君といたい町
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第1話 広島県
前書き
書いてみたいから書きました
桜が舞う。
都会の桜は高層ビルを背景に楽しむことで綺麗な桜を演出していた。夜気に項垂れた八重桜が夢のようにほの白く咲く。
それはとても綺麗なものだった。
だけど、それよりも俺は広島で見る桜の方が好きだった。
桜色した天の網をかぶせるようにソレは静かに淡く咲く。
桜が咲き乱れ、全山、雲の林のように見える中に、松の緑が混じっているのが、ことさら春めいて美しい。都会の一角では到底味わえない風景だ。
つい先日までは雨が降っていて、ところどころに小さな水たまりが桜吹雪を鏡のように映している。
「桜、綺麗ね」
「......そうだな。俺も広島の桜が見たいじゃけぇ、戻ってきたから」
「そうなんじゃね。私も.....そうかな?」
嘘。俺は桜が見たくて戻ってきたんじゃない。
俺の隣の佇む七海に会いたいじゃけん戻うてきたんじゃ。
そんなこと、君に伝えるなんて俺にはできない。
また君にこの胸に秘めている想いを伝えたら、君は俺のことを『ブチやねこい人間だ』って思うに決まってる。
だから俺にはできない。
「私はね、ここの桜が大好きなんじゃよ」
「そうなん?どぎゃーなところが好きなんじゃ?」
「そうねぇ.........」
彼女は少し首を傾けて考える素振りを見せながら、
「だって木々に囲まれた桜なんて...風情あっていいじゃないの。広島らしくて」
俺はよく覚えている。彼女がそう言った時の儚げな微笑みを。
その中に含まれる保護欲を感じる優しさ。
その笑顔をたとえるなら、冬の湖の空にちらりと太陽が光を落としたように思える。
「羽角lくんはどう思っとるんかな~?」
「俺?俺は............」
屈託のない目を細くして、満足そうに、得意そうに、罪もなく無邪気にニコニコと微笑み続ける。その笑みは俺に向けられている。
あまり俺には見せない笑顔。
これが俺の物語。俺の片思いから始まる高校生活
広島に戻って来て、好きな人に会って。これから楽しい高校生活を送れると願っていた。
だけど、古き友人はこう言ったんだ。
『会ったことも無いヤツが、いきなり自分の家に住むなんて......アホじゃろ』
納得いかない感じでそう呟くアイツ。入学初日からなじみ切ってしまう東京からの転校生。
面倒ごとになりそうな妙な距離感は予想をはるかに超えたドタバタな日常へすり替わる。
そう...すべてはアイツの一言から始まった.........
───第1話 桜───
───季節は四月のあたま
俺は広島県の片田舎のコンクリートで塗装されていない砂利道を歩いていた。
まるで俺の帰省を歓迎しているかのように道の両脇に咲いていた。
俺───羽角拓斗は一人分にしてはやや大きい旅行バックを右手にぶら下げて桜並木を眺めている。
ここ広島県は中国地方の県で、県庁所在地の広島市は中国・四国地方最大の都市であり、政令指定都市に指定されている。
一方で海・山の豊富な自然にも恵まれ、農業・漁業も盛んであり、意外とビッグでありながらも少し都会から離れると木々の広がる田舎へとなる。でも俺にとって広島の田舎は生まれ育った故郷で大切な友人のいる場所だ。
その広島の北東部に位置する庄原市は中国地方のほぼ位置し、東は岡山県、北は島根県・鳥取県に隣接する“県境のまち”として有名......らしい。
庄原市で有名な花と言えば、桜とブナ。
桜は庄原市の随所に植えられていてこの桜並木もその一つだ。ブナは庄原市を流れる西城川の水源でもある中国山地に形成し全国有数の天然記念物として愛されている。
桜並木を通り抜けて眼前に広がるのは田畑。所々烏除けに使われる案山子が妙に不気味さを感じさせる。
今の時期だと田圃に新しい作物を植えるための準備だろうか、ほとんど何もない。茶色で栄養分豊富な土壌が顔を出している。
「ここ、何にも変わってないや......」
俺がここに住んでいたのは小学四年生の時まで。当時仲の良かった俺を含めた四人組でいつも遊んでいた。当然遊ぶ場所なんて限られていて川、公園、森の中など自然と共に成長をしてきた。
両親の仕事の都合上愛知県まで引っ越し、後悔したことが一つだけあった。
それは後々語るとして...
