英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第160話
~グランアリーナ~
「あ……」
「お兄様……!皆さん……!」
「危ない所もありましたが、何とか”剣聖の後継者”を越える事ができたようですね……」
リシャールが地面に膝をつくのを見たセドリック皇子とアルフィン皇女は明るい表情をし、レクター少尉は口元に笑みを浮かべた。
「まさか”影の国”を経験した事で以前より更に強くなったリシャールさんをも超えるとは……」
「フフ、さすがはオリヴァルト殿下が見込んだ未来ある学生達ですね……」
驚いているユリア准佐に続くようにクローディア姫は微笑み
「陛下……!」
「うむ……女王陛下、オリヴァルト達の勝利という事でよろしいでしょうか?」
「ええ……オリヴァルト殿下達を称えに行きましょうか。」
明るい表情をしているプリシラ皇妃に視線を向けられたユーゲント三世は頷いた後アリシア女王を見つめ、見つめられたアリシア女王は微笑みながら頷いた。
「はあ……はあ……か、勝ったの……?」
「フフ、どうやらそのようだね……」
息を切らせているトワの言葉にアンゼリカは疲労を隠せないながらも嬉しそうな様子で答え
「はぁ……はぁ……これが”剣聖の後継者”か……!」
「ぶっちゃけ、”剣聖”とほとんど変わらない強さな気がするんだけど。」
「ハハ、私は直接戦った事がないから何とも言えないけど、カシウスさんはその更に上を行ってると思うよ。」
ラウラの言葉に続くように疲れた表情で呟いたフィーの言葉を聞いたオリヴァルト皇子は苦笑しながら答えた。
「た、確かにカシウス准将と戦った時は私達の攻撃自体がほとんど通じていませんでしたものね……?」
「……ま、何はともあれ勝てたから良しとすればいいじゃない。」
「うん……みんなが協力し合えたおかげだね……」
オリヴァルト皇子の言葉を聞いたエマは表情を引き攣らせ、セリーヌは口元に笑みを浮かべ、ゲルドは微笑んだ。
「フフ……見事だ。手を抜いたつもりはなかったのだがね。」
その時静かな笑みを浮かべたリシャールが立ち上がった。
「殿下……お見事でした。内戦を生き抜いた殿下達に対し、最近は実戦すらも経験していない私が殿下達に勝てる訳がありませんね。」
「いやいや、正直ギリギリな戦いだったし、君はまだ余力を残しているじゃないか。さすがにこれ以上は勘弁して欲しいよ。」
リシャールの称賛の言葉を聞いたオリヴァルト皇子は疲れた表情で答え
「フフッ、ご謙遜を。それにしてもまさか学生達がこの私を超えるとは。この様子では恐らくロランスく―――いや、レーヴェ君もバリアハートを訪ねて来た君達の仲間達に敗北しているかもしれないな。」
リシャールは静かな笑みを浮かべて呟いた。
「ええっ!?じゃ、じゃあバリアハートに向かったセレーネさん達の相手は………!」
「……よりにもよってレーヴェか。サラに挑むより勝率が低いね。」
「幾ら何でも”執行者”の中でもトップクラスの強さを持つ”剣帝”相手にあの子達が勝てるとは思えないのだけど。」
「……今はセレーネ達を信じるしかないな……」
「大丈夫……私達も乗り越える事ができたのだから、みんなもきっと乗り越えているわ……」
リシャールの話を聞いたエマは驚き、フィーは厳しい表情で呟き、疲れた表情をしたセリーヌの言葉に続くようにラウラは重々しい様子を纏って呟き、ゲルドは静かな表情で呟いた。
「あれ?じゃあ、リィン君達の相手は誰なんだろう?」
「メンフィルからはレオンハルト教官。リベールからはリシャール所長。二国の代表者が所属している国を考えると、恐らくクロスベル所属の使い手だと思うのだが……」
「お兄様!皆さんっ!」
そしてトワの疑問を聞いたアンゼリカが考え込んだその時、アルフィン皇女の声が聞こえ、声が聞こえた方向に視線を向けるとアリシア女王達やユーゲント三世達がオリヴァルト皇子達に近づいてきた。
「兄上……皆さん……お疲れ様です……!」
「皇太子殿下……勿体ないお言葉です。」
セドリック皇子の労いの言葉を聞いたラウラは会釈し
「皆、よくやってくれた……同じ母校出身の者として今ほど誇りに思った事はないぞ。――――オリヴァルトも本当によくやってくれた。」
「いえ、私は皇族としての義務を果たしたまでです。女王陛下、私達の”試練”は乗り越えたという事でよろしいでしょうか?」
ユーゲント三世の言葉に会釈して答えたオリヴァルト皇子は真剣な表情でアリシア女王を見つめて問いかけた。
