魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Eipic4夢が生まれた日~Turning Point~
†††Sideアリサ†††
ロストロギア・“レリック”の回収を何とか終えたあたし達。途中で管理局のデータベースにも登録されてない機械兵器(カプセル型と三角形をした飛行機型)の襲撃を受けたけどね。ま、あたし達の敵じゃなかったわよ。
「転送ポートが見えて来た!」
『みなさん、お疲れ様でした。これでナビを終了します』
ここ第162観測指定世界とあたし達が乗って来た船・アースラとを繋ぐトランスポーターへと戻ってきた。大きなミッド式の魔法陣と、それを囲うような12本の石柱。まるで遺跡のよう。あたし達は「ありがとう!」ここまでナビゲートしてくれたシャリオにお礼を言いつつ地上へと降り立って、トランスポーターの上に立つ。
「こちら護送隊。全員無事に転送ポートに到着しました。転送処理をお願いしまーす!」
『はーい! 転送処理を開始するからじっとしててね~♪』
エイミィからの返答にあたし達はホッと一息吐いた。任務前にアリシアが、平和な任務だ~、なんて言っていたけどその実は結構なスリルを味わえたわね。相手は不足ありありの機械兵器だったけど、なのは達と久しぶりに共闘できたし。今のところはそれだけで十分よ。
『それじゃあ、転送開始するね』
魔法陣が一際強く輝いて視界を真っ白に染め上げる。そして一瞬の浮遊感を得た後、そこはもうアースラのエントランス。そこには「お疲れ様でした! ケースをお預かりいたします!」アースラスタッフ4人が敬礼してあたし達を出迎えてくれた。4人とも知らない顔で、月日が経ってることを思い知る。
「ありがとう。これがレリックの収められたケースになる。落としたところで何も問題はないと思うけど、扱いにはそれなりに気を使ってくれな」
「「はい!」」
ルシルとザフィーラがケースを男性局員2人に預けると、2人は「確かにお預かりいたしました」ケースを大事そうに抱えると、「失礼します」女性局員2人を伴って去って行った。去り際、リンディ艦ちょ――じゃなくて、リンディさんやエイミィ、アルフがレクリエーションルームで待ってるって教えてくれた。
「お腹減ったね~」
「母さんが腕によりを掛けて作ってくれてるはずだから、たくさん美味しい物食べられるよ」
「あー、こう疲れてる時にご飯が用意されてるとホンマに嬉しいわぁ~」
「ごっ飯~ごっ飯~♪」
「デザートがあるともっと嬉しいですぅ~」
まるで行進してるかのような足取りで先頭を往くアイリとリインを微笑ましく眺めながらあたし達も後に続いて、「護送隊全メンバー、ただいま戻りましたー!」帰還報告しつつレクリエーションルームに入る。中にはリンディさんとエイミィとアルフ、それにユーノも居て「おかえりなさい!」あたし達を出迎えてくれた。
「うわぁ、すごい料理の数! お母さん、1人で大変だったでしょ?」
「あぁ、その辺りはアコース君からの差し入れよ」
アリシアにリンディさんがそう返すと、「おお! ロッサの料理だぁ!」シャルは笑顔を浮かべて、「ロッサ、来ているんですか?」ルシルはそう訊き返した。リンディさんの話によると、クロノはトランスポートを使ってアースラから本局の研究施設へと“レリック”を護送する(あたし達はパーティ後、海鳴市に帰る予定)んだけど、アコース――ヴェロッサ・アコース査察官は義姉である騎士カリム(局じゃ少将の階級持ちだ)からのお願いで、警護員としてクロノに同行するって話だった。
「ささ。せっかくの差し入れが冷めちゃう前に頂きましょ♪」