そしてこの春高校生となる俺は、親を説得してわざわざ広島まで戻って来て高校生活を送るのだ。
鳥の囀り、木々が風に吹かれて揺れる音、都会では全然味わえない自然の空気を懐かしく思った俺は一人でニヤつく。
俺は都会の土では萎れ、郷土でやっと息を吹き返す、かの植物にも似た自分の宿命を観念した。
───やっぱり俺はこの土地が合ってるな。
少し変わっているところといえば、ところどころに新しい家がある、そんなところだ。
そして、景色が変わり始めたところで......ようやく俺の一人暮らしの家にたどり着く。
家の両隣も新築で、灰色の細長い洒脱な家に挟まれた青い瓦屋根の彼の家は、誰も使わないのになぜかうちの棚にずっと置かれている、古い手動の鉛筆削り器に似ていた。
その鉛筆削り器に似ている
「ふ~ん......なんつーか、昔の庄原市の景色とはえらい違いだなぁ...」
拍子抜けだ。いくら月日が過ぎてしまったとはいえ、この思い出の土地が消えてしまっているような気がしていい思いはしない。
───ここを離れてから5年
早いようで短い5年間という年月は俺の中の庄原市との食い違いを起こし、消化不良のようなもやもや蟠りを残していった。
たかが5年。されど5年。
新しい家のドアに鍵を差し込み、普段となんら変化ない引き戸を開ける。
扉を引いて一歩入り、近くの電源をオンにすると、甘酸っぱい空気が漂い、リビングや階段、洗面所などに繋がる長い廊下は薄暗い照明だが、人の気配が一切無いせいか異様なくらいひんやりとしている。いくら築数年の家とはいえ、この肌寒さは少々刺さる。
場所を把握しきれていない俺は靴を適当に脱ぎ捨て、勘を頼りにリビングへ足を運ぶ。
まだ満足な家具も揃っていないがらんとしたリビング。その隣は余計なものの何も無いさっぱりとした居間。そこに人の寝ることのない広い畳は、午後でありながらも日光を浴びてない冷気のなかに、はねつけるような肌ざわりをしていた。
家の中に木の香りを含んだ闇がひっそりと住みつく。
ここが、今日から俺の住む小さな一軒家となる。
特に意味もなく俺は暗い穴のような天井を見上げる。
シミや煙草などのヤニ一つない綺麗すぎる室内は、まるで病室のように清潔だ。
「.......家具はいつ届くんだったかな」
ふと思い出したのでスマホの緑の連絡アプリを開いて両親との過去の履歴を遡る。
.....どうやら今週末になるらしい。
それまではこのただっぴろい静かなリビングのまま、ということだ。
別に静かなところが嫌いというわけではない。どちらかというと好きなほうだ。
だけど妙に殺風景なこの部屋で四六時中過ごすというのは気が引けるだけだ。
今度は渡り廊下に戻って二階へ続く階段へ。
小さな部屋が一つに小さな物置部屋。一人暮らしにしては大き過ぎる物件なのだが、ここら一帯は殆ど空き家はなく、家賃もまぁまぁなので文句は言えない。
....不満要素が無いので文句を言う必要性も感じないが。
~☆★☆~
とりあえず粗方荷物を家に置いてきた。入学式まであと二日。明日には入学に必要なものはすべて届くので、やることを失った俺は今晩の飯を探しに畦道をてくてく歩いていた。
小学生の頃はとても大きく見えた田圃や建物が小さく見えて。『面積狭めたんじゃないのか?」と錯視してしまう。五年前の記憶を頼りにコンビニを目指す。
さっきは変わってしまったと思っていた庄原市。
だけど、ソレはほんの一部らしい。数百メートル離れただけで見覚えのある田園がある。
相変わらずの田園風景だった。灰色の砂利に、刈り株だけの田圃、空は雲を散らしている。
春独特の生温かい風が、桜のにおいを含んで彷徨う。
新たな食物を植えているおじいちゃんやおばあちゃんらと目が合い、軽く会釈をしながら携帯を開く。やはり田舎だからか、電波もあまり強く繋がっていない為サイトに接続するのに時間がかかる。
