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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~ 戦争回避成功ルート

作者:sorano
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第52話

~バリアハート・クロイツェン州統括領主の城館・執務室~



「……実を言うとね。ヨアヒムがクロウを連れ出さなかったら私がクロスベルに囚われたクロウを隙を見て拘置所から連れ出して、外国に亡命させるつもりだったのよ。」

「なっ!?」

「ぼ、亡命だって!?」

「……何故奴を亡命させようと思ったのだ?」

クロチルダの話を聞いたリィンやマキアスは驚き、ユーシスは真剣な表情で尋ねた。

「利害が一致していたとはいえ、私は”魔女”として自分が導いた”起動者(ライザー)”を利用し、私自身の失態によって”騎神”を失わせるどころか、挙句の果てには”起動者”自身を窮地に陥らせてしまったわ。例え故郷を捨てたとはいえ、私にも”起動者”を導いた”魔女”としての責任があるわ。だから私はその責任を取る為にもクロウをメンフィルやクロスベル、そしてエレボニアの手が届きにくい所――――東ゼムリア大陸辺りに逃がそうと思っていたのよ……エレボニアは当然として”通商会議”の件を考えればメンフィルとクロスベルもクロウに対して相当な重罪を科すかクロウを”処刑”する事のどちらかである事は目に見えていたからね……」

「姉さん…………」

「ヴィータ…………」

辛そうな表情で語るクロチルダの答えを聞いたエマとセリーヌはそれぞれ複雑そうな表情でクロチルダを見つめていた。



「……そしてメンフィル軍に私が投降した理由だけど、私の身柄や私が持っている情報と引き換えにクロウの罪を少しでも軽くしてもらう為よ。――最悪”極刑”だけは免れるようにね。」

「え……何故クロウさんの罪を軽くする為にメンフィル軍に投降したのでしょうか?」

クロチルダの話を聞いたエリスは不思議そうな表情で尋ねた。

「うふふ、クロスベルにとってクロスベル帝国建国まで色々と出資してくれた恩人であり、エレボニアと戦争して”勝者”であるレン達メンフィルならクロスベルやエレボニア、それぞれの国が捕えた犯罪者に対する判決にも口出しできると考えたみたいよ?」

「それは…………」

「……クロウはエレボニアは当然として、”通商会議”の件も含めてクロスベルでも数多くの重罪を犯しているわ。脱獄も重罪だし、脱獄の際に拘置所の警備を務めている人達にも危害を加えたのでしょうから当然傷害罪や公務執行妨害罪も犯しているでしょうね。それらを考えるとクロスベルでも”極刑”の判決が出てもおかしくないわ。そんなクロウを例えエレボニアが確保できたとしても、クロスベルもクロウの判決について口出しして来るか、身柄の引き渡しを要求してくる可能性は十分に考えられるでしょうね。」

口元に笑みを浮かべるレンの話を聞いたリィンは複雑そうな表情をし、サラ教官は重々しい様子を纏って呟いた。



「その……プリネさん、実際の所はどうなのでしょうか……?」

「……彼女から提供された情報はクロチルダさんより先にメンフィルに寝返り、”結社”の様々な情報を提供したリアンヌ様――――”鋼の聖女”も知らない情報があった事や彼女自身がメンフィルに隷属するという言質もある為、お父様達も無下にはしないと思うのですが……」

エマに尋ねられたプリネは複雑そうな表情で答え

「多分だけど少なくてもリフィアはそいつの頼みなんて聞かないと思うよ。猟兵達がユミルを襲った事もそうだけど、エリゼの妹が誘拐された事にも相当怒っていたし。」

「あ…………」

「……ッ……!エリゼ、頼みがある。」

エヴリーヌの言葉を聞いたエリスは辛そうな表情で顔を俯かせ、リィンは唇を噛みしめた後エリゼを見つめた。



「―――兄様の事ですから『リフィア殿下にクロチルダさんの取引に応じるように取り直してくれ』と仰ると思い、既にリフィアには連絡して説得しましたので安心してください。」

「あ……ありがとう、エリゼ……!」

「ありがとうございます、姉様……!」

「本当にありがとうございます、エリゼさん……!」

「さすがは超ブラコン妹だけあって、リィンの思考もわかっているね。」

エリゼの答えを聞いたリィンとエリゼ、エマはそれぞれ明るい表情で感謝の言葉を述べ、フィーはエリゼの手際の良さに感心し

「い、一体何時の間にそんな事を……」

「フッ、”剣聖”直々に鍛えられただけあって、手回しや先読みも中々のものだな。」

ツーヤは表情を引き攣らせてエリゼを見つめ、レーヴェは静かな笑みを浮かべてエリゼを見つめていた。



「それで………俺達に頼みたい事というのは何なのでしょうか?」

「……貴方達に頼みたいのはクロウの事よ。……私の代わりにクロウを見つけて”力づく”でも”D∴G教団”と手を切らせて欲しいの。本当なら私自身の手でクロウを無理矢理にでもヨアヒム・ギュンターと手を切らせたかったけど、結社が崩壊した事で”組織”としての力を失った今の私はもはやただ実力が高いだけの魔女で、クロウを見つける事すら無理なのよ……」

