FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Song of the Fairies
前書き
アイリーンとオーガストが強すぎる。これそろそろギルダーツ出てくるパターンなのかな?戦うとしたらオーガストっぽいけど、じゃあアイリーンに挑むのは誰なのかね?すごく楽しみだわぁ。
「ワハハハハハ!!」
「「「「「ワハハハハハ!!」」」」」
巨人の頭の上で楽しそうに笑っているナツさんとハッピー。そして、彼らも同じように楽しそうに笑顔を見せている。
「すっかり馴染んじゃって」
「思考回路が同じなんでしょうね」
完全に意気投合しているナツさんと巨人さんを見てそう言うルーシィさんと俺。今俺たちは、巨人の皆さんを助けたことで感謝され、宴会を執り行われている。
「小さきものに救われてしまったな」
「元に戻れてよかったな」
「小さきもの・・・」
「その中でもさらに小さい分類ね。ウェンディとシリルは」
「皆さんが大きいだけなんじゃ・・・」
「それは言ったら負けだよ~」
話してみると見た目と違って全然怖さを感じさせない巨人さんたち。フレアさんの言っていたように、優しい人たちなんだろうな。
なおも笑いが止まらない太陽の村。そこで振る舞われた料理は巨人さんたちに合わせたものだから、当然のように大きい。ウェンディの食べてるさくらんぼは彼女の顔を越えているし、俺の食べてるみかんは一粒でお腹いっぱいになっちゃいそう。大食いのナツさんにとっては、ありがたい限りなんだろうけど。
「・・・」
皆さんがどんちゃん騒ぎをしてる中、一人だけ険しい表情を浮かべている妖精女王。彼女は腕を組み、何かを考えているようだ。
「一体、この村で何があったのだ?」
彼女が素朴な疑問を問いかけると、今まで楽しそうにしていた巨人の皆さんが押し黙る。
「何があったか・・・か」
「氷の滅悪魔導士ってのが襲って来たんだって」
言葉に詰まる巨人さんたちに変わり、アトラスフレイムから事情を聞いていたルーシィさんがエルザさんにそう言う。
「ワシらも武器を持って立ち上がったのだが・・・」
「そこからの記憶がない」
「うむ」
頭をポリポリと掻いている巨人さんたち。おそらく、一瞬の出来事だったのだろう。だから事情を説明したくても、何もわかってないから説明できない。そんなところだろうか。
「永遠の炎・・・つまり、アトラスフレイムを悪魔だと思って、倒しに来たらしいの」
「犯人の勘違いが引き起こした事件だというのか?しまらん話だな」
「いや、その犯人の真意はまだわからねぇ」
アトラスフレイムを勘違いで倒しにきた犯人が、村全体も凍らせてしまった。それでカタがつきそうなところで、グレイさんが割って入る。
「サキュバスの男が言っていた。「お前たちは開いちまったんだわ、冥府の門を。もう後戻りはできない。そして・・・」てな」
「冥府の門・・・タルタロス!!」
「ひぃ!!」
グレイさんを追いかけ回していた一つ目の鳥。それが彼に冥府の門のことを話していた男を食べてしまったらしく、そしての後に何が続くのかはわかっていないらしい。ただ、かつて戦った闇ギルドの三大勢力、バラム同盟の最後の一角の名前が上がったとあり、ルーシィさんは恐怖を感じているようだった。
「おそらく犯人は、冥府の門の人間だ。その下部ギルドにあたる夢魔の眼が、この村の守備についたんだ」
「なんで~?」
「知らないよ」
なぜ冥府の門が太陽の村を凍らせる必要があったのか、また、凍らせた後、下部ギルドに守りに就かせたのか、全てはいまだにわからないままだ。
「何か別の理由があって村を凍らせたってこと?」
「そうね。まだ何か裏がありそうね」
何かの作戦に当たってこの村の存在が邪魔だったのか、単純に巨人たちを怖れて先に潰しに来たのか。いくらでも予想を推測できる。でも、それは推測の域を出ることはない。
「ま、とりあえずは仕事完了だ!!」