リンディさんがパンパン手を叩く。確かにこの厚意を無駄にするなんてとんでもないバチが当たりそうだしね。あたし達は「いただきまーす!」手を合わせて挨拶して、思い思いに取り皿に料理をよそって頂く。てゆうか、アコース査察官の料理もめっちゃ美味いんだけど。ルシルの時にも味わったけど、男の人に家事能力、特に料理スキルで負けると結構ヘコむわね・・・。
「ほらほら、アリサも~」
1人暮らしになるだろうし、本格的に自炊の勉強でもしようかしら、なんて考えてたところにアリシアに袖を引っ張られながら呼ばれた。振り向けば、アリシア達がジュースが注がれたグラスを片手に「かんぱいしよ、かんぱい♪」そう誘ってきた。なのははユーノを誘っていて、はやてとシャルの2人はルシルを誘ってる。
「集合、集合♪」
アリシアの号令にあたし達は1ヵ所に集まって、「今日はお疲れ様でした! かんぱ~い!」アリシアの音頭であたし達は「お疲れ様~!」キィンとグラスを軽く当て合って、ジュースを飲む。アリシアはそれで満足したようで「よーし、食べるぞぉ~!」勢いよく料理を食べ始めた。あたし達も談笑しながら食事を楽しんでると・・・
「そう言えばフェイトちゃん。あの子たちの新しい写真ってある? みんなにも見せてあげようよ♪」
なのはがそう言うと、「あ、見たい!」すずかや、「お、ええな」はやてがフェイトの側に歩み寄る。そんな中で「あの子たち? なんの話だ?」シグナムが小首を傾げたから、「フェイトが仕事先で保護した子たちよ」あたしが軽く説明する。
「ほう。仕事と言うと執務官のか。確かお前が専門としているのは、ロストロギアの私的利用や違法研究などの捜査だったな」
「はい。事件に巻き込まれてしまった人や保護が必要だった子たちが、保護や救助した後にお礼の手紙や写真を送ってくれるんです」
「特に子供とかに好かれたりするんだよ♪」
「どちらかと言うとアリシアの方が人気があるよ」
フェイトが複数枚と展開したモニターには、小さな子供たちだけの写真やフェイトやアリシア、それにアルフと一緒に撮った写真、拙いフェイト達の似顔絵などなどが表示された。
「まぁアリシアは小せぇかんなぁ。似たり寄ったりのガキに好かれ易いんだろ」
「む。6年前は確かにヴィータとおんなじくらいだったけど。見て、今でははやて並に身長が高くなったし、おっぱいだってちゃんと育ってきてるもん。目標はとりあえず3人揃って同じサイズなフェイトとなのはとはやて」
「わっ?」
「きゃっ?」
「おっ?」
アリシアが見事なフットワークでなのは達の胸にタッチした後、「次にアリサ」あたしのところに来た。でも、そうそう容易く触らせてやるほどあたしは優しくはないわよ。にしても、いろいろと鈍臭かったアリシアもホント化けたわよね。軽快なフットワークで近付いてくる。けど、一度警戒モードに入ったあたしの「敵じゃないわよ」わざと隙を見せて誘い込んで・・・
「あんまーい!」
突っ込んで来たところで馬跳びの要領でアリシアを飛び越えて、「ひゃぁん!?」背後からアリシアのそれなりに大きくなってる胸を鷲掴み。そんで数回揉んでやれば「ふやぁ~・・・」落ちた。解放してやったら「つ、次は・・・第2位・・・シャル・・・」よろよろと立ち上がって、あたし達の様子を笑いながら眺めてたシャルをロックオン。
「お? このわたしを相手にやる? 腰抜けるまでやっちゃうよ?」
対するシャルはすんごい厭らしく両手をわきわき。当然アリシアは誤魔化すように口笛を吹きつつ目を逸らし、「第1位の・・・すずか~」に標的変更。学校組で一番胸が大きいのはすずかで、身長が一番高いのがフェイト。アリシアはそのどちらよりも大きくなりたいわけね。一応学校組で一番年上だし。
「ん、私? 良いよ、アリシアちゃん。どうぞ♪」
すずかが、んっ、て胸を突き出してアリシアを待った。すると「お、う、う、むぅ・・・」さすがに堂々とされると身構えるのかアリシアは戸惑って、そして「はぁ」溜息を吐いたかと思えば、「ペチャパイのルシルより膨らんでれば今はいいか」なんて言い捨てた。
