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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第35話 変化の術


「それでねー、最後にはレベルアッパーはいけませんって復唱させられたのよ」
サソリの病室で伸びをする佐天がサソリ相手に愚痴を飛ばす。
先日のレベルアッパー使用者に対する補修のような集まりがあって、佐天は強制的に参加されていたようだ。
まあ、要は反省会かな?

サソリは二週間前から休んでおり、風邪は良くなり、後はケガの具合を伺うところだ。
「それを俺に話してどうなる?」

「良いじゃん。被害者なんだから優しい言葉でも掛けてくれても。大変だったわねで救われる世界もあって良いと思うんだけど」
椅子に座りながら上半身だけをサソリのベッドに倒れ込むようにして、腕をバタバタと動かしている。

「使ったお前が悪い」
頬杖をついたサソリが冷たくピシャリと言った。

ガーン!
「サソリまで、そんな」
ダァ~と涙を流す佐天。

「はい、サソリさん」
初春が冷蔵庫から冷やしていた麦茶を紙コップに注ぐと人数分並べていく。
「すまん」
初春から麦茶の入ったコップを渡され、飲もうとするが

「あ、ちょっと待った!」
佐天が手を前に出して、サソリの動作を止めさせる。
「何だよ?」
「いいから、いいから」

コップをテーブルに置かせると
「アイスブロック(小)!」
佐天が掌に意識を集中させると、氷の粒が出来てザザっコップの中に入っていった。

「おおー、凄いです佐天さん」
「佐天涙子苦節十三年、ついに念願の力を手に入れました」
能力が手に入ったのが嬉しかったらしく
日にタイミングを見計らっては氷の能力を使っているようだが、サソリにしてみれば分かりきったことを何回もやられるので飽きる。

「何回すんだよこのくだり」
「ノリが悪いな!初春みたいに褒めてよ。あたしは褒められて伸びるタイプ!」
「ちっ」
「舌打ちしないの!こんなのあたしが飲んじゃうんだから」
ガーとサソリの氷入り麦茶を飲み干していく佐天。
「あ!てめぇ」
「あっ!佐天さん、そんなに急いで飲んだら......」
「頭痛いぃぃー!」
キンキンに冷えた麦茶を一気に飲み干したので佐天の頭にアイスクリーム頭痛が炸裂した。
「うう......アイスブロック(大)」
大きめの氷の塊を出して、頭に乗せた。
痛みが和らいでいく。
「忙しない奴だな」

そこへガラガラと引き戸が開いて、御坂と白井がサソリの病室へと入ってきた。

「さ、佐天さん?」
頭にアイスの塊を乗せて唸っている佐天に御坂が心配そうに声を掛けた。
「大丈夫ですぅ。全部サソリが悪いですから」
「何でオレが悪いんだよ」

「涼しそうでいいですわね」
白井が手で顔を仰ぎながら、胸元を少しだけはだけさせた。
「そうそう、外は殺人的な暑さだから。お願いだから氷をくれる?」

「良いですよ!なんならかき氷パーティでも開催しましょう!」
夏場だからこそ、この有り難みが出てくるのよ!
冬?
考えないわー

「あれ、ところで湾内さん達はどうしました?」
ビクッとサソリが反応してベッドの後方に出来る限り退いた。
「ああ、また水泳部の部活が始まったからなかなか時間が取れなくてお見舞いに来れないみたいよ。サソリに会えなくて寂しいって言ってたわ......ってそんなに逃げなくても。会いに行ってあげたら?喜ぶんじゃない?」

ベッド後方に逃げていたサソリが脱力したように壁にもたれ掛かりながら
「これ以上抜けると、シャレにならん気がする」

はは、まあそうね

その会話を聴いて、初春は首を傾げた。
「その湾内さんというのは誰ですか?」
初春の質問に白井がなんとも面倒そうに腰を曲げた。
「そうでしたわね。初春は会っていませんでしたわ。私と同じ常盤台の同級ですわ。これがまた性悪女でして、中学生にして万引きや恫喝をするとんでもない方でして......」

「おーい!後半全く関係ないわよ!ライバルを蹴落とさないの。えっと、素直で良い子よ。だけど......」
御坂がサソリを指差した。
「サソリが絡んでくると変わるわ」
「サソリさんがですか?」
「そう、助けられてサソリにゾッコンよ」
顔を真っ赤にして、やや興奮する。
「ぞ、ゾッコンですか!?」
「グイグイ行くわよ!ねえ、サソリ」
「頼むからオレに振るな」
すっかり、湾内が苦手の対象になってしまったサソリ。


