普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
144―Ex.幻想閑話集
前書き
〝〝幻想郷〟のあれそれ〟的な閑話です。
<ズレてます>
SIDE 升田 真人
「……わぁーお」
俺が〝【ソードアート・オンライン】な世界線〟でのお勤めを終えて──〝幻想郷〟に戻って来たのを直感して、目を開けて数秒。まず最初に口から出てきたのは〝呆れ〟だった。……然もありなん。目を開けたら、目の前には死屍累々の惨状が展開されていれば、呆然とした嘆息が洩れてしまうのも仕方ないことだろう。
〝死屍累々〟〝惨状〟と──大仰な表現こそしているが、〝呆れ〟とも云っているので比喩だというのは判るかもしれない。もちろん〝目の前には血の海が〟──と云うわけでもない。
……辺りには蔓延しているのは酒精の香りだった。〝人型妖怪の血〟が人間の血液みたいに鉄臭いのかは判らないが、きっと今みたいに──酒精の匂いなんてしないだろう。
もう俺が何を言いたいのかは判るかもしれないが──
「酒くせぇ…」
とどのつまり、俺が言いたいのはそれだった。
………。
……。
…。
「こいつはびっくりだ」
「……恐らく〝私〟が某かの細工を施したと──そう考えるべきでしょう」
「だろうなぁ」
取り敢えず、そのまま地面にのさばらせて置くのもアレだったので、念話で呼ぶ──必要もなかったくらいには近い所に居たミナを肉声で呼びつけ、そのまま〝死屍累々〟を【博麗神社】の屋内に突っ込みながら、ミナに〝あれから〟──〝俺が転生してからのこと〟を聞いていると意外な事が判明した。
……それは〝本体が別世界に旅立ってから、〝約1日〟と──そんなに時間が経過していなかったこと〟である。……俺の主観と幻想郷との時間の変遷とでは、〝多少〟どころではない齟齬があったのだ。
(……まぁそれは俺も一緒だったか…)
鬱憤を晴らすためにも月に行き、〝【PSYREN(サイレン)】な世界線〟で八雲 祭と出会い、その勢いのまま〝現人神〟になって──〝神の間(仮)〟から〝幻想郷〟に戻るまでの1300年と一緒のことだろう。
……寧ろ100年ぽっちと──どんぶり勘定的に1/36525:1/474825──〝前者〟が俺で〝後者〟がシホ達となり、俺の方がずっとずっと短い。
(……まぁ、そんなことより──介抱だな)
取り敢えずダウナーになるのはやめて、即効性の高い──ハルケギニア印の酔い止めの水薬を取り出すために、〝倉庫〟に手を突っ込んだ。
……妖怪に人間向けの酔い止めが効くかは判らないが、〝ハルケギニア印〟なので──多少なりとも神秘が含まれているで、〝効くはず〟と言い聞かせながら。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
<不死鳥との再会>
SIDE 升田 真人
(……この感じは…)
死屍累々を介抱して早くも数日。【満足亭】を休業にして人里を〝とある目的〟の為にぶらぶらしていた。……その〝とある目的〟とは、憚らずに言ってしまえばとある人物──あの惨状以来、俺に視線をぶつけてくる人物を引っ張り出すことである。
……俺は、その〝視線をぶつけてくる人物〟──〝生きているとも死んでいるとも取れるその〝気質〟〟には覚えがあった。
(……あそこで曲がるか)
〝そのタイミング〟を掴む為に、人里のメインストリートをふと見えた裏道を見付けて、違和感を感じさせない様に曲がる。……すると10メートルほど後ろを歩いていた──〝視線をぶつけてきている人物〟も俺に続き裏道に入ってくる。
(……もう〝一本〟稼ぎたいな)