「おい、待て。どうしてそこで俺の名前が出る。学校組でもなければ女でもないぞ」
「???」
「OK、判った。俺と遊びたいわけだ。今すぐトレーニングルームを使わせてもらおう」
首をコキコキ鳴らしながらルシルがこっちに向かって来る。これが結構な威圧感で、アリシアに最も近いあたしが「謝りなさい、今すぐ」忠告するとアリシアは「待って! 冗談、ジョーク!」両手を突き出してわたわた振って取り乱す。
「だってさっきからルシルってば写真を見ずにユーノと2人で、しかも隅っこで話してばかりなんだもん。なんの話してるのか判んないけどさ、もうちょっとこっちに関心持ってくれても良いんじゃない?」
アリシアは両手の人差し指をツンツン突き合わせながら頬を膨らませた。そういやユーノとルシルはこっちに来てないわね。アリシアにそう言われたルシルは「そっか。すまん」ちゃんと謝って、ユーノと一緒に「俺たちにも見せてくれ」あたし達のところへやって来た。
「みんな、良い笑顔だね。心から笑ってるって感じがする」
「それを思うと本当に悲しいな。強い魔力や先天性技能を持っている子はいつも犠牲になる側だ」
ルシルが悲しげな声色でそう言うと、1枚のモニターに映る子供たちを撫でるような仕草をした。なんだかんだ言ってルシルだって、はやてのために次元世界の犯罪者や管理局すら敵に回す、なんて超がいくつも付くほどのお人好しなのよね。
「でも、だからこそフェイトちゃんやアリシアちゃんが、助けてくれてる。だよね?」
「うん。だって・・・」
「子供が将来を見れず希望も抱けない世界なんて、大人だって悲しいし寂しいから」
それがフェイトとアリシアの原動力なのよね。2人の思いに感動してると「2度も試験に落ちた時はもうダメかと思ったがな」シグナムがからかい口調でそう言った。するとフェイトは「もう! シグナム、どうしてそう・・・!」脹れっ面になった。
「あぅ~、その時期には私にいろいろありましたし、その所為で多分な心配をさせちゃってましたし・・・」
「う~ん、実際なのはがあんなことになってなくても落ちてたと思う。ちょーむずかったし」
「「うん、むずかった」」
ガックリ肩を落とすフェイトとアリシア。執務官って役職はエリートだしね、そりゃ普通の状況でも落ちる時は落ちるもんよね。娘2人が暗い影落としてる中で「その点、はやてさんは上級キャリア試験に一度で合格して。本当にすごいわ」リンディさんがはやてを褒めた。
「い、いや、そんな! わたしの場合はタイミング的にも良かったですし、何よりレアスキル持ちってゆう特別措置もありましたし・・・」
フェイトとアリシアを気に掛けるようにチラチラ見ながらそう返すはやて。とりあえずあたしは「ま、これでも食べて元気出しなさい」アコース査察官の差し入れだっていう料理を3品くらい2人の取り皿によそって手渡した。
「「ありがと・・・」」
「でも上級キャリア試験に受かってホンマに良かったって思います。スキル持ちでスタンドアロンも出来る優秀な魔導師となると、結局は便利アイテム扱いですし。適材が適所に配置されるとも限りませんから。それをどうにかするための佐官までの近道である上級キャリア試験は無事突破。あと必要になる指揮官研修も受けてます」
「部隊指揮官かぁ~。なんか、あんな小さかったはやてちゃんが1つの部隊を丸々取り仕切る立場になるなんて。お姉さん、時の流れが早いことにビックリだよ」
「エイミィ、おばさんっぽい」
「ア~ル~フ~? だーれがおばさんだってぇ~?」
「いったー!」
余計なひと言を言ったアルフの頭に両拳でのグリグリ攻撃をするエイミィ。そんな2人を横目に「とりあえず今は準備期間で、しばらくは特捜官のままで渡り鳥状態ですわ」はやてが自分の状況に苦笑した。
