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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ハリー・ポッター】編
  150 〝生き残った女の子〟

SIDE アニー・リリー・ポッター

1991年7月31日の──ある意味約束されていたあの出会いから1ヶ月が過ぎたが、その1ヶ月は針の(むしろ)に居る様な気分でダーズリー家での生活を過ごした。

「9と3/4線…。9と3/4線…。9と3/4線…」

ロンドンのキングズ・クロス駅。そこでボクは、まず有り得ないだろう路線を呪文の様に呟きながら探す。

……端から見たら、その情景はそれなりに異様なのだろう──行き交う人達は変なものを見るかの様に見られているが、これから送れるであろうホグワーツでの生活に対して期待半分ボクの心情からして、そんな程度では羞恥心は全く沸かなかった。

持ち物は大きなトランク──そして、手の中には手汗で滲み、(しわ)が出来はじめた[9月1日午前11時──キングズ・クロス駅9と3/4線]と書かれている切符がある。

……ちなみに、キングス・クロス駅に送ってもらったバーノンおじさん達からは、まるで〝バケモノ〟でも見るかの様な目で見られたがそこは敢えてスルー。

閑話休題。

「9と3/4線──あったあった」

9番線と10番線の間をうろちょろしていれば、ボクと同じ様な様相を呈している少年少年達が改札口の柵に向かって行き──消えたのを見た。……ここまで来れば精神的な余裕も出てくる。

「あれから1ヶ月──か…」

今日の日付は年9月1日。約1ヶ月の、あの日あの時──7月31日の嵐の夜の事は今でも鮮明に思い出せる。……それほど〝彼〟との邂逅(かいこう)は衝撃的だったから。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「な──っ!!?」

(スネイプ──だと…?)

ギリギリのところで口に手を当てる事が出来た。てっきりハグリッドが迎えに来てくれると思っていたボクからしたら仰天モノだ。

「ふむ、そこで叫ばぬのは懸命な判断だと褒めておこう。……君がアニー・ポッターで間違いないかね?」

こくり、と頷く。

「私の名前はセブルス・スネイプ。……【ホグワーツ魔法魔術学校】で教鞭を執っている者だ。……ここまでで何か質問はあるかね?」

「……本当に魔法って存在するんですか」

「左様。……しかし詳しく説明している時間も惜しい。見せた方が早いだろう──“光よ(ルーモス)”」

そうスネイプは杖を振り、淡い光を灯す。……光量を絞ったのかダドリーが気付いた様子はない。

「ありがとうございます」

「“闇よ(ノックス)”」

スネイプはボクからの礼を聞いたのか、得意気に灯りを消した。
「ところで、〝こんなもの〟に見覚えないかね? 何通も──何通も届いているはずだが…」

今度は懐から茶封筒を取り出す。……それは実際に見覚えのあるもので、〝知識〟にもあるもだった。

「見覚えがあります。……でも全部おじさんとおばさんに処理されました」

「ほう…」

スネイプの目が細まるが、ボクは真人君みたく人の心情に聡くないのでスルー。

……でも、〝知識〟と〝(リリー)似なボクの外見〟を(あわ)せて考えてみると、スネイプ──〝リリー・エバンズ〟に初恋を拗らせたままのこの男が何を想ったかは何となく判りはするが…。

閑話休題。

「開けても?」

「構わん。そなたが開けなければ話も始まらん」

言われて──手早く封を切って、ざっと目を通していく。

――――――――――――――

ホグワーツ魔法魔術学校

校長 アルバス・ダンブルドア

マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員

――――――――――――――

親愛なるポッター殿

この度【ホグワーツ魔法魔術学校】にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお慶び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封致します。

新年は9月1日に始まります。7月31日必着でふくろう便にてお返事をお待ちしております。


敬具

副校長 ミネルバ・マクゴナガル

――――――――――――――

受け取り──開けてみれば、入っていたのはやはりホグワーツからの入学案内書。

「読んだな? ……さて、アニー・ポッター。そなたに選択肢を与えよう」

「選択肢──ですか」

「左様。一つ──〝この狭く苦しい世界〟で辛酸を嘗めながら暮らす。しかしその場合は今日有った事は忘れてもらう」

ボクは首がもげても構わない勢いで首を横に振る。……真人君がホグワーツに居るとは限らないが、もうこんな生活は沢山だった。

転生したのを自覚して以来、一番気が休まるのがフィッグばあさんのところだったと云えば、ボクが〝ダーズリー家〟でどんな扱いを受けていたか判ってもらえるだろう。

……流石に女なので、叩かれたり──殴られたりこそしないが、いつ爆発するか判らない地雷源で細心の注意を巡らしながら暮らすよりは、フィッグばあさんと一緒に猫の世話をしている方が幸せだった。

「二つ──我輩の手を取り、少なくともこの現状よりは光在る未来を選ぶ。……死んだ君の母と同じように」

〝父〟の名前が出なかったが、その心情もまた──〝知識〟的に判らないでもなかったが、藪蛇になりそうだったのでスルー。

……しかしスネイプはそんなボクの反応から(なにがし)かを感じたらしく…

「……もしや〝母の死の真相〟すら聞いていないと云うわけではあるまいな…?」

「……交通事故で亡くなったと聞いています」

〝ずももも〟、と効果音すら出そうな勢いでそう()いてくるスネイプに、以前ペチュニアおばさんに訊いていた〝両親の死に様〟を語る。……しかしスネイプからすれば、それは相当に〝おかんむり〟な話だったらしく…

「リリー・エバンズと〝あの〟ジェームズ・ポッターがマグルの乗り物で死亡──だと…? ……マグル共め…っ、なんたる侮辱か…っ!!」

――ピシャァァン!

