、君らしいというか」
トスカ 「悪いかしら」
カヴァラドゥッシ「いや、別に」
トスカ 「そう。それにしても何か」
まじまじと絵を見やる。
トスカ 「誰かに似た絵ね」
カヴァラドゥッシ「マルケサをモデルにしたんだ」
トスカ 「マルケサ!?アッタヴァンティ侯爵夫人のことね」
カヴァラドゥッシ「そうだよ、彼女は幼馴染だしよく知ってるしね」
トスカ 「マリオ・・・・・・」
見る見るうちに不機嫌な顔になって彼に問うてくる。
トスカ 「貴方ひょっとして」
カヴァラドゥッシ「ちょっと待ってくれフローリア、彼女は単なる幼馴染だよ。それでどうして」
トスカ 「わかったものじゃないわ。あの人は美人だし情友までいらっしゃるもの。貴方とも何時情友の関係になるかわかったものじゃないわ」
カヴァラドゥッシ「そんな馬鹿な。僕にとっては妹みたいな存在なのに」
トスカ 「本当かしら」
カヴァラドゥッシ「本当だよ。信じてくれないのかい?」
トスカ 「そうね」
ここで探る目を作る。そのうえで言う。
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