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真田十勇士

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巻ノ四十三 幸村の義その十五

「それはどの城も同じです」
「だからですな」
「はい、大坂城もまた陥ちまする」
「関白様はそのことはわかっておられます」
「間違いなくですな」
 兼続はまた幸村に答えた。
「あれだけの城でも」
「それでは」
「はい、そのことがおわかりとは」
 幸村を見てだ、兼続は言った。
「お見事です」
「どの様な堅固な城でも陥ち」
「そもそも籠城なぞせぬこと」
「それが第一ですな」
「そしてさらによいのは」
「戦をせぬこと」
 幸村は兼続が思うことをだ、あえて先に述べた。
「左様ですな」
「百戦百勝は善の善にあらず」
「人を攻めるものです」
「それが上計ですな」
「城を攻めるのは下計ですし」
「その下計にもですな」
 まさにとだ、兼続は言っていった。
「陥らぬこと」
「外で戦をするのもよくありませぬし」
「その中でも籠城を選べば」
「自らが滅ぶことをです」
 それをというのだ。
「選ぶ様なものです」
「では」
「はい、そうした選択をです」
「戦になっても」
「大坂城の主の方はですな」
「選ぶべきではありませぬ」
 幸村は静かだが確かな声で言った。
「決して」
「その通りですな、まあ関白様ならです」
「間違っても」
「大坂で戦にはなりませぬし」
「籠城もですな」
「ありませぬな、先はわかりませんが」
「暫く大坂は安泰ですな」
 こうしたことを話したのだった、幸村と兼続は。
 そしてだ、その話をしてだった、それから。
 景勝が越後に戻る時が来た、それでだった。兼続は幸村主従にもこう言った。
「ではです」
「はい、我等もですな」
「越後に戻りましょう、ですが」
「ですが、ですか」
「越後に戻られましたら」 
 その時はというのだ。
「真田殿は上田にお帰り下さい」
「それでは」
「はい、短い間ですが」
 兼続は微笑んでだ、幸村に述べた。
「越後の暮らしを楽しんで頂いたでしょうか」
「充分に」
 幸村も温和な微笑みで兼続に答えた。
「そうさせて頂きました」
「それは何よりです」
「それではですね」
「越後に戻られたらすぐにです」
「上田に戻る用意に」
「かかられて下さい」
「わかりました、ただ」
 その上田に戻る話を聞いてだ、幸村は言った。
「また急に話が決まりましたが」
「どうも動きがありまして」
「世にですか」
「真田殿の兄上もです」
 信之もというのだ。
「上田に戻られるとか」
「兄上もですか」
「はい、ですから」
「何か天下で動きがあり」
「上田に戻られることになったのでしょう」
「そうですか、では」
「そのこともご了承下さい」
 こう幸村に言ってだった、そのうえで。
 彼等はまずは越後に戻りに入った、そしてだった。
 彼は十勇士達と共に大坂を発ちそれから都から北陸道に入り越後に戻りに向かった。そして道中で十勇士達と話すのだった。


巻ノ四十三   完


                         2016・1・31 
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