「あいさー!!」
深く悩んでいても仕方ない。そう思えて来たタイミングでナツさんが持ち前の自由さを生かして空気を変えてくれる。彼のその能天気さに思わず笑みを溢したルーシィさん。すると彼女は、何かを探すように辺りを見回し始める。
「そういえばフレアは?」
彼女が探していたのは、この村に住んでいたというフレアさん。さっきまではいたんだけど、どういうわけは姿が見えない。
ルーシィさんがチョコチョコと動きながら見回していると、木の影で体育座りをしている赤髪の女性が目に入る。
「なんで隠れてるの?ねぇ、フレア?」
ルーシィさんが歩みよりながら呼び掛ける。すると、巨人たちの顔つきが変わった。
「「「「「フレアだと!?」」」」」
「「うわああああ!!」」
勢いよく立ち上がった巨人さんたち。彼らの頭の上に乗っていたナツさんはそれでバランスを崩して落っこちてくる。俺の真上に。
「ぎゃああああ!!」
警戒していなかったため、落ちてくる彼に潰されてしまう。ケモケモの時もそうだったけど、最近こんなのばっかり・・・
「そこにおるのか!?」
俺がナツさんに潰されていることなど気にすることなく、ルーシィさんの方を向いて怒鳴っている皆さん。
「ほら、フレア。久しぶりに帰って来たんだし」
「私・・・この村捨てた。勝手に出ていった。だから・・・」
彼女を木の影から引きずり出したルーシィさん。だけど、フレアさんは村を飛び出していった罪悪感からか、巨人たちの方を見ようとしない。
「大丈夫だよ!!怒ってなんかないって・・・たぶん・・・」
元が怖い顔のため、ルーシィさんも自信なさげな様子。無理もない、だって目付きが鋭いんだもん。
「本当にフレアなのか」
「久しいな」
「大きくなったが、まだワシらより小さいな」
ずいぶんと久しぶりに帰ってきた娘に対し、無難な言葉をかけていく巨人たち。フレアさんはそれに何も答えず、静かに彼らを見上げている。
「外の世界はどうだった?」
「た・・・楽しいことも、辛いこともいっぱい・・・」
指をいじりながらこの村を飛び出した後のことを簡潔に述べるフレアさん。それを聞いた巨人とナツさんは、ニッと笑顔を溢す。
「それはどこにいても同じだ。生きている限りな」
優しい声でそう言う巨人さん。フレアさんはもっと怒られると思っていたのか、呆然としながら彼らを見上げている。
「出ていこうが、戻っていこうが、ここがお前の家だ」
「自由にすればいいさ」
「うむ」
「まぁ・・・しかしなんだ。これだけは言っておかんとな」
一体何を言われるのか、冷や汗を流しながら怯えて待つフレアさん。しかし、そんな彼女の考えとは異なり、巨人たちはこう言った。
「「「「「お帰り!!我らが娘よ!!」」」」」
その言葉を聞いた途端、彼女の目から涙が流れ出した。
「た・・・ただいま・・・」
彼らの温かさに見ていた俺たちも笑顔になる。その夜は、朝になるまで飲んで食べて騒いで、巨人たちと楽しい宴を開いた。その日聞いた、不吉な単語を忘れるくらいに・・・
夢魔の眼・・・ミネルバ・・・滅悪魔導士・・・ゼレフ書の悪魔・・・END・・・そして、冥府の門・・・
翌日・・・
巨人の皆さんに別れを告げた俺たちは、依頼を完了したことをウォーロッドさんに伝えるため、彼の家へと戻っていた。
「プハーッ」
「行きはあっという間だったけど、帰りは大変だね」
「ウォーロッドさんの木の魔法、すごいスピードだったからねぇ」
「何日くらいかかるかな、これ」
山を越え川を越え、谷を越えて2000km離れたウォーロッドさん宅を目指す俺たち。今は崖を登り終えた頂上で休息しているんだけど、彼の魔法がどれだけすごいのか、今になって実感できる。
「そう言うな、これも鍛練のうちだと思え」
「早く戻って、ウォーロッドさんにちゃんと報告しなくちゃね!!」
エルザさんとルーシィさんはこの大変さを全く苦にしていないみたい。エルザさんはともかく、ルーシィさんってそんな人だっけ?
