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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
  第四節 転向 第五話 (通算第80話)

 ジェリドは配置についていた。
 光学センサーの有効範囲外、《アーガマ》と《アレキサンドリア》の直線上を避けた位置に陣取っている。精密射撃用のターゲットレティクルをカプセルに合わせ、いつでも撃墜できるようにビームライフルを構えさせていた。
 ジャマイカンから手渡された命令書はとうに目を通している。
「爆弾かなんかか?」
 敵がカプセルに近づいたらカプセルを狙撃するようにという命令は奇妙といえば奇妙だった。敵機ではなくカプセルを狙うからには理由があるとしか思えない。腑に落ちなかった。カプセルが爆弾とでも考えなければ納得できないのだ。目標のカプセルをロックオンしたまま観察したが、ジェリドの位置からはカプセルが小さすぎて中身がなんであるかまでは判別出来ない。偽装した爆弾と考えるのが一番だった。
 運搬役の《クゥエル》に荷物が何かを訊くこともできなかったし、聞いたところでジェリドの任務内容が変わる訳ではない。ジェリドは状況に置かれた一戦闘単位にすぎない。
《クゥエル》の撤収を遠目に見ながら、ジェリドは独りごちる。
「こんな任務、艦砲でもいいだろうさ。どこが汚名返上の機会なんだ?」
 艦砲を見下したような物言いは自尊心の現れだ。もちろん旗艦たる《アレキサンドリア》の艦砲が粗末な訳でもなければ、砲撃手がいない訳でもない。ジェリドが敢えてそう言っただけのことだ。パイロットであることに対する自負と誇りが言わせたともいえる。だが、間違っても艦内で言えるものではない。無線封鎖されているからこそ言っただけだ。MS乗りは艦に嫌われたら寄る辺を失う。逆に艦はMS乗りに嫌われたら艦を守ってもらえないというジレンマに似た旧世紀以来といってもいい関係がある。これは宇宙軍が海軍式の体制を受け継ぐが故だろう。
 更に言えば、ジェリドが見下したのは旧世紀の軍艦の砲撃手が、第二次世界大戦で戦闘機乗りに取って代わられたように、宇宙世紀においても軍艦の砲撃手からMS乗りに花形が代わったのだという認識があるからだ。認識自体に間違いはない。だが、大戦後、デラーズの乱などの局地戦はあっても、大きな戦争もなく平和を享受している地球圏において、それが本当であるかはまだ証明された訳ではない。
「俺がその証明をしてやる」というのがジェリドの口癖だった。カクリコンなどには鼻で哂われていたが。
 しかし、ジェリドの認識は一部間違っていた。艦砲射撃にMSの射撃精度を求めても意味がないからだ。機体の姿勢制御を自由自在に行えるMSと違い、艦艇は射角に制限がある上に、主砲や副砲は対艦雷撃戦用の兵器である。MSに求められるような精密射撃など不要のものだった。圧倒的な火力とそこそこの射撃精度――予測射撃ができれば、着弾誤差はメートル単位でもお釣りがくる。艦体が一○○メートル未満の艦艇は宙雷艇や駆逐艦が相手する。巡航艦の相手は軍艦であり、それ以上でもそれ以下でもない。雑魚の相手はせぬものだ。ましてやアレキサンドリア級は航宙母艦の機能を兼ね備えた、いわば航宙巡航艦である。対宙砲火は機銃らの役割であり、弾幕で宙雷艇やMSを寄せ付けないことが任務である。撃墜や致命傷を目的としていないのだ。
 今は唯一《ガンダム》を奪われなかったエマが隊長代理を務めている。三人は選抜された《アレキサンドリア》のMS隊の小隊長であり、本来は同格だ。隊長機として配備された《ガンダム》は四機。最後の一機は中隊長――ソートン少佐が搭乗する予定になっていたが、着任が遅れていたため、現在《アレキサンドリア》には搭載されていない。〈グリプス〉で最終調整で装甲をガンダリウム合金――実際にはルナ・チタニウムとFRPの複合装甲材だが――に換装しているという話だった。パイロット養成用の試作機には高価で希少な装甲材は使えないということだったらしいのだが、技術士官のヒルダ・ビダン少尉の歯切れは悪かった。
「なんだ?エマか?被弾している……?」
 敵艦から《ガンダム》が出たことを知らせる情報ウィンドウが開いた。しかも、左腕がない。被弾と勘違いしても仕方なかった。だが――
「いや、エマ機は一号機のはずだ」
 ウィンドウにはカクリコン機だった《02》の表示がでている。つまり、エゥーゴに滷獲された機体だ。追撃隊の報告には着弾の報告はなかった。ジェリドの機体だった《03》はまだ敵艦の腹の中ということになる。
「やつら解体しやがったのか……!」
 だが、何故解体途中の機体が出撃しているのか。整合性のつかない事態に、どう対応しようかと思案する。だが、敵味方識別信号を出していないからには敵性機体と見なすのが当然だ。
 短い俊巡のあと、ジェリドは改めてタイミングを見計らう。敵がカプセルに接触をしようとしたところを狙い撃った。ビームライフルから放たれた光の束がカプセルに吸い込まれていく。
パーンッ――
 まるでステンドグラスかシャンデリアが床に落ちて粉砕したかのように、カプセルが粉々に飛び散った。
「なんだ?爆弾じゃないのか?」
 拍子抜けしたジェリドを前に、メズーンの《ガンダム》が体当たりを掛けた。
「うわっ!なにしやがる!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁー!かあさんが、かあさんを、かあさんー!」
 聞いたことのある声が絶叫を放っていた。 
 

 
後書き
原作でカプセルに入っていたのはカミーユの母・ヒルダでしたが、ここではメズーンの母となっています。意図としては民間人を盾にするという部分を強調するためと、バスクの卑劣さを浮き彫りにする意図がありました。

次節からは第二部になります! 
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