FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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背徳と罪人
前書き
最近感想欄で流行りの尻流。なぜか私のスマホでは変換しても尻流は出てこないんですよね。
はっ!!まさかこれはシリルの呪いなのか!?俺だけは味方に引き入れようというシリルの策略なのか!?
シリル「そんなわけないじゃないですか!!」
シリルside
どこまでも広がっているような森。その中を俺たち三人を乗せた鹿は走り抜けていく。
「お?あれがそうか?」
先頭に跨がり鹿の進路を操作している緋色の髪をした鎧の女性が前方を見ながらそう言う。彼女の後ろからチラッと顔を覗かせ前を見ると、そこには以前色々とお世話になったクロフォードさんのお家が見えていた。
「そう・・・です・・・うぷっ」
肯定した後、酔いを押さえるために顔を伏せる。途中で休めたおかげで大分いいが、やっぱり気持ち悪い・・・鹿さんは仲間のはずなのに、なんで酔っちゃうのかな?
疑問を感じながら家の前まで着くのを待つ。目的地に到着すると、エルザさんが握っていた角を引っ張り乗ってきた鹿の動きを止める。それと同時に、俺の乗り物酔いも収まった。
「ふぅ・・・やっと着いた」
一つ深呼吸して体の中に酸素を送る。動いてる間はてんでダメだけど、止まると治る乗り物酔い。これどういう原理なのかな?非常に気になる。
「大丈夫?シリル」
「はい。ギリギリでしたけど」
後ろから落ちないように抱き締めていたミラさんの声にそう答える。実は彼女の柔らかいものがデコボコ道で揺れており、それが背中に当たっていたからより酔いがひどくなったような気もしたけど、言わないでおこう。悪いのは俺だし。
「鍛練が足らん証拠だぞ。ナツのそんなとこまで真似するな」
乗ってきた鹿を撫でてお世話しているエルザさんにそう言われ、シュンッと落ち込む。けど、すぐにある疑問が頭に浮かび、その気持ちが消し飛んだ。
「ところで、エルザさんはこっちに来てよかったんですか?」
「??何がだ?」
俺が何を言いたいのかわからず不思議そうな顔をするエルザさん。俺の言葉を聞いて、ミラさんも同じことを考えていたらしく、俺の代わりに質問してくれる。
「たぶんジェラールも標的になってるわ。だから、こっちじゃなくて、ジェラールの方に行かなくてよかったのかって聞いてるのよ」
ミラさんの代弁にうなずく。それを聞いたエルザさんは、鹿を撫でながら答える。
「ジェラールの居場所は、私にもわからん。それにあいつは私がいなくても自衛できるし、いざとなればカミューニだっているしな。心配要らないさ」
元聖十大魔道が二人もいる。それなら確かに、心配する必要はないか。
「それよりも、元議長を必ずお守りするんだ」
「任せてください!!」
「そうね。ここが魔法界の大きな砦になるわ」
そう言って鹿さんを木に結びつけた俺たちは、元議長クロフォードさんが住む家へと向かった。
「引退後はハーブの栽培を始めてね。うちで育てたカモミールじゃ」
急な来客にも関わらず、キッチンからティーカップを持ってきてハーブの紅茶を注いでくれるクロフォードさん。彼は注ぎ終わると、専用のお皿に載せて俺たちの前に差し出す。
「ありがとうございます」
「いただきます」
ペコッと一礼する俺とニコッと笑顔を見せるミラさん。部屋の中にはたくさんのハーブの植木があり
すごくいい匂いがしている。
「いいパルファ・・・香りですね」
注がれた紅茶を手に取り匂いを嗅いだエルザさんが、一夜さんのようなことを言おうとしたが、大急ぎで言葉を変える。イケメンの件もそうだけど、エルザさんは一夜さんに結構影響されているところが多いような気がする。
「久しぶりだね、シリルくん。この間のことは大丈夫だったのかね?」
クロフォードさんは、俺たちの前に腰かけ以前ここを訪れた時のことを訪ねてくる。解決した後に変装用に借りた服を返しにきたのだけど、列車の時間もあってお礼もちゃんと言えなかった。ここでお礼をしといた方がいいかな?