「つーか、報酬ももらわねぇといけねぇしな」
「それが一番大事~」
岩に座って頬杖をついているグレイさんとセシリーがそう言う。しっかりと完遂したんだから、当然ですよね。
「ルーシィ?何ニヤついてんだ?」
「うわ・・・思い出し笑いだ。怖っ」
村のことを思い出していたのか、頬を緩ませていたルーシィさんを見てナツさんとハッピーがそう言う。そう言われてルーシィさんが怒りでプルプルと震えていた。
「休憩はこれくらいでいいだろ。いくぞ」
「「「「「オオッ」」」」」
体を休めた後、ウォーロッドさんの家へと再び歩き始める俺たち。
「あれ?そういえば・・・」
「どうした?ハッピー」
すると、ハッピーが翼を出しながらナツさんの隣を飛んでいると、何かを思い出す。
「報酬、いくらくらいかな?」
「あ、そういえば聞いてなかったな」
「依頼書にも書いてなかったですもんね」
通常の依頼だと、依頼書に達成報酬が記載されているのだが、今回のものにはそれがなかった。たぶん、ウォーロッドさんのことだから、抜けていたんだろうな。
「そりゃあ、聖十大魔道直々の依頼だ。すげぇに決まってる」
「報酬よりも、成し遂げたことを、まず誇りに思わねばな」
「難しいこと言うなよな」
「石頭だね」
「何か言ったか?」
「ルーシィが!!」
「え!?なんであたし!?」
そんな和気あいあいとした雰囲気のまま、やっとの思いで依頼主であるウォーロッドさんの自宅へと到着する。
「ウワッハハハハハ!!やっぱり君たちに任せて正解だったよ!!いやぁ、よくやったよくやった」
帰って早々報告をすると、相変わらずのハイテンションで迎えてくれるウォーロッドさん。彼の労いの言葉で気をよくしたナツさんたちは、同じようにテンションが上がっていく。
「楽勝だったな!!」
「無事、ウォーロッド様の依頼を達成できて、ホッとしています」
目上の方に対する敬意が全くないナツさんとかしこまっているエルザさん。正反対な二人を見て、なんか面白いと感じている。
「そういやあの盗賊の四人組は?」
「バーンって蹴り飛ばしちゃった」
「蹴ったのルーシィさんだけですよ」
ウェンディも蹴ったことは蹴ったけど、蹴り飛ばしたのはルーシィさんだけだ。まぁぶっ飛ばしたことに変わりはないけど。
「冥府の門が関わっていたのには驚きましたけど・・・」
「うむ。その辺りの調査は評議院に任せておけばよい」
事件の犯人についてもウォーロッドさんに報告したのだが、その辺はやはり専門の人たちに任せるべきと判断したらしく、こちらに背を向けながらそう言う。
「それより、君たちに報酬を渡さねばな」
「待ってました!!」
「まぁ、仕事もしたんだし当然よね」
「何かな~?」
一体どれくらいの報酬がもらえるのかとワクワクしていると、ウォーロッドさんは植木をガサゴソといじり、手に何かを持ってこちらを振り返る。
「ほい」
その手には手のひらほどのジャガイモが握られていたのだが、それがどういうことなのかわからず、固まってしまう。
「ほいって・・・」
「私の畑で取れたジャガイモ」
そう言って高笑いするウォーロッドさん。え?あれだけの仕事して依頼がそれだけなの?
