英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第215話
~オーロックス峡谷~
「「秘技――――百烈桜華斬!!」」
「「グッ(キャッ)!?」」
互いに同じ技を放った二人は同時に吹っ飛ばされ、それぞれ空中で受け身を取って着地した。
「―――驚きました。かつてユミルの雪山でエリスと私を守る為に使った”あの力”も使わずに、”皆伝”に到った私と互角……いえ、互角以上に戦うなんて。」
「みんながいなかったら、ここまで強くなれなかったさ。―――勿論エリゼ。お前もその内の一人だ。」
「兄様……………私だって兄様がいなければ、きっとここまで”到って”いなかったでしょう……私が強くなると決めた一番の理由は私が心から愛している兄様の”支え”になる為だったのですから……」
「エリゼ…………一つ聞いてもいいか?」
エリゼの話を聞いて呆然としていたリィンは気を取り直してエリゼを見つめて問いかけた。
「何でしょうか。」
「エリゼは”本来のエリゼの運命”を知っているのか?」
「!!―――はい。本来なら私がアルフィン皇女……いえ、アルフィン義姉様の友人としてエリスの役割をしていた事や、エリスが本来の歴史では存在していなかった事も全て知っています。―――キーアさんには今でも私の運命を変えてくれた事に心から感謝しています。」
リィンの問いかけに目を見開いたエリゼは静かな表情で答え
「理由を聞いてもいいか?」
「キーアさんは私が心から愛している兄様の”支え”となる為にずっと必要と思っていた事――――地位や力、そしていざという時に私達の味方になってれる後ろ盾を得る切っ掛けを作ってくれました。その結果辺境の男爵家の子女から大国の皇帝の跡継ぎである皇女の専属侍女長にして”八葉一刀流”の”皆伝”の一人へと成長した私がこの場にいます。”本来の運命”と比べれば地位も力、そして人脈もあり、あらゆる面で兄様の助けとなり、”支え”になる事もできます。それに本来ならいなかった妹もいますしね。」
「姉様…………」
エリゼの本心を聞いたエリスは呆け
「―――アルフィン義姉様……いえ、今だけは”姫様”と呼ばせて頂きます。姫様には大変失礼ですが、私は本来の運命――――姫様の付き人でなくてよかったと今でも思っています。」
「エ、エリゼ!?」
「……何故でしょうか?」
エリゼがアルフィンの付き人でなかった事を良いことと断言した事にリィンが驚いている中、自分が侮辱されたにも関わらずアルフィンは怒る事なく静かな表情で問いかけた。
「私が姫様の付き人を務めていたとしても、姫様では私が望んでいるもの―――地位や人脈の用意もそうですが、後ろ盾になれるとはとても思えません。」
「そ、それは……………」
「……何故それほどまでに君は地位や人脈、後ろ盾を求めているのだい?」
エリゼの言葉にアルフィンが辛そうな表情で言葉を濁している中、オリヴァルト皇子は真剣な表情で尋ねた。
「全ては兄様の為です。」
「え……………”俺の為”ってどういうことだ、エリゼ!?」
「兄様が”尊き血”を引いていないからという下らない理由だけで、帝国貴族の方々は父様と母様を罵倒し、その結果父様達は社交界から離れ、ユミルに引きこもりました。その事を知った時私は悔しかったです……何故”尊き血”ではないという下らない理由だけで兄様が……私達の家族が否定され、罵倒されなければならないのか、と。そして同時に思いました……シュバルツァー家に地位や人脈があれば、そのような事にはならなかったではないのか、と。現にユーシスさんは母親は”平民”の血を引いていながらも、”尊き血”を重要視する帝国貴族達からは”貴族”として認められています。」
「姉様……」
「エリゼ……」
エリゼの話を聞いたエリスとリィンはそれぞれ複雑そうな表情をし
「……まさかお前は帝国貴族達を見返す為に地位や人脈、後ろ盾を求めたのか?」
目を伏せて黙り込んでいたユーシスは目を見開いて真剣な表情で尋ねた。
「いえ。ただ私は兄様を認めて欲しかった……―――それだけです。ですがその為には帝国貴族達ですら逆らえない後ろ盾が必要で、その後ろ盾を手に入れる為には人脈や地位が必要です。」