「姉さん……」

「ヴィータ…………」

リィンの問いかけに対するクロチルダの話を聞いたエマとセリーヌは複雑そうな表情をし

「………――――プリネさん、クロチルダさんを一時的に釈放する事はできないのか?」

クロチルダの様子を見て目を伏せて考え込んだリィンは真剣な表情でプリネを見つめて尋ねた。

「え……何故そのような事を?――――!まさか……!?」

「まさかとは思うが”蒼の深淵”もお前達の”協力者”にするつもりか?」

リィンの質問を聞いて訳がわからなかったプリネだったがすぐにリィンの考えを察して信じられない表情をし、レーヴェは驚きの表情で尋ねた。



「はい。」

「………………」

「なっ!?クロチルダさんを僕達の”協力者”にするだって!?」

「正気か?その女は敵だった相手で、しかもお前の妹の誘拐を指示した張本人だぞ?」

リィンの予想外の考えを知ったクロチルダは目を丸くして呆けてリィンを見つめ、マキアスは信じられない表情をし、ユーシスは真剣な表情で尋ねた。

「今は”敵”ではないし、エリスは傷一つなく戻って来た。それにクロウを”D∴G教団”と手を切らせたいという考えは俺達も同じだから利害は一致している。それにクロチルダさんも俺達”紅き翼”の身内だ。―――違うか?」

「学院の関係者は何としても保護する――だね。まあこの場合”保護”と言っていいかどうかわからないけど。」

「リィン、さん…………」

「ったく、相変わらずとんでもないお人好しね。」

「全くよ。”結社”の”蛇の使徒”すらも関係者扱いするなんて、そんな事が他にできるのはエステルくらいだと思うわよ?」

「それには同感だね。何せエステルはあのフェミリンスを仲間にしたし。」

「うふふ、将来はエステルみたいに大物になる事間違いなしね♪」

リィンの答えを聞いたフィーは静かな笑みを浮かべて呟き、エマは一筋の涙を流してリィンを見つめ、セリーヌは呆れた表情をし、苦笑しながらリィンを見つめるサラ教官の言葉にエヴリーヌは頷き、レンはからかいの表情でリィンを見つめていた。



「ありがとう、リィン君……もしメンフィルが許してくれるのならば私は全力で君達に協力するわ……」

「え……それは本当、姉さん!?」

「まさかアンタの口からそんな言葉が出て来るとはね……槍でも降らせるつもりかしら?」

クロチルダの答えを聞いたエマは明るい表情をし、セリーヌは信じられない表情でクロチルダを見つめ

「なに言ってんの。そいつが降らせるのは槍じゃなくて剣だよ。」

「エ、エヴリーヌお姉様……」

「そういう意味ではありませんよ……」

エヴリーヌの指摘を聞いたプリネとツーヤはそれぞれ脱力した。



「フッ、あの”蒼の深淵”の協力を取り付けるとは正直驚いたぞ。―――それで?実際の所は可能か?」

「…………それは…………」

「一時釈放となると、結構厳しいわね~。」

レーヴェに視線を向けられたプリネは複雑そうな表情で黙り込み、レンは疲れた表情で呟いた。

「そ、そんな……今のクロチルダさんを見たら逃げるつもりはない事くらいわかるでしょうから、認めてくれてもいいんじゃないでしょうか!?」

二人の答えを聞いたマキアスは真剣な表情でレンとプリネを見つめて問いかけた。



「それは私達もわかっているのですが、一時釈放するクロチルダさんが絶対に逃げないという”保証”がない限りお父様達も納得せず、一時釈放の許可を出さないと思うんです。」

「ま、常識で考えたらそうだよね。」

「……あたし達がその女を見張るだけじゃ、保証にはならないかしら?今のあたし達には”協力者”として”鋼の聖女”を始めとしたメンフィルにとっても信頼できる相当な使い手である臣下達もいるのよ?」