佐天が空気中の水分を凍らせて指先からしゃりしゃりとかき氷を作りだしていく。
皿に折り重ねると、高らかに持ち上げて
「佐天涙子苦節十三(以下略)」
と叫ぶ。
「良かったわねー。佐天さん」
「後は悪用しないことですわ」
パチパチと拍手をする常盤台コンビ。
「ありがとうございまーす!」
笑顔でVサインを決める。

「はあ..,...」
サソリは静かにため息を吐き出した。


「はー、やっぱ夏はかき氷ね」
窓を開けて、涼しい風を入れながら快適で優雅なかき氷を満喫する。

生き返るー
この冷たい感触はサイコーだわ

初春は、かき氷を持ってサソリの前に行き、説明を始めた。
「サソリさん、これはかき氷と言いまして」
「知ってる。前に食った」
「食べたんですか!?いつ」
「ここに来たばかりの時だ」
「私食べてないですよ」
「オレが知るか」
「丁度、ジャッジメントの仕事中でしたわね」
「ずるいです!みなさん」
「まあまあ、あたしがいれば何時でも無料提供するわよ......あ、でもお小遣いがピンチの時はお金取るかも」

ええええー??!

「佐天さん......能力で悪どい商売を始めたら容赦致しませんわよ」
白井が妙に凄みのある声で佐天を牽制した。
「し、ししししませんよ!そそそそんな事なんて」
ジーと目を見る白井。何か探り、抉り出そうとしているように。
「た、たぶん......その、絶対」
「良い心掛けですわ」
獲物を狙う目つきから打って変わり、にこやかな笑顔を見せた。

「はあ、白井さん怖かった......そうだみんなにクッキーを焼いてきたんだった。良かったら食べます?」
佐天は、カバンの中から手作りのクッキーを取り出して、みんなに見せる。
「レベルアッパーの時に迷惑かけちゃいましたから......そのお礼も兼ねてです!どうぞ」

高価な物じゃないけど、これくらいの事はしないとね
迷惑を掛けたのあたしだし
あ、そうだ!

佐天が差し出した、クッキーの袋から御坂がクッキーを取り出した。
「あら、悪いわね。ごちそうさま。うわ、チョコチップ入りだわ。料理上手なのね」
「いや~」
照れたように頭を掻く佐天。

「いただきますわ」
「ありがとうございます」
白井と初春も手を伸ばして口に入れていく。
「美味しいですわ。程よい甘味とチョコの苦味が良いハーモニーを」
三人がそれぞれ舌鼓を打つ中でサソリだけが、首を傾げて腕組みをしていた。

「クッキー?」
「そこからか!?食べてみれば分かるわよ」
「そうか」
サソリが袋に手を伸ばそうとすると佐天がさっとクッキーを引っ込めた。
「?」
「ごめんね、サソリにはちょっとやって欲しいことがあるかな」
クッキーを胸の前に掲げて、謝るように作り笑顔をする。
「やって欲しい?」
「お願い女装して!」

............

「は?女装?」
サソリが怪訝そうに眉をひそめた。
「さ、佐天さん?!」
「だってみんな見ているのにあたしだけ見てないなんてやだもん。やってくれたら一杯食べさせてあげるから」

「ど、どういうことですの?」
「あー、前にサソリが黒子になった話をしたからね」
「変化の術の事か」
サソリが用意されているかき氷シロップのボトルを手に取る。
青色のもの凄い蛍光ブルーのシロップだ。
ブルーハワイ味

何でこいつら、こんな得体の知れないものを平気で飲むんだ?