「まぁ特捜官は任務によっていろんな部署に飛ばされるからな。しかしその分、多くのコネが出来るし、経験や経歴も積める。部隊指揮官になるにはあった方が良いものだ。しかしまぁ陸士部隊は縄張り争い意識が海や空より強い。そういう荒波に揉まれるのもまた価値のある経験になるだろう」
「あぁ、クロノ君も似たようなこと言うてたわ」
「実際、陸士部隊の縄張り意識って強いわよ。その所為で犯人追跡中に中断命令を受けることもあるし」
陸士部隊に所属する身として、地上部隊の窮屈さをはやてに話す。確かに管轄区っていうのはあって当然だと思う。けど管轄区を出た瞬間に引き継ぎも碌にしないで、ハイさよなら後は任せてね、ってふざけ過ぎだわ。しかも他の陸士部隊との情報共有すらしないって。バッカじゃないの?っていつも思うもの。
「にゃはは。とりあえずアリサちゃんは今の陸士部隊に不満を持ってるのは判ったよ」
「すごい熱弁だってね、アリサ」
「はい。ジュース」
「あんがと」
地上部隊への不平不満を熱く語っちゃったわ。すずかから受け取ったジュースを飲みほして、「ああもう。こんなテンション下がる話題は切り上げよ!」話題を変えるよう話を振る。
「じゃあ、今度のゴールデンウィークでの旅行についてはどうや♪」
「それ! そういうので良いのよ、こういう場ではね」
次のGWの連休を利用して、はやての指揮官研修先近くにある温泉地へ遊びに行く予定なのよね。休暇期間は4日で、なのはとフェイト、はやてとルシルとリインは初日から、あたしとすずかとシャル、それにアリシアとアルフは2日目のお昼頃に合流予定。シグナムたち八神家も緊急任務がなければ途中参加になる。
「ユーノ君はやっぱり行かないのかな?」
「いや、まぁ今回ばかりは女の子たちだけで。さすがに男1人でちょっと・・・。せめてもう1人、ルシルが居てくれたら考えたんだけど・・・。ルシルはどうせ行かないんだろ?」
「悪いな。ゴールデンウィークは管理局や次元世界には無い概念だからな~。その期間も残念ながら仕事だ」
「まぁそういうわけだから、女の子たちだけで楽しんできてね」
ユーノとルシルが肩を竦め合う。でも「え・・・?」あたし達はルシルの発言について小首を傾げた。するとルシルも「ん・・・?」小首を傾げた。
「ルシル君、休みなんやんね? アイリから休みを取ったって聴いてるから、ホテルの部屋も予約してるんやけど・・・」
「え?・・・はあ!? アイリ、なんの話だ! そんな話聞いていないぞ!」
「んや? そうだったっけ? 調査部にはアイリが休暇の申請をしたから、一緒に温泉に行こうね~って話したと思ったんだけど」
「マジか~、聞いてねぇ~・・・。課長たちからもそんな話出てなかったぞ~、おい」
アイリの奴、ルシルを上手いこと嵌めたわね。シャルがルシルのところまで行って「ま、そういうわけだから。一緒に楽しもうね~♪」ルシルの肩をポンッと叩いた。はい、これでルシルの参加は決定。そしてなのははユーノの肩を叩いて・・・
「ルシル君も参加だから、ユーノ君も一緒に来るよね♪ というか、こうなると判っていたから実は部屋も取ってあります!」
ニッコリ笑顔を浮かべた。ルシルが一緒に行くなら自分も行く。そう言ったユーノは「あはは・・・、はい」もう断る理由も無ければ言い訳も無用だわ。とまぁ、そういうわけでゴールデンウィークにはもう1度チーム海鳴として集まることになった。
†††Sideアリサ⇒ルシリオン†††
あぁ、未来を知っているというのも嫌なものだな。悲惨な出来事が起きると知りながらも、ある目的のために俺はわざと見過ごした。目の前に広がるのは火炎の海。燃えているのは臨海第8空港。原因は後に判ることになるが、ロストロギア・“レリック”が爆発したことによるものだ。
