FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
誰も死なせねぇ
前書き
マガジンSPの読み切りでのウェンディが妙に可愛かった。
あんな弱いブレスで松明の火を消すとは・・・てか格好が完全に天使だったのが何よりも嬉しかったです。
睨み合うラクサスとノーラン。建物は壊れ、周囲にも多大な被害をもたらしているノーラン。それに対しラクサスは、真っ直ぐに彼を見据え、戦う準備は万全である。
「ラクサスくん!!」
「助かった」
冥府の門に命を狙われていたヤジマと、ノーランの怒濤の攻撃に圧倒されていた雷神衆は、頼れる男の登場に安堵の表情を見せる。
「てめぇ・・・まさかあの時の仕返しにでも来たのか?」
ラクサスには彼に攻めてこられる心当たりがあった。しかし、それはすぐに否定される。
「違うわ!!ノーランは冥府の門の一員になったの!!それで、ヤジマさんを狙ってきたの!!」
「ほう」
エバーグリーンから事情を聞き、さらに視線を尖らせるラクサス。対するノーランは、至って冷静そのものだった。
「闇に落ちるとは、ずいぶんと落ちぶれたもんだな、おい」
ラクサスが上から目線でそう言うと、ノーランは口に手を当て笑い始める。
「お前ら、何か勘違いしてるみたいなんだよなぁ」
「あ?」
彼が何を言いたいのか、ラクサスは理解できずに目を細める。
「俺は元々冥府の門の人間だ。この間は、ちょっと訳あってあんなB級ギルドにいただけだ」
華灯宮メルクリアスに近づくに当たって、何気なく接近するには大魔闘演武の出場チームに紛れてしまうのが一番手っ取り早い。なので彼は、元々闇ギルドだった大鴉の尻尾に入り込み、大会に参加していただけに過ぎないのだ。
「なるほど。そりゃあずいぶんとご苦労さんなこったな」
そう言うとラクサスは、全身から雷を放出させ目の前の男を威嚇する。それを受け、ノーランは大魔闘演武でラクサスと一騎討ちになった際に見せたような、片目を黒く変色させていく。
しばしの睨み合い。二人の能力が限界まで高まり、溢れる力を解き放つ。そして、両者は地を強く蹴り、相手に目にも止まらぬ早さで突っ込む。
「消えろ」
最初に攻撃を相手に叩き付けたのは、なんとノーランだった。
「!!」
互いに相手に同じタイミングで突っ込んだ。それなのに、気が付くとラクサスの懐には、すでにBIG3の一角が入り込んでいたのだ。
ノーランは雷竜の腹部に手を押し当てると、力を纏わせたそれを捻る。その力によって彼よりも大きな体をした金髪の男は、いとも容易く宙を舞った。
「ぐあっ!!」
「「「ラクサス!!」」」
何回転もしながら放物線を描き、地面に叩き付けられるラクサス。地に背中をついているその男に、緑髪の男はすぐさま飛び蹴りを放つ。
「くっ!!」
間一髪、体を転がしてそれを交わしたラクサス。彼はその反動を利用して立ち上がると、頬を膨らませる。
「雷竜の・・・咆哮!!」
男の口から雷撃が放たれる。しかし、それを見てもノーランは焦る様子もない。冷静に地面に転がっている残骸を拾い上げると、それを自身とは別の方向に投げ捨てる。
ギャッ
「!!」
すると、ラクサスのブレスがノーランの投げ捨てた物へと軌道修正し、直撃する。聖十の魔導士と互角に渡り合った雷を受けたそれは、真っ黒焦げになり砕け落ちた。
「避雷針か」
忌々しそうにノーランを見つめ、呟く雷の竜。ノーランは七年前、ガジルが自らに攻撃を軌道修正する際に用いた原理と同様のことを行い、彼の雷を外させたのであった。
「ジュラを倒すだけあって、さすがにパワーは目を見張るものがあるな。だが、本気になった俺には、そんなもの意味がない」
口角を上げて、敵を見下す冥府の使者。彼はラクサスを指さし、その腕を振るう。ラクサスはそれに何かを感じたのか、咄嗟に腕で身を守るようにガードする。
ジャキッ
「ッ!!」
体はなんとかガードできた。しかし、彼の腕には痛々しい傷と、ダラダラと流れる鮮血が見受けられる。
「鎌鼬みたいなもんか」
服を破り、傷跡を縛りながらノーランの先程の攻撃について考察するラクサス。止血し終えた彼は、巨大な戟を作り上げ、腕を振り下ろしそれを投じる。
「だから意味ないって」
ノーランはそう言うと、残骸を拾いすぐさま遠くに投げる。そして雷の戟はその方角へと進む方向を変えていく。
「学習能力がないn―――」
敵の攻撃が自分から遠ざかったことで安堵していると、すぐ目の前に巨大な人が迫ってきていた。彼は下がり気味だった視線を上げると、そこには足を振り上げている強敵が存在していた。
「オラァ!!」
「ぐふっ!!」