「そして君が求めていた後ろ盾とはリフィア殿下―――いや、メンフィル皇家である”マーシルン家”か…………エリゼ君、帝国貴族達が仕える存在―――エレボニア皇家であるアルフィン殿下――――”アルノール家”では何故役不足なのだい?」
エリゼの答えを聞いて重々しい様子を纏って呟いたアンゼリカは真剣な表情で問いかけた。
「その理由は到って単純です。リウイ陛下やリフィアは”百日戦役”で活躍した事によって、当時のエレボニア帝国の人々に恐れられた存在だからです。エレボニア帝国にとって恐怖の対象であるメンフィル帝国の皇族ならば、例え帝国貴族と言えど逆らう事はできませんから。」
「……ま、エリゼの言っている事は真実じゃな。実際夏至祭の際リィンを罵倒した愚か者達を余やリウイが一睨みして注意した途端、腰を低くして余達の顔色を窺うように謝ってきたからな。」
「そんな………!ただ”強い”という理由だけでアルフィン殿下達―――”アルノール家”を見限ったの!?皇族の人達の戦闘能力が高くて、戦場で活躍するなんてことはエレボニアの皇族達を含めて普通はありえなくて、プリネ達―――マーシルン家が特別なだけなんだよ!?」
エリゼの言葉にリフィアは静かな表情で肯定し、エリオットは信じられない表情で声を上げて反論した。
「私が求める後ろ盾は”強い皇族”です。”強い皇族”であるメンフィル皇家の方々の加護を受ける事ができれば、”尊き血”を重視する貴族達も兄様を認めてくれる……当時まだ幼かった私はそう思いました。そしてメンフィルに留学してマーシルン家の事を知れば知る程マーシルン家があらゆる意味で”強い”事を知り、レン姫やルクセンベール卿の存在によって、私の推測は確信へと変わりました。」
「え……あ、あたしとレンさんがですか?」
エリゼの答えを聞いたツーヤは戸惑い
「…………うふふ、なるほどね。レンとツーヤ……二人とも元は”平民”で、しかもリィンお兄さんと同じ、当時は両親が誰なのかわかっていなかったものね。」
ツーヤと違い、理由を察したレンは口元に笑みを浮かべて答えた。
「あ…………」
「……言われてみればレン姫とツーヤはリィンと共通している点がいくつかあるな。」
「厳密に言えばツーヤは元は正真正銘の王女―――”尊き血”を引く者ですが、私の専属侍女長兼親衛隊長に任命された当時は記憶がまだ戻っていませんでしたから、その頃のツーヤは”平民”として見なされていました。」
レンの答えを聞いたツーヤは呆け、ガイウスとプリネはそれぞれ静かな表情で呟いた。
「兄様と様々な共通点があるお二人は皇族として……貴族として認められ、”尊き血”を重要視する帝国貴族達も決してお二人の事を侮辱する事なく接しています。更にファラ・サウリン卿とルーハンス卿……お二人も平民でありながら、”尊き血”を重視している貴族達からも貴族として見られています。以上の事からエレボニア―――いえ、ゼムリア大陸にとって”最強”の存在にして”強い皇族”であるマーシルン家の方々に目をかけて頂ければ、兄様の事を認めなかった貴族達も兄様を認めてくれる……そう思ったのです。」
そしてエリゼはリフィア達等一部の者達しか知らなかった自分の本音をその場にいる全員に語った。
「姉様…………」
「エリゼお姉様が今まで頑張って来れたのは、全てはお兄様の為だったのですね……」
「………………」
「実際メンフィルが重用しているエリゼの妹のエリスを助ける為だけに”英雄王”達は”夏至祭”であれだけ大暴れしたものね。しかもエレボニアはメンフィルとの関係が悪化する事を畏れたこともあってメンフィルに対して全く反論できなかった上、相手が貴族であろうとプリネ達に危害を加える連中はプリネ達が拘束、処刑できる権利があるあのとんでもない許可証まで発行していたものね。」
「そんでもって内戦の時はエリス嬢ちゃんとリィンを救出する為だけに帝都襲撃にパンダグリュエル制圧と言った”夏至祭”の時の大暴れすらも比べものにならないくらいのとんでもない事まで仕出かした上、エリゼ嬢ちゃんが提案した”戦争回避条約の救済条約”も採用したしな……今思えばユミル襲撃に対してあそこまで報復したのはエリゼ嬢ちゃんの故郷であったからかもしれねぇな……」