「というのは冗談じゃ」
「だ・・・だよな・・・」
「は・・・ははは・・・」
「び・・・びっくりしました」
どうやらジャガイモが報酬というのはお決まりのジョークだったらしい。彼の冗談に苦笑いする妖精たち。
「本当は、隣の村で買ってきたジャガイモなのだ」
性懲りもなく同じようなジョークをいい放ったウォーロッドさんに、とうとうナツさとグレイさんがキレた。
「どっちでもいいわ!!」
「金寄越せコラァ!!」
そこだけ聞くとなんだか悪いような人に聞こえるから不思議だ。結局、ちゃんと依頼料を受け取ったことで満足させたことで、この場は収まったのだった。エルザさんが本気でジャガイモを受け取ろうとした時は、どうしようかと思ったけどね。
そして、ウォーロッドさんのジョークに振り回されていた間に、日が暮れて外は暗くなっていた。
「ナツさん、グレイさん、早く行きましょう!!」
バスタオルと体を洗うためのタオルを手に持って二人の青年に声をかける。実はウォーロッドさんの話だと、この近くに誰も知らない秘湯があるらしい。なので、疲れた体を癒すために、入ろうと言うことになったのだ。
「あ・・・いや・・・」
「俺らはいいや」
すでにウェンディたちはお風呂へと向かっているためここにはいない。なのでナツさんたちとお風呂に向かおうとしたのだが、あっさりと断られてしまう。
「えぇ!!ナツさんエルザさんに怒られますよ」
一夜ウイルスの時に彼はあまりにもお風呂に入らないことをエルザさんに注意されていた。今回は大分動き回ったし、汗も相当かいているはず。それを洗い流さないと、また彼女に怒られてしまうのではないのだろうか?
「グレイさんも行きましょうよ!!」
「な!!ちょっと待て!!」
すぐ目の前にいたグレイさんの手を引っ張って秘湯へと向かおうとした。しかし、彼もお風呂に入りたくないらしく、その場から動こうとしない。
「無理だ!!俺自信ねぇよ!!」
「何の自信ですか!?」
意味不明な発言をするグレイさんに思わず突っ込む。普段はほとんど裸なのに、今さら自信も何もないような気がする。
「海合宿では一緒に入ったじゃないですか!!」
「あん時と今とじゃ状況が違ぇんだよ!!」
「うんうん」
なおも抵抗するグレイさんとナツさん。何がそこまで彼らを押さえ付けているのか、さっぱりわからない。
「わかりました。一人で入ってきます」
しょんぼりとしながら彼らに背を向けお風呂に向かうフリをする。ようやく諦めてくれたと勘違いしている二人は、ホッと息をついているのが気配で何となくわかる。
「わかってくれたか」
「あぁ。それがいちば―――」
「なんて・・・」
安心しきったところで振り返り、一気に距離を詰める。そして・・・
「言うわけないでしょ!!」
「うがっ!!」
足を振り上げグレイさんの股間を強打した。
「おま・・・それは・・・」
表現できない痛みに悶絶しているグレイさん。うずくまっている彼の首元を掴み、ナツさんをキッと睨む。
「ナツさんもされたいですか?」
「わかった!!一緒に行くから勘弁してくれ!!」
首をカクカク縦に振り、一緒に入ることを了承してくれたナツさん。それを聞いて思わず笑みを見せると、なぜか彼の頬が赤くなって顔を背けてしまった。
「じゃ、早くいきましょ!!」
「いってて!!引きずらないでくれ!!」
なおも股間を押さえているグレイさんを引っ張ってお風呂へと向かっていく俺。彼に引きずるなと言われたが、生憎彼を持てるほどの力もないので、このままいくしかないのである。
「シリルって・・・あんなに狂暴だったか?」
「留学の後くらいから、すごくキャラが変わった気がするよ」
ナツさんの足元に隠れていたハッピーと後ろで会話しているナツさん。だけど、お風呂に入ることを楽しみにしていた俺には、彼らの言葉など耳に届いていなかった。
「わぁ!!大きいですね!!」
服を脱いで腰にタオルを巻き、ウォーロッドさんに教えてもらった秘湯の前に立つ。そこは自然と同化していて、絶景という言葉がお似合いの場所だった。
「くっ・・・シリルに蹴られたとこがまだ痛ぇ・・・」
タオルで隠しながら痛む箇所を押さえつつこちらにやって来たグレイさん。なんだか申し訳ない気もするけど、意味不明な発言をしてた彼にも責任があるので、謝りませんよ?
「そんなの、舐めれば治りますよ」
「おま・・・意味わかっていってんのか?」
彼の返しに首を傾げる。大した傷じゃない時に舐めれば治るって言うよね?俺の使い方間違ってるかな?
