剣士さんとドラクエⅧ
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95話 誓
疲れきっていたけど、その夜私はエルトがベッドに倒れ込んでから決めた。ククールにルーラをしてもらうことにしたんだ。どこへって?そりゃあトロデーンに決まってる。
キメラの翼にしなかったのは……私が、女々しくも心細かったからかもしれない。まぁトロデーンレベルの魔物程度、今の私じゃ雑魚も雑魚、余裕なんだけど……そうじゃ、ないよね。そんな事よりも夜の闇に包まれた茨の城を見て、動揺しない自信はない。
ドルマゲスを倒したんだから、そんなことはないって、分かってるけど、分かってるんだけど、胸騒ぎが止まらない……。……荘厳な城で呪われていない人々を見て、抜け駆けして安心したかったんだ。そういうことにしておいてよ。
私が部屋を訪れると……みんな個室に泊まれた……ククールは眠そうだったのにいきなり覚醒するほど協力的だった。優しいね。にしても、私の格好、二度見までしてたからやっぱりこういうの、似合わないのかな。
……苦難の旅は終わったんだからって、ひらひらの服着せられたんだ。ゼシカに。まぁひらひらって言っても、スカートは勘弁してもらってチュニックの裾のこと。エルトの方がひらひらしてるぐらいだし。見えないように鎖帷子着込んでるけど。
髪の毛の長さも相まってただの町の少年って感じだけど。ちなみに髪の毛は不揃いのままにしておいた。アシンメトリーってやつ?長いところは長いまま、短いところは鏡で見る限りエルトと同じくらい短い。
でも私っていつも防具に身を固めてるから、新鮮だよね。まぁパーティ屈指の色男は生物学上女の私に似合わないなんて言わなかったから真相は闇の中。
さてさて、トロデーンならナイフを持っていくぐらいで大丈夫だね。侮ってるんじゃなくて本当は素手で封殺できるぐらいだからなんだ。ドルマゲスを倒す旅は私たちを強くしたもんだよ……。
そっと私の手をとったククールがルーラを唱える。夜でも目立つ青い光が私たちを空へと誘った。冷たい風は爽やかなはずなのに、胸騒ぎはやっぱり止まらなかった。
・・・・
・・・
・・
・
「あ……あぁ……城が……」
「……」
胸騒ぎは、残念な事に、的中してしまった。
黒い雲が低くあるせいで星の見えない空は夜をもっと危険なもののように見える。そんな中にトロデーン城は茨に絡みつかれた姿のまま静かにそこに鎮座して。
分かっているものの、城の方に駆け寄れば魔物の気配が色濃く感じられた。嗚呼、何も、何も変わっていないなんて……!
じゃあ、陛下と姫の呪いが解けていないのも、この城が変わりないのも……実はドルマゲスは死んでいないか、ドルマゲスを殺しても呪いがしばらく解けないタイプだ、とかそういう感じなんだろうか。
死んでない、とは思えない。でも、しばらくは解けないというものなら……どれくらい?陛下と姫は、エルトと私は、どれだけ待てば、元の平穏な生活に戻れるんだろう。
感情が、感情が、勝手に溢れて、悲しくて、苦しくて、でも、涙なんて……私には……私を殺したわたしにはないのだから……流れない。
近寄ってきた魔物を蹴り飛ばせば、どこかに叩きつけられるまでもなく粉砕し、消滅する。茨のドラゴンをひとにらみすればもんどりうって逃げていく。そんなこと、どうでもいい。
「……ははうえ」
ふらふらと、魔物のひしめく城へ入っていく。魔物は私を恐れたのか、襲ってこなかった。ククールは何も言わずに付いてきてくれる。だから、私は泣かないし、だから、きっと絶望なんて、してない。
城の中で茨となった母上。血が繋がっていないから当然だけど、似ていない。呪われてもなお美しい姿は、暗い中でも変わらない。若々しい姿は、時を止められて。
「ちちうえ……」
今度は屋敷へ向かった。
髪の長い壮年の男性。勇ましい父上はいつだって私と一緒に戦ってくれた。母上とは年齢が離れすぎているようだけど、そんなことはないんだ。母上が体が弱いように、兄上が耐えきれなかったように、叔母上の目が悪いように、ライティアが狂った世界を見るように。父上は、早く年をとる。