「ハハ……なるほどね。例え相手が他国の皇族や貴族が相手だろうと自分達が正しいと判断した事は押し通すリウイ陛下達と違って、貴族達の顔色を気にしていた私達”アルノール家”では役不足だと判断されても仕方ない事だね。現に宰相殿は平民でありながら”伯爵”の爵位を父上から授かったけど帝国貴族達は宰相殿を貴族として認めていなかったしね。」
「はい…………”エレボニア存亡会議”でリウイ陛下が仰っていた通り、”アルノール家”はエレボニア皇家としての威厳を取り戻す為にも心を鬼にして、例え相手が”四大名門”のような大貴族が相手であろうと彼らにわたくし達に対して反感を抱かせる厳罰を科して民や貴族達に”見せしめ”を行ってでも、民や貴族達から畏怖される存在にならなければなりませんわね……」
「殿下……」
「…………」
エリゼの心情を痛い程理解していたエリスとセレーネは辛そうな表情をし、自分が心から慕っている人物――――フィオーラ夫人が恋人に裏切られた経緯を思い出すと共にフィオーラ夫人がエリウッド公爵の正妻になれたのはマーシルン家があらゆる意味で”強い皇族”である事を理解したマキアスは複雑そうな表情で黙り込み、エリゼの話を聞いたサラ教官とトヴァルはそれぞれ疲れた表情で呟き、自分達を卑下しているオリヴァルト皇子の意見に頷いたアルフィンの様子をラウラは心配そうな表情で見つめ、アンゼリカは重々しい様子を纏って黙り込み
「まー、オジサンにとっては爵位なんてどうでも良かっただろうけどね~。」
「ミ、ミリアムちゃん。」
「こんな時くらい、貴様は歯に衣を着せる事はできないのか……」
ミリアムが呟いた言葉を聞いたクレア大尉は冷や汗をかき、ユーシスは呆れた表情で指摘した。
「エリゼ!エリゼのやっている事はメンフィル皇家という”虎”の威を借りて貴女の目的――――”尊き血”を重要視する帝国貴族達にリィンの事を無理矢理認めさせているようなものよ!?エリゼはそれがわかっているの……!?」
その時アリサが悲痛そうな表情で声を上げてエリゼに指摘したが
「勿論理解しています。―――ですがアリサさん。逆に問わせて頂きますが”弱者”が自分の目的を叶える為に”強者”の加護を求める事のどこが悪いのですか?弱者が強者に気にかけて頂く為に努力する……それは動物でも同じですし、”人”も同じではないのですか?”ラインフォルトグループ”という大企業の令嬢であるアリサさんなら私の言っている事も理解できると思いますが。例えば”ラインフォルトグループ”という大企業と契約を結ぶ為に多くの企業が必死になって、自分達の良い所をイリーナ会長やグエン前会長達に説明すると言った事やイリーナ会長のご息女であるアリサさんに媚を売ると言った事はありませんでしたか?」
「そ、それは………」
「……悲しいけど、エリゼ君の言う通りだね。それが”人の世”なのだから。」
「うん…………」
「”弱者”が生き残る為に”強者”に媚を売る、か………………ノルドの民に上下関係はないが、ノルドの外は実際に”そういう世界”になっているな……」
エリゼの正論や自分にとって身に覚えのある話を聞くと辛そうな表情で黙り込み、ジョルジュの言葉にトワは悲しそうな表情で頷き、ガイウスは腕を組んで重々しい様子を纏って呟いた。
「……シグルーンさんとゼルギウスさんはエリゼの本音を知っていてなお、エリゼの事を”仲間”として認めているの?」
「ええ、勿論ですわ。」
「私達もかつては”弱者”の立場であり、メンフィルという”強者”の加護によって今の立場を手に入れた。エリゼの気持ちは痛い程理解している。それにエリゼのリフィア殿下への忠誠心は”本物”である事も理解している上、殿下自身もエリゼの目的も存じておられる。だからこそ殿下は自分にとって大切な存在のエリゼの希望を叶えて差し上げているのだ。」
心配そうな表情をしているゲルドの質問にシグルーンとゼルギウスはそれぞれ静かな表情で頷き
「……なるほどね。あの若さで”皆伝”に”到る”ことができたのは”世界は決して平等ではないという世界の理”にも気付いていたからでしょうね。」
「ん。弱いものが強いものに従って生きるのは昔からずっとだよ。それは動物や人間もそうだし、エヴリーヌ達”闇夜の眷属”も同じ。」
「…………………」
セリーヌとエヴリーヌの話を聞いたエマは辛そうな表情で黙り込んでいた。