丁度曲がり角を曲がった時、トラクターに乗った麦わら帽子と咥え煙草のおじちゃんが俺とすれ違いざまに
「あんちゃんここいらでは見かけない顔じゃの~」
「え?あ、今日からここで一人暮らしする者です」
「おお~若いのにいいのぉ~!頑張るんじゃぞ!!」
昔からここらのじじばばはとてもフレンドリーだ。今話しかけてきたおじさんは多分俺に羊羹だとか煎餅などのお菓子をよく食べさせてくれたおじさんだ。もう五年前の記憶だし、おじさんも年をとって皺が増えたような気がするけど。
独特の声やしゃべり方で判断できたあたり、まだここのことは覚えているみたいだ。
......もっとも、おじさんのほうは俺のことを覚えてないみたいだけど。
少しばかりの悲しさを胸に抱きつつ右足を前に踏み出す。
「おーハルちゃん!!」
「あ....おっちゃん」
「こんにちはー!」
さっきのおじさんが今度は誰かの名前を後ろで呼んでいる。
確か.....ハルとか呼んでたよな。
と、僅かに自転車を漕ぐ音と砂利道を進むと反動を受けて勝手に鳴るベルの音、そしておじさん以外の若い男女の声が一つずつ。
特に若い男の声に妙な懐かしさを感じ、無意識にくるりと向き直る。
────完全に手入れされていない短い茶髪。
────地味な真っ黒プルパーカーに白のスキニーパンツ
────馴染みすぎた方言を行使する低い声
「どえらいべっぴんさん連れとるなァ。愛車でデートか?」
「そんなんじゃねーよ!!」
男は冷やかされて思わず照れ隠しにそう叫んでいる。
いや、冷やかされて当たり前のような気もする。自転車は一台。その上に男が運転し、長髪の女の子はその後ろの鉄製の荷物置きのところに両足そろえて座っている。
....いわゆる、”二ケツ”というカップルでよくやりそうなアレをしているのだ。
それは誤解されて、冷やかされて当たり前だろ......
それに.....まさか。
「居候の枝葉柚希でーす!!よろしくお願いしまーす!!」
「うわっ!いいよそんなこと言わんでも!!」
後ろの”枝葉”とそう名乗る少女は去りゆくおじさんに向けて挨拶をする。おじさんはおじさんで「おーう!!しくよろ-!!」と軽く手を振りながらトラクターを駆使して去っていった。
個人的にはおじさんがどうだとか、後ろの女の子がとても可愛いだとか、この二人はカップルだとかそんなことはどうでもいい。
俺は俺の方に向かってくる男に着目する。
まさか.....コイツ?
数々の思い出が、まるで走馬灯のように甦ってくる。
川で魚を捕ったこと、雪合戦をしたこと、相撲大会で無様に”女の子”にボコボコニされたこと。
喧嘩をしたこと、泣いたこと。
すべてが甦ったその中に、必ずと言っていいほどアイツがいた。アイツと一緒に遊んできた。
だから.........
「......は、青人...か?」
「え?お前......誰じゃ?」
予想はしてた通り、第一声はこういう答えだった。
予想してたが故に自分自身を忘れられているということに衝撃と悲しみを同時に受ける。
当然後ろの少女はポカンと俺たちのやり取りを見ている。
「.........拓斗」
「......たく、と?」
悔し紛れに小さな声で呟く。自分から名前は言いたくないけど本当にコイツは忘れているらしいから......
そう。昔からコイツはこういうヤツだったよ。
優しいのに...真面目で責任感が強いのに......興味ないことには全く関心を持たなくて、知らないところで人を傷付ける。
コイツが沢山の女の子からモテる理由が俺にはわからない。
知りたくもないけど、どういう手を使って女をたぶらかしているんだ?後ろの女の子もその一人だろうか......
