英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第212話
~バリアハート・クロイツェン州統括領主の館・客室~
「あ……」
「クロウ!」
「姉さん!よかった、無事で……」
部屋に入って来た二人を見たリィンは呆け、エリオットとエマは明るい表情をし
「よう……久しぶりだな。どいつもこいつも一丁前の面をしやがって……修羅場を潜り抜け、滅亡しかけたエレボニアを救っただけはあるみたいだな?」
「フフ、拘禁されていた割には元気そうね。」
リィン達を呆れ半分で感心しているクロウをサラ教官は苦笑しながら見つめていた。
「……拘束されたその日は牢屋に拘禁されていたけど、翌日はこの城館の客室に移送されて軟禁されていただけよ。エマも少し見ない内に立派になったわね……少なくて自分の失態で”騎神”を破壊される切っ掛けを作った私と違って、”導き手”としては貴女の方が上でしょうね……」
「姉さん……」
「……結社が崩壊した事で意気消沈していたって聞いていたけど、その割にはやつれていないわよね?」
サラ教官の問いかけに答えた後寂しげな笑みを浮かべるクロチルダをエマは心配そうな表情で見つめ、セリーヌは疑惑の目でクロチルダを見つめていた。
「――食事を出していた者達の報告では”エレボニア存亡会議”が始まる日まではほとんど手を付けていなかったそうですが、会議の後からは残さず食べていたそうです。」
「君達や各国のVIP達に処刑されるはずであった私とクロウの命を救ってもらったんだから、私とクロウの為にあそこまでしてくれた君達の思いを無下にする訳にはいかないと思ったから、生き続ける事にしたのよ。」
「え……もしかして”エレボニア存亡会議”の内容を知っていたんですか?」
エリゼの説明の後のクロチルダの話を聞いてある事を察したリィンは驚きの表情で尋ねた。
「―――私がレンに頼んで会議の様子を映す端末にハッキングしてもらって、お二人にも会議の様子を見てもらっていたんです。」
「ええっ!?レ、レン姫がですか!?」
「ハハ、まさかあの会議もハッキングするとはさすがは存在自体が”反則”と言ってもおかしくないレン君だね。」
「アハハ……イリーナ会長の端末やカレイジャスにハッキングできるくらいですから、今更ですよね……」
プリネの話を聞いたエリスは驚き、オリヴァルト皇子とエリオットは苦笑していた。
「エリス……今更かもしれないけど、貴女を誘拐してリィン君や家族と離れ離れにさせてしまった上カレル離宮に幽閉してしまった事……ごめんなさい……あの会議で貴女やリィン君、シュバルツァー男爵夫妻が私の為に助命嘆願書まで用意してくれた事を知って、自分のやった事がいかに愚かな事だったのか思い知ったわ。機会があればシュバルツァー男爵夫妻にも貴女の誘拐の件で謝罪しに行くつもりよ……」
「クロチルダさん…………」
「リィン君。貴方にとって大切な家族を離れ離れにさせた元凶であるこの私まで救ってくれてありがとう……この恩は一生忘れないわ。」
「そ、そんな。クロチルダさんも俺達にとっては”身内”になるのですから、助けて当然です。」
クロチルダに頭を下げられたエリスは驚き、クロチルダの感謝の言葉にリィンは謙遜し
「……まさかアンタ自身から自分の罪を反省して相手に謝罪する言葉や感謝の言葉が出てくるなんてね。結社が崩壊したショックのあまり性格まで変わったのかしら?」
「もう、セリーヌったら……」
信じられない表情でクロチルダを見つめるセリーヌの言葉を聞いたエマは苦笑していた。
「フッ、まさか”蒼の深淵”がここまで変わるとは驚いたぞ。」
「さすがはマスターですね。」
「フフ、私は大した事はしていないわよ。」
「うむ、さすがは余の妹じゃな!」
「ん。悪い奴を更生させるなんて、プリネは偉いね。」
「もう、エヴリーヌお姉様ったら……私は子供ではありませんよ?」
レーヴェとツーヤ、リフィアに感心されていたプリネはエヴリーヌに頭を撫でられると苦笑しながらエヴリーヌを見つめていた。
「―――それで俺とヴィータに何の用だ?お前らの事だからただ俺達と話したいという理由だけで俺達と面会した訳じゃないだろう?」
「……ああ。クロウ、クロチルダさん。二人に協力して欲しい事があるんだ―――――」
クロウの言葉に頷いたリィンは真剣な表情で二人を見つめ、仲間達と共に事情を説明した。
「会議の後に”空の女神”が説明していた”世界の災厄”―――”ユリス”を取りこんだ”鉄血宰相”と”西ゼムリア同盟”による決戦は端末を通して見ていたから知っていたけど、まさか君達が”空の女神”達と共に”鉄血宰相”との直接対決を挑むなんてね……」
「ったく、敵である俺達まで仲間に加えようとか何を考えていやがるんだよ。”ブレイサーロード”達や”嵐の剣神”達に加えて”空の女神”までいるんだろ?ぶっちゃけ俺達の手をわざわざ借りる必要なんざねぇだろうが。」
事情を聞き終えたクロチルダは驚き、クロウは呆れた表情で指摘した。
「フッ、短期間とは言え彼らと共にいたのならば、彼らの性格もわかっているのではないかい?」
