トスカ
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19部分:第三幕その五
第三幕その五
カヴァラドゥッシ「疑われることのなきよう」
スカルピア 「まあ職業病というものです。注意深くなろうと務めていますので」
カヴァラドゥッシ「それは結構なことですが。何もないのなら」
スカルピア 「子爵、一つお話しておきたいことがあります」
ここでスカルピアの雰囲気が一変する。何かが剥き出しになった感じである。それを見て周りの警官達が身震いした。怯える顔を見せている。
スカルピア 「強情を張られてもいいことは何もありませんぞ。すぐに本当のことを仰れば苦痛から避けられます。これは忠告なのです」
カヴァラドゥッシ「忠告ですか」
スカルピア 「左様です」
カヴァラドゥッシ「ではどうせよと」
スカルピア 「正直に述べて頂きたい。これが最後です」
そう前置きしてから言う。
スカルピア 「アンジェロッティ侯爵は何処ですか?」
カヴァラドゥッシ「最後に申し上げましょう。知りません」
スポレッタ 「これで間違いないな」
俯いて呟く。
スポレッタ 「縛り首確実だ。もう終わりだ」
スカルピア 「そうですか。ではわかりました」
そう言って警官の一人に目配せする。そうすると彼は一旦退室して黒く長い服の査問官を部屋の中に案内してきた。スカルピアは彼を後ろにしてカヴァラドゥッシに対して言う。
スカルピア「マリオ=カヴァラドゥッシ子爵、査問官が貴方を証人として望んでいます。貴方とそちらの御婦人に別々に尋問させて頂きます。宜しいですね」
カヴァラドゥッシはそれを受けてトスカの方に来てそっと囁いた。
カヴァラドゥッシ「ここでのことは言わないでくれ。さもないとアンジェロッティも僕も死ぬことになるから。いいね」
トスカ 「(その顔と声に真剣な顔になり)ええ、わかったわ」
カヴァラドゥッシ「それじゃあ。後はね」
トスカ 「ええ、わかったわ」
スカルピア 「では閣下」
またカヴァラドゥッシに声をかける。
スカルピア 「宜しいですね」
カヴァラドゥッシ「はい、それでは」
スカルピア 「こちらへ」
カヴァラドゥッシ「ああ、いい」
左右に来た警官達に対して言う。
カヴァラドゥッシ「逃げたりはしないさ。何も出ないしね」
スカルピア 「いいか」
ここで査問官に対して耳打ちする。
スカルピア 「まずは普通のやり方で。そして」
カヴァラドゥッシとトスカを交互に見てからまた言う。
スカルピア 「私のやり方でいく。いいな」
査問官はその言葉に頷き部屋を後にする。カヴァラドゥッシと警官達がそれに続く。コロメッティ、スキャルオーネもそれに続く。スポレッタだけが残るが彼は扉の傍らに引き下がる。
部屋の真ん中にトスカだけが残される。その寂しさと不安による震えを必死に堪えて冷静さを保とうとしている。何とか持ち堪えている感じである。
スカルピア 「さて、トスカさん」
あえて友好的な声でトスカに声をかける。だが表情は変わらない。部屋の蝋燭の灯りを頼りに話をする。蝋燭の火が下から出ていて彼等を照らす。
スカルピア 「二人だけで、ごく親しい友人としてお話しましょう」
トスカ 「お友達として、ですか」
スカルピア 「そうです。ですから苦しそうな顔をなさらずに」
トスカ 「苦しんでなんかいません」
きっと気丈さを保って言う。
トスカ 「そんなことは」
スカルピア 「まあお座り下さい」
ここで席を薦める。
スカルピア 「ゆっくりとお話を」
トスカ 「はい」
これには頷く。そうして席に着く。スカルピアもそれに頷いて席に座る。そうして向かい合って席に座って話をするのであった。
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