「はい。……実を言うとどのような結果であれ、私は元々殿下達の”試練”を乗り越えた事にするつもりでした。」
「え……」
「何それ。じゃあ苦労して戦った意味がないじゃん。」
「フィ、フィーちゃん。女王陛下に失礼すぎますよ……!」
アリシア女王の答えを聞いたトワは呆け、ジト目で呟いたフィーの言葉を聞いたエマは慌てた様子で諌めた。
「その……何故でしょうか?」
「……私達リベールはメンフィルとクロスベルによる二大国侵攻を黙認し、メンフィルの要請に応え、エレボニア帝国との国境を結ぶハーケン門を開放しました。その件について、少しでも罪滅ぼしになればと思い、最初からそのつもりだったのです。」
「お祖母様……」
「陛下……」
「…………」
プリシラ皇妃の質問に答えたアリシア女王の答えを聞いたクローディア姫とユリア准佐は辛そうな表情をし、リシャールは目を伏せて黙り込んでいた。
「アリシア女王陛下、我々エレボニア帝国は貴国を恨むつもり等毛頭ない。メンフィルとクロスベルに侵攻される事になってしまったのも全ては我々の不徳が招いた事。エレボニア帝国はこれからもリベール王国とは良き関係であり続けたいと心から願っている。」
「ユーゲント皇帝陛下……お心遣いありがとうございます。私達リベールも同じ気持ちです。」
ユーゲント三世の言葉に目を丸くしたアリシア女王は微笑んだ。
「………アリシア女王陛下。もしメンフィルとクロスベルに情状酌量が認められ、エレボニア帝国が”国として”生き延びる事ができたのならば、”百日戦役”で貴国に多大な犠牲と被害を与えた事と”リベールの異変”時国境に正規軍を集結させた事に関する”償い”として多額の賠償金や領土を貴国に贈与させて頂きたい。当然”戦争回避条約”の通り、”ハーメルの悲劇”も世界中に公表する。」
「え……………」
「ち、父上!?」
ユーゲント三世の口から出た次の言葉にクローディア姫は呆け、セドリック皇子は驚き
「…………よろしいのですか?メンフィルとクロスベルに情状酌量を認められたとしても”戦争回避条約”の件を考えれば最低でもクロイツェン州とラマール州全土の領土に加えてメンフィルが指定するノルティア州とサザーランド州の領土は戻って来ないと思われますし、そこからどれ程の領土が貴国に戻ってくるのか予想できないというのに、更に自分達に鞭を打つような事をして。」
アリシア女王は真剣な表情で問いかけた。
「……本来なら”百日戦役”が終結した時点で我が国は貴国に償うべきだったのだ……それどころか賠償金すらも支払わずに脅迫と言ってもおかしくない形で和解した挙句、我が国は貴国の慈悲深さに付け込んで傲岸不遜にも”百日戦役”が”無かった”かのような振る舞いをして貴国と友好を結んでいたつもりでいたのだ……今回の件はそんなエレボニア帝国に怒りを抱いた”空の女神”からの”天罰”ではないかとも思っている。」
「お父様………」
「父上……」
「陛下…………」
「「………………」」
肩を落とした様子で呟いたユーゲント三世の言葉を聞いたアルフィン皇女達が辛そうな表情をしている中、オリヴァルト皇子は目を伏せて黙り込み、レクター少尉は複雑そうな表情で黙り込んでいた。
(空の女神を知っているわたし達からしたら、それは絶対にありえないと思うよね。)
(そ、それは……)
(何せあの”性格”だしね。)
(ア、アハハ………)
ジト目のフィーの小声を聞いたラウラは困った表情で答えに詰まり、セリーヌは呆れた表情で呟き、エマは冷や汗をかいて苦笑していた。
(ほ、本当に女神様ってどんな人なんだろう……?)
(フフ、何だか私も会ってみたくなってきたよ♪)
(……フフ、今日中に会う事は黙っておいた方がよさそうね……)
予知能力によって自分達の”未来”が見えていたゲルドはトワとアンゼリカの会話を微笑ましそうに見守っていた。
「…………わかりました。その時が来れば、受け取らせて頂きます。ですがユーゲント皇帝陛下。もしリベールで力になる事があればいつでも相談してください。私達リベールが望むのは互いに手を取り合って平和な世界を保ち続ける事だけです。」
「アリシア女王陛下……寛大なお心遣い、心から感謝する…………」
そして優しげな微笑みを浮かべるアリシア女王の言葉を聞いたユーゲント三世は頭を深く下げ、ユーゲント三世に続くようにアルフィン皇女達―――”アルノール家”の者達全員も次々と感謝の言葉を述べて頭を下げた。
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