プリネの答えを聞いたフィーは納得し、サラ教官はプリネ達に問いかけ

「後はその女に自分では絶対に外せないような特殊な発信器を付けるとかどうかしら?」

「セ、セリーヌ。」

セリーヌの提案を聞いたエマは冷や汗をかいた。



「……わかりました。その方向でお父様と話し合ってみます―――」

「うふふ、そんな事よりももっといい提案があるんだけど、いいかしら♪」

そしてプリネが立ち上がったその時、ベルフェゴールがリィンの傍に現れた。

「ベルフェゴール!?本当にメンフィルを納得させる方法があるのか?」

「ええ♪でもその前に少しだけその魔女と二人っきりで話をさせて貰ってもいいかしら?」

「え、ええ。そのくらいでしたら構わないですけど……」

リィンの質問に答えたベルフェゴールに視線を向けられたプリネは戸惑いの表情で頷いた。

「ありがと♪それじゃ、ちょっといいかしら?」

「……わかったわ。」

そしてベルフェゴールはクロチルダと退室して別の部屋で話し合った後再びリィン達の元に戻って来た。



「お待たせ。」

「ベルフェゴール。メンフィルも納得できる方法って、一体どんな方法なんだ?

戻って来たベルフェゴールにリィンは不思議そうな表情で尋ねた。

「うふふ、それは彼女が私の”使徒”になる事よ♪」

そしてベルフェゴールは誰もが予想していない驚愕の提案をした。


「え………………」

「クロチルダさんがベルフェゴール様の”使徒”になる事、ですか……?」

ベルフェゴールの提案を聞いたリィンは呆け、エリスは戸惑い、リィンの仲間達もそれぞれ不思議そうな表情をしていた。

「ええっ!?」

「よりにもよってその方法ですか、ベルフェゴールさん……」

「うふふ、なるほどね♪確かにそれならパパ達も納得するでしょうね♪」

「………?ああ、なるほど。そう言う事か。」

「………………(何故ベルフェゴール様が彼女を……?――――!まさか………!)」

一方プリネは驚き、ツーヤは疲れた表情で呟き、レンとエヴリーヌはそれぞれ納得した様子でいている中、疑惑の目でベルフェゴールを見つめていたエリゼはある事に気付き、ジト目でリィンとクロチルダを見比べていた。

「一体どういう風の吹き回しで”蒼の深淵”を”使徒”にしようと思ったのだ?」

「うふふ、そんなのご主人様に仕えている身として、ご主人様の為にそうしようと思っただけよ♪」

レーヴェの問いかけにベルフェゴールはウインクをして答え

(ふふふ、物は言いようですね。)

(同感です。マスターの不埒な女性関係を面白がる彼女の事ですから、恐らくクロチルダ様にマスターと不埒な関係になる事を迫る事を条件にしたのではないでしょうか?)

(ア、アハハ……さすがにそれはないかと思いますけど……)

(……さすがにベルフェゴールでも女性が好きでもない男性と肉体関係になる事を無理矢理迫るような事はしないと思うわよ。)

ベルフェゴールの答えを聞いて静かな笑みを浮かべるリザイラの念話にアルティナはジト目で頷き、メサイアとアイドスはそれぞれ苦笑していた。



「プリネ達は何の事だかわかっているようだが……一体どういう事なんだ?」

「”使徒”……――そう言えば”嵐の剣神”に仕えている使用人達も自分達がそのような存在である事を言っていたが、何か関係があるのか?」

プリネ達の様子を見たマキアスとユーシスはそれぞれ尋ねた。

「えっと……”使徒”とは以前説明した”神格者”と似ている部分がありまして。神や神格者、そして魔神のような”神核”を持つ”超越者”が能力の一部を分け与える事で超越した能力を得た上、その与えた者が生きる限り永久的に生き続け、その与えた者を補佐する存在なのですが……”神格者”と違う点がいくつかありまして。”使徒”は”神格者”と違い、常に主従関係になる為、主が倒れると使徒も精神的な強い衝撃を受ける事もあり、場合によっては廃人になる事もあるそうです。」

「は、”廃人”……」

「……何となくだけど”起動者”と”騎神”の関係に似ているわね。」

「そうね……姉さんはその事も知っているの……?」

プリネの説明を聞いたマキアスは信じられない表情をし、セリーヌは目を細め、エマは不安そうな表情でクロチルダに尋ねた。



「ええ、勿論彼女から説明を受けたわ。まあ私の主になるのはあの”七大罪”の一柱なんだから、よほどの事がない限り大丈夫だと思うからそんなに心配する必要はないわよ。」

「それはそうなのだけど……」

「それでこれがお父様達も納得する肝心な理由になるのですが……―――”使徒”は”主”の命令に”絶対服従”なんです。」

「”絶対服従”って、具体的にはどうなるの?」

プリネの説明を聞いたフィーは不思議そうな表情で尋ねた。



「極端な話、”主”が”使徒”に”死ね”って命令したら、その”使徒”は自分の意志に反してでも自害するって事。」

「な―――――」

「何ですって!?」

「そ、そんな……」

「………なるほどね。メンフィルの”客将”でもあるベルフェゴールがヴィータの生殺与奪権を握れば、ヴィータも逃亡なんて真似はできない上メンフィルも納得できるって訳ね。」