剣も魔法も強い尊敬すべき父上は、執務室でなにかに気づいたように顔を上げて茨と化す。
「バートランドさ、ん……」
エルト以外の、唯一私をただの近衛兵扱いしてくれた人。城の門番。彼とエルト以外の兵士は名前を知っていても親しくなんてしてくれなかった。厳しく、優しく、叱ってくれた人。その人も、嗚呼、茨だ。
触れれば皆温かいのに。生きているのに。動けないんだ。のろいが、のろいが、のろいが。
私には効かない呪い。エルトにも効かない呪い。原因は、分からないけれど。でも、「そんなもの」のせいでみんなは、辱められて。
「ククール……ありがとう、ここに付き合ってくれて……」
「……その程度気にするなよ」
「優しいね。ついでに私の覚悟を聞いてくれるかい?」
「……あぁ」
「私は、呪いを解くため……まだ旅を続けるよ。必要だったら、ドルマゲスみたいに人ならざる者にだって、なってやる。そして、平和にするって、誓う」
ククール、ありがとう。今まで。君がいなかったら絶対ドルマゲスみたいな強敵、倒せなかった。オディロ院長の敵、討てた君にはもうこの旅は関係な……。
「おいおいトウカ。俺が明日にでもどっかに行っちまうみたいな言い草じゃねぇか?」
「……?流石に明日どっかに行くとは思ってないけど。ゼシカをリーザスに送るぐらいは着いてくるでしょ?」
「……ゼシカも今抜けるとは思わないけどな。なぁトウカ。この城が、この場所が大切なんだろ?親父さんや母親や、この兵士や……他にも故郷にはたくさん『大切』があるんだろ?」
夜の闇の中であろうとキラキラしたククールの本物の銀髪は僅かな光にでも輝いて綺麗だった。その中でアイスブルーの目が、真剣な光を帯びて、ぼんやり浮かぶ。
「俺にはそうやって待っててくれるような大切な人ってのはもういない。だけどこの旅で俺は守ってやりたい大切な人が」
「……ゼシカへの想いは私に言うべきじゃないから。そういうのは本人に」
「待て。違う」
「……?!ごめん!そんなにエルトと友情深めて男の熱い関係になってるとは思ってなかった!」
「違う!!」
じゃあ何?ヤンガス……と?うーん、あんまり話してるの見たことないから、自意識過剰じゃなければ私?……ベホマの唱えすぎで情が?ククールのことこれから仲間じゃなくて大切な友達って認識してもいいの……?
「……あ、あぁ。とりあえずは、友達で」
「そっかぁ……友達かぁ……二人目、だよ。ありがとうククール」
「……感謝することじゃないぜ?」
暗いからちょっと俯いたククールの表情は分からない。でも、声はちょっと嬉しそうな、涙目のような……?コミュニケーション力の塊みたいなククールなのに友達いなかったの?そんなに嬉しいの?私も嬉しいよ。
「……話は逸れちまったが。トウカが旅を続けるなら俺も着いていったっていいだろ?」
「生存率がこれで十割!」
「そうだな。死んだって生き返らせてやるよ」
「頼もしすぎる」
ククールがぽんぽんと私の頭を撫でた。そういえば、年上だったね。妹にでもするかのように優しく撫でて、そして白みかけている外をちらりと見て。
「そろそろ帰らねぇか?」
「そうだね!」
明日から、今度は宛もなくさ迷うしかない。それなら体力の温存は大事だよね!
ククールの差し出した手を潰さないように今度は私からそっと掴む。流石に握り潰すほど力の加減ができないわけじゃあないからね。
サザンビークにひとっ飛びして、宿屋の扉をそっと潜った。
すると女将さんが怪訝そうに私たちを見る。こんな時間に起きてるなんて、大変だなぁ。
「おやおやおかえりかい?さっき仲間の長い杖を持った女の子が出ていったけどあんたたちも出かけていたんだねぇ」
……え?ゼシカが?
・・・・
・・・
・・
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