「…………………」
しかしオリヴァルト皇子の問いかけを聞くと複雑そうな表情でリィン達から視線を逸らして黙り込んだ。
「フフン、目くらましのつまりだったんでしょうけど。”Ⅶ組”に潜りこんだのだけはアンタの失敗だったみたいね?」
「ああ―――とんだ見込み違いだぜ。まさかここまで祟ってきやがるとはな。」
「フフ…………君達に協力する件だけど、私の身柄を拘束しているメンフィルが許可するのならば私は君達に協力しても構わないわ。」
得意げに笑みを浮かべた後ウインクをしたサラ教官の言葉に疲れた表情で頷くクロウを微笑ましく見守っていたクロチルダはリィン達を見つめて意外な答えを口にした。
「え……それは本当!?姉さん!」
「アンタの説得が一番難航すると思っていたのに、まさかそんな答えが返ってくるなんてね…………一体どういう風の吹き回しよ?」
説得が一番厳しいと予測していたクロチルダから協力の申し出が出た事に驚いたエマは明るい表情で尋ね、セリーヌは信じられない表情でクロチルダを見つめて尋ねた。
「さっきも言ったように私は貴女達や各国のVIP達に命を救ってもらったっていう大きな”借り”があるわ。その”借り”を少しでも返す為にも、微力な私でよければ君達の力になるわ。」
「ハハ、”蛇の使徒”が”微力”だなんて幾ら何でも謙遜し過ぎだね。」
「そうですよねぇ?悪名高き結社の最高幹部が自分自身は大した事ないだなんて、よく言えますよねぇ?」
クロチルダの話に苦笑するオリヴァルト皇子の言葉にサラ教官は同意し
「フッ、まさか”蒼の深淵”からそのような殊勝な言葉が出るとはな。槍でも降らせるつもりか?」
「何おかしなこと言ってるの。そいつが降らせるのは槍じゃなくて剣だよ。」
「エ、エヴリーヌさん……」
「そういう問題ではありませんよ……」
「全く……士官学院でちゃんと勉強していたのか?」
静かな笑みを浮かべるレーヴェに指摘するエヴリーヌの言葉を聞いたツーヤとプリネは脱力し、リフィアは呆れた表情で指摘した。
「クロウさんはどうされるのですか?」
「…………………」
エリスに尋ねられたクロウは複雑そうな表情で黙り込み
「力を貸して……クロウ!」
「Ⅶ組のみんなや先輩達、それに学院のみんなもお前が戻ってくる事を望んでいる……―――戻って来て俺達に力を貸してくれ、クロウ!」
エリオットとリィンは真剣な表情でクロウを見つめて言った。
「オルディーネを失った俺なんざを仲間にしても大して役には立たねぇぞ。それもわかっているのか?」
「”騎神”の有無は関係ない……クロウがⅦ組の……士官学院の一員である事。これだけでお前を連れ戻す理由として十分すぎる程だ。」
「それにクロウは一人で僕達と互角以上に戦ったんだから、役に立たないなんてことはないよ!」
「どうか戻って来て下さい、クロウさん……!」
クロウの言葉に対し、リィンとエリオット、エマは士官学院の全員を代表する言葉を口にした。
「……………ったく。”約束”も守れなかったこんな情けない男をそこまで求めるか?」
「……確かに”騎神”同士で決着をつけるという”約束”は守れなくなったが……クロウ。お前の”勝負”はまだ終わっていないだろう?」
「何?」
リィンの指摘にクロウは不思議そうな表情をし
「パンダグリュエルで俺に言ったよな。『勝負事の”後始末”―――内戦を終了させて、帝国に平穏を取り戻し、メンフィルとの外交問題も解決する必要もあるだろう。だから―――そこまでがオレの”勝負”だ』って。」
「確かに言ったが……それがどうした。内戦はメンフィルとクロスベルが終了させ、外交問題もお前らが解決してエレボニアを救った。―――俺の負けという形でな。」
「いいや、まだ終わっていない。オズボーン元宰相による騒動でエレボニアを含めた双界に危機が陥っている状況だし、何よりお前の故郷であるジュライが平穏と言える状況か?」
「………………………」
リィンの正論に反論ができず、複雑そうな表情で黙り込んだ。
「それにジュライがあんな事になってしまったのもオズボーン元宰相を暗殺したクロウにも責任の一端がある。ジュライの人達に対する償いの意味も込めて、俺達と一緒に来い、クロウ。」
「……ったく、故郷があんな事になって傷心している俺に追い討ちとか容赦ねぇな……同じサド同士で案外ヴィータと気が合うんじゃねえのか?」
「あら、私のどこがサドなのかしら?私は”蛇の使徒”の中では比較的温厚な性格をしていると思っているわよ?」
リィンの言葉に疲れた表情でクロウは答え、クロチルダの言葉を聞いた瞬間その場にいる全員は冷や汗をかき
「……”精霊窟”でエマをあれだけ言葉攻めしていた癖によくそんな図々しい事が言えるわね……」
「そういう女なのよ、ヴィータは。」
「ア、アハハ……」
呆れた表情をしているサラ教官とセリーヌの言葉を聞いたエマは苦笑し
(うふふ、ご主人様がSである事は否定できないわね。)
(ふふふ、全く持ってその通りですね。)
(リィン様をそんな風に仕立て上げたお二人がそれを言いますか?)
