英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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外伝~空の女神の大号令~
1月20日、同日10:30――――
西ゼムリア同盟とオズボーンとの双界の命運をかけた決戦日当日、エイドスは見晴らしのいい丘から護衛のルフィナと共に集結し続ける各国の軍や精鋭部隊を見つめていた。
~エレボニア王国領・ジュライ特区郊外~
「………………フフ…………」
「エイドス様?どうかされたのですか?」
突如微笑みだしたエイドスが気になったルフィナは不思議そうな表情で首を傾げて訊ねた。
「この時代に来る少し前に今のこの光景程ではありませんが、この光景に似た光景を見た事がありましてね。あれからまだそんなに経っていないのに、こんなにも早くまた見る事になったと思うと可笑しくなってしまって。」
「………そうですか………その時の事も後で是非、我々にもお教え下さい。エイドス様を信仰する七耀教会(我々)はエイドス様のご活躍を可能な限り、後世に伝えていきたいと思っておりますので…」
エイドスの説明を聞いてエイドスの時代での決戦の事を思い出していたエイドスの心境を察したルフィナは静かな表情で呟いた後、優しげな微笑みを浮かべてエイドスを見つめた。
「フフ、言われなくてもちゃんと話しますよ。七耀教会(貴女達)が私やお父様達の旅費を全部負担して下さるのですから、その”対価”はちゃんと払わないと”女神失格”ですものね。あ、私は自分の時代では”女神”を辞めて”ただの新妻”になりましたから、”人間失格”って言うべきでしたね♪」
「……え、えっと……」
しかしいつものように親しみのあるエイドスに戻るとルフィナは表情を引きつらせて答えを濁し
「クク、決戦直前であるにもかかわらず緊張した様子を一切見せないところかいつもの調子でいるとは、さすがは”空の女神”だな。我々とは比べものにならないくらいに肝が座っている。」
そこにセルナート総長が二人に近づいてきた。
「別に”空の女神”は関係ないと思うのですが……というかアインさんも似たようなもの―――いえ、むしろ高揚しているのですから、アインさんの方が私以上に度胸があると思うのですけど?」
「ハッハッハッ!我々が崇める主神である貴女からそのような評価を貰えるとは光栄だな!」
「ハア……――それより、アイン。何か作戦に変更があったのかしら?確か作戦開始は12:00のはずだけど。」
エイドスの指摘を聞いて大声で笑っているセルナート総長の様子を見て頭痛を抑えるかのように片手で頭を抱えて疲れた表情で溜息を吐いたルフィナは気を取り直してセルナート総長に訊ねた。
「変更というか提案が各国からあってな。その提案をエイドスに実行してもらう為に来たのさ。」
「え……私にですか?一体何をして欲しいのでしょうか。」
「なに……最後の戦いである決戦前には国王や司令官が決戦に挑む者達に対する激励の言葉をかけるのが通例だろう?それをこの同盟軍の”盟主”である貴女にやって、決戦に挑む者達の戦意を高めて欲しいのさ。」
不思議そうな表情で首を傾げているエイドスにセルナート総長は口元に笑みを浮かべて答えた。
「まあ……フフ、確かに”女神”であるエイドス様が激励の言葉をかければ、戦意が高まる事間違いなしね。」
セルナート総長の説明を聞いて目を丸くしてルフィナは微笑んだが
「めんどうですね……”女神”でしたら私の他にもいるじゃないですか。特に元女王のフェミリンスさんでしたら、そう言う事も得意なんじゃないですか?」
「エ、エイドス様!」
「ハッハッハッ!まさかお前がこうも容易く翻弄されるとはな。さすがの”千の腕”と言えど、自身が崇める”空の女神”の対処は厳しいようだな?」
ジト目になって呟いたエイドスの答えを聞くと慌てた表情で声をあげ、セルナート総長は大声で笑った後口元に笑みを浮かべてルフィナを見つめた。
「アインも呑気に笑っていないで説得を手伝ってよ!貴女は”星杯騎士団”の”総長”でしょう!?」
「クスクス……ちゃんと私がする必要はわかっていますし、実は私もそれをすることを考えていましたから、そんなに必死にならないで下さい。」
疲れた表情でセルナート総長を睨んで声を上げたルフィナの様子を微笑みながら見守っていたエイドスは答えた。その後各国の軍や精鋭部隊が整列し、その正面にある丘の上に各国の軍や精鋭部隊を率いる者達に見守られながらエイドスが拡声器を耳につけて使って話し始めた。
同日、11:05――――
~西ゼムリア同盟軍・本陣~
「――――この戦いの為に集まって下さった双界の勇敢なる戦士の皆さん!あなたがたの心強い参戦に心から感謝しています。この戦いが終われば、新たなる時代が待っています。……ですが、その前に私達は倒さねばならない敵がいます。
その為にも私が皆さんに言っておきたい事はこれだけです。―――誰も死なないで下さい!
