やがて妖銃の弾輝
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異能2 夢と現実
Side マリナーゼ。
あの日のことは一生忘れません。
遠い香港で起きた『悲劇』を失くす為、私は姉と共に沖縄に眠る妖怪『獏』と『淫夢』を起こし、彼女達の手を借りて生きてきました。
二匹の妖怪には本当に助けられましたが、それでも信じられるのは己と姉だけ。
姉さまには悪いですが妖怪たちは信用できません。
彼女達は『何か』を隠しています。
それも私達の感情にまつわる何かを。
『悲劇』から救うため私達は伝説の化生、『鳳』を復活させなくてはなりません。
鳳は生と死を繰り返し、死後その身を64の欠片にして東西に散らばせる。
それを再び集めると鳳は甦り、甦らした者の願いをどんな願いでも叶えてくださる―――そう彼女達化生のものはいっていました。
―――未来永劫その死と再生はくりかえされるとも。
私達はなにがなんでも欠片を集めないといけません。
今持っている欠片も様々な異能達や自衛官、DA達から奪ってきたものです。
多くの敵対者がいる私達はもう後には引けません。
やらなければやられるのが戦場に立ったものの運命なのですから。
今日、ここ居能町の居能海岸で私達は欠片を持つものたちの存在を感知しました。
敵は『魔法少女』と『先端科学兵装』の鎧を纏った少女。
相手に不足はありません。
私達二人なら勝てる。
二人だけでいい。
そう思っていました。
今日この日、彼らと出会うまでは……。
Side アリスベル。
まず最初にいっておきます。
私が静刃君と行動を共にするのは、命を救われた恩返しと、彼の異能を見込んでのこと。
断じて、れ、恋愛感情を持ったとかそういう理由ではないのです。
モーレツに違うのです。
Side マリナーゼ。
私が彼らに彼と出会ったのもきっと『欠片』を集めていたからでしょう。
もし、欠片を集めてなくて普通の人生……生まれた家が家なので普通かどうかは微妙ですが、もし普通の少女としてあのまま香港で暮らせてられたらおそらくこの出会いはなかったでしょう。
だから不謹慎と知りつつ私は私達を『鳳凰戦役』に出るきっかけを作ってくれた宿敵たちに少しだけ感謝をしているのです。
あなた達のおかげで私は心から信用できる人や仲間、そしてなにより彼、当導弾輝君と出会えたのですから。
彼とは(まだ)恋人ではありませんよ。
いずれ、近いうちに恋人以上になりますけど。
ええ、断言します。
彼は私にメロメロです。
私以外の女なんか目もくれません。
当然です。
私以外の女が彼に近づいたら容赦なく刺しますからね。
ええ、刺します。
ザクザクです。
彼は私だけを見ていればいいんです。
浮気はキョ―レツに許しません。
……話が逸れましたね。
あの日私は彼と、姉は静刃君と出会いました。
誰も入れないはずの『絶界』、異能で作り出した異空間に彼らは迷いこんできたのです。
そして見ず知らずの私達に向かっての第一声が……。
『―――おい!逃げろ!』
本当におひとよしですよね?