「ヒャッホー!!」
「あいさー!!」
「「うわぁ!!」」
グレイさんと会話していると、その脇を駆け抜けて風呂へと飛び込む二つの影。彼らが勢いよく入ったことで、お湯がしぶきを上げて俺とグレイさんにかかる。
「オオッ!!広いなここ!!」
「あい!!」
ばた足を効かせてお風呂の中を泳ぎ回るナツさんとハッピー。その間もしぶきが後ろの人物たちにかかっていることに気付いてほしい。
「ナツ!!風呂で泳ぐな!!」
「ちゃんとかけ湯をしてください!!」
「ああ!!うるせ・・・」
ビシャビシャになりながらマナーがなっていない二人に注意する。そのうちの一人、桜髪の青年はこちらを向くと、一瞬固まった後、静かに湯船に入っていく。
「ん?どうしたんですか?」
「な・・・なんでもねぇ」
「あい」
突然静かになった彼らを訝しげに見つめながら質問するが、背を向けた彼らは答えてくれない。答えてくれそうにないので、諦めて湯船の中へと入っていく。
「お前見たのか?」
「し・・・仕方ねぇだろ!!」
ナツさんの元に近付いていってコソコソと話をしているグレイさん。何を話してるんだ?全然聞こえないぞ。
「うわぁ♪すごい!!」
「「「「!!」」」」
ゆっくりと浸かっていると、聞き慣れた声が聞こえてきたためそちらを見る。そこにはなんと・・・あろうことかタオルを体に巻いたウェンディとルーシィさん。さらには何も身に付けていないエルザさんがやって来ていた。
「ブッ!!」
その光景に思わず吹き出す。まさかここって混浴!?なんでこんなことになってるんだ!?
「ウェ・・・」
「待てシリル」
「うぐ!!」
ウェンディたちに俺たちが入っていることを知らせようとすると、後ろからグレイさんに口を塞がれ身動きを封じられる。
「付き合ってやってんだ。これくらいいいだろ?」
エルザさんたちの方を嬉々とした目で見ているグレイさんとナツさん。ただ女性たちの方を見ていると、ウェンディも見られていることになるのでなんとか逃げ出そうとするが、力が強くて全然動けない。
「絶景だな」
「素敵ですね」
エルザさんとウェンディがそう言う。彼女たちは俺たちが入っていることに全く気付いておらず、普通にお風呂を楽しむような感じの雰囲気だった。
「さすがはウォーロッド様。こんな秘湯を知っておられるとは」
「見てウェンディ。この湯は健康と美容にいいんですって」
「わぁ!!」
「お肌ツルツルになっちゃうね~」
湯加減を確認しているエルザさんと近くの看板に効力が書かれていたらしく、それを見ているシャルルとウェンディとセシリー。
「仕事の後のお風呂って最高だよね」
「疲れた心と体を癒し、また明日に向けて気持ちを切り替えられるしな」
バスタオルを脱いで湯船に入る皆さん。その際ルーシィさんのおかげでウェンディが隠れながらお風呂に入っていたので、ナツさんたちに見られなかったことに安堵していた。
「でも・・・なんかシリルたちに悪いですね」
「いーのよ。あいつらどうせ温泉になんか興味ないんでしょうし」
「ご飯でも食べてるんじゃないの~?」
体育座りで肩まで浸かっているウェンディと、プカプカと浮いているシャルルとセシリーがそう言う。ごめんみんな・・・実はすぐ近くに入ってるんだよ。てか助けて。
「いや・・・そうでもねぇぞ」
「たまにはこういうのも気持ちいいもんだぜ」
「あい!!」
「むぐぐぐぐ」
ナツさんたちがシャルルたちの言葉に反論するために口を開く。俺は口を封じられており、何も言うことができなかったけど。
「「「「「・・・」」」」」
俺たちがすぐ近く・・・というか同じお風呂に入っていることにようやく気付いたウェンディたち。彼女たちは俺たちの方を向いて、次第に顔を赤くしていく。
「きゃあああああ!!」
「何勝手に女湯に入ってんのよーー!!」
「先に入ってたのは俺たちだ」
「お前らが後から入ってきたんだろっ!!」