(なのはにスバルを救出させる。この運命はきっと外してはいけない・・・)
スバル・ナカジマ。俺が傷つけた女の子だ。彼女の母親であるクイントさんを護りきることが出来なかった。護ると、一緒に帰ってくると、約束したのに。だが俺はその約束を果たせなかった。彼女や姉であるギンガ、父親のナカジマ三佐からクイントさんを奪った。恨まれて当然だ。
「ユーノ君は負傷者の治療をお願い! 続々救助されて来るやろうから大変と思うけど・・・!」
「大丈夫! 遠慮も気遣いも無用だよ、はやて!」
災害担当課の部隊や空港のある区を担当する陸士部隊だけでは手が回らない程の大火災。ゆえにいつもは縄張り意識が高い所為で非協力が目立つ別の陸士隊も応援に駆け付け始めている。しかしそれでも圧倒的に人手が足らないし、火の回りがあまりにも激し過ぎた。
そんな中、チーム海鳴の同窓会旅行(この前は任務+パーティだった)現場近くに居た俺、はやて、なのは、フェイト、そしてユーノは、空港内に取り残されている要救助者の救助および消火活動を手伝うこととなった。
「ルシル君、なのはちゃん、フェイトちゃん。危険やけど施設内に突入して救助活動の手伝いをお願いするわ!」
「「「了解!」」」
はやては自分の部隊を持つための指揮官研修をしているため、そのまま臨時の前線指揮官として作戦に参加することとなった。はやての相棒であるリインもまた、彼女の補佐として頑張ってくれている。
(事件を見過ごした分、犠牲者は1人として出させない!)
あまりにも勝手な話だがな。それでも俺は自分勝手な道を歩むと決めたんだ。いつか・・・友達としてではなく局員としてのはやて達と衝突する未来が待っているかもしれないとしても。
「では任務開始や!」
「みなさん、お願いします!」
はやてとリインに見送られながら俺となのはとフェイトは空を翔け、「また後で!」散開して、それぞれ別ルートで轟々と燃え盛る空港へと突入する。俺はその前に、「通信本部。こちら本局03、ルシリオン・セインテスト」臨時に与えられたコードネームを使い、通信本部――移動指揮車に通信を入れる。
『はい、通信本部。どうしましたか』
「救助が済んで無人となっている区画を教えてほしい。救助と同時に消火を行いたい」
『っ! 了解しました。マップをお送りします。ですがあの、未発見の要救助者が居るかもしれないので・・・』
「無論きちんと確認してから行うよ。ありがとう」
海上スレスレを飛びつつ海水に俺の魔力を当て、「よし」支配下に置いた海水を引き連れて空港敷地内に到着っと。まず海面と陸地の境界に巨大な水球状の中継点――ポンプを空中に固定。馬鹿みたいに魔力を食うが、この中継点が消火活動の生命線になる。
「よしっ、行くか!」
中継点から海水を引き続けながら空港内に入る。そして炎が上がっている場所へと向かって高水圧の水流砲撃を放ち、弱い火なら即消火していく。激しい炎は少々時間が掛かるが、海から直接水を水を引いてぶち当てているためちゃんと消火できている。マップ的に第3セクターと呼ばれるエリアの完全消火に成功。それを報告しようとした時・・・
『本局03、応答願います』
「こちら本局03、どうぞ」
本部から通信が入った。通信の内容は、今から進もうとしていた第4セクターに要救助者が数名取り残されているが、火の回りが激しく救助部隊が進めないという。俺は「了解。至急向かいます」そう応じ、さらに第3セクターの消化が完了したことを報告。ついでに、そこから救助隊を進行させるよう進言。
『崩落の危険性とかはあらへんか?』
「確約は出来ないが、損傷レベルは低。問題なしと思われる。安全なルートは水を辿って来てくれれば判る」
『水・・・? どうゆうことや? ルシ――本局03』