「あの時はありがとうございました。お礼が遅れてすみません」
そう言うと、彼は気にしないでと言い頭を上げるように言ってくれる。優しいなぁ、なんでこの人と仲いいのに、レオンはあんな性格なのかな?いい方に影響されればいいのに。
「ん?」
そんなことを考えながら彼の淹れてくれた紅茶を飲もうとしたのだが、飲む直前で手を止める。
「どうしたのかね?」
「いえ・・・」
急に手を止めたことで気になったクロフォードさんが質問してくる。気のせいかとも思いもう一度匂いを嗅いでみるが、やはりあることが引っ掛かる。
「これ、以前と同じ紅茶ですか?」
この前飲んだものとは匂いが少し違うような気がする。似ているような気もするけど、ちょっと違う。何が違うのかはわからないけど、なんとも言えない違いがある。
「ああ、前もカモミールを淹れたから、同じはずじゃが?」
「そうですか?」
違う種類のハーブではないらしい。改めて確認してみるが、やっぱり違う気がするなぁ。
「日によって多少の違いはあるさ」
「そうね。そこがまたいいんじゃない?」
「そうですね」
エルザさんとミラさんにそう言われ、紅茶を一口飲んでみる。味も多少違う気もするけど、さっきの匂いの問題と同じだろう。
「君のことも覚えておるぞ」
エルザさんに視線を向けるクロフォードさん。俺がまだ妖精の尻尾に加入する前、ララバイで起こった問題で彼女が評議院に呼び出されたことがあったらしい。その際、エルザさんのフリをして裁判に乱入したナツさんのせいで、日帰りで帰れるところを一日牢に入れなければならなくなったとか。さすがはナツさん、破天荒ですね。
「お恥ずかしい限りです/////」
「懐かしいなぁ。あれから七年、君たちは凍結封印されてたんだってね」
顔を赤くしているエルザさん。よく見るとミラさんも赤くなりながら紅茶を飲んでいる。ナツさんは気にしそうにないけど、他の人は恥ずかしいよね、きっと。
「クロフォードさん。早速ですが・・・」
「あぁ。そうだった。フェイスの件だったね」
話が反れてきていたので、気を取り直して本題へと移る。それは先程ナツさんたちが守り抜いたミケロさんから聞いた、評議院が保有する兵器、フェイスについて。
「ワシもかつての同僚たちの悲報に胸が痛むよ。評議院が機能していない今、君たちのような正義感の強いギルドが立ち上がることを大変嬉しく思う」
なんとも堅苦しい言葉を述べるクロフォードさんは、やはり本質は評議院の人なんだなと思う。慣用的に見えるけど、それは評議院をやめて丸くなっただけで、現役の頃はもっと厳しい人だったのかも知れないな。
「事情はさっきお話しした通りです」
「私たちは冥府の門を止めるため、まずはフェイスを破壊しようと思います」
「その保管場所をお教えいただけないでしょうか?」
元議長ならフェイスについて様々な情報を持っているはず。彼も冥府の門の横暴をこれ以上許したくないはず。だから教えてもらえると思っていたのだが、返ってきたのは意外なものだった。
「残念だが、それはワシにもわからん」
「え?」
「なんですって?」
「議長」
予想外の解答にミラさんと俺は変な声を出し、エルザさんは彼が秘匿義務があるゆえに話そうとしていないのだと思い、詰め寄ろうとする。
「これは、秘匿情報ゆえ隠しているわけではないんだ。元議長といえど、そこまで知る権限がなかったのだよ」
ウソを言っているようには見えないし、そんなことをしている状況じゃないのは彼自身がよくわかっているはず。俺とエルザさんとミラさんは互いの顔を見合わせる。
「元議長でも知らない情報を、奴等はどうやって手に入れたのでしょう?」
「確かに・・・謎じゃな」
元議長が知らないなら評議院全員知らないことのはず。それなのに冥府の門が知ってるなんて・・・どうなってるんだ?