しばらく青人は俺をじろじろと凝視したのち、
「ん~......あれ?もしかして、拓斗って、あの拓斗!?」
「あぁ.....拓斗だよ、クソッたれ」
青人に聞こえない声量で愚痴る。
何も知らない青人は久しぶりの俺との再会を呑気に喜んでいるようだ。
────俺は、青人がどうも好きになれない。
そんな俺の気持ちも知らずに青人は「おい、一度降りてくれ」と後ろの少女を先に降ろしてから青人は俺の傍まで駆け寄ってくる。
その彼の目は懐かしみのブルーの色をしていた。
「おお~!!拓斗!久しぶりじゃのぉ~!元気しとったか!」
「あ、あぁ......。お前も相変わらずだな」
「まあな。ん?というか拓斗広島弁抜けたのか?」
俺が広島弁を使っていないことに疑問を感じ、そう訊ねてくる。
確かに広島にいたときは広島弁を行使していたけど、上京して馴染むためにずっと標準語を使っていたから癖で標準語になってしまった。
意識すれば広島弁を使えることもできるが、ここはまず、
「そうだな....ずっと標準語だったから抜けたのかもな」
「ふ~んそうなんじゃ。もうすっかり都会の人間になっちまったんじゃな」
「.....別にそういうわけじゃないけどな。ただ向こうの生活やら喋り方になれちゃっただけだよ」
青人は俺の広島弁が抜けたことが少し寂しそうに話し、少しは心配してくれていたんだなって。
苦手な奴ではあるがこういうところは嫌いではない。
誰よりも仲間思いの青人が。
「ねぇねぇ青人くん。この子は誰?青人くんのお友達?」
「うわっ!バカ!出てこんでもええ!」
「ちょっと押さないでよ!!」
ばたばたと、後ろでもぞもぞ動いていた紫色の髪の女の子が青人を押しのけて俺の前にやってきた。
「へぇ~、すっごくかっこいい人だね!」
「え?あ、いやそんなことねぇって」
「名前はなんて言うの?私は枝葉柚希!よろしくね♪」
ほとんど一方的なお喋りと自己紹介に少しばかりたじろぐ。
だけどそのちょっとした会話だけでも得られた情報はある。
「俺は.....羽角拓斗。今日からここ庄原市に住むことになった高校一年生だ。よ、よろしく」
「そうなんだ!じゃあ私と青人くんとタメなんだね!」
「まぁ....そういうことになるな」
「なぁ拓斗。タメってなんじゃ?」
青人は今枝葉が使った言葉に質問してくる。
そうか...こっちだとあまり使われない言葉なんだな。そう考える俺はもう完璧に都会の人間なんだなと実感する。まぁ、だからと言って田舎が嫌いというつもりは無い。むしろ大好きなほうだ。
「あぁ、タメっていうのは簡単に言うと『同い年』みたいな意味かな。
「ふ~ん」
「あ!そういえば今から青人くんと高校に案内してもらってるところなんだよ!拓斗くんも一緒に行こうよ!」
言いながら枝葉は自転車の後ろに乗っかって「ほら行こうよ~!」と一人勝手に盛り上がっている。
こんな元気な子が青人の彼女か......
青人のことだからもう少しおとなしそうな女の子を彼女にすると思っていた。
そういえば......
───あの子、元気にしてるかなぁ~
ふと、俺の初恋で現在進行形で好きな女の子の顔が脳内に浮かんできた。
何事にも一生懸命で誰にでも優しく、実は天然な彼女。
彼女の作るお菓子は奇想天外なものばかりで、それを彼女は『自信作』と言って俺に食べさせてくる。そして大抵帰宅してから倒れるのが日常茶飯事だった。
それでも、
『今日も私の作ったお菓子食べてくれて、ありがとう!』
そう嬉しそうに笑う笑顔が───俺は好きなんだ。
「ねぇ拓斗くんも行こうよ!」
「え、あぁ。わかった」
「でも拓斗もここに住んでおったことあるじゃけぇ無理して連れていかんでも...拓斗には拓斗の用事があるんだし......」
やはり空気を読める青人は枝葉の腕を掴んで引きはがす。
青人の彼女の割には扱いが雑なようなやり取り。そんなところに疑問を感じながらも俺は、自転車を引いて歩き出す青人の隣を歩く枝葉の隣に位置付けて歩を進める。
「そういえば拓斗くんはどこから引っ越して来たの?」
「俺は東京からだ。小学生のころまでここに住んでたんだ」
「そうなんだ!実は私も東京から今日来たばっかりなんだ!同じだね~!!」
東京からでしかも来た日も同じだとか、妙な縁だよな......