自分がどれだけの危険に陥っているのかわかっていながら……。
あきらかな異常事態に陥っているのに自分のことより私達の心配をするなんて。
でも、だからこそ私達は……。
少なくても私はこう思ったのです。
『うれしい。
ありがとう、って―――』
未来からの伝言。(おまけ)
Side 弾輝
2013年4月。ある休日、俺の元にある奴からメッセージが届いた。
それはブルーレイに入っていた。
セットしてテレビの伝言を入れるとそいつは語りはじめた。
そこには―――――。
『あの時の俺は自分でもどうにかしていたと思う。
危険が身に迫っているのにわざわざ危険の渦中に飛ぶ込むなんて馬鹿まるだしだろう。
普段通りの俺なら決してあんなまねはしなかっただろう。
否、できなかっただろう。
だけど、何でなのかはさっぱりわからないがああ思ってしまったんだ。
『逃げてはだめだ、助ける、女の子を守るのは俺しかいない』ってな。
今思い返すと死にたくなるほど恥ずかしい台詞だが後悔はしていない。
だって、そんなことは気にならなくなるくらい大切なものができたんだから。
あの日、きっと巻き込まれたのだって理由があるんだろう。
最初ははっきりいって嫌だった。
こんな『異能』なんか失くしたい―――そう思った。
だけど時が経つにつれてこう思えるようになったんだ。
この力をつかって身の周りの大切なものを守りたいって。
彼女を守りたい、って、な』
『おい、弾輝いくぞ?』
『あ、先輩が呼んでる。
そろそろいかないと。
「先行ってください。
昴先輩」
もしこれを昔の俺が見てたら、一つだけ守ってくれ』
「女には気をつけろ。背後にも気をつけろ、そして女を、マリナーゼを守れ!
3つになってしまったが気にすんな。
おっと、怖い怖い、0課の先輩が呼んでるからな、またな。
過去の俺……ってなんだよ、これ?」
そこには少しだけ大人になった俺が映っていた。
「……? どうして『絶界』に人が……?」
二人の少女の内の一人。
驚きに見開かれたその目と、俺の目が―――合う。
―――キレイだ。
こんな状況なのに、そんなことを思ってしまう。
月光が、気品のある顔を白百合のように浮かび上がらせる。
少女の瞳は淡い薄紫色をしている。
その瞳は意思の強さと知的さを感じさせる。
背は高めで身長170cmはありそうだ。
だがその胸元は平らだ。
顔つきは少し丸みを帯びていて、全体的には幼く可憐だ。
(変だ……俺は、この子を知っている。)
一瞬よぎったそんな思いも、俺は中断せざる得ない。
空中で取っ組み合いになった魔法少女とメカ少女が、俺達の方に墜落してきたからだ。
「あら、アリスベル、それとマリーも来てたのね!クーデレー獏やヒッキー淫夢と一緒じゃないのー!?」
魔法少女が黒髪ツインテ少女二人に叫ぶ。
その隙にメカ少女が水着の股間を丸見せするような側転を空中で切った。
そひて、その隙を逃さず機械の腕で魔法少女の足を掴んだ。
スカートの中身がひっくり返るくらい大きく振り回した。
魔法少女は自分を捕らえた機械の腕をもぎ取って放り投げた。
「ほら、あんたたちにも、お裾分けッ!お礼は欠片でいいわよ!」
その巨大な腕が落ちてくる―――少女達へ向かって!
(まずい、ぶつかるぞ!あのままだと……)
とっさに俺は駆け出した。
静刃もほぼ同時に動いていた。
静刃はアリスベル、俺はマリー、そう呼ばれた少女めがけて。
走れ、走れ!
本気で走れば、間に合う。
「「危ないだろ!」」
俺達は彼女達に飛びかかるようにして、突き飛ばした。
ふわっ、と―――マリーと呼ばれていた彼女から、シャンプーの香りが漂い。
こっちを見たその目が大きく見開かれ。
そして。
俺の背に。
「――――――!」
機械の腕が激突した。
最悪なことにギザギザの刃物が飛び出た金属片から枯葉の束を踏み折った音が俺の体内から聞こえる。
何本の骨が折られ、あるいは切断された音だ。
痛みは無い。
何も感じない。
……ああ、死ぬのか。
何か生暖かい液体の上に転がって、仰向けに倒れている。
この流れている液体。
この色。
この匂い。
これは―――?
血だ。
俺は俺の血黙りに倒れているんだ。
足音が聞こえてきた。
誰かが近寄ってきた。
誰だ?
もう、うっすらとしか、見えない。
ああ、これはあの4人のうち……マリー……か?
―――が話してる、彼女と。
何を話してるんだろう?
それすらもう、わからない。
唐突な、ものだな。
死ぬって、ことは。
死ぬ前……には……もっ……と……じ……間……が……。
……
…
……………
…………
…チュン、チュン…
…す、雀?