「へっへ?私にですの?」
白井に取っても初耳だ。
キョロキョロとサソリと三人を見比べる。

「いやー、アレは似てたわね」
御坂が指に付いたクッキーのカスを舐め取りながら思い出すように言った。

「も、もしかしまして......前に初春に成った話と同じですの?」

「う、初春にも化けたの?」
佐天が驚愕したように初春の肩を掴んで揺さぶる。
「はわわ、はいそんな事もありました」
白井の時と同じ状況にデジャブを感じる。

「やってよ!見たいよー!!初春でも白井さんでもどっちでも良いから」
初春からサソリに方向転換すると、ジタバタと腕を振る。
「面倒」
「そんな事言わないでよー......クッキーあるよクッキー」
「別に、そこまでじゃねーな」
サソリがそっぽを向いて、鬱陶しそうに目を瞑る。

「良いじゃないやれば!減るもんじゃないんだから」
御坂が声を出した。
「はあ?何でそんな事しなきゃなんねーんだよ」
「あら、そういう事言うのね......アンタが湾内さんにした事聞いたんだから。写真を消すなんて酷いことをするわー」
「あの写真は、オレに取って都合が悪かっただけだ」
「ふーん......」
ニヤリと笑いながら、御坂は鞄からサソリの携帯を取り出した。
「?」
パカッと開いて、何やら操作をすると耳に当てて話し始める。
「あ、湾内さん?実はねー、サソリが湾内さんに会いたくてしょうがないみたいよ」

「!?」
サソリの表情が凍り付いた。
「ま、待てお前!」
「抱きしめたいんだってー......なになに、すぐに行きます。サソリも喜ぶわよ」
「お前な!」
サソリがチャクラ糸を出して、御坂の持っている携帯電話を取り上げた。
「あら!まあ、嘘なんだけどね」
携帯電話はメニュー画面を表示した状態でサソリの力が抜けた。

「テメェ、いつかぶっ殺してやるからな」
「臨むところよ。電撃苦手なクセに」
電撃をビリリと頭の先から放つ。
「ちっ!」
「さあ、早くやんなさい。今度は本当に連絡するわよ」
御坂が距離を取って、自分の携帯電話を取り出した。
「分かった分かった!やりゃ良いんだろ!」
「やったー!」
佐天の脳内でロッキーのテーマ曲が流れ出す。
注)佐天は何もしていない


「はあ、こんな感じだが」
サソリはベッドから起き上がり、立ち上がるとチャクラを溜めて印を結ぶとボンと煙が出て、初春そっくりの姿を現す。

「お、おおぉぉぉぉぉー!なんてことだー!」
サソリ初春へ一気に距離を詰める。
「なんてことだー!」
サソリ初春のスカートを掴む
「なんてことだー」
サソリ初春のスカートを捲り上げようとするが、サソリ初春が直前に止めた。
「捲るな!」
ボカンと佐天の頭を殴る。

「痛い!め、捲りニストとしてのプライドが」
「そんなの知るか」
サソリ初春が乱れた着衣を元に戻していく。

「こんな事も出来ますの?見た目や声までも初春に似てますわ!」
「改めて見ると凄いです」

「これで満足か?」
「いや、まだよ!そんな目付きじゃあ、すぐにバレるんじゃ?初春はこんな目付き悪くないものね」
姿形や声までも初春に似ているのだが、気だるそうにする仕草や乱暴口調、目付きの鋭さでなんとなくサソリが化けているのが一目瞭然だった。

「そこまでやるのかよ」
首を回しながら、サソリ初春が軽く舌打ちをした。
「やさぐれている初春も新鮮で良いわね」
「やるか......」
スッと目を瞑り、咳払いをすると
「佐天さん!心配したんですよ!」
腕を前に持ってきて、健気に心配する初春を完璧にマネした。
立ち振る舞いや少しだけ涙を溜めた眼。
頭に咲き誇る花々達。
弱々しい足腰。
「う、初春だ......もう一人の初春が居る」
「か、軽く変態の領域ですわね」
「うわあ、引くわ」
「お前らがやれって言ったんだろ......たく」
腕を組みながらベッドに戻るサソリ。
「じゃあ、お礼のクッキーをどうぞ」
「ああ」
変化の術を解いて、佐天からクッキーを貰い小動物のように静かに食べ始める。

「なんか、上手く芸が出来て餌を貰うアシカみたいですね」
初春が思い付いたように呟く。
「「ぷくく」」
御坂と白井がツボに入ったらしく、壁や床に手を置いて笑いを堪えて震えていた。
「......ヒドイ事言うな初春!さ、サソリだって頑張ってくれたんだから」
佐天がサソリの前で勇ましく言うが佐天は自分のお腹をつねって必死に笑意を抑え込んでいる。