ノーランが気付いた直後に顔面に雷を纏った蹴りを入れられる。ラクサスの狙いは初めからこれだった。長距離攻撃は避雷針によって軌道を変えられてしまう。だったら、それを逆に利用してやればいい。相手がその攻撃を外させようとしている間に、距離を詰めて接近戦に持ち込む。接近戦なら、自分の方に分があると考えた。だが・・・
「なんてね」
蹴られたノーランは舌を出しながらサラサラの砂になって崩れていく。そこまで来てラクサスは、嵌められていたのは自分だったのだと気付かされた。しかし、時すでに遅し。
「大火の業」
背中を向けていた方に体を正体させるラクサス。その視線の先には本物のノーランが確かに立っている。しかし、その姿はすぐに見えなくなってしまった。なぜなら、彼の腕から放たれた炎が、自身を完全に飲み込んでしまったのだから。
「「「「ラクサス(くん)!!」」」」
白目を向いて崩れ落ちていくラクサス。ドサッと音を立てて地に伏せた男を見て、戦っていた青年は満足気な笑みを浮かべる。
「まぁ、本気を出せばこんなもんだろ」
ピクリとも動かないラクサスを確認した後、堂々とした足取りで当初の目的の人物の前に歩み寄っていく青年。
「さて、もうアンタを助けてくれる人間はいねぇぜ?」
「うぐっ」
再びヤジマの首を掴み、力を入れていくノーラン。彼は老人を持っている手に炎を纏わせていくと、標的であるヤジマを焼き殺そうとする。だが、そんな彼をある異変が襲った。
「うっ!!」
持ち上げていた老人を落とし、首もとを押さえる。彼の周囲には、たくさんの文字の羅列が浮かび上がっていた。
「術式展開!!その中で人を殺そうとした者の酸素を奪う!!」
ラクサスとノーランが戦っている最中、傷だらけのフリードが痛みに耐えながらヤジマの周りに術式を書き込んでいたのだ。ノーランはそれに気付かずその中に踏み入り、術式のルールに触れてしまったためら呼吸ができずに苦しんでいたのだった。
「チッ!!」
脳に酸素が届かなくなり、霞み始めた視界。薄れかけてきた意識の中、ノーランは辛うじて術式の外へと逃げることに成功した。
「ハァッハァッハァッハァッ」
激しく乱れる呼吸。ようやく酸素が体内に入り始めてきたところで正気に戻ったノーランは、ゆっくりと、深く深呼吸を行い呼吸を整える。
「やってくれたな」
呼吸ができずに焦っていた彼は、顔中汗まみれになっていた。その汗を拭いながら、自分を苦しませた青年を見下ろす。
「大人しくあのじじぃを殺させておけば、お前たちも死ぬようなことはなかったのにな」
「ど・・・どういうことだ」
意味深なノーランの言葉に、地面に突っ伏したままのフリードが顔を上げながら問いかける。ノーランはそれには答えず、手のひらに何やら黒い粉にも見えるものを集めていく。
「ヤジマがあの術式の中にいる以上、直接手を降すことはできない。だが、俺の目的はあいつを殺してしまえば、手段なんかどうでもいいんだよ」
青年はそう言うと、手に集めた黒い粉を撒き散らす。その粉は空気と一体化し、彼らを周りを・・・いや、その街をみるみるうちに黒い霧が覆っていく。
「なんだ・・・この黒い霧は・・・」
「どんどん広がっていく・・・」
顔だけを上げて辺りを見回すフリードとビッグスロー。ノーランは目を見開いている彼らを見て、ニヤッと笑みを浮かべた。
「これは魔障粒子。空気中のエーテルナノを破壊し、汚染していくものだ」
「アンチエーテルナノ領域!?」
咳き込むフリード。ヤジマやエバーグリーンは身の危険を感じ、口を覆う。
「この魔障粒子に犯されたものは、魔力欠乏症や魔障病を引き起こす。それらは、お前たち魔導士にとっては死に至る病だ」
なんとか吸い込まないようにしていたものの、魔障粒子は肌からも感染していく。そのため、その中心に近い雷神衆とヤジマは、苦しみ悶え、膝をついていた。
「後はこのまま君たちを放置していれば、自然に死んでいくだろう。それで俺の任務は遂行、術式に引っ掛かる必要もなくなるわけだ」
ノーランはフリードたちに背を向け、近くの建物に飛び移る。
「苦しみながら死んでいくといい。妖精の尻尾よ」
それだけ言い残し、その場を後にするノーラン。残された魔導士たちは、皆顔色がどんどん青くなっていく。
「みんな!!霧を吸い込むな!!」
「このままじゃ・・・みんな・・・」
「町中が汚染される・・・」
しゃべることすら苦しくなっている雷神衆。
「みんな、とにかく逃げるんじゃ。霧のないところへ・・・うっ・・・」
全員にこの場を離れるように指示を出したヤジマ。しかし、彼もすでに限界を迎えており、その場に意識を失い、倒れてしまった。
「ヤジマさん!!あ・・・」
「かはっ・・・」
彼に駆け寄ろうとしたエバーグリーン。さらにはビッグスローもついに力尽き、意識を失う。
「しっかりしろ!!エバ!!ビッグスロー!!」