「って……オイ!」
第一声で突っ込んじゃったよ。
(夢かよ⁉︎)
「夢かよ!
朝からなんちゅう夢を見てんだ……縁起でもねぇ」
朝、静寂に包まれた自室の窓から小鳥(雀)の囀ずく鳴き声が聴こえ目を覚ました。
ベッドの上で上半身を起こし、今のが夢オチだった事を悟る。
低血圧気味のせいか頭がぼーっとする。
身体が少し痛むが寝ぼけて何処かにぶつけたりしたんだろう。
「夢オチか……」
いや、でもまあ。
そりゃあそうだな。
あんな光景、夢以外にありえない。
メカ少女だの、魔法少女だの、俺達が死ぬだのって。
「……」
一応念の為に、背中をゴソゴソ触ってみるが、もちろん傷なんてない。
あんな夢を見るなんて……ゲームのしすぎか?
「……しばらくゲーム時間減らすか」
銃ゲーしかほとんどやらないけど。
などと溜息をつきながら、新しい制服に着替えた俺は__
ムダに広い洋館の中を、2階の自室から1階のダイイングへと歩いていく。
昨日から住み始めたばかりだが、この館は中途半端に現代的な洋館だ。
静刃の話では、昔は海外から来た貿易業の貴賓客を泊める、隠れ家的なホテルとして使われていたらしい。
なので、裏には小さな教会、の、廃墟やプールなんかもある。
「迷った……どこだここ?」
朝っぱらから1階のダイイングに行くはずが来たこともない知らない部屋へと来てしまった。
無駄に広くて迷った。
「なんだかずいぶんと古い本や時計が置いてあるな……」
本棚にある本を手に取って中を開いてみると英文やイタリア語、ギリシャ語なんかで書かれている。
どうやら静刃達の前の住人だかホテルの物品だかがそのまま残されてるようだ。
「ん?
なんだこの本……光ってる⁉︎」
『それ』を見つけたのは本当に偶然だった。
古本が並ぶ本棚の端で赤い背表紙の古めかしい本が薄っすら緋色に光り輝いていた。
中を開いてみるとギリシャ語かなんかで書かれていた。
「読めねぇ……」
残念ながら解読不能だ。
本を棚に戻してると俺を探しに来たのか祈さんが来た。
「あ、あの……よかった。
こちらにいたんですね?
朝食の支度できてますからダイイングへ来てくだひゃ……はぅ⁉︎」
俺を案内しようとして部屋を出る寸前に盛大に前へ転けた。
ぱんちゅが丸見えだ。
「大丈夫か?」
ゴチッと床に頭を打ちつけたので心配になって声をかけると……。
祈は目に涙を浮かべながら起き上がった。
「ほら、痛いの、痛いのとんでけぇ〜」
つい子供をあやすような態度で頭を撫でたりして接してしまったが祈は嫌がるどころかむしろ嬉しそうな、けど恥ずかしいようなそんな顔で見つめてきた。
「よし、もう大丈夫だ!
ダイイングまで案内頼む」
顔を赤く染めた祈の案内で無事にダイイングまでたどり着けた。
案内を頼んだ時祈が小声で『なんだか懐かしい……』とか言ったが意味がわからなかったのでスルーした。
ダイイングへ入ると静刃がアツアツのハンバーグを食べていた。
朝からハンバーグって……しかも、ハートの形してるし。
「おはよう、朝から凄いな」
静刃が食べてるハンバーグを指していうと。
「ああ……まあな。毎朝のことだ。
それより昨夜はよく眠れたか?」
静刃が『何かを確認』するようなそんな様子で聞いてきた。
アレはただの夢だから気にする必要はない。
そう思い俺は静刃に問題なく寝れたと返した。
「お、おまひゃ……お待たせしました」
祈が俺の分の朝食が載ったトレーを持ってきてくれた。
トレーに載ってたのはアツアツのハートの形をしたハンバーグだった。
朝から、重いな……。
残さず食うけどさぁ。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってきます」
玄関でしゃがみ、新しい学校指定の靴を履きヒモを整えてると__
ぱたぱたぱた、とスリッパを鳴らして祈がやってきた。
そして、きゅっ。静刃の目の前でしゃがんだ。
「お兄ちゃん、こ、これ……お弁当。祈が作ったの。た、食べて下さいっ」
とランチボックスを静刃に手渡した。
そして、ネクタイが緩んでる静刃に。
「あっ、ネ、ネクタイが緩んでるじゃってるよ」
などと言って、その白くて小さく綺麗な指で静刃のネクタイを整えはじめた。
「静刃、夜道に気をつけろよ?
