英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~ 戦争回避成功ルート
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第29話
12月18日――――
~ケルディック~
「フフッ、久しぶりだね。」
ケルディックでの自由行動を終えた後カレイジャスに戻る為に仮説空港に向かおうとするリィンは自分に声をかけた人物の方へと振り向くとフードの男がリィンに近づいてきた。
「あ、あなたは……!」
フードの男を見て双龍橋での出来事を一瞬で思い出したリィンは血相を変えた。
「どうやら覚えてくれていたようだね。光栄だよ―――リィン・シュバルツァー君。」
リィンの反応を満足げな様子で見たフードの男は口元に笑みを浮かべた。
「俺の名前を……貴方は……一体、何者なんですか?俺達や少佐を陰ながら助けてくれたようですが……何が目的なんですか?」
リィンは警戒した様子でフードの男に問いかけた。
「フフ………そう焦るものじゃない。今こそ、私の正体を明かすとしようじゃないか――――」
「え……」
そしてフードの男はフードを取り、素顔を顕わにした!
「ジャジャ、ジャ~ン!なんと、正解はこの私だったのでした~!」
フードの男――――トマス教官は笑顔を浮かべてリィンを見つめて言った。
「ト、ト、ト……―――トマス教官っ!?」
予想外の人物の登場に口をパクパクさせたリィンは信じられない表情で声を上げた。
「こんにちは、リィン君。うふふ、元気にしてましたか~?」
トマス教官は陽気な口調でリィンに話しかけた。
「ど、どうしてこんなところにトマス教官が!?いや、そもそもなんで変装を……!?」
「いやー、実は少し前から私も士官学院を出ていまして~。教官だとバレたら色々と面倒そうだったのでしばらく変装してたんですよ~。アハッ、意外と気付かれないものですね♪」
「な、何が何だか……じゃあ、双龍橋で俺達にヒントをくれたのは……」
トマス教官の話を聞いて脱力したリィンはある事を思い出した。
「ええ、騒ぎにならないようコッソリとお手伝いしたくって。それでは、私もカレイジャスにぜひ案内してください~。これからバンバン、皆さんの力にならせてもらいますから~。」
「ええっ!?いきなりですか!?ま、まあ、力を貸してくれるなら心強いですけど……」
こうして、リィン達はケルディックで新たな仲間と協力者を迎えつつ……そのまま再び帝国各地の状況を確かめるために出発したのだった。
12月19日―――――
~カレイジャス・ブリッジ~
「さすがはカレイジャス!どこを見ても素晴らしいですね~!いや~、私も前々から乗ってみたかったんですよ~!」
「あー、そうですか………」
興味津々な様子で周囲を見回すトマス教官の言葉を聞いたサラ教官は疲れた表情で答え
「え~と、シグルーン中将閣下でしたか?後でペガサスを見させて頂いてもいいでしょうか~?”聖獣”とも称されている伝承上でしか存在しない天馬をいつかこの目にしたいと思っていたんですよ~!」
「フフッ、別に構いませんけどペガサスはその背に乙女しか乗せませんから、男性であるトマス殿は乗れませんわよ?」
「おお~!そこは伝承通りなんですね~!いや~、ますますペガサスを見るのが楽しみになってきました~!」
更に自分にまで話を振られたシグルーンは苦笑しながら答え
「フフ、興味のある事に対して好奇心旺盛な所はパント様そっくりですね。」
「ハハ、心当たりがありすぎて反論できないね。」
トマス教官の様子を微笑ましそうに見つめながら呟いたルイーズの言葉を聞いたパントは苦笑した。
「し、しかしあのフードの男がトマス教官だったとはな……」
「あはは……さすがにビックリしたよね。」
「わたしも全然気付かなかった。」
「フードを被って素顔を隠していたのもそうですが、声も若干変えていましたから、普通なら気付きませんわ……」
「ポワンとしている割には意外な才能があるわね……」
フードの男がトマス教官だと知ったマキアス達がそれぞれ驚いている中、セリーヌは呆れと同時に感心した様子でトマス教官を見つめていた。