エヴリーヌの説明を聞いたリィンは絶句し、サラ教官は血相を変え、エマは表情を青褪めさせ、セリーヌは複雑そうな表情をしていた。



「そういう事。ま、ヴィータがご主人様達を裏切らない限り私はそんな事をするつもりは全然ないから、心配無用よ♪」

「だ、だが……幾ら何でも生殺与奪権を握るなんて、やり過ぎだろう!?」

「しかもその女の事だから、”使徒”になったその魔女を自分のしたいように操るのではないか?」

「実際帝都の地下でエリス達を助ける為にテロリスト達を操って自害させたり、レオを操って同士討ちをさせたりしていたものね。」

「ええっ!?」

ベルフェゴールがクロチルダの生殺与奪権を握る事にマキアスは反対の様子を見せ、ユーシスは呆れた表情で指摘し、フィーの話を聞いたエリスは驚いた。



「というかベルフェゴールさん……スカーレットさんに続いて”また”ですか……」

「やれやれ。”客将”という立場をここまで利用する者も双界を探してもベルフェゴール以外はいないだろうな。」

「うふふ、”大罪”を司っている魔神の使徒だけあって、みんな元犯罪者ね♪」

ツーヤは疲れた表情で指摘し、レーヴェは呆れた表情をし、レンはからかいの表情で呟いた。

「え…………」

「スカーレットって、まさか帝国解放戦線の”S”の事!?」

ツーヤの言葉を聞いたリィンは呆け、サラ教官は血相を変えた。



「ええ、そうよ。スカーレットは私の”第一使徒”よ。」

「えっと、ベルフェゴール。どうして彼女を”使徒”にしたんだ?」

「うふふ、ご主人様に惚れているあの女に”極刑”の判決が出ないようにメンフィルに動いてもらう為よ♪」

「……………………」

ベルフェゴールがスカーレットを”使徒”にした理由を知ったリィンは石化したかのように固まり

「ハアッ!?」

「何だと!?」

「な、何でそんな事になったんだ!?敵同士だったんだぞ!?というか一体いつ彼女がリィンに惚れたんだ!?」

サラ教官やユーシス、マキアスはそれぞれ驚きの表情で声を上げ

「フフッ、クロウが知ったら間違いなく驚くと共に悔しがるでしょうね♪」

クロチルダはからかいの表情でリィンを見つめていた。



「……兄様?今の話について、後で詳しい説明を聞かせて頂きますね?ウフフフフフフ………!」

「やはり”そういう事”でしたか……ウフフフフフフ……!」

「フフッ、後でアリサさん達にも知らせて、みんなで説教ですね、リィンさん?勿論クレア大尉にも報告しますからね?」

「……………………」

「アンタ……本当に節操がないわね。」

「ヒッ!?ま、前より増えてる……!ガタガタブルブル……!」

それぞれ膨大な威圧を纏って微笑むエリスとエリゼ、エマに微笑まれたリィンは表情を青褪めさせて身体を震わせ、セリーヌはリィンを呆れた表情で見つめ、エリス達が出す威圧の余波を受けたエヴリーヌは悲鳴を上げた後表情を青褪めさせて身体を震わせていた。



「え、えっと……とりあえずその件については後回しにしまして……スカーレットさんがベルフェゴールさんの”使徒”になった為、万が一エレボニアがスカーレットさんに”極刑”の判決を決めた場合、メンフィルが彼女の判決について口を出す事は決定しています。――――ベルフェゴールさん。お願いしますから、私達に相談もなく犯罪者を庇う為に”使徒”にして、私達(メンフィル)にその犯罪者を庇わせるのは今回で終わりにして下さいね?」

「そのくらいの事はわかっているわよ。それに今回の件についてはメンフィルに対する”貸し”にして、もし私の力が必要になった場合、何の見返りもなく応じるわ。それならいいでしょう?」

プリネの言葉にベルフェゴールは静かな表情で頷いた。

「……わかりました。今の件も含めてクロチルダさんの一時釈放についてお父様に交渉しますので少しだけお待ちください――――」

その後一端退席したプリネは通信でリウイに事情を説明した後リィン達の元に戻って来た。 
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