悲鳴を上げて体を隠すウェンディと胸を隠しながら桶を投じるルーシィさん。ナツさんはその桶を軽く交わし、グレイさんは顔を赤らめながらそっぽを向いている。
「あれ?言っとらんかったかの?混浴じゃと」
「堂々と入ってくんなーー!!」
何の抵抗もなく入ってきたウォーロッドさんに涙目になりながらキレるルーシィさん。彼女は顔の半分くらいまで浸かって体を隠しているウェンディとハグする。
「ちょっと、男子は出ていきなさいよ」
「そうです!!恥ずかしいです!!」
「ほうへふへ。へはひょふ(そうですね。出ましょう)」
抱き合っているルーシィさんとウェンディの言葉に乗って捕まっている状況から脱しようと考えた。だが、そう簡単にはことは進まない。
「お前の裸なんか見飽きてる」
「新鮮味はねぇな」
「うわー、超最低。死ぬの?」
金髪の女性をガン見しながら説得力のない発言をするナツさんとグレイさん。そんなことを言われた彼女は明らかに怒っていた。
「てかシリルに何してるの!?離しなさいよ!!」
すると、俺が捕まっているのを見て助けようとしてくれるルーシィさん。助かります、ありがとうございます。
「シリルが一緒に入ろうって行ったんだ」
「俺なんか蹴られたんだぞ」
「うぎゅ・・・」
しかし、ナツさんたちにそう言われると返す言葉がない。だって本当のことだから。
「まぁ落ち着けみんな。仲間同士だ。これくらいのスキンシップ普通だろ」
「普通じゃありません!!」
髪をかきあげながら一般人とはズレた発想の持ち主がぶっ飛んだ発言をかます。彼女は隠す素振りもなく、ゆっくりとこちらに近寄ってくる。
「昔はよくナツやグレイと一緒に風呂に入ってたんだ」
「う・・・」
「む・・・」
「それが普通じゃないのよ」
エルザさんに過去をさらけ出されたナツさんとグレイさんは、触れられたくなかったことだったようで、頭を抱えていた。
「久しぶりに背中を流してやろう」
「い・・・いいよ!!」
「もうガキじゃねぇんだ!!」
ナツさんとグレイさんを湯船から引きずり出そうとするエルザさん。その際俺を捕まえる黒髪の青年の腕から力が抜けたため、すぐさま距離を取る。
「ほっほっほっ。仲間というのはいいもんだのぅ」
「あんた違うでしょうが!!」
「おや?そうか・・・まだ言っとらんかったか」
ウォーロッドさんはお風呂に浸かっている左腕を俺たちに見せる。そこには、俺たちと同じギルドマークが刻まれていた。
「私はメイビスと共に妖精の尻尾をつくった創世期メンバーの一人。君らの大先輩じゃよ」
「「「!!」」」
「な・・・」
「え?」
「マジか・・・」
彼の言葉に全員が驚愕する。エルザさんたちも知らないってことは、本当に初代と同じくらい世代の人ってことなのか?
「おじいさんの昔はいたギルドって・・・」
「妖精の尻尾だったの?」
「そうだったんだ~!!」
ハッピーたちもこれには驚いている。そいうえばギルドで依頼書が来た時、マスターが俺たちに絶対粗相をするなって言ってたな。あれはイシュガルの四天王だからではなく、ギルドの大先輩だったからなのか。
「というのは・・・」
「冗談なのか!?」
「本当じゃ」
またお得意のジョークなのかと思ったら、今度は本当に本当だったらしい。予想を裏切られたグレイさんは思わず滑っていたが。
「それでウチのナツとグレイとシリルを指名されたのですね」
「うむ。いかにも」
ナツさんの背中を流すエルザさんの言葉にうなずくウォーロッドさん。そういう理由だったのか。適正だけじゃなく、ギルドという点からも最高のメンバーだったわけだ。
「君たちが私の家を訪れた時、ほのかに懐かしいギルドの古木の匂いがした。・・・というのは冗談じゃが」
「冗談なんですか!?」
「話が進みませんね」
お湯をバシャバシャと叩いて上機嫌のウォーロッドさん。よく考えたらウチって何度か建て替えてるんだもんな、古木の匂いなんかするわけないじゃん。
「君たち若き妖精たちに会えて、私は本当に嬉しいのじゃ。
メイビスの唱えた“和”。血より濃い魂の絆で結ばれた魔導士ギルド妖精の尻尾。