「突入口から現在オレの居るところまで海から水を引いて来ているから、水を辿れば判る、というわけだ」
『っ! 了解。本局03はそのまま消火と同時に要救助者の救助をお願い!』
「了解だ」
はやてとの通信を切り、俺はそのまま第4セクターへと飛び立つ。中継点をいくつも作りつつ消火を繰り返し、ようやく第4セクターに到着した早々オレを待ち受けていたのは炎の壁。膨大な量の海水の砲撃で炎を捩じ伏せて消火しつつ、「見つけた!」要救助者5名を発見。しかし結構まずい状況だ。火の壁に囲まれ、今まさに呑み込まれようとしている。
「誰かー!」
「助けてー!」
「いやー、死にたくない!」
「ママー! パパー! お姉ちゃーん!」
「俺はここで死ぬのか・・・」
阿鼻叫喚。俺は「管理局です! 1ヵ所に集まってください!」助けに来たことを大声で伝えつつ追行してくる海水を操作。1ヵ所に集まったのを確認して、要救助者と炎の間に海水を割り込ませて壁とし、拡大させることで炎の壁を押し退けながら消火も行う。炎の壁だけでなく周囲の火にも水の砲撃を撃ち込んで消火していく。完全鎮火させたのを確認して・・・
「もう大丈夫ですよ」
5人に微笑みかける。5人は安堵の表情を浮かべ「ありがとうございます!」俺なんかに礼を言ってくれた。それから救助隊が到着するのを待ち、「ではお願いします」5人を預けた俺は、救助隊からの要請で数名の隊員を伴って消火と救助活動を再開。
『こちら通信本部。本局03、応答願います』
「こちら本局03、どうぞ」
『スバル・ナカジマという11歳の女の子を捜しています。姉のギンガ・ナカジマ13歳の話によると、エントランスホールで逸れたとのことですが、火災後の混乱で、現在どこに居るのか判明していません。捜索をよろしくお願いします』
確か先の次元世界では、ギンガはフェイトに救助されているはずだよな。そしてこのタイミングで『こちら本局01。スバル・ナカジマを救助しました』なのはからスバルを助け終えたと通信が入る、と。よし、順調だな。あとは残りの要救助者を救い出し、はやての凍結魔法で完全鎮火すれば、今回の大火災は終わりだ。
「こちら本局03。引き続き消火及び救助活動を行います」
『お、お願いいたします!』
それから俺は救助隊と共に何十人と救い出し、火災もはやての活躍でようやく完全に鎮火した。そして用意された弁当を夕食として頂き、事後処理ももう終わろうかという頃、「坊主!」聞き憶えのある呼び名が背後から掛けられた。振り向けばやはり「ナカジマ一尉・・・」が居た。
「はは。今じゃ三佐だ、陸士108部隊の部隊長になったんだよ。有言実行だろ?」
「そうですね。失礼しました、ゲンヤ・ナカジマ三佐」
彼と直接顔を合わせるのは随分と久しぶりになるな。ナカジマ三佐は俺の顔、正確には左目に掛けたモノクル型神器・“プロヴィデンス” を見て「まだ、左目は治ってねぇのかい?」悲しげな表情を浮かべた。
「ええ、まぁ。ですがもう左の視界が潰れているのも慣れましたし、大した問題はありません。それより、ギンガとスバルが巻き込まれたそうですが、2人の容体は・・・?」
「あ、ああ。多少煙を吸ったようだがそれだけで、入院することもないそうだ。高町嬢ちゃんとハラオウン嬢ちゃんに感謝しねぇとな」
「それは何よりです」
「・・・それとよ、話は変わるが。毎年、女房の墓に花を添えてくれているよな。ありがとよ」
「いえ・・・」
確実とは言えないがクイントさんは生きていると俺は考えている。葬式の時は知らなかったためにクイントさんの死に酷くショックを受けたが、プライソンを叩き潰すための調査の中で敬遠していたクイントさんの死亡した状況を調べた結果、もっと早く調べていれば、と後悔した。
(リボルバーナックルを装着したままの両腕しか見つかっていない・・・!)
