11年目の春
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あの日の面影
前書き
11年後のお話です。
黒の組織との決着はまだ付いていない設定なのですが、11年も経ってしまうと「あきらめ悪いな」って感じですが、たぶんまだアイツらは工藤新一と宮野志保を探しているんです、たぶん…おそらく……。
「蘭姉ちゃん。」
月明かりだけが、真っ暗な探偵事務所を照らしていた。窓辺に佇む蘭は、きっとまた泣いていた。自分の不甲斐なさに高校生三年生となった江戸川コナンは唇をかんだ。
「あ……、なんでもないの。ちょっと眠れなくて。」
そう言って涙を拭く蘭の姿をコナンは何度見ただろうか。みんなが寝静まった頃、事務所に下りてきては、電気もつけず暗い部屋で一人、夜空を眺めていた。
「新一兄ちゃんの事?」
驚いたように、涙をため込んだ目を見開く蘭は、すぐに悲しげな笑みを浮かべた。十も年の離れたコナンに察されるほど、自分はそんなにも新一のことでいっぱいになっているんだと改めて思う。大人げないと分かっていても、新一を思うと夜も眠れない。
「ホント、どこ行っちゃったんだろうね。あの推理おたく。」
再び窓の外を見上げてポツリと蘭は言った。手に持った携帯を胸の前で握りしめながら、ここ一年ほどは電話もメールもない新一のことを思っていた。
「あ、あのさ。」
コナンの言葉に蘭は振り向いた。窓際に立つ蘭には、事務所の扉の所に立ち尽くすコナンの表情はよく見えなかった。
一瞬にして、時は十一年前へとさかのぼる。自分がまだ高校生だった時の色も、感情も、すべてが押し寄せる波のように迫ってきて、蘭は持っていた携帯を床に落としてしまった。
床に落ちた携帯に気を取られる蘭にコナンは歩み寄った。小五郎のデスクを挟んで対峙する二人を月だけが優しく、そして悲しげに見守っていた。蘭は驚いたように目を丸くするが、すぐにコナンの言いたいことを理解したように微笑んだ。
「ごめんなさい。私は新一を待ってるの。」
何度も聞いたその蘭の言葉を聞くたびにコナンの心は痛んだ。あの頃の自分の年齢を超えた今、自分が蘭に出来ることはなんなのだろうかとずっと考えていた。このまま、戻ってこない新一を待ち続ける蘭を見てはいられない。そんな事のために、蘭のこれからの人生を棒に振ってほしくはなかった。
「いつまで……、待ってるの? 新一兄ちゃんは帰ってこない。もう、帰ってこないかもしれない。」
コナンは不思議だった。自分自身に嫉妬して、自分を信じてくれている蘭にひどい言葉を投げかける。こんな未来、ほんの一年前まで想像すらしていなかったのに。
「どういうことだよ。もう、解毒薬を作っても意味がないって!?」
高校生になったコナンは、江戸川コナンとして歩や元太、光彦や灰原と一緒に帝丹高校に進学した。相も変わらず五人で探偵団をしていたし、入学式の当日には、他の新入生や在学生に取り囲まれるほど探偵団は知名度も人気もあった。主にコナンの活躍で探偵団は何度も警察に表彰され、新聞の紙面を飾ることもしばしばだった。
しかし、そんな灰原はそんな探偵団を一人、輪の外から眺めていた。
「どうもこうも、そのままの意味よ。」
入学式が終わって、人気のない非常階段に呼び出されたコナンは、その灰原の言葉に愕然とした。
「あなたも分かってると思うけど、あなたの体には薬の耐性ができてしまっていて、ここ五年ほどは、もう解毒薬を飲んでも元の体には戻れないでいる。」
「だから、また新しく作ればいいだろ!?」
コナンはカッとなって灰原に食ってかかった。それでも灰原は冷静に、頭に血が上ったコナンに冷たく鋭い目を向けた。
「いい? よく聞きなさい。あなたの体を幼児化したアポトキシン4869の解毒剤を飲んだところで、あなたの体は27歳の工藤新一になれるわけじゃないのよ。」
頭を固い何かで殴られたような衝撃にコナンは、愕然とした。追い打ちをかけるように、なおもきつい口調で灰原は続ける。
「もう、あなたを本当の姿に戻すすべは、どこにも存在しないわ。」
血の気の引いたコナンの顔に灰原は笑った。冷たく悲しげなその笑顔に守られている彼女はボロボロの心を必死に取り繕っていた。
「心配しないで。今のあなたは17歳。蘭さんは27歳。もう子供じゃないんだから。きっと歳の差なんて――――。」
「コナンくん?」
心配そうにコナンの頬に手を伸ばし顔を覗きこむ蘭の言葉にコナンは我に返った。蘭のその眼差しは工藤新一ではなく江戸川コナンに向けられている。それは母親のそれととても似ていて、コナンは自分の頬に伸びる蘭の手を握ろうして、その手は力なく空をつかんだ。
そんなコナンに蘭は申し訳なさそうに一歩離れるとゆっくりと口を開く。
「コナンくんの気持ちはすごく嬉しいわ。でもね、私は。」
視線を上げた蘭は言葉に詰まった。目の前にいるのは、あの日の新一。心をいっぱいにして待ち焦がれていた初恋の人。
「私は、新一を待ってるの……。」
蘭はそう言って悲しげに笑った。自分が蘭にそんな顔をさせているのかと思うといたたまれなかった。
「それに、そんなのコナンくんに失礼だわ。」
月明かりに照らされる十八歳になったコナン。そんなコナンに蘭はあの日の新一の面影を重ねずにはいられなかった。ずっと張り詰めていた糸が切れるように蘭の目からは大粒の涙がこぼれた。コナンの腕の中で泣き崩れる蘭は懸命に声を押し殺していた。
後書き
今回は長編になる予定です。
色々、詰め込みたいのですが私の表現力と頭がついていけないもので……
少しでもコナン好きの皆様に楽しんで読んでいただけたらと思います。コナンのアニメはテレビに穴があくほど見ているつもりなんですが(どんだけだよ…)、「こんなのコナンじゃないわー!」なんてイメージを壊してしまったらごめんなさい。
平にご容赦を。。。
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