「でも、どうしてトリスタを離れられたんですか?」」
「実は、ヴァンダイク学院長からお願いされましてね~。各地に散った学院生たちの様子を確かめていたんですよ~。困っている学院生がいたらそれとなく助けたりとか。」
「そうだったんですか。」
「わたしやジョルジュ君も学院長のおかげでみんなと合流できたけど……」
「……つくづく、オレたちは多くの人に助けられているんだな。」
「ああ……実感してしまうな。」
「フフ、ちゃんと心に留めておくことね。」
ガイウスとリィンの言葉を聞いたサラ教官は口元に笑みを浮かべた
「ともかく、双龍橋の一件は何とか解決することができた。これから再び各地での情報収集を始めるとしよう。」
「ああ、そうだな。新たに双龍橋に降りられるようになったけど……各地の手伝いもしつつ、今までの場所でもあらためて情報を集めたほうがよさそうだ。」
「かいちょー、また依頼とかは入ってるの?」
「うん、皇子殿下から届いているから確認してみて。」
「その前に少しいいかい。」
リィン達が端末で依頼を確認しようとしたその時パントが申し出た。
「パント卿?何か他にあるのでしょうか。」
「ああ。先日”特務支援課”と合流したエリゼから気になる報告があってね……その報告は君達”Ⅶ組”にとっても他人事ではないから、今の内に伝えておこうと思ったんだ。」
セドリック皇太子の質問にパントは静かな表情で答え
「え………リィンさん達に……ですか?」
アルフィン皇女は目を丸くして問いかけた。
「―――まず”特務支援課”。彼らは先日はぐれた最後の仲間であり、ミシェラムにマクダエル議長と共に軟禁されていたエリィ嬢をマクダエル議長と共に救出しました。」
「”はぐれた最後の仲間”と言う事は……」
「……”特務支援課”も全員揃ったと言う事ね。それでその事とウチの子達がどう関係あるのよ。」
シレーネの話を聞いて静かに呟いたセレーネの言葉の続きをサラ教官は複雑そうな表情で答えた後問いかけた。
「―――エリゼさんからの報告ではエリィさん達を救出する際に”赤い星座”と共に”帝国解放戦線”リーダー”C”――――クロウ・アームブラストが立ちはだかったとの事です。」
「ええっ!?ク、クロウが!?」
「ど、どうしてクロウ君がクロスベルに……」
ルイーズの話を聞いたエリオットは驚き、トワは戸惑いの表情をした。
「彼がクロスベルにいる理由はわからないが……クロスベルにも”結社”の”蛇の使徒”や”執行者”がいるからね。恐らく”蒼の深淵”が彼らを頼って、クロスベルに落ち延びたのだろうね。」
「……プライドの高いヴィータにとっても、同じ仲間に頼るとはいえ不本意なんでしょうね。自分の失態によってクロスベルに落ち延びたのだから。」
「姉さん………」
パントの説明を聞いて推測したセリーヌの話を聞いたエマは辛そうな表情をし
「それより……クロウがエリィさん達を救出しようとしたロイドさん達の前に阻んで、ロイドさん達がエリィさん達の救出を成功したという事は……」
「……クロウはロイドさん達に負けたんですか?」
ある事に気付いたガイウスは考え込み、リィンは複雑そうな表情で尋ねた。
「いえ、”特務支援課”の方々は”C”とは直接戦っていません。エリゼが単独で”C”と剣を交え、その間に”特務支援課”の方々がエリィ嬢達を救出したとの事です。」
「なっ!?」
「ええっ!?ね、姉様がですか!?」
シグルーンの説明を聞いたリィンとエリスはそれぞれ驚き
「そしてエリゼ君から先輩がクロスベルにいた事の報告が来たって事は……」
「……エリゼが一人でクロウに勝った事になるわよね……」
ある事を察したマキアスとアリサはそれぞれ複雑そうな表情をした。
「ああ、君達の予想通りエリゼは単独で”C”に勝利したとの事だ。――――それも”C”相手に傷一つ負わずに勝利したそうだ。」
「なっ!?それじゃあエリゼは無傷でクロウに勝ったんですか!?」
「……一体今のエリゼはどれ程強くなっているのだ……?」
「ま、ある意味当然の結果かもしれないね。エリゼは”剣聖”の称号を持っているし。」