故郷を守る為に参加した方々……家族を守るために参加した方々……他にも様々な理由があり、それぞれの未来の為に皆さんはこの戦いに参加しています。それぞれの未来を掴む為に、絶対に生き延びて下さい!
―――勇敢なる双界の戦士達に勝利の加護を!!」
話の最後にエイドスは異空間から自身の得物である”空の神槍ウル”を取り出して空へと掲げて戦場となるジュライ特区まで聞こえる大号令をかけ
「オォォォオオォォォォォォオオオォォッッッ!!!!」
エイドスの大号令に応じるように、各国の軍や精鋭部隊全員はそれぞれの武器を空へと掲げてエイドスに続くように戦場まで轟かせる勇ましい雄たけびを上げた!
「フフッ、さすがはエステル君やカシウスさんの先祖だね。今の大号令で、完全に同盟軍の心を一つにしたのだから。」
「感心している暇があったら少しは見習って真面目になったらどうじゃ?今のエレボニアに求められるのは民達を纏められるカリスマやリーダーシップを持つ皇族なのじゃからな。」
リィン達と共にエイドスの大号令の様子を見守り、口元に笑みを浮かべているオリヴァルト皇子にリフィアは呆れた表情で指摘し
「ハハ、ああいうのはボクの柄じゃないさ。それにリウイ陛下やヴァイス達に鍛えられたセドリックがそういう事を引き受けてくれるから、ボクは”人としてのエイドス”を見習ってボクらしくあり続けてみんなに愛を伝える事こそが、エレボニアの為さ♪」
指摘されたオリヴァルト皇子は笑顔で答えてリィン達を脱力させた。
「リフィア殿下の仰る通り貴様もいい加減少しは真面目になるべきだ、阿呆……!」
「もう、お兄様ったら……幾ら何でもセドリックに全部丸投げするのは感心しませんわよ?」
ミュラー少佐は顔に青筋を立ててオリヴァルト皇子を睨み、アルフィンは呆れた表情で指摘した。
「フフ………それにしても、エイドスさんの今の号令は本当に凄かったな……」
「はい……先程のエイドス様はまるで戦乙女のようでした……」
「うむ。お陰で我らの戦意も高まったな。」
「ふふ、いつものエイドス様とは比べものにならないくらい、凛々しかったですね。」
ガイウスの言葉にエリスとラウラはそれぞれエイドスを見つめながら頷き、エリゼは苦笑しながら呟いた。
「あれで普段がまともなら言う事なしなのだけどね……」
「同感だ。」
「あれが猫を被っている姿なんて、誰も想像していないだろうね。」
「ニシシ、”女神モード”ってやつだね~。」
「二人ともそれを言わないでくださいよ……」
ジト目になったアリサの意見にユーシスは頷き、フィーとミリアムの言葉を聞いた仲間達が冷や汗をかいて脱力している中、セレーネは疲れた表情で指摘した。
「(『それぞれの未来を掴む為に、絶対に生き延びて下さい』、か………)…………」
「ゲルド、どうかしたのか?」
複雑そうな表情で黙り込んでいるゲルドが気になったリィンはゲルドを不思議そうな表情で見つめて問いかけたが
「ううん、なんでもないから大丈夫よ。」
ゲルドは微笑んで答えを誤魔化した。
そして―――ついに双界の命運をかけた決戦が始まった。
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