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世界最年少のプロゲーマーが女性の世界に

作者:友人K
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序章

 ―――彼がこの世界から姿を消すことになったのは間違いなく損失であろう。

 ―――国別対抗戦において決勝の大将戦を落としてしまったが、それは彼だけの責任とは言えない。偉大な選手、柿原やアヤネが怪我で離脱してしまい、その後釜を14歳の少年に託すというのはあまりにも酷なことだからだ。

 ―――どれだけ『鬼』と恐れられていても彼の小さな双肩にはあまりにも重いのは間違いなかった。

 ―――このような書き方をしているが、それは決して彼を侮蔑しているわけでも甘く見ているわけではない。

 ―――それまでは多数の勝利によって貢献してきたのだからそれを評価するべきだろう。

 ―――そして今回のプロツアーファイナル決勝戦で優勝し、名実ともに世界ナンバーワンの座を勝ち得た彼がこれからどのような輝きを見せてくれるのか、全世界のファン達は間違いなく楽しみにしていただろう。無論、私も例外ではない。

 ―――次世代を担う最高のプレイヤーが濁りきったあの世界に飛び込むことになったのは不幸だ。それだけは確かなことだ。

 ―――願わくば、彼の進んでいく道に幸があらんことを―――

     ―――とあるゲーム雑誌のあるプレイヤーの特集から一部抜粋―――

 アメリカ ラスベガスグランドアリーナ

 耳をつんざく程の大歓声、その凄まじさは観客席を揺るがすのはもちろんだったが大歓声が向けられているステージ上は観客席を超える『痺れ』が走っていた。

 肌が焼けるのではないかと錯覚するほどの熱気、このアリーナの外の温度は10度以下。にも関わらずアリーナ内の温度は40度間近。アリーナ内に存在する人々のほとんどは上着を脱ぎ、ほぼ全員が半袖を用いた涼しい格好。

 20000人を超える大観衆が壇上に注目していた。

 20000人以上の人々の視線の先には、1組の男女が向かい合って壇上の上の高級感溢れる椅子に座っている。

 2人の正面にはそれぞれ一台のモニターと、モニターの隣には箱状のゲーム機が置かれていた

 椅子に座っている二人は目前にあるモニターから膨大な情報を知覚し、自身の膝の上にあるコントローラー、レバーとボタンを高速にそして正確に動かしていた。

 モニターの中では2人のキャラクターが向かい合っており、2人がコマンドを入力する度に画面のキャラクターが動きを変える。

 e-Sports(エレクトロニック・スポーツ)

 コンピューターゲームをスポーツとして、競技として、賞金1億円以上をかけ、今二人は対決していた。

『さあ! 1週間にも渡るこの大会ももうすぐ終わりを告げようとしております! 参加者数過去最高の6000人の中から今! 王者が決まろうとしています!』

 会場の中央にて実況者がマイクを熱く握り締め、大観衆の熱気にも劣らないマイク越しの実況が会場に響き轟く。

 英語の実況者の両隣には10人を超える人たちがそれぞれの国の言葉で世界に向けて発信する。

「日本格闘ゲーム界の至宝こと藤原選手を、そして今大会優勝候補であるアメリカの英雄ジェスティン選手をそれぞれ倒して上がり、今! 2人のプロゲーマーが最終ラウンドに臨みます!」

 実況に応えるかのように会場の熱気はさらに膨れ上がり、今か今かと待っていた。

 新たな世界王者が生まれるのを。

「世界最強女性プロゲーマーアヤネ選手はここまで無敗で勝ち上がり、そして世界最年少わずか12歳で、チームアークキャッツとスポンサード契約を結んだ月夜 鬼一選手がルーザーズから這い上がってきました!」

 12歳でプロになり、勝利して、敗北を何度も繰り返して這い上がり、世界最大の大会に現14歳のプロゲーマーはここまでこぎつけたファイナルラウンドに決して浮かれることなく集中していた。

 周りの熱気や大歓声に少しも心乱さず、強い視線を画面に向けている。

 戦いが始まった。

「ファイナルラウンドが幕を開けました! ……まずは静かな立ち上がり、ここまで堅実な立ち回りを見せたアヤネ選手、そして圧倒的な攻撃力で巻き返しを見せてる鬼一選手」

 画面上ではそれぞれのキャラは様子見を繰り返し、牽制のために技を置いて安易に動かせないようにする。

「さあ、それぞれの動きは散々対策を施し、理解しているでしょう。ここまで来たらどれだけ強い気持ちを持てるか……。制限時間は残り60秒」

 ここまでは互いに細かくダメージを稼ぎ、お互いの体力ゲージは6割前後。

「っと、ここでアヤネ選手がついに飛びを通したぁっ!」

 限りなく五分に近い状況からアヤネの操るキャラがついに、真のキャラの攻撃を避けながら上から攻撃をかぶせる。

 ついに試合が大きく動き、観客が歓声が上げる。

 ―――……っ!

