英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)
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第158話
~グランアリーナ~
「――――お待ちしておりました、オリヴァルト殿下。」
オリヴァルト皇子達がアリーナで対戦相手を待っていると黒い軍服を着た男性が反対側の出入り口から現れ、オリヴァルト皇子達と対峙した。
「フッ、やはり君だったか、リシャール大佐。―――いや、今は”R&Aリサーチ”のリシャール所長と呼ぶべきだったね。」
「ふええええっ!?リベールの”リシャール大佐”ってまさか元”情報部”のアラン・リシャール大佐ですか!?」
オリヴァルト皇子の言葉を聞いたトワは驚きの表情で男性――――リシャールを見つめた。
「トワ、知っているのかい?」
「う、うん……――――”情報部”っていうのはリベールの諜報機関だった所で、リシャール大佐はその”情報部”を率いていた人なんだけど……2年くらい前にクーデターを起こした人なの。」
「リベールのクーデター……例の”リベールの異変”の数ヵ月前に起こった出来事ですか。」
アンゼリカの質問に答えたトワの説明を聞いたラウラは考え込み
「ああ。彼は”リベールの異変”の際にリベール王国が窮地に陥った際に、特例措置として軍に復帰して王国を守った事により、恩赦を受けて釈放されて、その後民間の調査会社を立ち上げたんだ。」
「……”剣聖の後継者”ってのはどういう意味?」
オリヴァルト皇子の説明を聞いたフィーは真剣な表情でリシャールを見つめた。
「そのままの意味さ。彼はカシウスさんより剣術の指南を受けた”八葉一刀流”の使い手かつカシウスさんに戦術家としての指南も受けている。」
「ええっ!?”八葉一刀流”という事はリィンさんやエリゼさんと同じ……!」
「……なるほどね。”剣聖の後継者”という言葉通りね。」
「……みんな、気を付けて。その人に私達が翻弄される所が”見えた”わ。」
オリヴァルト皇子の話を聞いたエマは驚き、セリーヌは目を細め、ゲルドは静かな表情で呟いた。
「フフ、厳密に言えば私の剣は伍の型『残月』にアレンジを加えたものになるがね。それにしても”帝国解放戦線”による夏至祭やザクセン鉄鉱山での襲撃の影の功労者であるトールズ士官学院の生徒会長にまで名を知られるとは光栄だね。」
「ふええええっ!?わ、私の事を知っているんですか!?」
「君だけでなく他の者達も知っているよ。”光の剣匠”のご息女に”西風の妖精”、”飛燕紅児”の教え子である”四大名門”の”ログナー侯爵家”のご息女、エレボニア帝国中を騒がせている”灰色の騎士人形”の導き手である”魔女”とその使い魔、そしてケルディックの焼討ち事件を自身の”予知能力”を臨時領主を務めているプリネ姫達に伝えた事によって被害を最小限に抑えたケルディックの影の救世主であり、事件後傷ついた民達の心を癒し、ケルディックの人々からは”白き聖女”と称えられている”有角の若獅子”達の協力者…………フフ、さすがは学生の身でありながら内戦の状況を変える切っ掛けを作った者達だ。君達を見ているとエステル君達を思い出すよ。」
驚いているトワにリシャールは静かな笑みを浮かべて答え
「……やっぱりわたしの事も知っていたか。」
「ハハ、参ったね……まさか私に”泰斗流”を教えてくれた師匠まで知っていたとは。」
「それに内戦での我らの介入まで知っているとは……フフ、さすがはあのカシウス卿の後継者ですね。」
「ま、まさか私達の事まで知っていたなんて……」
「とても民間の調査会社とは思えないくらいの調査能力ね……」
「……”白き聖女”……もしかして私の事??」
リシャールの答えを聞いたフィーは静かな表情で呟き、アンゼリカやラウラは苦笑し、エマが驚いている中セリーヌは目を細めてリシャールを見つめ、ゲルドは不思議そうな表情で首を傾げた。
「ハハ、軍を去っても相変わらず驚きの情報収集能力だね……」
「フフッ、褒め言葉として受け取っておきましょう。フム……個人的にはエリゼ君同様”八葉”の剣士である彼女の兄君がいないのは少々残念だが、こんなにも多くの前途有望な若者たちを相手にしなければならないのだから、さすがにそれは望み過ぎというものか。」