「”風の剣聖”やカシウス・ブライトの強さを考えると”剣聖”の称号を持っている人達って、みんな”化物”クラスだものね~。」
パントの説明を聞いたリィンは驚き、ラウラは考え込み、フィーとミリアムはそれぞれ納得した様子で呟き
「それでエリゼお姉様はクロウさんに勝った後、クロウさんをどうしたのですか……?」
セレーネは不安そうな表情でパントに尋ねた。
「エリゼが”C”を戦闘不能にした際、エリィ嬢達を救出した”特務支援課”も駆け付けて来てね。形勢が不利と判断したのか”C”は撤退したそうだ。」
「そうですか………………」
「兄様………」
パントの説明を聞いて黙り込んでいるリィンをエリスは心配そうな表情で見つめ
「しかし……クロウがクロスベルにいるとなると、不味い事になったわね。」
「え……それは一体どういう事ですか?」
真剣な表情で考え込み始めたサラ教官の言葉を聞いたアリサは不思議そうな表情で尋ねた。
「もしクロウ君がクロスベルを解放しようとする勢力とぶつかり、その際に敗北して捕らわれてしまった場合、”他国”であるエレボニアは彼の処遇に関して口出しする事ができないという事です。」
トマス教官の答えを聞いたリィン達はそれぞれ血相を変え
「クロウさんは”通商会議”の時に各国のVIP達の命やクロスベルの民達の命を脅かしたという罪がありますから、もしクロスベル側に拘束された場合、下手をすれば”極刑”の判決が出るかもしれませんわね……」
「うん……その可能性は十分にあるよね………それにクロウさんの身柄の引き渡しをエレボニアが求めても、応えてくれない可能性の方が高いと思うし……」
「そ、そんな……!」
「クロウにはオルディーネがあるから、いざとなれば逃げる事はできると思うけど……」
アルフィン皇女とセドリック皇太子の推測を聞いたトワは悲痛そうな表情をし、ジョルジュは複雑そうな表情で考え込んだ。
「バンダナ男に”騎神”があるからと言って楽観視しない方がいいと思うわよ。」
「セリーヌ?それはどういう事?」
セリーヌの言葉を聞いたエマは不思議そうな表情で尋ね
「……忘れたのかしら?”クロスベル帝国”を建国する側――――”六銃士”達はあの”歪竜”や戦艦の部隊に加えて、”機甲兵”もメンフィルによって贈与された話を。」
「あ……っ!」
「オーロックス砦を消滅さえたあの”歪竜”とやらの攻撃を喰らえば、例え”騎神”でも防ぎきれんだろうな。」
「それに複数の”機甲兵”で集中攻撃をされれば、幾らオルディーネが強くても数の暴力には堪えきれないだろうな……」
セリーヌの指摘を聞いたアリサは声をあげ、ユーシスは重々しい様子を纏って呟き、ラウラは真剣な表情で考え込んだ。
「でもディーター・クロイス側にはエレボニアとカルバードの軍隊を何度も撃退した人形兵器があるから、そう簡単には負けないと思うよ~。」
「いや、クロスベル独立国が所持している”結社”が提供した人形兵器の撃破はいつでも可能だ。既にベルガード門を奪還した際に先の話に出た歪竜や戦艦の部隊を使って2体撃破している。」
ミリアムの推測を聞いたパントは静かな表情で否定し
「ほえっ!?」
「―――そうなると。クロスベル独立国が所持している強力な人形兵器も無意味という事になるから、”六銃士”達が一気に攻勢を仕掛ければ僅かな日数でクロスベル独立国は滅亡して、クロスベル帝国が建国されるのでしょうね……そしてその時クロウがクロスベル独立国に味方して負けた場合、クロスベル帝国に拘束されてしまうでしょうね……」
パントの答えを聞いたミリアムは驚き、サラ教官は厳しい表情で考え込み、サラ教官の推測を聞いたその場にいる多くの者達は重苦しい空気を纏って黙り込んだ。
「…………クロウなら大丈夫かと思います。クロスベルに力を貸している事はクロウにとっても不本意な事でしょうから、最後までクロスベル独立国に力を貸さないでしょうし、容量のいいあいつの事だから戦況が不味くなった時は撤退すると思います。」
「リィン君……」
「ハハ、確かにクロウの性格を考えたらその可能性は十分にあるだろうね。」
そして場の空気を変える為に口にしたリィンの推測を聞いたトワは明るい表情をし、ジョルジュは苦笑していた。