裏道に入った俺は〝視線〟をもう一度だけ切りたかったので、また曲がり角を探しすぐに見付ける事に成功する。やはり〝視線をぶつけてくる人物〟は俺を追跡してきている。
(ここだ──)
「“テレポ”」
どことなく暗く感じる路地裏。いい加減そんな追っかけ劇を終わらせた俺は、“テレポ”で〝視線をぶつけてくる人物〟の背後に転移する。……それは、当然のことながら〝視線をぶつけてきていた人物〟は俺を──視線をぶつける対象をいきなり見失うと云うことと同義で…。
――「消えたっ?」
「………」
突然に俺を見失って、わたわたとしているその少女。悪戯心も湧いたので、そのままその少女の後ろで息を潜める。少女の動きに合わせて背後に回ったりしていたが、それにしても飽きてきたのでそろそろ声を掛けてやることに。
「なぁ少女よ」
「あわっ!?」
「久しぶりだな、妹紅──って、おおう…」
「………」
〝視線をぶつけてきていた人物〟──藤原 妹紅の、〝戦闘時以外に、許容範囲過超(キャパシティ・オーバー)になると気絶してしまう〟と云う悪癖は変わっていなかったのだと知った。
今回の〝釣り〟について。……結果は〝気絶〟と──聊か締まりは悪いが、それが藤原 妹紅との再会だった。
……その後は、このまま妹紅を放っておくのもアレだったので──大絶賛現在進行形で気絶している妹紅と共に“テレポ”で【満足亭】まで転移して妹紅を介抱した。……そして妹が起きた時に色々と──てんわやんわあったりしたのだが、そこらは敢えて詳らかに語るべくことでも無いだろう。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
<紅い龍と赤い龍>
それは生活レベル的な意味に於いて、ある程度〝幻想郷〟にも馴れてきて──あとは地理を詳しく確認するだけとなった、そんなある晴れた昼下がり。俺は霊体化しているミナを身近に連れ立って〝幻想郷ツアー〟なるものを敢行していた。
……ミナが霊体化しているのは特に理由は無いらしい。
閑話休題。
『〝紅い洋館〟──あれが【紅魔館】です)』
「ほぅ…。確かに紅いな」
ミナの示した方にどっしり──または、色合い的に〝どんより〟と居を構えている紅い洋館。その名を聞いた事がある俺は、ナに説明される前から〝そこ〟のことは〝識っていた〟。……ご近所レベルの噂からですらも〝そこ〟の危険性を聞いていたから。
【紅魔館】。場所は霧が立ち込めている【霧の湖】の畔に建っていて──見てくれは血で満杯になった〝ドでかい〟バケツを上空でひっくり返したみたいに紅い洋館である。……それだけなら良い。〝趣味が良くないな〟とだけ、思考を果てに投げ遣って、そこの住民とは付かず離れずの関係を保てばいいだけである。
……〝そこ〟の居住主に≪紅い悪魔(スカーレット・デビル)≫なんてあぶなかっかしい二つ名が付いて居なければ〝それなり〟の関係は保てていけた事だろう。
「迂回して正解だったな」
「(マスターの戦闘力なら、妖精なんて十把一絡げでしょうけど、要らない時間を使う──なんてことはしない方が吉でしょう)」
「……言えてるな」
湖上を通ったりしたら妖精等に絡まれる可能性もあったので、人里から【霧の湖】突っ切らず──湖を迂回し、どこぞの騒々しい亡霊三姉妹が居ると云われている廃洋館を観光するルートで後ろには草原と【妖怪の山】がある。
……ぶっちゃければ〝氣(HP)〟や〝魔法力(MP)〟などのエネルギー類の消耗は“アギトの証”で、〝消耗〟──若しくは〝継戦能力〟と云う観点からみれば多少の消耗なんて〝なきしもあらず状態〟だったりする。……が、そこはミナが言ったように──アホな人間を引っかけたかったであろう妖精や腹を空かせていただろう妖怪達にはわるいが、〝無駄な時間の節約〟をさせてもらった。
(……あれは…?)
