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青砥縞花紅彩画

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27部分:浜松屋奥座敷の場その四


浜松屋奥座敷の場その四

宗之「はい」
日本「そうじゃ。それでよい」
弁天「そしてわしもこの家の子ではござらぬ」
幸兵「何と」
弁天「この家の子は宗之助殿じゃ。幸兵衛殿のお子は宗之助殿以外にはおらぬ。よろしいですな」
 幸兵衛はこれ以上言おうとしなかった。
幸兵「わかった。その通りじゃ」
弁天「(それを見て満足そうに頷く)はい。これでよいのじゃ」
日本「そうじゃ。所詮我等は盗人じゃからな」
幸兵「いえ、とてもそうは思えませぬ」
日本「というと」
幸兵「仁義をお知りの方もお見受けします。よろしければ御身の身の上をお聞きしたいのですが」
日本「実は遠州の郷士の生まれでござる。槍持ちでした」
幸兵「左様でござっかた。実は私もかっては武家でありました」
日本「といいますると」
幸兵「実は小田の家にお仕えしておりました」
赤星「何と」
忠信「また因果な」
幸兵「御二人共如何致しました」
赤星「実はそれがし共は信田の家にお仕えしていたのです」
忠信「まさかそちらの御家の方でござったとは」
幸兵「またここでも因果が」
赤星「ところで何故こちらにおられるのですかな」
忠信「信田の家はともかく小田の家はまだ健在の筈でござるが」
幸兵「仔細あり浪人となりまして縁あってこの店を開いたのでござる」
忠信「左様でござるか」
赤星「それも人の世の流れでございますな」
幸兵「しかし帰参の念はあり申して」
赤星「そうでござろうな」
忠信「さもありなん」
幸兵「つてを求めて頼みましたところ一つの功を立てよとこことでございました」
忠信「功といっても色々ありまするが」
赤星「してそれは」
幸兵「はい、考えましたところ先程紛失したという胡蝶の香合を差し出そうと思い立ちまして。これを何とかして見つけ出そうと思っております」
赤星「(それを聞き)何と」
忠信「香合でございますか。これはまた何という因果か」
幸兵「何か御存知なのでしょうか」
赤星「知っているも何も」
忠信「それがし共が持っております故」
幸兵「(これを聞いて大いに驚いて)まことですか!?」
赤星「如何にも」
忠信「何ならお渡し致しましょうか。他ならぬ幸兵衛殿の為なら」
幸兵「お願い致す、是が非でも」
日本「そういうことなら話が早い。では後日人を送りますので」
幸兵「はい。是非お願い致しまする」
 ここで外から何やら物音がして来る。
日本「むっ!?」
四人「一体何事か」
 そこで太鼓の音までして来る。
忠信「頭、これは間違いありやせんぜ」
南郷「そうです。そういえば奉行が変わったと聞いていやす。何でもかなりの腕利きだとか」
日本「青砥藤綱じゃな。知っておるぞ。さては我等の動きを掴んでおったな」
赤星「わし等の動きを掴むとはやりおる」
弁天「しかし頭、ここで捕まるわけにはいかねえぞ」
日本「わかっておる。それでは者共引き揚げるぞ」
四人「おう」
 そして五人は左手へ去ろうとする。駄右衛門は振り返る。
日本「後日香合はお渡し致します故。御安心を」
幸兵「ではその時に小袖を。楽しみにしておいて下さいませ」
日本「うむ、期待しておるぞ。では(四人に向き直る)」
四人「へい、わかっていやす」
忠信「我等五人、盃を交わした中ならば」
南郷「死ぬ時も場所も共にあらん」
赤星「白浪の尽きる時が来ようとも」
弁天「絆は永遠に消えはせぬ」
日本「そうじゃ。ならばここは去ろうぞ」
四人「へい」
弁天「親父、さらばだ」
日本「倅よ、元気でな」
 こうして五人は左手に消えていく。遠くから捕り手の声や太鼓の音。その中で悲しい顔でたたずむ幸兵衛と宗之助の親子。ここで幕が下りる。
 
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