棺に収められていたのは両腕だけ。なら他の身体はどこにある? プライソンの手元にあるに違いない。MIAのメガーヌさん、それと行方不明になっているルーテシア、リヴィアもまたそうだろう。プライソンとの本格的な衝突はそれ即ちクイントさん達を奪還する戦いでもある。しかしこれはあくまで俺の推測でしかないため、三佐たちには話せない。希望を持たせるわけにはいかない。今はまだ・・・。
『ルシル君。そろそろ撤退しよか』
「『了解。合流する』・・・ナカジマ三佐。自分はそろそろ・・・」
「お、そうかい。今日は本当にありがとうな、陸士部隊を代表して礼を言わせてくれ」
「いえ。これも管理局員としての仕事ですから」
三佐と敬礼し合って踵を返し、そのまま別れた。ギンガとスバルが今、俺のことをどう思っているかについては聞かないし、話されなかった。それが答えなんだろう。彼女たちはまだ幼い。まだ時間は掛かるだろうし、ずっと恨んでくれたままでもいい。負の感情もまた生きるのに必要なものだ。
「「「「お疲れ~」」」」
「ああ。お疲れ様」
はやてとなのはとフェイトとユーノ、4人と合流して互いを労い合う。そしてそのまま予約したというホテルへタクシーで向かう。夜も更け11時近くだったが無事にチェックイン。
「「「おやすみ~」」」
「うん。おやすみ」
「おやすみ。良い夢を」
はやてとなのはとフェイトが3人部屋へと向かうのを、俺とユーノは手を振りながら見送った。そして俺たちははやて達の部屋から3つ離れた部屋へ入る。
「疲れた~。魔力ももうカツカツだよ」
「ああ、俺もだ」
ユーノは運ばれてくる怪我人を何時間とぶっ通しで治癒魔法で治し、俺は魔力消費の激しい水流系魔法(魔術だったら記憶なんて何百と吹っ飛んでただろうな)を同じように何時間とぶっ通しで発動していた。
「温泉、どうする・・・?」
「あー、そんな気力は無いな。今日はもう即就寝。朝一でシャワー、温泉に入れる時間になったら入る。それでいい」
「同感。・・・ベッド、どっちが良い?」
「どっちでもOKだ。好きな方をどうぞ」
「じゃあ一番手前で。奥のベッドまで行く気力が無いよ。ごめん」
「いいさ。鍛えている」
はやて達、正確にはなのはの目の前では気丈に振る舞っていたユーノもとうとう千鳥足。フラフラとした足取りでベッドに向かい、「おやすみ~」そのまま横になってすぐに寝息を立て始めた。俺も奥のベッドに腰掛けて、外した“プロヴィデンス”をベッド間のナイトテーブルに置く。そして、アイリ以外の誰にも話していない、見せていない“秘密”を解除。
「ユーノが起きる前にまた使えばいいだろう・・・」
念のために備え付けの時計のタイマーをセット。仰向けに倒れ込んで目を閉じると、「おやすみ・・・」すぐに眠りにつけた。
≪PiPiPi≫
「・・・ん・・・ぅあ・・・朝・・・か」
ちゃんとタイマー通りに起きられたな。ユーノを起こさないためにすぐに切り、俺の“秘密”を隠すための魔法を発動。それから“プロヴィデンス”を手に洗面所へ。洗顔などの身だしなみを整え、もはや気休め程度の“プロヴィデンス”を左目に掛ける。
「よしっ」
その後はナイトテーブルの上に置かれたメモ帳に、朝食を摂りに行く、カードキーを預かる、という旨を書き残しておく。そして部屋を出、すでに開店しているレストランへと向かうためにエレベーターを使って2階へ。時刻は午前8時14分。まだ朝早いということで他の宿泊客は疎らだ。
「おはようございます。お席にご案内させていただきます」
「おはよう、お願いするよ」