【紅魔館】の外観を観光していると、門前にゆらゆら、と綺麗な紅の髪を揺らしながら定期的に動く女性を発見。
……〝見聞色〟で視力を強化すれば、ここからでも見えない事もなかったが近くで見たくなった俺は、〝彼女〟には悪いとは思ったが“インビジ”と“サイレント”を掛けて近寄る。
「某かの拳法の套路か? ……ふむふむほうほう──“金剛搗碓”に“十字手”。……もしかしなくても太極拳か」
近くでその套路──中国拳法に於ける〝型〟の稽古の流麗さに思わず魅入る事数秒。〝彼女〟が何をしているのかは割りと直ぐに判明した。
これでも武芸者の端くれなので〝その動き〟が何なのかは直ぐに判った。……俺が中国拳法を──〝彼女〟の功夫に比べれば手慰み程度とはいえ、〝それ〟修めているからと云うこともあったのかもしれない。
(……〝前々世〟で〝ケンイチ〟読むまで太極拳は、ただのラジオ体操みたいな──〝健康な身体を造るためだけの〟身体運用法だと思っていた時が懐かしい…)
うろ覚えだが、〝太極拳〟とは太極思想──〝自然の営みや人間の健康も全て陰陽の調和により成り、自然と人間は対立するものではなく、自然のうつろいに従って人間はうまく調和を図っている〟──とな思想を取り入れた拳法である。……はず。
他にも有名どころとしては〝形意拳〟、〝八卦掌〟と並んで内家拳の〝代表的な武術〟として有名で──健康維持の他にアンチエイジングにも良いとされているため、格闘技や護身術としてではなく健康法として習っている人も多いと云う。
……しかし、表裏一体と云うべきか〝代表的な武術〟と云われているという事は、即ち〝人を効率的に壊せる武術〟と成り──更に〝某・エロい中国人〟の言葉を借りて云うのなら、〝残忍かつ必殺〟だ。
(……よしっ)
「(マスターっ?)」
「なぁ、門番さん──で、いいんだよな?」
「はい、私がこの【紅魔館】の門番です。……それにしても、殺気は感じていなかったので放置してましたが──先ほどから感じていた視線は貴方のでしたか」
ミナの忠告をスルーしつつ、俺は“インビジ”と“サイレント”を解除して近寄る。……その武芸肌な所作は伊達ではなかった様で、〝彼女〟も俺に見られていることに気付いていたのか、大した驚きを見せていない。
寧ろ〝やっと出てきやがった〟──みたいな反応をしているようにすら見える。
「一本先取。急所狙いは無し。不殺。制限時間は5分──もとい、このタイマーが鳴るまで」
「〝一本〟〝急所無し〟〝不殺〟〝5分〟ですね。……了解です」
……〝倉庫〟からタイマーを取り出し、何のメリットが無いだろう〝彼女〟へ提案したが、〝彼女〟は嫌な顔1つせず承諾してくれた。〝〝強い者〟競い合いたい〟──そんな、ある意味どうしようもない武人の性を〝彼女〟は判ってくれるのかもしれない。
「〝一本〟の定義は〝取られた〟と思った時に自己申告でどうでしょう? それと5分で決着が着かなかったのなら──〝5分〟ならそうだなぁ…。……貴方の勝ちで。……後は審判は…」
「ミナ」
「マスター…」
俺みたいなの──〝突然、模擬戦の申し込むような輩〟に慣れているのか次々とルールを追加してゆく。審判役に悩んだ素振りを見せたので、俺はミナに声を掛ける事にした。……ミナからの諫めるような視線は敢えてスルー。
「え、ミナさんっ!?」
「はい、美鈴さん」
「(……知り合いなん?)」
『ええ。……彼女は紅 美鈴さん。この【紅魔館】の門番です。……マスターーも既に見たと思いますが、〝彼女〟は人間の武芸者の間では、ちょっとした有名人なのです』
念話でミナに確認をとってみて〝なる程なー〟と声に出さずに納得する。
〝幻想郷〟は〝外の世界で忘れ去られたもの〟が入って来やすいと云う。……だからか──なんたる皮肉か、〝人の繋がり〟を重視する傾向にあるようで、〝が妖怪に襲われた〟──みたいな、〝幻想郷〟ではどこにでもあるだろう悲劇ですらも噂話などで直ぐに知れ渡る。
……それだけではなく、今回の俺みたく〝が【紅魔館】の門番に挑んだ〟──みたいな、どうでもいい話も人里を駆け巡るのだろう。
「ミナ、合図は頼んだ」
「……わかりました」
時間を設定したタイマーをミナにを渡し、重ねて審判役について頼むと、ミナ〝不承不承〟──と云った感じではあるものの承諾。
「姓は升田、名は真人。我流──一局願いたい」
「姓は紅。名は美鈴。同じく我流──その挑戦承った」
「ミナ──真名をミネルヴァ。〝升田真人〟と〝紅 美鈴〟の立ち会いを見届ける者」
美鈴さんとほぼ同タイミングで拳礼──中国拳法で行う挨拶をして、俺→美鈴さん→ミナ順に、名乗り上げる。……それからはミナの合図を待つだけとなり、すぐにミナの通りやすい──美しい合図は上がった。
「始めっ!」
「疾っ!!」
「破ぁっ!」
ミナの合図と共に、どちらからともなく──俺と美鈴さんは、これまで研鑽してきた武技を披露しあった。……結果は時間切れで一応は俺に軍配が上がった。〝遍在〟による超密度の〝漬け込み〟は伊達ではなかった。
……その後は美鈴さんから〝美鈴〟と呼ぶことを許されたり、俺達の立ち会いを観ていたらしい【紅魔館】の主に気に入られたりするのだが──それはまた別の話である。
SIDE END
後書き
後はステータス・設定の更新なので、明日また投稿します。
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