トスカ
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27部分:第五幕その一
第五幕その一
第五幕 サン=タンジェロ城屋上
礼拝堂。ここに一人の男がランタンを持ってやって来る。この城の看守である。彼が扉を開けようとする間に遠くから牧童の歌声が聞こえてくる。
風が動かす木の葉程多くの溜息を僕は貴女に送ろう
だが貴女はそんな僕を意に介さず僕はそれを悲しむ
ああ、そんな僕を慰める金のランプよ、御前の優しい灯も僕の心を癒せない130
看守はその歌声を聴きながら礼拝堂の中に入りそこの椅子の一つに青い上着を掛けて座ったまま眠っているカヴァラドゥッシに声をかける。前の机には手紙が二通ある。
看守 「子爵、起きて下さい」
カヴァラドゥッシ「(その言葉に目を覚まして)少し早いのじゃないのかい?」
看守 「一時間あります。司祭様が貴方の最後の御祈りをお待ちです」
カヴァラドゥッシ「それは要らないって言わなかったかい?」
苦笑いを浮かべて看守に言う。
カヴァラドゥッシ「夜にも断ったし」
看守 「それが決まりですので」
カヴァラドゥッシ「そうか。でもいらないよ」
看守 「左様ですか」
カヴァラドゥッシ「ただ。ちょっと待って」
看守 「何でしょうか」
カヴァラドゥッシ「兄はどうしているかな。知っているかな」
看守 「伯爵でしたら停戦協定を結ばれる為にマレンゴに」
カヴァラドゥッシ「(その言葉を聞いて安心した顔になって)そう、じゃあこれを安心して渡せるな」
看守 「(カヴァラドゥッシが差し出してきた手紙を見て)この手紙は?」
カヴァラドゥッシ「兄への最後の手紙さ。こんなこともあろうかと前々から考えていたんだ。今その時になったけれどね」
ここでもう一通の手紙も差し出す。
カヴァラドゥッシ「そしてもう一通」
看守 「こちらの手紙は」
カヴァラドゥッシ「フローリアへ」
看守 「トスカさんにですか」
カヴァラドゥッシ「これも別れの手紙さ。悪いけれど二人に届けてくれるかな」
看守 「わかりました、それでは」
カヴァラドゥッシ「有り難う。これは御礼だよ」
指にあったルビーの指輪を外して彼に手渡す。看守はそれを見て目を丸くさせる。
看守 「宜しいのですか?このような」
カヴァラドゥッシ「もう僕は死を待つ身、それなのに持っていても意味がないじゃないか?」
笑ってこう述べる。
カヴァラドゥッシ「気にしないでいいからチップだと思って受け取ってよ」
看守 「わかりました。それでは」
カヴァラドゥッシ「じゃあ手紙はことは頼んだよ」
看守 「はい」
こうして看守は去る。カヴァラドゥッシは一人になると座ったまま呟く。
カヴァラドゥッシ「夜空に無数の星達が輝いていてそこで香しい花々と草木の香りを楽しみながら彼女と一緒にいたな。おっといけない」
また苦笑いになった。
カヴァラドゥッシ「まだこの世に未練があるのかな。絵とアンジェロッティのことが気懸かりだけれど絵は何時か僕の志を受け継ぐ誰かが完成させてくれるのを祈るとすうrか。アンジェロッティ・・・・・・君は生きていてくれ」
そう言うとまた眠りに入る。しかしそこにスポレッタが来て彼の右肩に手を置いて揺り動かしてきた。そうして彼に言うのだった。
スポレッタ 「子爵、子爵」
カヴァラドゥッシ「(目を覚ましそのスポレッタに顔を向けて)ああ警部、貴方でしたか。私により深い眠りを知らせてくれる為にここに来られたのですかな」
スポレッタ 「いえ」
首を横に振ってそれを否定する。
スポレッタ 「貴方に御会いしたい方がおられまして」
カヴァラドゥッシ「僕にかい」
スポレッタ 「その方の名を御聞きになれば貴方も是非御会いになりたいと思われるかと存じますが」
カヴァラドゥッシ「フローリアかい?」
スポレッタ 「そうです」
こくりと頷いて答える。
スポレッタ 「どうされますか?会われますか?」
カヴァラドゥッシ「できれば会いたいね」
その言葉に頷いて答える。
カヴァラドゥッシ「できればだけれど」
スポレッタ 「わかりました、それでは」
扉の方に顔を向けてそこに控える警官の一人に声をかける。
スポレッタ 「トスカさんをここに」
その警官により扉が開けられるとそこからトスカが入って来てカヴァラドゥッシの方に来て駆け寄る。
トスカ 「マリオ!」
カヴァラドゥッシ「フローリア、本当に君なのか」
トスカを抱き締めながら問う。
カヴァラドゥッシ「どうしてここに」
トスカ 「そのお話は後で。それよりも御免なさい」
謝罪の言葉を申し訳なさそうに述べる。
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