苦笑するオリヴァルト皇子の言葉に答えたリシャールはラウラ達を見回した後静かな笑みを浮かべた。
「ええっ!?エ、エリゼさんの事を知っているんですか!?」
リシャールの言葉を聞いたエマは驚きの表情で尋ねた。
「ああ、彼女もまた私やシード大佐達同様カシウス准将の後継者の一人だからね。彼女が扱う”伍の型”は私が彼女に伝授した”八葉”の剣技の上、彼女と何度か手合せを行った事もあるよ。」
「エリゼの八葉の剣技の一部を貴方が…………」
「というかエリゼが”剣聖の後継者”の一人って今初めて聞いたし。」
リシャールの説明を聞いたラウラは呆け、フィーは目を丸くした。
「フフッ、それにしてもまさかこの私がエレボニア帝国の存亡をかけた君達の”試練”の相手の一人に選ばれるとはクーデターを起こした張本人である私の宿命かもしれないね。」
「え……」
「一体どういう意味?」
リシャールの言葉が気になったトワは呆け、ゲルドは不思議そうな表情で尋ねた。
「……私はね。リベールが2度と侵略を受けない為にクーデターを起こしたんだよ。」
「リベールが侵略を受けない為にクーデターを起こした……ですか?」
リシャールの話を聞いたエマは戸惑いの表情で尋ねた。
「……君達も知っての通り、このリベールは周辺諸国に国力で劣っている。人口はカルバードの5分の1程度。兵力に至っては、エレボニアのわずか8分の1にしかすぎない。メンフィルと比べれば、どれほど差が開いているかわかないほどだ。唯一誇れる技術力の優位はいつまでも保てるわけではない。”百日戦役”のように二度と侵略を受けないためにも我々には決定的な”力”が必要だと思ったのだよ。」
「”力”……」
エマの問いかけに対するリシャールの説明を聞いたゲルドは呆け
「………ちなみに彼が求めていたリベールの”力”とは七の至宝(セプト=テリオン)の一つ――――『輝く環』――――1年前に起こった”リベールの異変”に深く関わっている”至宝”だったんだ。」
「ふええええっ!?じゃ、じゃあ1年前のリベールの国境付近で起こった”導力停止現象”の正体は”至宝”だったんですか!?」
「まさか伝説の”至宝”が関係していたとは驚いたね……」
オリヴァルト皇子の説明を聞いたトワは驚き、アンゼリカは目を丸くした。
「………確かに”至宝”をその手にすれば周辺諸国に対抗する強力な武器になるけど……反逆者になってまで手に入れたかったのかしら?」
「ああ。君達は知らないと思うが”百日戦役”後カシウス准将は一度軍を去ってね。国を守る英雄は去った事によって不安に駆られた私は情報部を作ったんだ。諜報戦で他国に一歩先んじることもそうだが……あらゆる情報網を駆使してリベールに決定的な”力”を与えられるものを探したのだよ。」
「それがリベールで起こったクーデター事件の”真相”…………」
「……リシャール殿がクーデターを起こそうと決意した切っ掛けはエレボニア帝国の”百日戦役”で、愛国心によるものだったのですか…………」
「やれやれ……同じ反逆行為でも、”貴族連合”が起こした内戦とは大違いだね。」
「……………………」
セリーヌの疑問に答えたリシャールの話を聞いたフィーは静かな表情で呟き、ラウラは複雑そうな表情をし、アンゼリカは疲れた表情で呟き、トワは辛そうな表情で黙り込んでいた。
「……最も、その際にエステル君に私の考えが論破され、そしてクーデターが失敗に終わった時にカシウス准将に喝を入れられてね。服役中に自分を見つめ直して、いかに自分が傲慢で視野が狭かったのかや私自身の過ちに気付く事ができたのだよ。」
「そしてエステル君達によって考えが変わった彼は今に到る……と言う訳さ。」
リシャールの言葉に続くようにオリヴァルト皇子は静かな表情で答えたが
「―――いいえ、それは違います、殿下。」
「……?どういう事だい。」
静かな表情で首を横に振ったリシャールの答えを聞くと不思議そうな表情で尋ねた。
「……殿下もご存知のように私は大きな罪を犯しました。あれだけの事件を引き起こし、多くの人々を巻き込み……その多くの人々の助けで己の過ちに気付いたというのに…………私の心は、何も変わらなかったのです。」