(今は考えても仕方ないか)
これ以上悩んでいても結論が出るはずがない。頭を切り替え、次の質問へと話を変える。
「でしたら、フェイスは三人の生体リンクで封印してるんですよね?」
「生体リンクでフェイスを守る、三人の元評議院を教えていただけませんか?」
「私たちが、全力でお守りいたします」
場所がわからないのなら、封印を解かせなければいい。まだ奴等がフェイスを発動させていないところを見ると、生体リンクでフェイスを守っている三人は殺されていないはず。そう思い、その情報を提供してもらおうと考えた。だが・・・
「それもワシには知る権限がない」
「そんな・・・」
頭を掻きながら申し訳なさそうに答えるクロフォードさん。あまりのことに、エルザさんががっかりと言葉を漏らす。
「フェイスはね、破棄された兵器なんだよ。存在すら公にできない禁断の兵器。ゆえに封印の鍵になる議員も自分が鍵であることを知らない。
究極の隠匿方法によって守られている」
「本人も知らない?」
「それじゃあ守りようがないじゃないですか!!」
クロフォードさんから明かされた真実にミラさんと俺がそう言う。もし自分が鍵だと知っていれば、逃げるなり隠れるなりできただろうけど、それすらできそうにないとは・・・
「では冥府の門は本当に元評議院を皆殺しに・・・!!」
家の周りから気配を感じ、椅子から立ち上がる。
「なんじゃ!?」
「囲まれてますね」
「どうやらお出ましみたいね」
「足音・・・二十人はいる」
とうとう冥府の門がこの場所への襲撃に動き出したらしい。徐々に近づいてくる足音。俺たちはその方角に体を向ける。
「議長!!奥の部屋に!!」
「冥府の門か!?」
どうやら気配と音から推測するに敵は一方向からしか来ていない。なので、クロフォードさんにはできるだけ離れてもらうべく、奥の部屋に隠れてもらう。
「来るぞ!!ミラ!!シリル!!」
「はい!!」
壁を撃ち抜き突進してくる兵たち。こちらに向かってくるそいつらに、まずは俺が先制攻撃を喰らわせる。
「水竜の・・・咆哮!!」
「「「「「どわあああああ!!」」」」」
入ってきて早々に外へと押し返される冥府の使者。エルザさんとミラさんは、彼らが家の前の芝生に落ちたのを見て変身する。
「議長に手出しはさせんぞ」
倒れる兵たちを見下ろしながら緋色の女性がそう言う。一撃喰らったものの、また倒れるほどのダメージは受けていない彼らは、すぐさま立ち上がり俺たちの周囲を囲む。
「ミラとは組むのが初めてだな」
「俺もです」
「見せてあげましょ、妖精の尻尾の力を」
背中を合わせ死角を無くすように体勢を作る。三人の妖精による、冥府たちの殲滅戦が開始された。
第三者side
岩の山に覆われた荒れ地。ここでは、八人の魔導士たちが互いに睨み合っていた。
「借りは返すさ。任せておけ」
誰に言うともなく、そう口を開いたのは現在元議長クロフォードを守るために奮闘しているエルザの幼馴染み、ジェラール。彼の後ろには、同じギルドの紋章を刻んだメルディとカミューニが立っている。
そして、彼らが見据える先にいるのは、たった今コブラの手によって殺められたブレインと、彼と同じく牢に捉えられていた六魔将軍の面々。
「メルディ、カミューニ、離れていろ」
ジェラールにそう言われ、メルディが彼の方を驚いた顔で見つめる。
「相手は五人もいるよ!?わたs――――」
「いいぜ」
「お兄ちゃん!!」
実力者五人に一人で挑もうとしてるジェラール。メルディは彼の危険な行動を止めようとしたが、カミューニが何食わぬ顔で肯定してしまい、言葉を遮られる。
「ただ、ちょっとだけコブラと話させてくんねぇ?」
「あぁ。お前にもやらなきゃならないことがあるんだろうしな」
カミューニはジェラールとメルディの前に出て、六魔将軍の先頭に立つ竜、コブラと向き合う。
「何のようだ?カミューニ」
「お前なら聞こえてるはずだろ?俺の聞きたいことも」
目を細める両者。コブラはカミューニが何を聞こうとしているのかわかっているが、答えようとしない。それを見てため息をついた後、男は口を開く。
「お前が聴いた情報で、俺に役立つものを教えろ」
「いやだ、と言ったら?」
「俺がお前たちを牢に連れ戻す」
舌打ちをするコブラ。彼は例え五人でもカミューニに勝てるか微妙なことじ分かっていた。おまけに向こうにはジェラールもいる。自由のためには、ここは彼との取引に答えることが一番だとすぐに悟った。
「冥府の門は全員ゼレフ書の悪魔。そんで、創造者の元に帰ろうとしている。これでほしい解答になったかい?」
顎に手を当てその情報と以前、ある男に言われたこととを照らし合わせる。その結果、彼はある結論に至った。