背中を刺されるかもしれないぜ……俺に」
「なんでお前が刺すんだよ⁉︎」
ケッ、本当にこれだから天然ジゴロは……。
そんなことを考える俺を静刃は一瞥した後、ネクタイを直してる祈に向かって。
「い、いいって別に。俺は自分の見た目とか興味ないから。俺は何事も、大体でいいんだ」
なんていう事を言いやがった。
「やっぱ刺すか……」
イチャついた挙句に美少女の好意を無下にする男なんて刺されても仕方ないよな、な?
俺はカバンからカッターナイフ(護身用)を取り出し静刃の首につきつけた。
「待て! 早まるな」
静刃をからかい(脅し)つつ、身支度を整えていった。
「お兄ちゃん、もったいないよ。お兄ちゃんは、普段もかっこいいけど……ちゃんとすれば、すっごく、もっと、かっこいいんだよ」
まるで静刃のそういったところを見たことがあるような口調で祈は嬉しそうに話しはじめた。
「はあ……?」
「祈、知ってるよ。お兄ちゃんは本当は、何でも優秀な人なんだよ」
かなり静刃を尊敬(美化)してるな。
「___祈。俺は優等生のお前と違って、何の能もない人間なんだ。俺が優秀じゃないってことは学校の成績が教えてくれてる」
「___違うもん。本気をだせば、お兄ちゃんや弾輝さんは、すごいことができる人なんだもん」
「本気なんて___出さないし、出したくない」
「右に同じ。
そもそも俺の本気なんてたかがしれてるし」
俺は、あらゆる物事において、必要最低限のこと以上は何もしないのが、一番賢いと思ってる。
凡人が本気を出して頑張っても、大した見返りはない。それが今の日本だ。
だから、自制しないといけない。
それがとっさのことでも、とっさの判断でも、ちょっとのことでも、衝動的に本気で動いたら損するんだ。
そう。昨夜の夢で、俺達が巻き添えを食って死んだようにな。
夢、夢の、あの子……。
夢の中で、なぜか、本気で走ってしまったあの瞬間。
それを思い出した瞬間俺は、あの少女の事を思い浮かべてしまった。
____マリナーゼ。
夢に登場した美少女のことを。
「___『魔剱』、『魔弾』___?」
その時。
不意に祈が、おっとり顏を真面目にして、シリアスな声を出した。
「あっ」
俺や静刃と目が会うとすぐ、いつもの表情に戻した。
なんなんだ、いったい。
その後は、いつもの状態(?)に戻った祈が静刃の入学式に出たいと言って駄々を捏ね、静刃はそれを突き放して俺達は家を出た。
「入学式、か……」
私立・居鳳高。
地方都市横須賀・居鳳町のさらに外れにある私立学園。
初等部から高等部まであり、今まで女子校だったのを今年から共学化した。
周りは女子、女子、女子のオンパレード。
男子は俺や静刃を入れてあと2人しかいない。
で、その入学式に臨んだんだが。
どうやら俺はとんでもない過ちを犯していたらしい。
なぜなら。
俺の隣には……。
夢の中で出てきた、とんでもなく可愛い。
黒髪ツインテールの。
美少女。
_____『マリナーゼ』さんが座っているからだ。
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