「……リシャール殿の”心が何も変わっていない”……それは一体どういう事でしょうか。」
皮肉げな笑みを浮かべたリシャールの話を聞いたラウラは眉を顰めて尋ねた。
「あれほどの大事件を経て、なお私の国を思う気持ちは全く変化していなかった。今でも、リベールのために尽くしたいという盲目的な衝動に駆られてしまう……私は…………クーデターを計画した頃と全く変わっていないのだよ。……私は、それを恐れた。」
「……まさか君が軍を離れた本当の理由は……」
「再びクーデターを起こせないように、自らを律する為に離れたのですか……」
リシャールの説明を聞いたオリヴァルト皇子は驚きの表情をし、エマは複雑そうな表情をした。
「……オリヴァルト殿下。殿下には大変申し訳ないと思いますが、私はエレボニア帝国がメンフィル帝国とクロスベル帝国の手によって滅亡する可能性が高い事に正直な所安堵しています。」
「ええっ!?ど、どうしてですか………?」
リシャールの話を聞いたトワは仲間達と共に驚いた後不安そうな表情で尋ね
「先程の話にあったクーデター事件以降も変わっていない君の”心”――――リベールへの愛国心が関係しているのかい?」
オリヴァルト皇子は静かな表情で問いかけた。
「はい。メンフィルは殿下もご存知の通りリベールと同盟関係にあり、また将来女王陛下となられるクローディア王太女殿下と王太女殿下と同じくメンフィルの次期皇帝となられるリフィア皇女殿下を始めとしたメンフィル皇家の方々とは良好な関係です。クロスベルに関しましてはアリシア女王陛下が提唱した”不戦条約”によって”クロスベル問題”が緩和された件がある為クロスベルにとってリベールは恩人的な存在。そして現クロスベル皇帝の一人であるヴァイスハイト陛下と陛下の側近であるリセル殿と”影の国”の件で結果的とは言えクローディア王太女殿下達は彼らと親交を結ぶ事ができました。対するエレボニア帝国は………」
「”百日戦役”の件だね。」
「加えて”リベールの異変”時、宰相殿が”善意”と”正当防衛”を口実に正規軍を国境に集結させて、リベールの領土に駐屯させようとしたからね……」
「宰相閣下がそのような事を……」
「つまり2度もリベールを呑み込もうとしたエレボニアは正直信用できないから、滅びて欲しいって訳ね。」
「セ、セリーヌ。」
「「「………………」」」
リシャールの話を聞いたフィーは静かに呟き、疲れた表情で呟いたオリヴァルト皇子の話を聞いたラウラは複雑そうな表情をし、辛辣な言葉を口にしたセリーヌをエマは不安そうな表情で見つめ、トワは辛そうな表情で、アンゼリカとゲルドは重々しい様子を纏って黙り込んでいた。
「……私の話はここまでだ。これ以上女王陛下達を待たす訳にはいかないしな。――――私の愛国心を越え、滅亡の危機に陥ったエレボニア帝国を救いたいのならば示してみるがいい!自らの”意志”と”力”で!」
そしてリシャールは抜刀の構えをし
「……よし、切り替えないと……!みんな!リシャールさんの話には思う所があるかもしれないけど、わたし達にだって譲れないものがある!それを忘れないで!」
トワは自身を叱咤した後決意の表情で魔導銃を構えて仲間達を見回して激励をかけた。
「フフッ、トワの言う通りだね。アクセル全開で行くよ、君達!」
「はい………!私達はその為にここまで来たのですから……!」
「うん……!みんなが望んだ”明日”を掴む為にも私も全力で力を貸すわ……!」
「速攻で決める……!」
「エレボニアを救いたいという我らの意志を示すとしよう……!」
「フッ、2年前の続きと行こうか、リシャール大佐……!」
トワの激励によってそれぞれ闘志を高めたアンゼリカ達はそれぞれ武器を構えた!
「とくと見せてやろう!『剣聖』より受け継ぎし技を!」
「”空の女神”もご照覧あれ……2年前の武術大会のエキシビションマッチの開幕だ!」
リシャールが高々と叫んだ言葉に対し、導力銃を構えたオリヴァルト皇子も静かな笑みを浮かべて呟いた後高々と叫び
「Ⅶ組C班、全力で行くよっ!!」
「おおっ!!」
そしてトワの号令を合図に仲間達はリシャールとの戦闘を開始した!
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