 歯が砕けるのではないかと錯覚するほどの力で食いしばる。画面内の出来事を少しも見逃さないと言わんばかりに凝視。

 半分残っていたゲージがみるみる削られ、僅か数秒で残り1割以下まで削られた。

 「さあ鬼一選手! 一気に追い込まれた! アヤネ選手の優勝が濃厚かぁ!」

 アヤネのキャラの起き攻めを凌ぎ、再度ジリジリした差し合いになる。が、隙と言えないような隙に対して真のキャラがアヤネのキャラに触れた。

 ―――ここだ!

「巡ってきたワンチャンス! 鬼一選手が最後の猛攻! ひっくり返せるか!」

 アヤネのキャラの体力がどんどん削られ、そして。

 「最大コンっ! しっかり完走し、ひっくり返した―――! これが、これが鬼と恐れられる男の底力です! アヤネ選手を下し、真選手、ついに初優勝―――!」

 画面にK.Oと文字が出た直後、爆発寸前だった熱気がついにはじけた

 「―――!!」

 鼓膜が破れそうになるほどの大歓声が湧き上がり、観客の中には抱き合う者や涙を流しながら興奮の声を上げた。

 アリーナの最前席にいたチームメイト達は壇上に駆け上り、両手を振り上げ天井を仰いだ鬼一に近寄る。
 それに気づいた鬼一はチームメイトに飛び込み喜びの声を上げた。

 2日後、数多くの新聞にe-Sports最大規模の戦いがニュースとして取り上げられた。

 そこには1人の少年が満面の笑みで自身の胴体ほどのあるトロフィーを掲げている姿があった。

 e-sportsの世界。

 それは今の世界では独特の世界である。

 数年前に女性にしか反応しない世界最強の兵器、インフィニット・ストラトス(通称IS)が出現し、男女の社会的パワーバランスが一変し、女尊男卑が当たり前になってしまった時代。

 だが、この世界ではそんなものは微塵も関係なかった。

 男も女も関係なしに、ただひたすらにゲームが好きな、もしくは特別なものだと言える人間が多く集まり形成される。20年近く前に日本から初のプロゲーマーが生まれ、少しずつだが、確実に成長を果たしたこの世界。

 年々競技人口が増え、多数のスポンサーがつくことで賞金も高額化することでさらに多数のプロが生まれた。

 いまでは総勢1000名以上のプロゲーマーが日夜精進している。

 e-sportsの先進国である米国などでは専用のプロリーグが開催され、そこのトップに立てば他のスポーツのトップアスリートと同じくらいに人気がある。

 日本でも米国ほどではないが、一般的に普及してきておりよくTVで放送されたりニュースで大々的に取り上げられている。

 子供達の将来の夢にも挙げられるほど人気のある職種になっていた。

 そしてそのe-Sportsの頂点に立った14歳の少年は、この世界に救ってもらったことがある。

 12歳でプロの世界に飛び込み、同世代では到底理解できないほどの熾烈な競争を勝ち抜いた。

 そこには言葉にできないほどの辛さや苦しさがあった。時には心無い人間に暴力を振るわれたこともあった。

 それでも沢山の人に助けてもらい、支えてもらい、前を進み続けた。

 これからもこの世界で生きていき、このコミュニティを盛り上げゲームを通じて沢山の人を自分のように救いたいと、そう、思っていた。

 そして、その夢は、もう、叶えることはできないとも知った。

 IS適正 C-
 
 そんな無機質な文字列を見た瞬間に、理解してしまった。

 自分はもう、この世界に戻れないことを。
 
 

 
後書き
 初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。この作品の制作を行っている友人Kです。色々なことがあってハーメルン様からこちらに移行いたしました。今後はこちらの暁様の方のみで投稿させていただきます。

 修正している部分も少なからずありますが、話の大筋はハーメルンの時とそこまでは変わっていません。 
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