近場のコンビニかスーパーで買い物しようという目的を枝葉の『一緒に行こう』という誘いに思わず乗ってしまい、こうして三人肩を並べて高校へ向かっている。
高校といっても庄原市に住む学生の数が昔から少ない影響で、少し離れた市の”分校”として建設されている。
学校において本校と分離して設けられる教育施設、と定義されているらしいけど大学が○○キャンパスと学部学科ごとに分かれて設置されたり、高校でも○○校舎と呼ばれているケースも増加している。
”分校”となるにはこれらとは全然違う理由で建設されているため、分校=田舎と捉えられるのも無理はない。
「どうしてその....枝葉さんは東京からわざわざ広島に?俺が言える義理じゃないけどさ」
「え?」
「あ、それ俺も聞こうと思ったんよ。お前なんでこの町に来ようと思ったん?拓斗はともかくさ、父の故郷だからっていう理由で、思い付きじゃできんじゃろ。東京からこんな田舎に進学するなんて」
「.......」
青人はまるで最近知り合ったばかりのような質問をしてくる。
...って待てよ?青人と枝葉って知り合ったばかりなのか?俺はてっきり付き合ってるものだとばかり思ってたからそういう目でこいつ等を見てたよ。
でもなんで知り合って間もない二人が自転車でニケツして現れるんだ?
そんな心の中に浮かぶ疑問を他所に枝葉は俺らの質問に答え始める。
「昔、一度だけこの町に遊びに来たことがあってね。その時、すごく気に入ったの」
「...はァ?そんな理由で簡単に高校まで決めたんか!?しかも赤の他人と同居までして!!」
そんな中、すごく耳を疑う単語が聞こえた気がする。
同居?同居って....つまりは居候?青人と、枝葉が?
「ちょっと待て。”同居”ってなんの話だ?お前らまさか───」
「そうだよ?青人くんの家に今日から住むことになったの」
「...はぁ、お前。余計なことを言うなよ」
俺も青人も呆れて頭を抱える。青人が呆れる理由は知らないが大方不本意な居候ってことなのだろう。
とにかくこの二人は”そういう関係”ではないということは察しがついた。
あまり深追いはしないでおこう......
「あのよォ、15年も住んでりゃ仲良かった友達もおっただろうし、そいつらも別れることになるんやぞ!?そこまでしてこんな田舎に来る必要は───」
「いいじゃない」
「え?」
「そういうことにしとこうよ」
風に吹かれて枝葉の長い髪が靡く。
青人はキョトンとしながらも、どこか降参したような表情をしている。
「あーもうえぇ。そういうことにしちゃる。いいから高校に行くぞ」
「あ!青人くんやっと笑ってくれた!!」
枝葉は青人が笑ってくれたことで同じく嬉しそうに微笑む。
この二人がどういう経緯で知り合ったのかはわからないけど、きっとこれから騒がしくなりそうな気がしてきて....心なしかワクワクしている自分がいた。
しばらく歩いてようやくコンビニらしき長方形の建物を認識できた。
「あ、すまねぇ青人。俺少しコンビニに用があるんだ。ちょっと待っててくれるか?」
「え?あぁええよ」
「何買うの~?」
「昼飯とかだよ。朝も食ってないからお腹すいてんだ」
二人にしばらく待ってもらう旨を伝えて俺はそそくさコンビニへ向かう。
コンビニはコンビニでもよく都会で見かけるセ○ブンイ○ブンだとかファ○リーマ○トとか有名なチェーン店ではない。完全な個人営業だから外から見る限り品ぞろえも決して多いわけではないようだ。
誰かがコンビニから出てくる。
年齢が俺と同じくらいの女の子でショートヘアをしているせいかとても活発そうな印象を与えてくる。
縞模様の服を着ている女の子は腕時計を確認しながら俺のほうへとやってくる。当然、前に俺がいることに気づいていない。
いや、与えてくるのではない。
俺は、あの子の性格を知っている。
まさか.....
「...あっ。マジかよ」
手に掲げていた旅行用バックを落としてしまう。
ドシンという大きな音に反応した彼女は正面に顔を上げる。
そして目が合う。
「あ、いや....」
「あれ?」
”あの日”の記憶がよみがえる
そうだ
あの子は...
あの子は...
「もしかして.....拓斗?」
俺の....初恋の女の子だ。
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