「俺の考え、合ってるか?」
「あぁ。たぶんな」
そう言うと二人は笑みを浮かべる。コブラは交渉が成立したから、そしてカミューニは気になっていたあることの答えにようやくたどり着いたから。
「約束は守れよ」
「もちろん。手出しはしねぇよ」
クルリと踵を返し、ジェラールたちの元へと戻っていくカミューニ。彼は青い髪をしたタトゥーを顔に入れている青年の肩に手を置く。
「俺は行かせてもらう。一人で十分なんだろ?」
「あぁ。もちろんだ」
短く交わした言葉。それなのに、二人は互いの思考を感じ取っていた。カミューニはジェラールの肩から手をどけると、振り返ることなく歩き去ってしまう。
「お!!お兄ちゃん!?」
「メルディ、ジェラールを頼む」
手を上げメルディにそれだけ言うと、その背中はどんどん小さくなっていく。そして、そのまま彼はどこかへといなくなってしまった。
「ジェラール!?どういうこと!?」
意味がわからずアタフタしているメルディ。しかし、ジェラールは表情一つ変えずに敵を見据えている。
「俺もあいつも、やらなきゃいけないことがある。そして、これは俺がやるべきことなんだ」
かつて楽園の塔にジェラールはいた。そしてそこには、六魔将軍もいたのである。彼らは交わることはなかったが、それぞれの辛い想いは手に取るようにわかる。だから、ジェラールは六魔将軍と戦わなければならないのである。
「気を付けろよ、カミューニ」
すでに姿の見えない青年に向け、小さく呟くジェラール。そして彼は、六魔将軍との戦いへと頭を切り替えた。
「言われるまでもねぇよ。あいつは・・・俺が殺る」
鋭い目付きでどこかへと向かっているカミューニ。彼の頭の中には、一人の人物のことしかなかったのであった。
「ハァッ!!」
「ふっ!!」
「ヤァァァ!!」
敵を蹴り、斬り、殴って圧倒している三人の妖精。わずか数分の出来事であったが、彼女たちと交戦していた鎧の男たちは、全員地に伏していた。
「片付いたな」
「さすがエルザとシリルね」
「ミラさんもすごかったです」
接収と換装をそれぞれ解くミラとエルザ。元議長を襲撃しに来た冥府の魔導士たちを一掃した彼女たちだったが、ある違和感があり、その表情は固かった。
「それにしても妙だな」
「エルザもそう思った?」
「どういうことですかね?これ」
転がっている一人を木の棒で突っついているシリル。敵兵はそれに反撃することができないほど弱っていたが、決して彼らはそこまで痛め付けたわけではない。
「元議長という最重要人物を狙ってきたにしては、歯応えがなさすぎる。どう見てもただの兵隊だ」
ヤジマを襲った冥府の門の一人、ノーランはBIG3と呼ばれるほどの実力者。しかし、今回襲ってきた相手は明らかにそれよりも格下・・・いや、端にもかからないほどの兵隊たちでしかない。
「クロフォードさんが最重要人物じゃないってことですか?」
「それはない。むしろ、彼を倒すことに全力を注ぐべきだ」
シリルが考えられる一つの可能性を述べるが、エルザに即座に否定される。疑問が頭を過る中、彼女たちをある異変が襲う。
「エルザ・・・シリル・・・」
「どうした?ミラ」
「何かわかりました?」
掠れそうな声で二人の名前を呼ぶミラ。エルザとシリルが彼女を見ると、銀髪の女性は目を半分閉じ、フラフラとしている。
「私・・・」
何かを言おうとしていたが、ミラは突然その場に倒れる。
「ミラ!!あ・・・」
ミラに駆け寄ろうとしたエルザ。しかし、彼女も意識を失うと、その場に伏せてしまう。
「え!?ミラさん!?エルザさん!?」
一人残され二人を交互に見ているシリル。彼女たちに外傷はない。ならなぜ倒れたのか、それを確認しようと先に倒れたミラに近づく。だが・・・
「あれ・・・ねむ・・・」
ミラに被さるように倒れるシリル。彼は不意に眠気を感じ、そのまま深い眠りについてしまったのだった。
三人が倒れたのを見て、建物の中から姿を現す大きな影。男は静かに眠りについている三人を抱き抱える。
「こちらクロフォード。素体を三体手に入れた。予定変更だ」
『さすがです元議長。一度ギルドにご帰還ください』
クロフォードの家にある通信用魔水晶。それに映し出されたのは冥府の門十鬼門が一人、キョウカだった。
後書き
いかがだったでしょうか。
シリルが捕まりました。他にも捕まり方を色々考えていましたが、なぜかエルザとミラと一緒にクロフォードに抱えられるシーンが頭を過ったのでこうなりました。
次からはウェンディsideが多くなると思います。たぶん・・・
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