その精神は時が流れた今でも君たちの心に受け継がれておる。それは仕事の成否にあらず。君たちを見たときに感じたこと。
かつてメイビスは言った。“仲間”とは言葉だけのものではない。仲間とは心。無条件で信じられる相手」
『どうか私を頼ってください。私もいつか、きっとあなたを頼ることがあるでしょう。
苦しい時も悲しい時も、私が隣についてます。あなたは決して一人じゃない。空に輝く星々は希望の数。肌に触れる風は明日への予感。さぁ、歩みましょう。妖精の詩に合わせて・・・」
ウォーロッドさんと初代の言葉を聞いて、改めて仲間の大切さを認識した俺たち。ギルドの仲間を守ろうとしていたのは、ずっと昔からの伝統だったんだな。
「妖精の尻尾創始の言葉かぁ。なんか感慨深いものがあるね」
「はい。やっぱり妖精の尻尾ってすごいです!!」
ブレることなくギルドの伝統を受け継ぎ続けている妖精の尻尾。強い絆や想いは、一朝一夕じゃ絶対に育むことができない代物だ。
「つーことはあれか!?じっちゃんより年寄りなのか!?」
「失礼だぞ、ナツ」
エルザさんの背中を流しているナツさんがウォーロッドさんの方に顔を向けながらそう言う。その言動について、エルザさんが注意する。
「いや・・・もしかしてそんなに昔の人だとさ・・・ENDって悪魔の話知ってるかなって」
「END?終焉・・・」
「ゼレフ書の悪魔らしい。俺の親父のドラゴンが倒そうとしてたみてーなんだ」
「ゼレフ書・・・また物騒な名前を」
デリオラと同じようにゼレフが生み出した悪魔。その中でも最凶最悪と言われているその悪魔の手がかりを手にいれるため、ナツさんは創世期メンバーであるウォーロッドさんの話を聞いてみようと考えたわけか。
「そのENDってのが何なのかわかれば、イグニールの居場所のヒントになると思ったんだけどな」
「アトラスフライムが言ってた言葉ですね」
「心当たりありますか?ウォーロッドさん」
「うむ・・・すまんが知らんのぅ」
どうやらウォーロッドさんでも知らないことらしい。そもそもゼレフ書の悪魔自体がよくわかってないし、当然か。
「だが昼間に冥府の門と聞いてこんな話を思い出した。奴等は正体が一切わからぬ不気味なギルド。本拠地も構成員の数も不明じゃ。だが、何度か集会を目撃したものの話を聞くことがある。
その者たちは口々にこう言う。あの集会は悪魔崇拝だと・・・
これは我々イシュガルの四天王の推測ではあるが、奴等は強力なゼレフ書の悪魔を保有している可能性がある」
「ギルドがゼレフ書の悪魔を保有!?」
「もしかしてその悪魔がEND!?」
闇ギルドとは言え、ゼレフ書の悪魔を保有しているなんて信じられない。でも、グレイさんがゼレフ書の悪魔と戦ったらしい、その可能性も高いわけか。
「そっか・・・どこにいるかわかんねーってんならやりようがねぇな!!くそっ!!見つけたら叩き潰して吐かせてやる!!こうやってギッタンギッタンに」
腕を振るって相手を倒すイメージを掴もうとしているナツさん。しかし、彼の攻撃を見て全員が青ざめている、それは、彼が殴っている人物が問題だからだ。
「おい・・・ナツ・・・」
「あ?」
グレイさんがおそるおそる声をかけようやく止まるナツさん。彼はそこまで来て、ようやく自分がやってしまった取り返しのつかない事実に気付いた。
「ほう・・・」
頭がたんこぶだらけになってナツさんの睨むエルザさん。それを見て、殴った本人は固まっていた。
「ぎゃあああああああああ!!」
その直後上がる悲鳴。この後ナツさんは色々と大変なことになったのだが、言ったら殺されそうだから、皆さんのご想像にお任せします。
後書き
いかがだったでしょうか。
アニメだとナツたちとの混浴じゃありませんでしたが、ここでは原作を見本にし混浴にしました。
シリルがグレイの股間を蹴るのをやりたかっただけなんですがね。
次はいよいよ冥府編です。さてさてうまくできるかな?
ページ上へ戻る