昔のご馳走
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第一章
昔のご馳走
蘭学者の前野良沢のところにだ、彼と同じ蘭学者の杉田玄白共にターヘルアナトミアを作ってい彼が言ってきた。
「何か面白い馳走があるとは」
「馳走ですか」
「そうです、平賀源内殿が見付けられたとか」
「あの御仁ですか」
平賀源内の名を聞いてだ、良沢は顔を顰めさせて言った。
「どうも」
「良沢殿は源内殿がお好きではなかったですな」
「あの御仁というか」
むしろという口調でだ、良沢は玄白に答えた。
「むしろ私は人がです」
「お嫌いと」
「自分で言うのも何ですか」
こう前置きして言うのだった。
「嫌いなので」
「つまり人間嫌いという訳ですな」
「左様です、しかし」
「はい、平賀殿が昔の面白い馳走をです」
「私達にですか」
「出してくれると言っておられます」
「そうですか、昔の馳走となると」
そう聞いてだ、良沢は。
首を傾げさせてだ、こう玄白に言った。
「見当がつきませぬな」
「私もです」
「玄白殿もです」
「はい」
玄白もこう言うのだった。
「それは一体」
「ですが興味はおありですな」
「正直に申し上げますと」
また答えた良沢だった。
「その通りです」
「それでは源内殿のところに行かれますか」
「そうしましょう」
これが良沢の返事だった。
「一体どういった馳走か」
「楽しみですな」
「それでは中川淳庵殿もお誘いして」
「他の方もお招きして」
共にターヘルアナトミアの翻訳を進めている学友達も呼んでというのだ。
「そのうえで、ですな」
「行きましょうぞ」
そのご馳走を食べに源内の招きに応じるというのだ、そしてだった。
そのうえでだ、彼等は源内の屋敷に来た。すると源内はまずは彼等を快く迎えた。
「ようこそ」
「全く、またおかしなことをされていますな」
良沢は憮然とした顔でその源内に返した。
「平賀殿は」
「おやおや、そう言いますか」
「今度は食いものですか」
「そうです、昔のご馳走をです」
それをというのだ。
「作ってみましたので」
「それを私共にですな」
「召し上がって頂きたいのです」
「そのことは豪気ですが」
馳走だと聞いているからだ、良沢はこう返した。
「ですが」
「それでもですな」
「貴殿は色々されていますな」
「ははは、何でも興味があるものはです」
それこそと返す源内だった、笑って。
「してみないと気が済まないので」
「だからですか」
「蘭学も他の学問も同じです」
「興味があるからですか」
「やってみるのがそれがしなので」
「それで昔の馳走もですか」
「文献を読んで作ってみました」
それでというのだ。
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