「ぷっ!ハハハ!ごめん、ちょっとタンマだわ。初春が的確すぎて」
「ちっ......」
笑いが抑えきれなくなり、三人で吹き出しで爆笑を始めた。
サソリはため息を吐きながら、舌打ちをした。


「はあはあ、久しぶりに爆笑したわ」
興奮冷めやらぬままに、御坂が笑い過ぎて出た涙を拭き取る。
「へ、変化の術だっけ......くくく。御坂さんはどうでした?」
笑い過ぎて腹筋を痛めた佐天がお腹を摩りながら、サソリのベッドに脇に腰掛けた。
「うーん、あたしからすると黒子の方が完成度が高かった気がするわね」

「やらんぞ」
予期したサソリが若干、語気を強めて釘を刺した。

「変化の術って......服の下ってどうなってますの?」
白井が手を上げて質問をした。

「んー、術者の想像力だな。変化の術を完璧にするなら事前に隅々まで見ないとバレる」
「バレる?誰に?」
「敵にだ!潜入する時に使う術だから」
「宴会芸じゃないんだ」

「お前ら......この術は家族や親しい友人しか知らない身体の特徴を把握しないと完璧に化けることができないからな。わりと本格的に使いこなすなら根気がいるぞ」
クッキーを口に入れる。
サクサクとした感触に、甘味と苦味が中から口いっぱいに広がる。

なかなかだ

料理をあまりしてこなかったサソリは、珍しそうに袋に入ったクッキーを手に取って眺めた。

佐天も袋からクッキーを取り出して、食べ始める。
「じゃあ、サソリは、初春や白井さんの身体を想像して変化を」

四人の頭に悩ましげに絡む白井と初春が裸の状態でポーズを決めている。
白井と初春の顔が沸騰するように真っ赤になっていった。

サソリが私の裸を想像して
いや、もしかしたら私が知らない間に忍者としてのスキルを爆発させて、私のあんな姿やこんな姿、霰もない姿を見ているかもしれないですわぁぁー!

「な、ななななな!」
佐天が白井の手を掴む。
「白井さん!ここは術の完成度を高めるために一肌脱ぎましょう!」

一肌脱ぐ
脱ぐ
生まれたままの姿になる
サソリに見せる!?

「し、しませんわよ!」

もう、少しだけ成長してから......
特Aランクのバストが成長してからですわ
今は絶壁でも、その内バイーンになる予定ですので
その時にでも......

「まあ、人間の身体って似ているから適当だけどな」
「そうでしたか!」
初春が安心したように言うが隣で妄想を炸裂させている白井がブツブツと呟いている。

お前に完璧に変化するから
隅々まで見せろ

そ、そんな......

見せた事のない表情をオレに見せろよ
どうした、我慢するなよ
ほら、ほらよ

「アーレーですわぁぁー!」

「く、黒子!どうしたの?」
「はっ!?」
御坂に肩を叩かれて我に帰る。
サソリが怪訝そうに白井を覗き込んでいる。
ビシッとサソリを指差す。
「しかるべき時が来ましたら、覚悟してくださいの!!」
「はっ?!」
首を傾げるサソリ。

「でも、これってサソリにヤバイ手札が増えたって事ですかね」
佐天が指を揺らしながら言った。
「ヤバイ手札?」

「例えばですけど、サソリが初春に化けて、そのまま裸になって学園都市内部を奇声をあげながら走り回ったら......初春を社会的に抹殺できますよ」

ゾッと寒気が走る。
「佐天さん......よくそんな恐ろしい事を思いつくわね」
「何で私なんですか!」
「その場合、サソリを捕まえれば良いのでしょうか......いや、でも裸になっている初春本人を捕まえるべきでしょうか」
「白井さんまで」
「しねーよ」

******

その夜
常盤台の寮の冷蔵庫からごっそり牛乳が持ち出されて、白井が風呂上がりにガブガブ飲んでいた。
「黒子、そんなに飲んで大丈夫?」
「大丈夫ですわ。戦に備えて万全の準備をしなけれはなりませんわ!」

目指せDカップ
永遠の0なんて呼ばせませんわ

「もう一杯ですわ!」

「はは」
御坂が頬を掻きながら、白井の孤軍奮闘を眺める。

サソリって分身が作れて、変化の術が使えるのね
初春さんや黒子だけじゃなくて
あたしや佐天さんにも
寮を抜け出す時や遅くなった時は頼んでみようかな......

 
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