「エリゼ……(ようやくわかった……エリゼが何故リフィア殿下の専属侍女を強く希望していたのかが…………)本当に俺は幸せ者だな…………―――だけど、だからこそ俺はエリゼに負ける訳にはいかない!大切な妹を……こんな俺の為にここまで頑張って来てくれた健気な女性を一生守って、絶対に幸せにする為にも!」
一方ようやくエリゼの真意を知ったリィンは決意の表情でエリゼを見つめた後攻撃を仕掛けた。
「燐の型――――沙綾紅燐剣!!」
「伍の型―――光輪斬!!」
リィンが解き放った高速剣による無数の衝撃波をエリゼは自分の目の前に刀気の輪を発生させて自分に襲い掛かる衝撃波を弾かせ
「行くぞ―――ハアッ!!」
「させません!」
衝撃波の後に剣技―――紅葉切りで襲い掛かって来たリィンの攻撃を太刀で受け流した。
「秘技―――八葉滅殺!ヤァァァァ……!」
攻撃を受け流したエリゼはリィンに怒涛の連続攻撃を仕掛け
「………………」
エリゼが繰り出す怒涛の攻撃を太刀で防御しながらリィンは反撃の機会を探っていた。
「止めです!ハアッ!!」
「!妖の型――――沙綾身妖舞!!」
「キャアッ!?」
そして最後の強烈な一撃を放つ為に跳躍したエリゼが落下しながら襲い掛かってくる際にできる隙を逃さず、反撃をしてダメージを与えた。
「……ッ!―――来たれ神雷!」
「グッ!?」
ダメージからすぐに立ち直ったエリゼは魔力によってリィンの頭上に雷雲を発生させると共に雷を落としてリィンを怯ませ
「この剣で、私達の幸せを阻む愚か者達を断ち切ります!秘剣――――烈震迅雷牙!!」
抜刀の構えで太刀に魔力や闘気を注ぎ込み、一瞬でリィンの背後へと駆け抜け、その瞬間無数の聖なる雷の魔力を纏った斬撃がリィンに叩きこまれた!
「うあああああっ……!?グッ!?ハア……ハア………まだだっ……!」
「まさかあれに耐えるなんて……!」
自身のSクラフトをまともに受けたにも関わらず耐えきったリィンをエリゼは信じられない表情で見つめ
「ロイドさんに教えてもらったからな……!”壁”を超える為には”絶対に諦めない事”を。この程度の痛みでクロウ達を……エリゼを諦められるものか……!」
「リィン君…………」
「ったく、他人からわざわざ教えてもらわなくても、お前自身が元々そんな性格だろうが。」
痛みに顔を歪めながらエリゼを見つめて言ったリィンの言葉にクロチルダは頬を赤らめて嬉しそうな表情をし、クロウは苦笑しながらリィンを見つめていた。
「―――ならば耐えきれなくなるまで攻撃を続けるまでです!闇を切り裂く金耀の一刀――――セイッ、ヤアッ!」
エリゼは太刀を光の長剣とさせ、閃光の速さでリィンに十字架を刻み込み
「うおおおおおおっ!!」
エリゼの攻撃に対し、リィンは太刀を振るって防御した。
「ハァァァァァァァ……!絶―――閃鳳剣!!」
「蒼き龍よ、駆けよ!――――蒼龍炎波!!」
更にエリゼが閃光の速さで光の太刀を振るって放った光の鳳凰に対し、リィンは太刀に宿した闘気によって発生した蒼き炎を竜の姿にして解き放って相殺した!
「……ッ!今のも防ぎますか……!ですが次で決めます!ハァァァァァ……!」
絶技すらも防いだリィンに驚いたエリゼは気を取り直した後集中して太刀に膨大な闘気を溜め込み
「(ここだ……!)無明を切り裂く閃火の一刀………はあああ………っ!」
対するリィンも太刀に闘気による膨大な炎を纏わせ、迎撃体勢を取っていた。二人はそれぞれ溜めの動作に入り、それぞれの闘気によって周囲の空気が震え、小規模な揺れを起こしていた!
「荒ぶる心、無風なる水面(みなも)の如く、鎮まれ――――」
そしてエリゼはリィンに一気に詰め寄って神速の無数の斬撃を解き放ち
「はっ!せい!たあ!おおおお………!」
対するリィンは斬撃によって傷つきながらも怯む事無くエリゼの太刀目掛けて斬撃を叩き込んだ。するとリィンの捨身の集中攻撃の衝撃によってエリゼの手から太刀が弾き飛ばされた!
「え―――――――」
「終ノ太刀―――――暁!!」
太刀が弾き飛ばされた事に呆けたエリゼの隙を逃さなかったリィンはエリゼの背後へと駆け抜けて太刀を鞘に収めると炎の大爆発が起こった!
「キャアアアアアッ!?見事です、兄様………………」
リィンのSクラフト―――終ノ太刀・暁をその身に受けたエリゼは戦闘不能になり、地面に膝をついた!
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