レストラン入り口で待ち構えていたグリーター(レストランやラウンジで客を出迎え、テーブルまでご案内する係だな)に案内されたのはパノラマウィンドウ近くの席。グリーターは「ごゆっくりどうぞ」と言い残して入口へ戻って行った。
「とりあえず糖分が欲しいな」
席に着くとテーブル上にメニューが記されたモニターが展開され、俺はパンケーキとカフェラテの写真をタップして、最後にオーダーというパネルをタップ。これで注文完了だ。待つこと数分、「お待たせいたしました」ウェイトレスが俺の頼んだパンケーキとカフェラテを運んで来てくれた。テーブルに置いて去っていくウェイトレスを見送り、「いただきます」早速頂く。
「あ、ルシル君! おはよう!」
「「おはよう!」」
パンケーキを食べ終え、カフェラテのお替りを頂いているところで「あぁ、おはよう」私服姿のはやて、なのは、フェイトに挨拶を返す。グリーターの案内で近くの4人がけテーブルに案内された3人と、良く眠れたか?とか、ユーノはまだ眠っている、などと談笑していると・・・
「あんなルシル君」
はやてが突然真剣な表情となって俺の名を呼んだ。その声色に俺もカフェラテを飲むのを中断して「なんだ?」話を窺う姿勢を取った。
「わたしな、今回の一件でより強く思うようになったんよ。わたしの部隊を持ちたい、って。何につけてもミッド地上の管理局部隊が動き出すまであまりにも遅すぎるんよ。今回のような災害救助も、犯罪対策も、発見されたロストロギアへの対策も、そのどれもがや」
「うん。それで?」
「縄張り意識とか無駄の多い手続きとかで後手に回ってばっかで、被害をいたずらに拡大させてるんが現状や。そんな地上部隊を変える切っ掛けとして、少数精鋭のエキスパート部隊をわたしは造りたい。それで成果を徐々にでもええから上げてったら、上層部も少しは考えを改めると思う」
「私とフェイトちゃんは、はやてちゃんのその願いを叶えたい。どうしても」
「うん。だから私たちは、はやての造る部隊に参加するつもりなんだ」
あぁ、そうなのか。こうして機動六課設立へと向かうのか。先の次元世界では話を聞いただけだったしな。俺は「賛成だよ、俺も応援するよ」何故か緊張しているはやて達に微笑みかけると、「うんっ、ありがとう!」ホッとして満面の笑顔を浮かべた。
「はやては本当に優秀だから、確実に部隊は造れるだろう。だが、メンバーはどうするつもりだ? 3人とも知っているだろうが、部隊には魔導師の保有制限というものがある。リミッターを付けてランクを下げるなんて裏技もあるが、チーム海鳴全員をメンバーにすることはどうしても無理だ」
先の次元世界とは違ってアリサやすずかも局員だ。シャルも“界律の守護神テスタメント”ではないから局員のまま。アリシアもフェイト付きの補佐官ゆえに部隊に参加するだろうし、はやて達のリミッターも先以上になるだろう。
「あぁ、やっぱし」
「それも問題だよね・・・」
ガックリ肩を落とすなのはとフェイト。はやてが「ルシル君は、その・・・」不安そうな目を俺に向ける。今は空戦S+な俺だが、空戦SSランクを取得するように権威の円卓から指示を受けている。取得できる物は取得しろ、だからな。機動六課設立まで残り4年。その頃にはSSランクだ。だから・・・。
「悪い。俺はパスだ。部隊の中じゃなく外から応援させてもらうよ」
「そうやんなぁ~、やっぱりそうなるやんな~。残念やわ~」
なのはとフェイトに続いてはやても撃沈。大きな溜息を吐く3人。それから3人はアリサ達と相談して部隊への参加・不参加を決定することを決めた。俺も先の次元世界の知識ではやて達をサポートすることも決めたよ。はやての夢、俺だって応援したいからな。
ページ上へ戻る