(同感です。というかクロチルダ様は命を救われた事でマスターに随分と感謝しているご様子。下手をすればクロチルダ様も”被害者”になる可能性が出て来たのですが。)
(フフ、今までの事を考えたらリィンならありえそうね。)
微笑ましそうにしているベルフェゴールとリザイラにメサイアは疲れた表情で指摘し、アルティナの推測にアイドスは苦笑しながら同意した。
「………降参だ。あんな事になっちまった故郷の平穏を取り戻したいし、故郷を滅茶苦茶にした”鉄血”の野郎の息の根を今度こそ止めたい上、故郷の奴等に対する償いもあるから、俺でよければお前らに手を貸すぜ。」
「クロウ……!」
「フフ、さすがはリィン君だね。―――リフィア殿下、どうかプリネ姫達や二人を”紅き翼”のメンバーとして加わらせてくれないだろうか?」
クロウの答えにエリオットは明るい表情をし、リィンを感心しながら見つめていたオリヴァルト皇子は表情を引き締めてリフィアを見つめた。
「…………プリネ、ツーヤ、エヴリーヌ、レーヴェ。―――正直に言え。お主達はどうしたい?」
全員が自分を注目している中考え込んでいたリフィアは静かな表情でプリネ達を見つめて問いかけた。
「私はできれば皆さんと共に決戦に挑みたいです。私個人として……そして”Ⅶ組”の一員として皆さんと共に協力しあいたかったですが、内戦や外交問題の件では何も力になれませんでしたし、せめて最後の決戦だけは皆さんの御力になりたいのです。」
「……―――あたしもマスターと同じです。短い間でしたけどリィンさん達もあたしにとって大切な”仲間”。”仲間”としてあたしもリィンさん達と共に戦いたいです。」
「―――カリンが”Ⅶ組”と共にありたいと決めたのならば俺も可能ならば”Ⅶ組”の手助けの許可を頂きたい。カリンを守る為でもありますが、俺自らが鍛えた者達を”紫電”に任せるのは不安が残りますので。」
「何ですって~?こんな時くらい余計な一言を控える事はできないのかしら~?」
「サ、サラ教官。今は抑えてください。」
プリネとツーヤの後に答えたレーヴェの話を聞いて顔に青筋を立てて口元をピクピクさせてレーヴェを睨むサラ教官をエマは冷や汗をかきながら諌めようとしていた。
「そいつと同じ意見なのは嫌だけどエヴリーヌも同じ。サラみたいなだらしない教官もどきにプリネ達は任せられないね。」
「エ、エヴリーヌ……!あんた、あたしをそんな風に見ていたの!?というかあたしのどこが”教官もどき”よ!」
「エ、エヴリーヌお姉様。お願いですからこれ以上火に油を注ぐ発言は止めてくださいよ……」
エヴリーヌの答えを聞いてエヴリーヌを睨んで怒鳴るサラ教官を見たプリネは冷や汗をかいて指摘し
「―――でもま、エヴリーヌも”Ⅶ組”と一緒にいたいかな。学院にいた頃も割と楽しかったし。」
「エヴリーヌ…………」
エヴリーヌの本音を知ったエリオットは明るい表情をした。
「まさかエヴリーヌからそんな答えが返って来るとはな…………………………――――よかろう。プリネ達に関しては”紅き翼”のメンバーとして加入する事を認める。リウイ達には余が後で説明しておく。」
「リフィアお姉様……!」
「ありがとうございます……!」
「―――二人とも、喜ぶのはまだ早いぞ。リフィア殿下、アームブラストと”蒼の深淵”の件はどうするつもりですか?」
リフィアの答えを聞いて明るい表情をしているプリネとツーヤに忠告したレーヴェは真剣な表情でリフィアを見つめて尋ねた。
「二人に関してはエリゼ。お主が決めるがよい。二人の身柄の権利を現在持っているのは余達ではなくお主なのだからな。」
「姉様…………お願いします……!」
「頼む、エリゼ……!オズボーン元宰相との決戦が終わるまでの間だけでも二人の一時的に釈放を認めてくれ……!その代わりに俺達ができる事なら何でもする!」
クロウとクロチルダを自分達のメンバーに加入させる鍵はエリゼが握っていると知ったエリスとリィンはエリゼを見つめて頭を下げて嘆願した。
「―――二人とも頭を上げてください。クロウさんとクロチルダさんの一時的な釈放の件ですが……条件があります。」
「”条件”……一体何だ?」
「――――私の”試練”を乗り越えてください。そうすればお二人の一時的な釈放を許可します。」
リィンの問いかけに対し、エリゼはその場にいる全員にとって聞き覚えがある言葉にして予想外の言葉を口にした。
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