唯一意識を保っているのはフリードのみ。しかし、彼もこのままではいつ倒れるかわかったものじゃない。そんな時、後ろでガサガサと、何かが動く音がする。
「ラクサス・・・」
フリードが振り返った先にいるのは、ノーランに破れ、気を失っていたラクサスだった。
「情けねぇ・・・俺は・・・」
「ラクサス!!今は自分を攻めてる場合では・・・!!」
悔しさに顔を歪ませている金髪の男。長髪の男の目に写るその男は、信じられない行動にうって出た。
「俺は・・・誰も死なせねぇ・・・」
口を塞ぐことなどしようともせず、あろうことか黒い霧をみるみる吸い込んでいくラクサス。街中に広がろうとしていたそれは、彼の元へと吸い寄せられていく。
「滅竜魔導士の肺は少し特殊なんだ。こんなもん全部吸い込んでやる」
「よせ・・・やめろ・・・」
ラクサスの口に消えていく魔障粒子。しかし、それを吸い続けている男の顔は、欠陥が浮き出始め、いつ息絶えてもおかしくないほどだった。
「必ず全員連れて帰れ。それがお前の仕事だ」
フリードは伏しているエバーグリーン、ヤジマ、ビッグスローを見て、彼の言葉通りに全員を運ぼうとする。だが・・・魔障粒子を大量に吸引した雷の男も、限界を迎え・・・その場に沈んでいった。
「ラクサース!!」
シリルside
妖精の尻尾内の救護室。今ここには、ギルドの魔導士全員が終結している。その理由は、ベッドで苦しみに顔を歪ませている、仲間たちの容態を聞くため。
「ポーリュシカ!!ラクサスたちはどうなった!?無事なのか!?おい!!」
妖精の尻尾顧問薬剤師であるポーリュシカさんに詰め寄るマスター。苛立つ彼とは裏腹に、ポーリュシカさんは暗い顔で静かに説明をする。
「生きてはいる。が、かなり魔障粒子に犯されている。元々、少量の摂取でも命が危険な毒物だ。完全に回復するかどうかは・・・」
彼女の医療知識でも、俺とウェンディの治癒魔法でもほとんど回復させることができなかった。それを聞いて、マスターをはじめとするギルドの仲間たちは、皆押し黙っていた。
「特にラクサスは体内汚染がひどい。生きてるのが不思議なくらいだよ」
皆さんを助けるために、大量の魔障粒子を吸い込んだラクサスさん。彼は呼吸することすらままならない状況で、時おり苦しみに悶えながら、ベッドの上で横たわっていた。
「ラクサスは・・・」
「「「「「!!」」」」」
全員が何も言えないでいると、皆さんを担いでギルドに戻ってきたフリードさんが意識を取り戻したらしく、口を開く。マスターは彼の元へと歩み寄り、耳を傾ける。
「フリード」
「ラクサスは・・・街を・・・救ったん・・・だ・・・ラクサスが・・・いなければ・・・あの街は・・・」
しゃべることも億劫な状態なのに、彼は必死に口を開き言葉を紡ぐ。マスターはこれ以上フリードさんの体に負担をかけないために、静かにうなずく、
「わかっておる。お前もよく皆を連れ帰ってきてくれた」
ラクサスさんもフリードさんも、頑張ってきてくれた。おかげで今皆さんは、なんとか生きていることができているのだから。
「街は・・・ラクサスのおかげで助かった・・・んだ・・・」
それに対し、マスターは何も答えない。息を大きく乱すラクサスさん。彼は自分の身を危険に晒してまで、仲間たちはおろか、街の人たちも救おうとした。それなのに、その努力はほとんど実を結んでいない。
大量に放出された魔障粒子。それは今や街全域にまで広がりを見せており、死者の数も100人を越えてしまっている。大惨事だ。
「街は・・・無事・・・ですか?」
彼の問いに誰一人答えることも、ましてや目を合わせてあげることもできない。こんな悲惨な現実を、とてもじゃないが教えることなどできやしなかった。
「あぁ」
マスターが選択したのは、虚偽の事実を教えること。本当のことを教えてしまった時の彼らのことを考えると、とてもじゃないが教えることなどできなかったのであろう。
「よかった・・・」
マスターの言葉を信じ、笑顔で涙をポロリと流すフリードさん。
その姿を見て、彼らをこんな風にした者たちにあるものは怒りを覚え、あるものは涙を溢した。
「ひどい・・・」
「こんなのって・・・」
静かに泣いているウェンディと、冥府の門の仕打ちにそう呟くルーシィさんと俺。そんな中ナツさんは顔を軽く俯けると、再び眠りについたフリードさんたちに背を向ける。
「じっちゃん」
握り締める拳にグッと力がこもる。彼の顔は、仲間を傷つけられ、怒りに染まった野獣そのものだった。
「戦争だ!!」
その一言で俺たちの心にもスイッチが入る。妖精vs.冥府。人間と悪魔の死闘が幕を上げる。
後書き
いかがだったでしょうか。
前半はオリジナルで後半は流れは違うものの原作と同じようにしてみました。
次からは基本シリルsideでいく予定です。
ページ上へ戻る