「さてと。気を取り直してまずは端末に来ている依頼を確認してみよう―――――」
その後端末で依頼を確認したリィン達は帝国各地を回って依頼の消化や学院生達との合流を開始した。一方その頃最後のはぐれた仲間であるエリィ・マクダエルと共にマクダエル議長を救出したロイド達はマクダエル議長のある提案に乗る事にし、更にその提案の為に必要な人物―――リウイ、ヴァイス、ギュランドロスを一時的にメルカバに乗船してもらっていた。
~同時刻・メルカバ~
「なるほどな………」
「俺達にとっても願ってもない話だ。感謝するぜ、マクダエル議長!」
「………現状では最高の策だな。」
マクダエル議長から具体的な事を聞かされたヴァイスは静かな笑みを浮かべて呟き、ギュランドロスは不敵な笑みを浮かべ、リウイは感心した様子でロイドを見つめていた。
「しかし………政治の世界から本当に引退されるのですか?議長には色々とお世話になった上、政治家としても申し分ない能力をお持ちですから我々が新たなクロスベルを建国した暁にはかなり高い地位に着いてもらおうと思っていたのですが。」
マクダエル議長が政治の世界から引退する話を思い出したヴァイスは意外そうな表情で尋ねた。
「フフ、私のような老いぼれでは若い君達や生まれ変わろうとしているクロスベルの足かせになってしまうよ。私はこのクロスベルをどのように創り変えるのか一人の”民”として………そしてかつてのクロスベルの政府代表として見守り続けよう。―――それと………リウイ陛下。『クロスベル帝国』との同盟の件……よろしくお願いします………」
ヴァイスに尋ねられたマクダエル議長は苦笑した後静かな笑みを浮かべて答えた後リウイに会釈をし
「……承った。クロスベルを含めたゼムリア大陸に生きる民達の事は俺達に任せておけ。」
リウイは”覇気”を纏って答えた。
「おじいさま……………」
「………わかりました。議長の英断と引退を無駄にしない為にも我々の力で必ずやこのクロスベルを繁栄させて頂きます。」
「おう!リウイの言う通り、後は俺達に任せときなっ!」
エリィが複雑そうな表情で見つめている中、マクダエル議長の決意を受け取ったヴァイスは敬礼し、ギュランドロスは力強く頷いた。
「フフ、ありがとう。それと――――勿論”民”達を考えた政治をして下さい。――――貴方達がいずれ侵略する全ての地域の人々もできるだけ差別しないような政治を。」
二人の答えを聞いたマクダエル議長は微笑んだ後、真剣な表情で3人を見つめて言った。
「――――元メルキア皇帝、ヴァイスハイト・フィズ・メルキアーナ。」
「――――元ユン・ガソル国王、ギュランドロス・ヴァスガン。」
「―――前メンフィル皇帝、リウイ・マーシルン。」
するとその時ヴァイスとギュランドロス、リウイはそれぞれ”覇気”を纏って静かな口調で名乗り上げてそれぞれの鞘から剣を抜いた後剣を天井に向かって掲げ
「「「我が”覇道”に”民”をないがしろにしない事をここに誓うっ!!」」」
それぞれの剣の刃を合わせて宣言した!
「………まさかこれほどの”覇王”が3人も同じ世代に存在し、共に協力し合うとはな………」
それを見たツァイトは驚きの表情で呟き
「ヴァイスハイト局長、ギュランドロス司令、リウイ陛下の3人の誓い……う~ん、本当に絵になるわ♪」
「ハハ……下手したら後に歴史に残るかもしれませんね。」
グレイスはその様子をカメラで写真を取りながら口元に笑みを浮かべ、ロイドは苦笑し
「マジでそうなりそうなのが笑えねえよな………」
ランディは疲れた表情で溜息を吐き
「フフ、その”誓い”の”場”を提供したこの”メルカバ”も有名になりそうだねえ?」
ワジは興味深そうな表情をし
「――――ありがとうございます。腐敗した政治を見続けた最後に貴方達のような”王者”に出会え、後を託す事ができて幸運でした。」
マクダエル議長は目を伏せて頭を下げた。
その後ロイド、エリィ、ティオ、ランディ、キーアはそれぞれが準備をしている中、甲板で集まっていた。
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