その雷鳴はスネイプの激情の発露だったのかもしれない。……言葉の端から父──ジェームズ・ポッターを認めていたのも何となくたが感じられたが、やはり藪蛇になることが確実そうなので丁重にスルー。

……そして自分の気が逆立っていたのを自覚したのか、スネイプは「……失礼した」と一言断ると話題を転換してきた。

「……さて──それはそうと、これは私見ではあるが、君には優れた魔女になれる才能がある。……そんな君がこんな寂れた場所で潰えていく様は見たくはないのでね──君には是非とも我輩の意見としては君に手を取ってもらいたい」

そう手を差し伸べてくれているスネイプに、気になった事を()いてみる事に。

「……その〝才〟を磨くのが【ホグワーツ魔法魔術学校】と云うわけですか?」

「左様」

「もう一つだけ訊かせて下さい。……学生のスタートラインは皆一緒なのですか?」

「一部親等から英才教育を受けている者も中には居るが、今となっては君の様な〝マグル〟の家庭──魔法使いでない家庭の者の出も大勢居る」

「そうですか…。……だったらボクを──」

ボクはスネイプ──スネイプ先生の言葉に納得して、先生の手を取ろうとした。……その時だった、ボクからしたら聞き覚えがありすぎる──しゃがれた、尊大な態度の怒号が聞こえたのは。

――「その娘から離れろ!」

怒号が聞こえた方に目を向けると、猟銃をスネイプ先生に向けたおじの姿が。怒りの余りか、頬をこれでもかと紅潮させている。……しかしスネイプ先生の行動はバーノンおじさんの指が引き金に掛かるより速かった。

「“武器よ去れ(エクスペリアームス)”。……これだから野蛮なマグルは」

〝やれやれ〟とでも言いたげに〝武装解除〟の呪文でおじさんが持っていた猟銃を吹き飛ばす。……すると今度は、ダーズリー家で一番〝当たり〟が強かった人物が甲高い声を上げた。

「止めて! ……今度は姉さんだけじゃなくて、その()まで連れて行くのっ!?」

「……〝魔法界側(こちら)〟に来ることを選んだのは〝彼女〟で──そして、彼女だ」

ペチュニアおばさんがその場に崩れ落ちるのを見ながらスネイプ先生の手をとる。……今日の日付は1991年の7月31日。〝アニー・ポッターとして〟の11回目の誕生日。奇しくも、その日が〝魔女アニー・ポッター〟が生まれた日にもなった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「空き、見っけ」

元が日本人ゆえの〝時間前行動〟が幸いしたのか、空いているコンパートメントは直ぐに見つかった。

あの掘っ立て小屋からはスネイプ先生に〝付き添い姿現し〟で連れ出してもらい──ダイアゴン横町での買い物の際には、一部の界隈ではネタに事欠かないマルフォイに会ったりした。

……が、〝ハリー・ポッター〟と同じく、前髪で〝例の傷痕〟を隠していた所為か、ボクが〝名前を呼んではいけない例のあの人から生き残った少女〟だと云う事にマルフォイは気付かなかったようで、大したアクションも無かった。

後、違いがあったとすれば──銀行(グリンゴッツ)へは、“賢者”行きこそしたがスネイプ先生が“賢者の石”を回収した様子はなかった。……ボクの前からスネイプ先生が消えたりとかはなかったので、ダンブルドアからの信頼がより(あつ)いハグリッドが回収に行ったのだろう。

――コンコンコンコン

「はい」

10分か20分かは──正確な時間こそ定かではないが、コンパートメントに入り一息吐()けた頃、控え目にノックされたので、ほぼ無意識に返事をしてしまう。

「……っ!」

ガラリ、と扉は開かれ──入室してきた〝赤毛の少年〟を見て驚愕する。

「コンパートメントに空きが無かったんだ──うぉっ!?

「真人君っ!」

「……円…」

ドアが閉まりきる前に、入室してきた〝赤毛の少年〟へと飛び付いていた。〝特典〟もあって──その少年が真人君だと云うのは、見た瞬間に判った。

……真人君もまた、ボクが〝一 円〟である事に気付いているらしい。……ボクの名前を呼んだ時、語尾に疑問符は付いていなかった。その事から類推するに、〝疑問〟と云うよりかは〝確信〟だったのだろう。

前世(まえ)よりも性別やら何やらの殆どが変わってしまっていると云うのに、真人君はボクが〝一 円〟だと云う事に一発で気付いてくれた。……その事実がボクの気分を舞い上がらせる。

(これから始まるんだ…)

それはきっと、【アニー・ポッター】の──〝もう既に〝知識通り〟にいかない事が確定したどこぞの≪闇の帝王≫との戦い〟のゴングが鳴った瞬間だったのかもしれない。

(……やっと会えた…)

それでも、今だけはその喜びに身を委ねた。

SIDE END 
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